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短編

足踏みタイムカプセル

作者: 八百板典所

 三月二十九日。マリモ記念日だとか作業服の日だとか、誰かにとって特別な日だけど、俺にとっては在り来りな一日でしかない、ある春の日の昼下がり。

 俺──久城くじょう光一こういちは幼馴染の家で段ボールと睨めっこしていた。


「なあ、ちひろさんや」


「あ、高校の教科書は捨てるから段ボールの中に入れないで」


 段ボールの中に卒業アルバムを投入しつつ、俺は四月一日(わたぬき)千尋(ちひろ)──幼馴染であり長年片思いしている相手でもある──に声を掛ける。

 幼稚園の頃からの付き合いであるある彼女は雑誌を紐で縛り上げると、悪びれる様子を見せる事なく、俺の方に視線を傾けていた。


「家庭科の教科書は取っておいた方がいいと思うぞ。一人暮らしする時に役立つかもだし」


「えー、いいよー。そんなの無くてもネットに沢山の真実が転がっているし」


「ちっちっち。甘いぜ、ちひろさんや。ネットに転がっているのは、承認欲求の獣が残したウンコだけだぞ。真実がないとまでは言わないが、掃き溜めの中で真実を漁る必要なんてない。家庭科の教科書だけ取っとけ。ウンコ塗れの真実よりもこっちの方が何倍も価値がある」


「ネットの人達に親でも殺されたの?」


「親のように慕っていた動画配信者が、承認欲求のケダモノ達に焼き殺された」


「共食いだよね、それ」


「おい、お前、今、全動画配信者達を敵に回したぞ……って違う違う。俺が言いたいのは、そうじゃない」


 首を横に振り、話を本筋に戻す。


「なあ、ちひろ。どうして俺はお前ん家の引越しの手伝いをやっているんだ?」


「明日引っ越しだから」


「違う、そっちを聞いていない」


「幼馴染だから?」


「帰省した幼馴染にやらせる事じゃないでしょ」


「じゃあ、私の彼氏になっちゃう?」


「……そういう問題じゃねぇよ。というか、引越し業者来るのって明日の朝なんだろ? 何で引越し前日に荷造り始めてんだよ。大学合格決まった後、そこそこ時間あっただろうが」


「あ、高校の時の教科書は捨てるから、紐で括ってて」


「おーい。俺の発言スルーするな。てか、ナチュラルに俺を顎で使うな」


「つまらないツッコミだなー、受験勉強のし過ぎでツッコミの腕鈍ったんじゃない? そんなんじゃ、お笑い芸人になれないよ」


「いや、お笑い芸人になりたいって一度も思った事ないんだけど」

 

 最後にちひろの部屋に入ったのは、……確か、小学校の時だったと思う。

 あの時と違い、彼女の部屋はちょっとだけ大人っぽくなっていた。

 彼女が好きだったポケットでモンスターなキャラクターは何処にも見当たらない。

 漫画でいっぱいだった本棚の中には、漫画が一切見当たらず、参考書やファッション誌がおしくらまんじゅうを行なっていた。

 壁に貼られているポスターも、年頃の女の子が好きそうなものになっている。

 よくよく見たら、学習机やベッドの位置も変わっているし、絨毯の柄も変わっていた。


「ん? なんだろ、これ?」

 

 疎外感のようなものを感じていると、戸惑いの声を上げるちひろの声が俺の意識を引き寄せる。

 教科書を紐で縛り上げた後、クローゼットの中身と睨めっこしているちひろの方に視線を傾けた。


「どうした? 何か見つけたのか?」

 

 首を傾げる俺を見るや否や、ちひろは小学校の時に使っていた自由帳を見せつける。自由帳の表紙には、『三年一組わたぬき⭐︎ちひろ♡』という文字が描かれていた。


「うわ、名前欄から頭の悪さが滲み出てやがる」


「喧嘩売ってんのか、おのれは」


「で、この自由帳がどうしたんだ?」


「これ見てよ」


 そう言って、ちひろは自由帳の中身を見せつける。自由帳に描かれていたのは、小学校周辺の地図だった。


「なんだこれ? 地図?」

 

