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とても名前の長い勇者を召喚した話

剣と魔法のとある世界。

あまり志の高くない一族が治める、ナルゾーウル王国。


今日、城で勇者召喚が行われる。

『召喚の間』と呼ばれる広間に、多数の観覧者が待機し、召喚魔法陣の発動を待っている。


国王とその血脈に連なる高貴なる一族、

国王を頂点とする統治機構の重鎮、宰相と大臣たち。

実際に勇者召喚を執り行う、魔法士団の魔法士たち。


「ナルゾーウル国王陛下、万歳!」


言葉のチョイスはともかく、魔法士団長の合図の声に、魔法士たちは魔法陣を起動させる。


召喚の間は、歌劇場の座席部分をまっさらにしたような部屋である。

観覧者が見下ろす舞台下、床一面に刻んだ召喚魔法陣はゆっくりと光を帯びる。


それは徐々に明るくなり、一際強く発光する。


誰もが、目を眩ませた強い光の後、魔法陣の中に人影を認める。黒髪黒目、同年代であろう五人の少年。


――勇者召喚は成功した!


ナルゾーウル国王は立ち上がり、用意された台本の台詞を、大きな声で読み上げる。


「勇者よ、よくぞ来た。我は ナルゾーウルルルル14世。このナルゾーウル王国の、偉大なる、王なり!」


同じく舞台上、王の近くに侍るナルゾーウル王国の宰相は思った。


子供にしても背が低い。

しかも貧弱な身体つき。これは外れか?


あまり志の高くない一族が治める、ナルゾーウル王国だが、国民は平均身長190cm前後、大柄で筋肉質な性質であった。


しかし、と宰相は己の思いを理性で抑える。

膨大な予算と準備期間、魔法士に再起不能者を出してまで行った勇者召喚である。外見が弱そう、という理由では返還することも難しい。


宰相は即座に思考を切り替え、舞台の最前列に進むと、予定通りの行動をとる。

召喚が成功した直後に行われる一連の行事、その司会進行を務めるのだ。


手始めに、この度勇者召喚を行った意図などを少年達に告げる。


偉い人の言葉は大概、修飾過多でとても長いので要約すると――『皆さんはナルゾーウル王国の勇者である。歓迎し好待遇でもてなすので、戦争で敵を倒して、国を豊かにして欲しい』


日本のウェブ小説に、巨万とある展開だ。


「次に、この場にて勇者の能力鑑定を行う。先立って名を教えてもらいたい」

「‥‥ハル」


小さいが、存在感のある声が響く。


「その、大分短い名だが、それが其方の真名であるか?」


宰相が求めるのは、勇者の真名である。

あまり志の高くない一族が治めるナルゾーウル王国は、儀式を行い、真名で人を縛り傀儡に出来るのだ。


「真名?」

「真実、生まれた時に授かった名だ」


(真名を知らぬとは、無知蒙昧の者達であろうか? しかし、無知であるならば御し易かろう)


「偉大なる英雄にして、初代ナルゾーウル国王であれば、フルネーム・オシエルナ・カイライ・ナルゾーウルルルル、が正式な名であり、真名はオシエルナ・カイライである」


無知でも理解出来るようにと、初代の真名を例に教えてやれば、少年五人の様子が変わった。


真名という、高尚な言葉の意味を理解出来た事で、緊張が解けたのだろうか。

互いに腕などを叩き、笑みを浮かべている。


「ちょっwww ルルルル初代、ガチ有能」

「ふーん」

「なるほど、ね」


内輪で話している内容は聞こえないが、概ねやるべき事を理解した様子。

宰相は少年たちに先を促す。


「公式の場で名は略さぬ。初代様のように長くても問題は無い。正しい名を教えて欲しい」


パチンッ!


と、柏手を打った少年が、拳を振り上げ、数歩前に進み出る。


「おっしゃ、コレキタ俺の持ちネタ!」

「待て、阿保スケ」

「心配するなって、サン」


(おお、其方は随分と元気そうだな。よしよし。)


手を打った、元気の良い少年に視線を合わせる。

名乗るよう首肯してやれば、止めようとした者も諦めた様子。


「一番手は俺だ。大事な名前、しっかり覚えてくれぃ!」

「勿論である」


宰相が立つ舞台の下、オーケストラピットにあたる部分に、記録係の文官が配置されている。

宰相の腹心と特に筆記速度が早い数名が、勇者の真名を聞き取り、記録しようと待機している。


(さあ、ソナタの真名を教えてくれ)


「じゃ、いくぜっ! 俺の名は、(めっちゃ早口で)じゅげむ寿限無五劫のすりきれ 海砂利水魚の水行末雲来末風来末 食う寝る所に住む所 やぶらこうじのぶらこうじ パイポパイポパイポのシューリンガン シューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナの 長久命の長助。也」


はぁっ?


