身体強化モード 解放
放課後、傷ついた僕は佐藤の助けを借りながら彼の家へと向かう。
そののち、スマホに現れた謎の通知――“身体強化モード”の解放。
僕は初めて自分の体と能力の変化を実感し、次のミッションへと向かうことになる。
新たな人物の名前が示すのは、これまでとは違う、少し危険で、でも逃げられない物語。
放課後、身体じゅう傷だらけで血まみれの僕は、佐藤の肩を借りて彼の家へと運ばれた。佐藤の部屋の二階に上がるのにも、かなりの苦労を伴った。
「佐藤は強いんだな」
「お前はだいぶんと弱いな」
僕は佐藤に服を脱がされ消毒液やら包帯やらで治療を受ける。
「別に強さなんて関係ねーよ。それが影野、お前の良いところじゃねーのか」
――違う、そうじゃないんだ。
「僕は別に喧嘩がしたかったわけじゃないし逃げなかったのに理由なんてない。だからあまり僕をほめるなんてやめてくれ」
アプリからの命令は絶対。理由があるとすれば体の一部が消えるのと天秤にかけただけだ。
佐藤が間をおいてこう言った。「影野。俺はお前を勧誘する。――相済に入らないか」
相済。それは、この地域で名を轟かせる暴走族。
そういうのに疎い僕でも、名前くらいは知っている。……でも、なぜ僕なんかに。
「……暴走族?」
「そうだ。俺は目的があってお前に接触した。お前がどんな奴か、確かめるためにな」
「目的? 佐藤みたいなやつが、僕に用でも?」
「俺は総長に命令されてお前に近づいた。総長はお前を――すごく気にかけている」
意味が分からない。
接点なんて一つもないはずの暴走族の総長に気にかけられるなんて。
むしろ絶対に関わりたくない存在だ。
僕はただ恐怖するしかなかった。正直、人に迷惑かけて奴らのことを見下しているという気持ちもある。
でも佐藤が暴走族だったなんて。うちの高校はそこそこ偏差値が高いはずだ。
――だから佐藤は喧嘩が強いのか。妙に納得してしまった自分が嫌だ。
「総長がお前を気に入る理由、知りたいだろ。だったら相済に入れ。きっと後悔はしない」
「ふざけるなよ……。誰がそんなとこに入るか。こんな思い、二度とごめんだ。俺には入る理由なんか、どこにもない。帰らせてもらう。くだらない」
言いながら、胸の奥がぐちゃぐちゃにかき乱されていく。
冷静でいようとしたのに、結局つい感情的に声を荒げてしまった。
そう言ってしまった僕は、もうそこに居座る理由も、出す顔もなかった。
僕はその勢いのまま彼の部屋を後にした。佐藤は僕を止めようとするが、それでも後ろを振り返らなった。
「これ以上振り回されてたまるか」
僕は自分の家まで途中で引き返すことを迷うことなく走って帰ったのだった。
自分の部屋に戻り、ベッドに沈み込むように倒れ込んだ。
ふとスマートフォンの画面を見ると、そこには見慣れない文字が浮かんでいた。
――身体強化モード開放
――“復讐心を持つ者たち”が接触する。その場から逃げなかったため、解放条件を達成
声に出した瞬間、胸の奥がざわついた。
逃げなかったから、解放……? そんな理由で強くなるなんて、意味が分からない。
でも頭の片隅で、これまでの「報酬ポイント」が繋がる感覚があった。
――もしや、あのポイントで“能力”を買えということなのか?
画面には、見慣れない文字とステータスが並んでいた。
―― ステータス ――
保持ポイント:15
[筋力] Lv1 消費:5pt → パンチ力・握力・跳躍力が強化される
[知能] Lv5 消費:8pt → 記憶力・思考速度・分析力が向上する
[耐久] Lv1 消費:10pt → 防御力・痛覚耐性が強化される
[回復速度] Lv1 消費:15pt → 傷や疲労の回復が早まる
[感覚鋭敏] Lv2 消費:20pt → 視覚・聴覚・反射速度が上昇する
[限界突破] Lv0 消費:50pt → 一定時間、全ステータスを爆発的に引き上げる(代償あり)
「……ってまるでRPGのステータスだな。これで少しは強くなれるのか?」
思わず独り言が漏れてしまった。
ただし今の能力、これは赤点まみれだろう。知能が赤点回避したのが不幸中の幸いかもな。
身体強化モード、早く試してみたい。傷つく僕を慰める一筋の光。
僕は自分の体を見た。手当された身体。持っているすべてのポイントを消費し、試しに回復速度のレベルを上げた。
スマホが大きく震える。その瞬間、体中のずきずきとした痛みがおさまってゆく。
顔に貼られた絆創膏をはがして鏡を見た。割れた皮膚が縫われたようにつながっていく。
鏡に映る自分の顔に、思わず笑みがこぼれる。信じられない……でもこれはすごい。保健室なんて、もう必要なくなるかもしれない。
「保健室行く理由がなくなる……。でもそれは、先生と話す小さな時間も消えるってことだ」
――つまり、陰キャの僕に残された数少ない“会話イベント”も削除されるってことだ。それは回復なのか。それとも、ある意味でのバッドエンドなのか。
再びベッドに沈み込んで不思議と回復した身体をさする。
――デイリーミッション、やらないとな。
加えてあんな別れ方をしたんだ。明日、もう佐藤は俺に話しかけてくれないかもしれない。そう思うと胸が暗く沈み込んでいく。
そんなことを堂々巡りで考えている時、腕の横に置いたスマホが、いつもより強く光った。
ピロン。《ミッション:黒峯 陣に接触せよ》報酬10pt
黒峯……初めて聞く名前だ。今回のミッションも、ただ事ではなさそうだ。
「黒峯……きっと面倒な奴だと僕はそう感じる」
かつて右側の袋に感じた虚しさが、また胸を締め付ける。
――それでも、僕は次の物語へと足を踏み出すしかなかった。
第5話を読んでくれてありがとうございます。
影野が体験したあの緊張や迷い、少しでも共感してもらえたなら嬉しいです。
身体強化モードの力や、次のミッションでの動きも、これからますます面白くなります。
まだまだ物語は続きます。。