 再び首を傾げる。

 ちひろは『この美しい文字が目に入らぬか』と言わんばかりの態度で、自由帳に人差し指を乗せると、星マークを指差し始めた。

 星マークの隣に記載されている文字を目視する。

 そこには、タイムカプセルという単語が刻み込まれていた。


「なんか私達、タイムカプセルを埋めてたみたい」


「は? タイムカプセル? そんなの埋めた覚え……あ」


「なんか思い出した?」


「小三の夏……いや、小四の春休みだっけ? 水泳教室に通っていた時、タツ兄っていうヒョロガリの先輩いただろ?」


「うん、いたね。そのタツ兄がどうしたの?」


「タツ兄の影響で俺達も埋めたんだよ、タイムカプセル」


「え、覚えていないんだけど。どういう経緯で埋めたんだっけ?」


「確か、……タツ兄が友達と一緒にタイムカプセル埋めたって話を聞いて、……ちひろが『じゃあ、私達もタイムカプセル埋めるか!』的な事を言い出して、お菓子の缶詰の中に何かを入れて、……みたいな流れだったと思う」


「何かってなに? 私達、一体何を埋めたの?」


「忘れた。というか、お前、此処まで聞いて何も思い出せていないんかい」


「私、過去を振り返らない良い女だから」


「良い女を自称して恥ずかしくねぇのか?」


「あん? 私、どう見ても良い女でしょうが」


「良い女は荷造り放置して遊びに行ったりしない」

「うるせぇわい」

 

 そう言って、ちひろは立ち上がると、窓の外に視線を送る。

 俺も彼女を倣い、窓の外に視線を移した。

 真っ青に染まった卯月の空が、俺達の視界を占領する。

 数える程度しか見当たらない白い雲。

 電線の上で井戸端会議している雀。

 そして、向かいの家の頭を覆う屋根瓦。

 窓から差し込む陽射しが、窓の隙間から流れ込む少しだけ生暖かい風が、冬の終わりを告げる。

 『ああ、もう春なんだなー』みたいな事を思っていると、自由帳を広げていた冬美が、こんな事を言い始めた。


「んじゃあ、折角だし、今からタイムカプセル取りに行こうか」


「んな暇ねぇわ」

 

 ちひろの頭目掛けて、床に落ちていた丸めた紙を投げつける。

 彼女は飛んできた紙をヘディングすると、俺にドヤ顔を見せつけた。

 いや、何でドヤっているんだよオメー。


 荷造りが終わった後、俺は自由帳を脇に抱えたちひろと共に小学校の方に向かって歩き始める。

 荷造り中、ずっと下を向いていた所為なのか、肩の筋肉が強張っていた。

 ゆっくり肩を動かしながら、空を仰ぐ。

 西陽を浴びる夕空の姿が俺の視界を愉しませた。

 夜の闇に染まり始める雲。

 寒そうに身を寄せ合う雲の欠片。

 欠けた月を隠そうとする雲の姿。

 それらが俺の目を楽しませる。

 久しぶりに見た故郷の空は、記憶にあるものと大差なかった。


「ねえ、タイムカプセルの中に何が入っていると思う?」


「さあ? 子どもの頃の俺らは一体何を埋めたんだろうな。想像つかねぇや」

 

 隣を歩くちひろを横目で眺めながら、欠伸を浮かべる。まだ完全に春になっていないらしく、夜風は冷たかった。

 手袋持って来れば良かったみたいな事を思いつつ、息を吐き出す。吐いた息は真っ白に染まらなかった。どうやら寒いって言っても、真冬並みの寒さじゃないらしい。


「じゃあ、何が入っていたら嬉しい?」


「現金」


「現金埋める子どもとか嫌すぎるんだけど。可愛げが無さ過ぎる」


「じゃあ、可愛げのあるタイムカプセルの中身って何だよ」


「小学校の時に遊んでいた玩具とか、将来の自分への手紙とか?」


「そんな可愛げのある子どもじゃなかっただろ、俺ら」


「うるせー」

 