「名前が長いんで。略して、スケだ」

「そ、その‥‥」


(これは高速呪文か? しかし一度とて聞いた事のない呪文である)


しばしフリーズする宰相とナルゾーウル王国の一同。



一番手の、スケと呼ばれた少年が、名前にまつわる持ちネタ『寿限無』を披露している間。

残された四人の少年は対策を話し合う。


「仕方が無い、スケに付き合おう」


五人グループの中心人物、ハルが方針を決める、


「スイヘーは水兵。科学担当。いいね」

「へいへい。かしこまりー」

「サンとユウキは、どうする?」

「僕は数学を貰う。サンでもサントでも繋がる無限数のアレ」

「ハルはどうするんだ?」

「私は、古典で雅に、いとおかし」


次々と決まってゆく、長い真名の捏造計画。


何故なら、勇者召喚された黒髪の少年五人は、受験生の塾友グループ。


受験生とは、記憶力が勝負。

受験生とは、試験でのみ有効な知識を、丸暗記する特殊個体である。


「残るはオレか。あ、今からゲーム名のブレイブで。英語でレッツゴー」

「ブレイブ? 何を使うのさ」

「フンフンフンふ~ん、フォザラ~♪~brave! ってな」

「それかっ!」

「よし、全員決まったね」


Oh say can you tell name~♪


「え? 何、歌ってんだ?」


持ちネタの寿限無風自己紹介が終わり、完全に滑ったものの、本人は満足気だ。


「スケ。先陣ご苦労。当分の間オレの名前、ゲームのブレイブ縛りで」

「はぁ?」


戻って来ると、四人の話題に乗り遅れたようだった。


「スケ、いいから合わせろ」

「りょーっかい」


スケを睨むサン。


逆らわない方がいいだろう。サンは一見すると大人しそうだが、好戦的な性格をしている。

売られた喧嘩は、即買い上げ、利息を加えて返金させるタイプだ。


「次は誰がいく?」

「オレ。恥ずかしいから、さっさと終わらせる」


ダルそうに数歩進み出たのは、ブレイブ。

普段、仲間内でユウキと呼ばれている少年である。


小さく深呼吸。

そしてはじまる、米国国歌、星条旗の暗唱。


「Oh say can you see, by the dawn's early light, What so proudly we hailed at the twilight's last gleaming, Whose broad stripes and bright stars through the perilous fight.」


「ま。またレよ」


驚きフリーズした頭を、新たな驚きで再起動させた宰相は、二人目の名乗りを遮ってしまう。


名乗りを止める行為は、無礼だと理解している。

しかし、先ほどの、一人目の真名と明らかに発音の音域が異なるのだ。別の種族の言葉をのようにも思える。


「チッ」


舌打ち、下からの睨み上げ。

二番手の勇者少年は、機嫌を損ねた様子を見せる。


この状況は、初対面の相手に英文の暗記テストをしているようなもの。


普通に恥ずかしいブレイブ。

内心、早く終わらせたくて仕方がない。


「まだ続くんだけど。真名は略さずに、だったよな。O'er the ramparts we watched, were so gallantly streaming. And the rocket's red glare, the bombs bursting in air, Gave proof through the night that our flag was still there. Oh say does that star-spangled banner yet wave. O'er the land of the free and the home of the brave.」


