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無名陰キャ・影野、ホームルームで輝く!

廃れたボーリング場。埃と瓦礫が散乱する空間で、俺――佐藤翔――は頭を下げた。

任務に失敗したのは俺のせいだ。そんな中、影から現れたのは山城尊――暴君と呼ばれる男だった。


一方、教室では影野吾郎がひっそりと目立っていた。

マッシュの髪を揺らす小宮、大きな存在感でクラスをまとめる俺――そんな二人の視線を受けながら、影野は中盤としての役割を果たしていく。

普段は埋もれていた声が、わずかに届く瞬間。


佐藤視点

影野が身体強化モードを手に入れたころ佐藤は廃れたボーリング場にいた。今は埃と瓦礫で散乱して光もほとんど届かない。

「……すみません。任務は失敗してしまいました」

彼は頭を深々と下げて副総長に謝罪した。 

すると影から男が現れる。

「……佐藤翔さとう かける

低く響く声はこの場を一瞬にして凍らせた。誰もが身を縮めてしまうようなこの迫力。山城尊(やましろ たける)。彼は暴君と呼ばれる男で相済四天王の一人だ。暴君の名にふさわしく、空気さえも押しつぶすような存在感を放つ高い身長に厚い肩幅。黒い髪は顔にかかることなく、彼の目つきをより際立たせていた。しかし彼が暴君でいられるのは立ち振る舞いに自然なカリスマが漂い、不思議と見入ってしまう。

「……佐藤翔。任務を放棄して、よくも平然と帰ってこられたな」

その声は冷たく、脅しの色が混じっていた。

するとすぐ副総長が咳ばらいをし、彼を見やる。

「山城君、少し落ち着くんだ。状況を理解すれば、彼がなぜそうせざるを得なかったかは明白だろう」

副総長、橘悠人(たちばなはると)。彼は相済の頭脳として働く。落ち着いた佇まいと知性を漂わせる外見。切れ長の目と黒髪で顔立ち計算されたように均整のとれた体つき。威圧感はないが、その冷静さと理知的な雰囲気で十分に存在感を放つ。

「橘悠人、だからお前がいつも腰抜けなんだ。組織を舐めているのか?」

「何を勘違いしているのかね。佐藤君はまだ任務を失敗していないではないか。この任務に期限はないのだからね」

そう。今回、俺に課された任務は――影野を相済に勧誘すること。影野は、ある理由から総長および副総長に熱望されている存在だった。

「影野吾郎……だったか。無名なやつを勧誘するだと?俺には、総長の考えも、お前の行動も、まったく理解が追いつかん」

「山城君、君の考えもよくわかる。でもね……。佐藤君はもう彼の良さに気づいているんだろう?とりあえず次は影野君と仲直りしてきたまえ」

影野視点

《ミッション:黒峯 陣に接触せよ》報酬10pt

ーー光るスマホの画面を見つめる。昨日来たミッションで期限は未定。じゃあペナルティは……?教室の机に向かった考えていると佐藤がやってきた。

「よー、久しぶり」

昨日ぶりなのだがーーそれとも昨日のことは無かったことにしようとしているのか?まぁそれは気まずさを感じていた自分としてはありがたい。

「あれ?怪我、結構治ってるじゃん」

回復速度のレベルを上げたおかげだ。

(この調子だと、佐藤のことは頼れそうだな)

「黒峯って知ってる?」

「うーん……? 誰だろう。聞いたことあるような、ないような」

(……頼れなかった) 


そんなやり取りの後、ホームルームの時間になった。

「では影野くん、その場で立って昨日の実行委員での報告をお願いします」

先生からのパスが来る。

「はい。えっと、今回の球技大会では……サッカーが種目に選ばれました。男女別チームでそれぞれ5クラス総当たりで、今日ポジションと出る試合を決めてもらいます。少なくとも一試合は出るとのことです」

教室内には興奮とざわめきを広がった。

「女子だけのチームってやばいんじゃない?」

「明日から練習しよーぜ」

生徒たちの間で自然と相談が始まる。

すると突然隣の席がきしみ音たてた。そこにはサッカー部の小宮大成(こみやたいせい)――柔らかく整えられたマッシュヘアに、長身で爽やかに笑うナルシスト、まさに「俺、目立つでしょ」って感じの男が腰を下ろしていた。

「おっ、影野ちゃんサッカーを種目に選ぶなんてセンスいいじゃん。女の子が僕に釘付けになっちゃうねー」

正直焦ったが平然を装って

「そ、そうですね……まぁ、皆で楽しめれば……」

そしたら小宮はさらに近づいてきて続ける。

「そうだなぁ……影野君センスあるから中盤とかやっちゃう?」

そう言ってにやりと笑った。

するとそこに佐藤も入ってきた。

「俺はゴールキーパでも構わないぜ」

「じゃあ……じゃあ俺は中盤で調整してみます」

その間にもクラスはざわめきながら、自然と作戦会議が始まった。女子チームの希望や男子のフォワード・ディフェンスの希望が交錯する。小宮は軽口を混ぜつつも戦術の話に加わり、佐藤は静かにフォローしながらクラスをまとめる。

「影野、中盤の配置をこうしてみよう。これで守備と攻撃のバランスもいいはずだ」

佐藤が黒板に簡単な図を示す。

僕は少し胸の奥が熱くなるのを感じながら、自然に配置の調整を考えた。打ち合わせも終盤に差し掛かり、クラス全体のポジションがほぼ決まった。

「よし、これで一通りまとまったな」

先生の声と共に、ざわめきが少し落ち着く。

紙に書き込んだ配置図を見ながら、僕は中盤の役割を再確認する。

「なるほど、ここで守備を固めつつ、チャンスがあれば前線にパス……」

つい声に出して考えてしまった。

すると小さく「おお」とか「なるほど」とか、数人のクラスメイトの反応が返ってくる。

その瞬間、ちょっとだけ目立った気がした。いつもなら教室のざわめきに埋もれてしまう僕の声が、皆に届いた気がする。隣でマッシュの髪を揺らしながら笑う小宮と、リーダシップのある佐藤。二人の存在に心が朗らかな気持ちになり、ただのホームルームではなく特別な時間に変わったのであった。

しかし――相済への勧誘、迫る球技大会、そして黒峯のミッション。

山積みの課題を前に、影野は次の一手を考え、佐藤もまた自分の立場で動かざるを得なかった。

――影野吾郎、ここからが本番である。

今回の佐藤視点で見た暴君・山城や副総長・橘の登場は、影野のこれからを考えるうえで絶対に必要な布石になりました。でも、やっぱり中心は影野。無名な陰キャの彼が、ホームルームでちょっとだけ目立ったあの瞬間……にやにやしました。

次回以降も楽しみにしてもらえると嬉しいです。

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