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『リ・バース』第一部 第4話 His Punishment⑭

 見入っていたリクト、ライガは急いで視線を前方に戻す。水路沿いに、ペトスコスや武器を持った半魚人(イクチオイド)などの魔物がぞろぞろと集まって来ていた。あたかも、地下水道に侵入した魔物の中で最強であるイピリアが危険に瀕しているので、助太刀に馳せ参じたというように。

(いや……もしかすると実際に、こいつらはイピリアと従属関係にある取り巻き(ミニオン)なのかもしれないな)

 リクトが思った時、

「俺たちも務めを果たすぞ!」

 ライガが叫び、真っ先に魔物の群れに飛び掛かった。

 最早飽きる程見てきたペトスコスの一体が、一瞬水路に入り、そこから身をくねらせて跳躍し、例の宙を飛ぶような動作で彼に襲い掛かる。ライガは怯む事なく、自らに向かって一直線に飛び掛かって来る魔物を正面に捉えた。

断落双(ダンラクソウ)!」

 無属性、基本の縦斬り二連撃。ライガはそれで懐に飛び込まれる前にペトスコスを叩き落とすと、剣技を使わず最小限の動きでその首筋を突き刺し、(とど)めを刺した。間髪を入れず、二体目が歯をガチガチと鳴らしながら彼に突進を掛ける。

 リクトは、自分に襲い掛かって来たイクチオイドと交戦を始めた。人型の魔物は武器を手にしている事もあり、当然剣技も使用する。そしてその中には魔術と同様、魔物にしか使用出来ない技もある。

 現在相手にしているイクチオイドは、三叉槍(トライデント)を持っていた。例に漏れず、それは振り上げられた瞬間剣技の光果(エフェクト)を纏う。

 これは槍カテゴリの斬撃系統技、牙竜鉾(ガリュウボウ)か──。

彗星衝(スイセイショウ)!」

 リクトは見切ると、トゥールビヨンを大きく振り被りつつ高位置から光属性の単発斬り下ろしを放つ。半魚人の槍はそこまで強度を持たず、剣技を発動しかけていた先端のすぐ下ですっぱりと切断され、当然技はキャンセルされた。

 すかさず、

閃光破(センコウハ)!」

 短い技後硬直の解除と共に、守りの薄くなった魔物の鳩尾(みぞおち)に突きを放つ。これは厳密には細剣カテゴリの剣技だったが、片手直剣はそれを用いて可能な攻撃系統──斬撃、打撃、刺突──が同じで重量にそこまで差がない技であれば大抵同じように繰り出す事が可能だ。

 心臓を貫いた手応えは、ムニエルにカトラリーを入れたような軽いものだった。相手は半魚人なので当然といえば当然だが、リクトはやや拍子抜けする。

 しかし、ライガと同様一体仕留めたからといって油断する事は出来ない。すぐに次の敵を見定めようとしたリクトは、その時バトラスのうっという呻き声が聴覚に拾われ、思わずはっとした。

 バトラスに、ペトスコスの一体が迫っていた。彼は昨日も見せたような簡単な風属性術を放ち、足止めをしようとしているが、その個体は知能(クレバネス)に秀でているのか、彼の放つ風切り羽(フェザースラッシュ)を次々と自身の水弾で相殺しながら前進を続ける。

「ライガ!」

 リクトは、自分よりもバトラスに近い位置に立つ彼に叫んだ。ライガは速いペースで、既に二体目のペトスコスを屠り去っている。

 ライガも、リクトの声で事態を察したようだった。素早く振り返り、バトラスへと突進するペトスコスに視線を向ける。が、その途端彼の目が、すっと睨むように細められた。

 ──何を躊躇っているのだろう。このままでは、魔物がバトラスの居る所まで到達してしまう。

 彼を当てにしている訳には行かない。一瞬の間にリクトはそう考え直し、自分で助けに入ろうと地面を蹴った。再び突き技を繰り出し、そのアシストの力を借りて一気に加速する。

 が、こちらが到達するよりも早く、動いた者が居た。

捲竜旋(ケンリュウセン)!」

 ウロータスだった。彼は剣技を繰り出したまま、初速の勢いだけで三、四体の魔物を一度に斬り倒し、バトラスとペトスコスの間に割り込もうとする。

冱濫天廻飆(カランテンカイヒョウ)!」

 勢いの抜けきった瞬間に、新たな剣技に繋げる。一見技後硬直はないのか、と疑わしく思う程だが、実際には先程の一撃の終盤は、既に剣技自体は終了してそれを課されている段階だった。慣性で速度と勢いが維持されていたので、彼の軌道上に居た魔物たちは剣技と同等のその(やいば)を受け、倒れたのだ。