「以上、最後を取ってブレイブ、よろしく」


埒外の事に困った宰相は、どうすべきか迷い、己を補佐する腹心を頼る。

舞台の真下では、同じく困った顔をしている腹心とその部下数名。


舞台下のオーペストラピットに配置された記録係の文官は、勇者の真名を必死に書き取っていた。


が、耳慣れない音の羅列。しかも長文である。


筆記速度が自慢の文官であっても、書く速度が追いつかない。

皆、途中で書く手を止め、悔しげに首を振っている。


「三番手は私、ゆっくり名乗るから、安心して?」


宰相と配下の者たちが戸惑っている間に、勇者は交代し、三番手の真名の名乗りがはじまる。

ナルゾーウル王国側に忖度したり、タイムアウトの適応は無い。


「春は曙。やうやう白くなりゆく山ぎはすこし明かりて紫だちたる雲の細くたなびきたる」


一息に、だがしかし優雅な、のびのびとした声が響く。

少年は一拍置いて、書き取りに勤しむ部下たちの様子を見ると、目を細め、更に続けた。


「夏は夜、月のころはさらなり闇もなほ蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなどほのかにうち光りて行くもをかし雨など降るもをかし。秋は夕暮れ。夕日のさして山の端いと近こうなりたるに烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛びいそぐさへあはれなり。まいて雁などのつらねたるがいと小さく見ゆるはいとをかし。日入り果てて風の音虫の音などはた言ふべきにあらず。冬はつとめて。雪の降りたるはいふべきにもあらず霜などのいと白きもまたさらでもいと寒きに火など急ぎおこして炭持てわたるもいとつきづきし。昼になりてぬるくゆるびもていけば火桶の火も白く灰がちになりてわろし」


確かにゆったりと名乗っているが、大変厄介な真名だ。


朗々と歌うように響く音は、区切りが判明せず、ナルゾーウル王国の文字で表記出来ないだろう。この国で最も長い単語は『ナルゾーウルルルル○世』。それ以上長い単語は、不敬とされている。


「通称、ハル」


名乗りが、終わっていた。


(はっ、歌のような心地よい名乗りに、心を手放していたようだ)


「おつっ! んじゃ、次は、ワタシ~」


振り返り、ハイタッチで入れ替わるスイヘーとハル。


「では、最初のネオンまで、皆さんご一緒に! さんハイ!」

「「「「「水・兵・リーベ・僕の船」」」」」


おちょくっていくるか、完全にヒーローショーのノリだ。

スイヘーと四人のお友達は、元気な声で名乗りをスタートさせる。


「七曲がりシップスクラークか スコッチ暴露マン 徹子にどうせ会えんが芸斡旋ブローカー ルビー爺さんストローいじる 荷物おぶって持って来るって老人パラダイス 銀行カードと印鑑スースーすべって行く帰省」


召喚の間の隅々にまで、物質の根源を轟かせる。

勇者の不思議パワーが宿った名乗りに空気が不安定になり、金属が共鳴しはじめた。


「お、お待ちください」


たまらず声を上げたのは、外交大臣。

勇者を真名で縛り傀儡にした後は、圧倒的な暴力装置として従えて、諸外国を脅す皮算用であった人物である。


「おぅ、ゴーゴーバリ硬ラーメン、食えなかったっ」

「五周期以降も覚えんのかよ、理系やべぇ」

「公立ゆっるっ。僕、全部覚えたし」


大げさな身振りで振り返り、仲間と軽口を交わしていた少年は、やがて舞台上に視線を戻す。


「はい、それで? 何でしょう?」

「皆様は大変仲がよろしいご友人とお見受けします。当然、お互の真名は覚えておりますな」


余りに長い真名が続いた。

ナルゾーウル王国でも例を見ない長さだ。


舞台下に控える文官の様子を見ても、真名の記録は無理だと判断出来る。

外交大臣は勇者を縛る事を諦め、そうして考えた。


家柄だけで抜擢され、大過なくがモットーな外交大臣だが、妙に勘が鋭い。


(もしや、真名は出まかせでは?)


長すぎる勇者の真名に、疑いを持った結果――「大変長い真名をお持ちのですが、仲良き友の名なれば、お互いに呼び合う事もあるでしょう。いえ、疑う訳ではございません。試しに、ご本人以外に真名を確認させていただきたい」


外交大臣はやらかした。

そんな挑発に出たら、ヤツの出番だ。


「それじゃ、どうする~?」

「はぁ、浅はかだねぇ。まだ名乗ってない僕が答えるよ」


少年勇者五人の中で、一番小さいヤツが出て来た。

小柄で大人しそうな少年に、妙な胸騒ぎを感じ取った宰相と外務大臣。


「そこの阿保スケは、寿限無寿限無五劫のすりきれ 海砂利水魚の水行末雲来末風来末‥‥長いな、中略して長助。次はブレイブ。呼び名に続く後半だけ。オ セイ ダズ ザット スタースパンガルバーナー イェット ウェブ オォザ ランド オブ フリー アンド ザ ホーム オブ ザ ブレイブ。ハルは中間抜粋。秋は夕暮れ夕日のさして、山の端いと近こうなりたるに烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛びいそぐさへあはれなり。まいて雁などのつらねたるがいと小さく見ゆるはいとをかし。日入り果てて風の音虫の音などはた言ふべきにあらず」


