『リ・バース』第一部 第4話 His Punishment⑥
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日没までに進める所まで進んだものの、この日は結局地下水道を街の外まで進む事も、「ボス格の魔物」と会敵する事も叶わなかった。
予定よりも遅い進捗となった訳だが、その理由として、当初の想定以上にペトスコスを始めとする強力な魔物の出現頻度が高かったという事もある。
水中から突如現れて攻撃を仕掛けてくる彼らには手こずらされたものの、一旦陸に上げてしまえばデスタン騎士団の魔剣士たちが集中攻撃をしてすぐに倒すので、最初のオルフェの時のように騎士見習いたちが攻撃に加わらねばならないような事態にはならなかった。
唯一確信が持てたのは、
「このレベルの魔物が、これ程の短期間でこんなに大量発生する事は有り得ない。やはり、何処かから設備を壊して入って来ているな」
ネクアタッド騎士長のこの台詞だった。
討伐隊は訓練生たちを含め、役場に近い水道局の宿舎に泊まる事となった。帝連軍の駐屯地ではないのか、と意外に思ったリクトだが、事前にアルフォンスたちが交渉を行い、役場と話をつけていたらしい。
その理由は、もう一件の用事に関わる事だった。
夕食と部屋の割り当ての後、当然のように同じ部屋となったライガと廊下で話していると、ヴォルノ副騎士長が歩み寄って来、「レボルンス」と声を掛けた。
「イェーガー殿?」
「疲れているかもしれないが、我々にはこの後も仕事がある。デルヴァンクール殿から命じられた、役場の状況報告だ。ミッテラン王が、直接我々との会談の時間を取って下さるそうだ」
ヴォルノの言葉に、ライガが目を円くした。
「リクト、お前そんな事までしなきゃいけないのか?」
「とはいっても、僕はあくまで騎士団の渉外がどんなものなのか、見学させて貰うだけだからね。それに今回は、イェーガー殿もあくまで代理だ。帝連から委託を受けている肢国の国政に容喙する訳じゃなく、税率や先日まで報告されていた法案の施行状況について情報を貰うだけだよ」
「やれやれ……頭が痛くなるぜ、全く。お前もよくやるよ」
他人事のように言うライガに、ヴォルノはやや呆れ顔で言った。
「そういうお前も、いずれはこういう事をしなければなくなるんだぞ。お前は今のところ、フォルトゥナの次期騎士長の最有力候補なのだからな」
「俺はデルヴァンクールじゃないのに」
「家は関係ないさ。莞根士は、純粋に実力で騎士長となられた」
「だったら、リクトがなればいいじゃないか」
「おいおいライガ、僕に玉座を継がせて、その上で筆頭騎士団の隊長にまで推薦する気かい?」リクトは両手を挙げる。「過労死してしまうよ」
「何ならお前も、同行させてやっても良いのだぞ?」
ヴォルノの言葉に、ライガはそっぽを向きつつ
「謹んで辞退致します」
と言った。
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アモール国王ミッテランは、なるほど確かに「王」というよりも「役人」に近い出で立ちだった。ジブリ公を始め、王宮で見かける貴族たちの如くウエストコートを着用し、鬘を被っている。
「……以上で、税金の使途については全てです」
「ご協力感謝します。しかし、進駐軍への復興財源としての納付金額に対して、支出が些か多くはありませんか? 報告書では、今月頭に前年から行われていた役場の中庭の修繕費用が九百二万セレス支払われているようですが──」
「ああ、これは私の私費ですよ。この庁舎も以前のアモールのものをそのまま利用しているのですが、戦で火を被っていますからね。私は気になった部分は放置しておく事の出来ない質なんですが、スラムの復旧も済まないうちに税金で庁舎を直したとあってはね」
「そうですか。しかし後々に混乱を招くので、今後は私費による支出は公共財に対する投資であったとしても別紙に記載をお願いしますよ」
「いやあ、これはどうもすみません」
ミッテランとヴォルノのやり取りを聴きながら、リクトは会談について要点を掴むので精一杯だった。