 先の決闘(デュエル)トーナメントで、ライガを完敗に追い込んだ彼の技巧(テクニック)だった。

 バトラスに襲い掛かろうとしていたペトスコスは、勢いのままウロータスが技を繰り出している最中に真っ直ぐ飛び込んで来ようとする。恐らく魔物としても、自身の行動が良くないと気付いた時には遅かっただろう。

 しかし、彼の動きがあまりにも──()()()()事が災いした。

「フェザースラッシュ!」

 バトラスとしても、全く意図しないタイミングだったのだろう。ウロータスが割り込み、技を放とうと腕を振り上げた瞬間、彼は風の刃を放った。

 彼に背を向けていたウロータスに、それを回避するすべはなかった。

「ウロ──」

 音はなかった。

 振り被られたウロータスの右腕が、肘の上辺りですっぱりと切断された。あまりの速さに、彼自身、自らの身に起こった事に気付かない様子だった。

 彼は剣技を放っていた腕を振り下ろそうとし、そこで初めて自分の腕がなくなっているのを見た。一瞬遅れ、その断面から血液がシャワーの如く迸った。

「うっ……!?」

 悲鳴を呑み込んだだけでも、彼の精神力は凄まじいものだといえた。

 ライガが「ウロータス!」と彼に叫ぶ。ペトスコスは(かろ)うじて一瞬身を引きかけたが、自らの命を奪う一撃が予想外の出来事で不発に終わったのを見ると、幸いだと言わんばかりに再び加速した。大口を開け、ターゲットをバトラスからウロータスへと移し、呑み込もうとする。

 その時、ウロータスが切断された傷口を魔物の方に向け、その目に迸る血飛沫(しぶき)を浴びせ掛けた。

 ペトスコスが動揺の声を上げ、今度こそ完全に足を止める。近くで現在の相手を仕留めたマロンが、すぐさま反応してその隙に付け込んだ。「夜空刃(ヤクウジン)!」魔物は後頭部を果実の如く叩き割られ、絶命する。

 そこで、ウロータスに限界が訪れたようだった。

「傷口を縛れ! 早く!」

 ライガが周辺の魔物を駆逐しつつ、(くずお)れた彼に駆け寄った。血溜まりは徐々に大きくなり、水路に伝い落ちては水に垂らした絵の具の如く広がっていく。ウロータスは言われた通り、震える左手でベルトを外し、口を使って傷口のすぐ上に巻きつけようとした。しかし、なかなか上手く行かないらしい。

 ライガは屈み込み、自ら手を貸して圧迫止血を手伝った。断たれた血管をベルトで縛り終えると、回復魔術を無詠唱(サイレント)で発動する。

「これで血管は閉じるはずだ。けど──」

 彼は唇を噛み、水門の脇に落ちたウロータスの腕を見る。その手は、まだ剣の柄を握ったままだった。

「私は……」

 後退(ずさ)ったバトラスが、壁に背を押し付けながら震える声で呟いた。

 ライガがきっと顔を上げ、その双眸に瞋恚(しんい)を湛えて彼を睨みつけた。

「バトラス、あんた──」

「私のせいではないぞ!」水道局長は、ライガを遮って叫んだ。「その男が、勝手に飛び出して来たのだ! 私は身を守ろうとして魔術を放っただけだ、それがたまたまその男に当たってしまったのだ!」

「………」

 ライガは冷たい怒りを湛え、彼が叫び終えるまで沈黙を保っていたが、

「……本性を現したな」

 やがて、低い声でそう呟いた。ウロータスが「ライガ」と彼の名を呼ぶ。

「俺の事はいい、それよりも魔物たちを……」

「お前は下がっていろ。今下手に動いたら、また傷口が開く。輸血して貰う前に、今以上に出血したらマズい」

「いや、俺もまだやれる。剣が振れなくても、まだ魔術がある!」

「……俺だけで十分だって、言っているんだよ」

 ライガは言うと、立ち上がった。リクトの横からまた魔物が──今度は斧槍(ハルバード)を構えた半魚人だった──飛び出し、こちらがあっと思う間もなくライガの背に斬り掛かろうとする。

 ライガは立ち上がりざま、それが見えているかのように横方向に剣を振るい、魔物の胴を両断した。断面で滑ったイクチオイドの上体が、近くで剣を振っていたドーデムに向かって傾倒し、

「うわっ!? ライガめ、危ないだろう!」

 彼は汚いものが飛んで来たかの如く身を(よじ)って跳び退(すさ)る。

 魔物たちが、ライガを最も危険度の高い敵と認識したようだった。目標(ターゲット)が一斉に彼に移り、ペトスコスは顎を鳴らして、イクチオイドは側頭の鰓蓋(オペルクルム)をビチビチといわせながら得物(えもの)を振り上げ、彼に肉薄する。

 ライガは深呼吸を一つすると、魔物の肉壁の一角に向かって手を突き出した。

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