「つか、招いた相手に茶の一杯も出さないの? この国、文化程度、低すぎ」


流石サン。煽りが酷い。


一方の外交大臣といえば、とても長い真名を、中略、後半、中間を抜粋されて混乱している。

出まかせかどうか、真偽判定すら出来ない大臣は、大いに焦っている。


(何と無茶苦茶なっ、口の減らない生意気なガキめっ!)


心の中で悪態をつくも、歓迎とか好待遇など、最初に宰相が述べたこと思い出す。


冷静に見れば、外交大臣の周囲、勇者召喚を観覧に来た舞台上の王族や他の大臣は、それぞれの座席に座り、茶と軽食を楽しんでいる。

片や召喚した勇者少年達は舞台下、召喚陣の書かれた床に立たせたままである。


待遇の指摘は、至極もっともであった。

どうにかして欲しいと、発言元の宰相にキラーパスを出す。


「あー宰相殿。勇者様方はお疲れのようです。歓迎の接待はどうされましたか?」


華麗なる押し付け、大臣は保身は完璧だ!


「勇者様方、これは大変失礼を。ただいま歓待の準備しておるゆえ。しばしお待ち下され」


一方の宰相も、家柄採用で無能だが致命的なミスが無く、部下の功績ゆえに評価が下がらない外交大臣に手を焼かされていた。ここで失脚させられるなら、勇者様の指摘にのっかって、追い詰めるのもやぶさかではない。


「外交大臣、勇者様の真名を疑うような、あなたの無礼に大変に寛大なご対応をお頂いた。その件は解決したのなら、別の言葉があろう。礼も謝罪が無いようだが?」


勇者少年たちの長い真名に多少呆けはしたが、老獪な宰相である。国内貴族や大臣相手に死角は無い。


外交大臣のキラーパスをいい角度で打ち返す。


「ハハハッ、参りましたな。歳をとりますと、どうにも物覚えが‥‥」

「え、大臣ってこの程度も覚えられないの? コネなの? ボケたの? 無能なの?」


サンの口撃は止まらない。


何故なら、彼らは塾友グループ。

明日は、全国模試の日である。


塾の講習後に、ファミレスで宿題を仕上げ、解散する寸前に召喚されたのだ。


さっさと帰宅して十分な睡眠を取り、明日の模試に備えたい。

知人が一人も居ない異世界の人助けより、自分将来の方が大切だ。


嫌われようが、疎まれようが、さっさと帰還する事こそ最優先事項。


塾友勇者に慈悲は無い。


「おーい、サン。お前も一応名乗ったらどうよ?」

「うん、そうだね。‥‥僕ね、少し古い家系で真名が二個あるんだけど、名乗った方がいい?」


ナルゾーウル王国のお偉い方々は、真名が二個存在する異文化に、ちょっと興味を持ってしまった。


その筆頭は、ナルゾーウルルルル14世。つまり王様だ。


「是非とも真名を披露するがよかろうっ、偉大なる王の耳を楽しませるがよい!」


真名が二個あるなんて楽しそう!

ナルゾーウルの王様は調子に乗って、偉そうにサンの名乗りを促した。


「おぅ、馬鹿がひっかかった」

「裸の王様、本当に存在してたか‥‥」

「え? 真名が二個って何だよ」

「大丈夫、サンが上手に粉砕する」


四人の会話に、サンを心配する気配はない。


と、その時。受験生の必需品アナログ腕時計を見て、スケが心配事を思い出す。


「俺、そろそろ帰らないと‥。お袋がキレるか、メシが無くなる」

「ファミレス出て、そろそろ一時間。ワタシも親姉妹から鬼電来そう」


聞こえてきた皆の心配事を他所に、サンは仕掛ける。


妙な口調で「シカラバ」と言い置き、厳かに合掌した。

そして、読経を真似た抑揚で、百桁の円周率を唱えはじめる。


「3.14 15926535 8979323846 2643383279 5028841971 6939937510 5820974944 5923078164 0628620899 8628034825 3421170679。‥‥どうかな? 神秘の真名を耳にして」


どこの詐欺師だろうか?