 隣を歩くちひろが俺の脇腹を軽く小突く。

 全然痛くなかった。

 ポケットに両手を突っ込みながら、かつて使っていた通学路を一瞥する。

 中学になるまで酷使し続けた小学校までの道は、記憶しているものと少しだけ違っていた。


「ん? どうしたの、光一。フラれたコッペパンみたいな顔をして」


「いや、どんな顔だよ」


「今みたいな顔。で、何考えてた訳?」


「この町も、ちょっとずつ変わっていっているんだな……みたいな事を考えてた」


「ん? そう? そんなに変わってないと思うけど」


「変わっているって。あのコンビニとか、初めて見たし」


「え、あのコンビニ、結構前からあるよ」


「結構前って、いつの話だよ」


「うーん、私が中二の時くらい……かな?」


「なら、知らねぇや。俺、中学からは別のところで学生やってたし」

 

 昔住んでいた町は少しだけ変わっていた。

 地面を覆うアスファルトは新品同然。

 よく使っていた横断歩道も真新しくなっている。

 街灯も記憶にあるものよりも明るくなっている上、公園前の信号機もスリムになっていた。


「どう? 久しぶりの故郷は? ノスタルジーな気持ちに浸れてる?」

 

 昔、よく遊んでいた公園の中を潜り抜ける。

 町と同じように、公園の中も小綺麗になっていた。

 遊び慣れている遊具は全て撤去されており、生まれたての遊具がそこそこ広い園内を彩る。

 かつて大樹があった場所は小綺麗な花壇になっており、園内の中心にある見慣れない時計台が小綺麗な針で時を刻んでいた。


(……本当、何もかも変わったな)

 

 変わり果てた公園から目を逸らし、隣にいる幼馴染(ちひろ)を一瞥する。

 つい記憶の中に残っている土塗れのちひろと目の前にいる小綺麗になったちひろを見比べる。

 ファッション誌に載っていてもおかしくない程、洒落た服。

 清潔感満載な爪。

 癖一つない手入れされた髪の毛。

 そして、軽い化粧が施された顔。

 頭の中に残っているちひろと違い、今のちひろは小綺麗になっていた。

 その所為で、俺は調子を少しだけ崩してしまう。

 本当、何もかも変わってしまった。

 町も、隣を歩く幼馴染(ちひろ)も。


「……」

 

 変わった故郷が郷愁に浸る俺の耳元で囁く。

 

 ──お前の居場所は此処にないぞ、と。


「あ、そろそろ小学校の校舎見えてきたよ」

 

 そう言って、ちひろは明後日の方を指差す。

 案の定、記憶に残っているモノと違い、彼女の横顔は少しばかり大人びていた。

 変わって欲しくない。

 そう願うのは、俺の我儘なんだろうか。

 変わりつつある町、そして、大人びた幼馴染を眺めながら、俺は変化し続ける彼等に嫉妬心に似て非なる感情(もの)を抱いてしまう。

 何でこんな事を考えてしまうのか分からない。

 けど、これだけは今の状況でも断言できる。

 今のこの町にとって、俺という存在は異物だ。

 今の俺は、この町の一部じゃない。

 きっと、この町は年月と共に少しずつ変化し続けたのだろう。

 これからも変化し続けるのだろう。

 変化して、変化して、変化し続けて。

 挙げ句の果てには俺がいたという痕跡は一つ残らず駆逐されてしまうだろう。

 変わって欲しくない。

 自分勝手な我儘を町と幼馴染(ちひろ)に押しつける。他の町の一部である俺は、この町の一部じゃない。

 だから、故郷に不変を押し付けるのは我儘だって事、十分理解している。

 でも、それでも、俺は願ってしまった。

 変わって欲しくない。

 たとえ変わり続けても、せめて俺がいた痕跡が少しばかり残って欲しい。

 身勝手で我儘で自分勝手な願いを。

 つい抱いてしまった。


 久しぶりに訪れた小学校は、ほんの少しだけ変わっていた。

 変わらない校舎。

 ビオトープ跡地。

 記憶にあるものと大差ない飼育小屋。

 撤去された登り棒。

 ガムテープでぐるぐる巻きにされたジャングルジム。

 記憶にある光景と殆ど同じ。

 けれど、ちょっとした差異が俺に疎外感のようなものを抱かせた。


「自由帳曰く、タイムカプセルは体育館の裏にあるっぽい」

 