記録は、HMEの機能を応用して行っている。遠距離通信用のこの魔導具は、音声を吹き込むとそれが文章として書き起こされる為、送信相手を指定せずに使えば議事録の簡単な作成にも応用出来るのだ。
「スラムの復旧工事は、まだ終わらないのですね」
「幾ら直しても、難民がすぐにまた壊してしまうんですよ。治安は安定せず、私どもも軍に治安部隊の巡回を強化してくれるように頼んではいるのですが」
「今の百人体制では不足ですか?」
「状況は刻々と変化するのです。そりゃ、十五年前と比べればラプラスの様子も大分マシにはなりましたがね、マシになったのをいい事に、周辺の村や街から一層難民が流れて来るんですよ。勤め口を探しての事なんでしょうが、幾ら大都市でも仕事が無限にある訳じゃありません。連中、いつの間にか諦めてスラムに落ち着いて、しかも住民票を申請しないものだから税金も払われない。その癖、復興部隊の振舞っている無料の炊き出しにはありつくんですからな」
ミッテランは、さも困ったものだというように眉間を押さえた。
復興部隊というのは、第二間征期の政策の一環として、現地でボランティア活動を行う帝連軍の事だ。炊き出しも彼らの主要な活動の一つだが、その財源は肢国の統治者に課せられる、帝連の司令部に納める事を義務付けられた国内復興の為の納付金だ。当然それは各自治体の税金から負担額が定められており、税金を支払えない難民の増加は結果的に財政を圧迫する事になる。
統治者であるミッテランからすれば、難民たちの存在は決して快いものではないに違いない。だが、その難民を生んだのが、アモールでの肢国体制初期に於ける一律の高額課税という失政である事は確かだ。
(いや、それを言うなら、最初に征服戦争を吹っ掛けた帝連が原因……と言う事だって可能なのかな)
リクトは、そういった仕事を求めてラプラスに流入して来た人々をスラムの復旧工事の職に就かせ、帝連から派遣されている役場の職員たちの数を減らし、浮いた人件費──税金──から作業員たちの給料を捻出すれば、彼らが納税出来ないという問題も解決し、土地の所有権が与えられて浮浪者として生活する必要もなくなるのではないか、と思ったが、口には出さなかった。今回の会談で、自分たちが国政に容喙する事はないというのは事前に確認した通りだ。それをするのは、フレデリック皇帝の仕事だった。
帰ったらデルヴァンクール騎士長に進言してみよう、と思いながら、リクトはヴォルノたちの会話の続きを追う。
「ですからそろそろ、ラプラスで炊き出しを貰うのに住民登録の証明の提示を義務付けようかと思っているところなんですよ」
「しかしそれでは、飢える難民が増えるのでは?」
「何、働かざる者食うべからずの基本原則が分かれば、働く気のない者たちは街を出て行きますよ」
「それをせず、他者からの強奪を選ぶ者たちが増えた結果、現在の治安悪化は招かれているのでしょう?」
「ですから、軍にはもっと強気になって貰わねば困るのです。殺傷や強奪は絶対に禁止で、それを行えば否応なく居場所を失う。この当たり前の事を、まずは大前提として愚民に叩き込んで欲しい。……おっと、失礼しました」
ミッテランは、口が滑ったというように顳顬を拭った。
「別に、あなた方を批判するつもりでは──」
「構いませんよ」
ヴォルノは言うと、「麻薬の取り締まりについては」と口に出した。
「これも、貧民を増やしている要因のようですが」
「ああ、神酒の事ですな。それも、恐らく難民と一緒に流れ込んだのでしょう」
ミッテランは苦々しく吐き捨てるように言った。
「取り引きの現場を押さえようと、我々も頻繁にスラムに立ち入り調査を行っています。しかし、流通ルートの特定が未だに出来ておりませなんだ」
「出所がスラムである事は、確定なのですか?」
「確定とまでは行きませんが、まあ十中八九そうでしょう。おかしな話ではあるのですが、社会問題となっている神酒の大部分は、ちゃんと納税を行っている上流市民でなく金を持っていないはずの難民たちの間で回っているのですよ」
「ふうむ……」
「私は、そもそも神酒の製造を行っているのが奴らであると睨んでいます。彼らは薬を売ってはいるものの、大部分は自分たちで使っているのかもしれませんね。その結果、金も生まず薬害患者だけが増えている」




