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殴られる陰キャ、救う相棒

球技大会の準備が一段落した午後、影野吾郎の胸は妙に重かった。

予想外の出来事に巻き込まれる予感がする――それが何か、まだ彼には分からない。

今日は日常の裏で、思わぬ試練が待ち受ける。

今日は球技大会の打ち合わせ。

昨日、相棒の佐藤が動いてくれたおかげで準備は一応整った――はずだった。

でも、妙に胸が重い。復讐心を持つ連中と接触することが約束されていて、逃げられないのだから。

「……ま、作戦でも考えるか」

そう呟いて、放課後までの時間をどう潰すか考えていたら、いつの間にか打ち合わせは始まっていた。

教室の机は討論会のように向かい合い、各クラスの実行委員たちが白熱している。

隣には佐藤が座っている。

「おう、影野。今日もよろしくな」

金髪が光を反射して眩しい。俺とは住む世界が違う人間だ。

予定よりも打ち合わせは長引いた。机を整頓し、カバンを持って教室を出ると僕らの影は実際の身長よりもかなり長くアスファルトに引きずられていた。

「今日もお疲れ影野」

佐藤と一緒に帰路についていた。

「お疲れといわれるほどまだ何もしてない……今からが本番だよな」

自分の言葉に胸がざわつく。

「佐藤、悪いけど今から用事があるんだ。もう今日は解散しよう」

その時、通りの先から笑い声が響いた。

赤茶色の頭――昨日、女子に絡んでいたヤンキーが、取り巻きを連れてゆっくり歩み寄る。

(……これが、アプリの言う“接触”か)

はっきりと言ってタイミングは悪いが逃げることはできない。

佐藤は静かに俺の隣に立って周囲を見渡す。

「……影野、大丈夫か?」

低く、落ち着いた声で安心感がある。

その声だけで、胸のざわつきが少しだけ収まり現実を教えてくれる。

リーダー格がにやりと笑い、ゆっくり歩を進める。

「……よう、陰キャさん。この前は世話になったな……」

周囲の取り巻きも笑いながら前に詰める。風が通り抜け、影がさらに長く伸びる。

「さあ……何のことかさっぱりだね」

僕の言葉にリーダー格の目がはっと大きくなる。

「じゃあ思い出させてやるよ。歯食いしばって耐えてみろ、陰キャさんよ」 

そして――拳が頬にめり込む。視界が揺れ、地面に叩きつけられる。

「ぐっ……!」

息を吸うたび肋骨が軋む。立ち上がろうとするが肩を蹴り飛ばされ、また地面に沈む。

リーダー格が胸ぐらを掴み、顔面に拳を打ち込む。血の味が口の中に広がった。

「お前は――いつも!」 ドゴッ。拳が僕の頬をえぐる。 視界が一瞬、赤く霞んだ。 「いつも!」 二撃目が反対側の頬に突き刺さる。歯がぐらつき、口の中に血の味が広がった。

「逃げてばかりの……カスだ!」 三発目。渾身の拳が顔面に叩き込まれる。 衝撃で後頭部が地面に弾かれ、星が散ったように視界が白く弾ける。 気づけば僕はアスファルトに突っ伏し、立ち上がることさえできなかった。

「影野ッ!」

佐藤の声が届く。前に踏み出そうとする姿。

「やめろ!」

血まみれの唇で叫ぶ。

「……佐藤、お前は入ってくるな」

「はぁ!? このままやられてろってのか!」

「……お前まで巻き込むわけにはいかない。だから……逃げろ」

影野の声は震えていたが、決意は確かだった。

佐藤は一瞬ためらうが、俺の目を見て頷く。

「分かった……でも、俺はお前をほっとけない理由がある」周囲の不良たちの笑いは徐々に止まり、空気が重く張りつめる。

そして佐藤は周りの不良たちに向き直り、真剣な目で問う。

「おいお前ら、何がおかしい。

恐怖に耐え、仲間をかばうやつのどこが恥ずかしいってんだ?

それより、集団で一人を襲ったり女子にちょっかいかけるやつのほうが、よっぽど恥ずかしいだろ!」

影野は心の中で思った。

(……なぜ、あの女子の件まで知っている?)

リーダー格が再び口を開く。

「……黙ってればこの陰キャだけで済ませてやったのに、お前も死罪だな」

「くっ……やばい、佐藤!」

影野の叫びは届かない。だが、佐藤の動きはまるで時間がスローモーションになったかのように周りとはまるで違った。

一歩、二歩と踏み込むだけで、取り巻きの腕が鋭く弾き飛ばされる。

「ぐっ……!」

鋭い拳が次々と空を切るかと思えば、その拳は的確に相手の肋を捉えている。

一人が突っ込んできた瞬間、佐藤は軽く横に避け、肘打ちで背中を押し飛ばす。

別の一人が振りかぶった拳は、佐藤の蹴りで弾かれ、地面に転がったまま身動きできない。 

(……佐藤は、こんなにも強いのか……!)

影野の視界には、佐藤の動きがまるで舞うように見えた。

打撃、投げ、踏み込み――取り巻きたちは一瞬で制圧され、地面に伏せてうめき声を上げる。

「……お前、少しはやるようだな……」リーダーが言う。

その声には怒りだけでなく、わずかな恐怖も滲んでいた。

佐藤を一瞥した目には、以前のような余裕はない。

(……この男がいれば、僕はなんとかなる……)

リーダー格は拳を握りしめ、ゆっくりと佐藤に近づき始めた。

「ふん、まだ終わりじゃねぇ……俺が……」

リーダー格は拳を振り上げ、佐藤へ突進する。だが、佐藤の動きは一切の無駄がない。瞬間、リーダー格の腕はかわされ、佐藤の膝が腹に入る。突進の力を利用した一撃だ。

「ぐ……なっ……!」

地面に叩きつけられたリーダー格の息が荒くなる。痛みに顔を歪めつつ、再び立ち上がるが、佐藤は一歩も引かず、その視線だけで制圧していた。

「お前、これでやっとわかったか?」

佐藤の声は静かだが、全てを飲み込む重さがあった。

取り巻きたちはすでにひれ伏し、もはや立ち向かう気力すら残っていない。

リーダー格も荒い息を吐き、痛みに顔を歪めたまま動けない。戦場だった路地は今はもう風だけが吹いている。

佐藤はゆっくりと立ち、握りしめていた拳をほどく。

「影野、歩けるか」

その声には、さっきとは全く異なる、ただ心配と信頼が混ざった温かさがあった。

影野はまだ震える足を引きずりながらも、彼の視線をまっすぐに見返す。

「ありがとう」

佐藤は無言で影野の隣に歩み寄り、肩を軽く支える。

リーダー格の悔しげな視線が、少しだけ影野に向けられる。

だが、もう何もできる者はいない――すべては終わったのだ。

ピロリ――身体強化モードを開放しました――


みなさん、久しぶりの投稿です!

第4話まで読んでくれてありがとうございます。 

次回佐藤の正体が明らかになります。

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