胡散臭い言葉がスラスラと出てくるサン。


「神秘。物は言いようだね」

「あいつマジやべぇ。将来、教祖とかやってそう」


サン独演会の観客に回った塾友は、言いたい放題である。


「先ほどの真名は、いわゆる古語。数千年前から変わらぬモノだ.しかし、下等次元の者には理解が及ばぬ」


アラビア数字は、確かに数千年前からありましたねー。と、誰かが心の中で突っ込んだ。


「二つ目の真名とは、その現代語訳となる」


胸を張り、腕組みをしたサンは舞台上を見回す。

下等次元とはお前たちの事だ。と示すような態度である。


「三都医師、異国に向こう。産後薬なく産婦みやしろに。虫散々闇に鳴くころにや、弥生急な色草。九九見ないと小屋に置く。仲良くせしこの国去りなば医務用務に病む二親苦。悔やむにやれみよや不意惨事に言いなれむなく」


「現代語は、俗世の者達に合わせて真理を隠した真名だ。わかったか?」


理系組は即座に理解した。

真理って数字って事だよな? 語呂合わせで文字列になったら計算に使えない。なるほど。


「還俗する時は、サンと名乗る」


最後まで高次元存在を自称するサン。ぱねぇ。

とは、誰の呟きだろうか。


二つの真名を披露するように命じた王は、何も理解出来なかった。


ナルゾーウル王国の一同は、そもそも何故、真名が二つあるのか要領を得ない。完全なる未知に混乱し思考が迷子になっている。


真打にしてラスボス。

サンの堂々たる円周率の名乗りは、色々と効果が強すぎたようだ。


あまり志の高くない一族の王と宰相、ナルゾーウル王国の一同は理解した。この勇者たちの産まれた国は、自分たちと同じルーツを持つが故に、儀式で真名を縛られぬよう、多様な対策を施したのだと。


――見事な勘違いである。


仲間の下へ戻り、小声でぼやくサン。

「異世界に円周率は早すぎたようだ‥‥」に、塾友一同、こらえきれずに噴き出し笑う。


全員の名乗りが終わり、人心地ついた塾友五人。

抗いがたい眠気に気付き、喫緊の要望を口にするスケ。


「てかさ、俺らの世界で、この年代は子供。そろそろ良い子は寝る時間なんだっ!」


すべて聞く前に言いたいことを理解し、子供発言に便乗するハルとスイヘー。


「私たちはまだ、心も体も発展途上の子供です」

「そうそう。そっちの席で子供みたいな扱いの、綺麗なお姫様たちだってさ~、ワタシらより背が高そうだし、ねぇ」


ナルゾーウル王国の国民は、大柄で筋肉質な性質。

四方に立つ、体格に恵まれた兵士たちなどは、少年たちが見上げる程に大きい。


「だよな。王様や宰相は俺らより分厚くて頑丈そうだし、俺ら返して、もっとデカいの召喚した方がよくねぇっすか?」


(「その手があった!」)


王も宰相も、もろ手を上げて賛同した。あくまで心の中で。

表面上は、冷静な態度は崩さない。


この国では小柄で可愛らしいと評判のお姫様たち。

背の高さを指摘され、顔を真っ赤にしている。


だがしかし。模試直前の受験生、そんな些細な事は気にしない。


「スケにしては良い意見です」

「にしては、ってどういう意味だよ。泣くぞ」

「まぁ、まぁ。オレらの中じゃ一番成績下なのは事実」


空気が読める偉大な王、ナルゾーウルルルル14世は、宰相とアイコンタクトをとり、勇者たちを送り返すことを決意する。


「宰相、まだ子供では仕方が無いではないか、送還は出来るか?」

「王と勇者様が望むのであれば」

「うむ」

「「「「「お願いします!」」」」」


こうして、とてもとても名前の長い国から来た少年の勇者たちは、帰って行きました。


めでたし、めでたし。

ABは進学校。Cは公立校。


ハル:ハルト(A校)

スイヘー:苗字(A校)

サン:太陽と書いてヒロト(B校)

ブレイブ:ユウキ(B校)

スケ:スケナリ(C校)

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