「筋トレと実行委員と俺の人生終了予告」
今回は少し日常の描写が多く、単調に感じられる部分もあったかもしれません。読んでくださる皆さんには退屈させてしまったら申し訳ないです。ですが、こうした日常の積み重ねが、後々の大きな展開の土台になっていますので、どうか温かい目でお付き合いいただけると嬉しいです。学生生活の描写もしっかり描こうと思います。
謎のアプリがインストールされてから一週間がたった。
生活にはそれなりに支障が出てるけど、まあ、誰にもバレてないからセーフだ。
その間に、少しだけ“このアプリ”についてわかったことがある。
まず一つ目。
ミッションには種類があるらしい。
ひとつは、あの時の「不良から女子を救え」みたいな、やたらと難易度の高いやつ。
名前はまだよくわかんないけど、たぶん——“メインミッション”ってやつだ。
命の危機ギリギリなぶん、クリアするとドカッとポイントがもらえる。
筋力に全振りできるくらいには。
そしてもうひとつが、“デイリーミッション”。
こっちは毎日出る課題で、内容もそこそこヌルめだ。
「腕立て30回」「腹筋50回」「ランニング2キロ」——みたいな、地味にだるい健康習慣。
報酬は0.5ポイント。少なっ!って最初は思ったけど、まあチリも積もれば筋肉になるってことで。
継続は力なり、ってやつだ。
んで、二つ目。
ミッションを無視すると、ペナルティが来るらしい。
初日に試しにサボったら、右の金玉が消えた。マジで消えた。
思い出すだけでゾッとする……。
いま思い出しても、寒気と虚無感で死にそうだ。
わかってることは、まだこれだけ。謎だらけのままだ。
でも、画面にある現実を俺はもう受け入れてしまった。
俺はスマホの画面をじっと見つめ、震える手をこっそりポケットに押し込んだ。
筋トレしないと、玉が減るなんて、こんなバカげた現実があるかよ。
それでも、無視すればもっととんでもないペナルティが降りかかる。
「一体、誰が何の目的でこんなアプリを俺に……」
胸の中で、その疑問がぐるぐる回り続けていた。
謎は深まるばかりだが、とりあえず今のところはこうだ。
「筋トレしないと玉が減るアプリ」、それが俺の人生に急にインストールされた現実。
……うん、なんかもう、全部が間違ってる気がする。
「影野、お前が球技大会の実行委員な」——担任の間延びした声に、俺は思わず固まった。
気づけばクラス中の視線が俺に集中してる。
多数決?そんな話、一言も聞いてねえよ。
……は?
のんきに読者に説明してる場合じゃなかった。
実は今、ホームルームの時間でめっちゃ油断してたんだ。
「ちょ、いや、それは……俺、あの、向いてないっていうか」
さすがに抵抗はした。今できる最大限の抵抗が「ちょっと待てよー」っていうことだけだった。
なのに、
「あー、でも他いないし、影野なら静かにやってくれそうだしさ〜」
「逆にそういうタイプの方が調整とか得意そうじゃね?」
……つまり、
「反論してこなそうだから押し付けやすい」ってことか。
おい、俺の心をナイフで薄く切り刻むのはやめてくれ。
——そして。
そのときだった。
ポケットの中で、スマホがブルッと震えた。
嫌な予感。ほんと嫌な予感。
手を伸ばし、画面を見ると——
【デイリーミッション】
内容:球技大会の実行委員を引き受けろ。
報酬:+0.5pt
ペナルティ:拒否時、肛門周辺の筋肉が24時間麻痺(排便困難)
「……は?」
声が出そうになったけど、こらえた。
なんだこれ?ペナルティが肛門麻痺って、どんなイカれた趣味だよこのアプリ。
デイリーってのがまたムカつく。
地味すぎるのに、ダメージはヤバすぎるだろ。
「……やります」
結局、俺はプリントの束を受け取り、担任に頭を下げていた。
《ミッションコンプリート》
あの音が鳴るたび、俺のプライドが少しずつ削れていく気がする——。
放課後。
荷物をまとめて帰ろうとした瞬間、教室の後ろから声が飛んできた。
「おーい、影野〜、実行委員ってお前だよな? これ、明日の分の打ち合わせメモなかったっけ?」
振り返ると、バスケ部の佐藤がこっちを見ていた。
クラスの男子でもちょっと人気のある、いわゆる「陽」。金髪。イケメン。高身長。
初めて話しかけられた。実行委員の効果抜群だ。
「え、あ……いや、もらったけど……まとめるって聞いてないし……」
「マジ?じゃあ一緒にまとめるか。……つかSNS交換しとく?」
「えっ」
SNS交換。
その言葉だけで、急に心臓がバクバクしてきた。自分でもちょっと恥ずかしくなるくらいだ。
「あ、うん、そっちが……いいなら……」
スマホを出す手がわずかに震える。
汗ばんだ指でQRを表示して、佐藤のスマホにかざす。
「おっけー。じゃ、よろしくな、相棒」
……相棒?
どっちが右京だよ。
ていうか、俺が右京なら佐藤が誰になるんだよ。亀山?甲斐?それとも反町?
てか“相棒”ってそんな軽率に使っていい単語かよ?
「お前、ツッコミもできるんだな。意味不だけど」
……え、今の聞こえてた?
「え、あ、いや……ちがっ……」
「ま、いっか。じゃあまた明日な、相棒」
言いながら手をひらひら振って去っていく佐藤の背中を見送って、
俺はなぜか、妙に肩に力が入ったまま立ち尽くしていた。
——こうして、ぎこちないけど、それなりに相性の悪くない“相棒”ができた。
夜。
机の上に広げたプリントの束と、開いたままのスマホ。
球技大会の資料をまとめてはいるものの、正直あんまり集中できてない。
というのも、メッセにちょいちょい佐藤がコメントを投げてくるからだ。
《佐藤:影野、出席チェックのとこって誰がやるんだっけ?》
《佐藤:てか、プリントの表紙、ダサくね?笑》
うるせえよ、とか思いながらも、なんかニヤけてる自分がキモい。
《俺:あとで俺がやっとく》
送ってすぐ既読がつく。あのスピード、なんなんだ。暇かよ。
《佐藤:さすが相棒!笑》
スタンプ:筋肉モリモリの犬が親指立ててるやつ
こっちはプリントと格闘してんのに、なんでそっちはゲームの合間みたいなテンションなんだ。
でも、不思議と嫌じゃない。
ちょっと前の俺だったら、こういうやりとりは全力で避けてたはずなのに。
スマホとノートを交互に見ながら、俺はぎこちなくも、少しずつクラスメイトの波に乗れている気がした。
そんな、微かな希望の夜だった。
そんなふうに思えた夜だった。
《佐藤:明日の集合時間って8時でオケ?》
《俺:うん、体育館前にしとこ》
──ピロリン
【ミッション】
内容:「明日、お前に“復讐心を持つ者たち”が接触する。その場から逃げるな」
報酬:+5.0pt
「……は?」
画面をじっと見つめる。
これは佐藤からじゃない。
佐藤との和やかなやりとりが、遠い世界の出来事みたいに感じた。
俺はまた、何かに試されているのか──?
「球技大会の実行委員の面倒見ながら、復讐者まで相手にしなきゃいけないのかよ……」
マジで俺の人生、ゲームオーバーじゃねえか。
ここまで読んでくださりありがとうござました。今回は少し単調な話となってしまいましたが次はようやく初めての戦闘シーンが登場します。次回もよろしくお願いします。