 そう言って、ちひろは体育館に向かって歩き始める。

 彼女の後に続く形で歩き始めると、広い夕空が俺の視線を引き寄せた。


「うおっ……」

 

 久しぶりに『空が広い』という感想を抱いた。

 校舎周りに高い建物が建っていないからだろう。

 茜色に染まる夕空は都会の空よりも雄大かつ広大だった。


「なに? 懐かしくて、つい声が出ちゃった?」

 

 目を見開く俺を横目で眺めながら、ちひろはお茶目な微笑を浮かべる。

 子どもの頃よりも少しだけ大人っぽく微笑う彼女を見て、つい言ってしまった。

 つい不変を押しつけてしまった。


「……タイムカプセル、回収するの、やめね?」


「え、なんで」

 

 自分が故郷(ここ)にいた痕跡を残したい。そんな女々しい理由を彼女に言える訳が無く、つい『なんとなく』と呟いてしまう。


「なんとなくだったら、回収しようよ。だめ?」


「あ、ああ、そうだな」

 

 変な事を言ってしまった。

 その所為で、俺と彼女の間に妙な空気が流れ込む。

 遠くから聞こえてくるカラスの鳴き声が、無駄に広い運動場の中を駆け巡った。

 この空気を好転させねば。

 この状況を作り出した俺は義務感のようなものを胸に抱き、頭の中で色々模索し始める。

 けれど、それよりも先に彼女が『気まずい空気なんて知ったこっちゃない』と言わんばかりに声を発した。


「いやー、この小学校もコレで見納めかー。そう思うと、なんだか寂しくなっちゃうなー」


「……多分、次来た時は今以上に小綺麗になっているぞ」


「この小学校が?」


「この町全体だよ」

 

 数年後。

 今以上に小綺麗になったちひろが、この町に訪れる姿を想像してみる。

 数年後の彼女は何をしているのだろうか。

 どういう仕事に就いたのだろうか。

 何処で暮らしているだろうか。

 誰かと付き合ったり、結婚したりしているだろうか。

 ……俺は彼女の隣に残れているだろうか。

 ちょっとだけ先の未来を夢想してみる。

 次に彼女がこの町に訪れた時、彼女は俺と同じように疎外感を味わうだろうか。

 そもそも、この町に一人で来るのだろうか。

 誰かと一緒に来るのだろうか。

 その時、俺は何をしているのだろうか。

 何を考えているのだろうか。

 何を思っているのだろうか。

 考える。答えは出なかった。


「次来た時は、もっと小綺麗になっている……、ねぇ」

 

 俺の言葉を程々に噛み締めながら、ちひろは身体の正面を俺の方に向ける。

 そして、俺の顔を覗き込むように顎を上げると、見慣れた笑みを浮かべ、こう言った。


「その時はさ、小綺麗になった町、一緒に見て回ろうか」

 

 一瞬、ほんの一瞬だけ、心臓が止まりかける。

 呼吸も止まっていたのか、息苦しさを感じた。


「ん? どうしたの?」

 

 寒いにも関わらず、身体の温度が急上昇する。

 頬の熱を放出するかのように俺は、視線を明後日の方に向けると、頬の筋肉を僅かに緩めた。


「いや、変わらないなーって」

 

 タイムカプセルを回収しない理由。

 俺の中で燻っていた理由(それ)は泡のように浮かび上がると、『ぱん』と音を立て、跡形もなく消え去ってしまった。


「いやいや、変わらないって、どういう事。私、そこそこ大人になったんだけど。これから化粧マスターして、いい女になる予定の美女なんだけど。世界一の美女マスターになる予定の女だけど」


「ほら、さっさとタイムカプセル回収しに行こうぜ」


「おーい! 私の声、聞こえていますかー!?」


「はいはい、聞いてる聞いてる。ほら、行くぞ美女マスター(笑)」


「あー! 馬鹿にしたー! あとで光一のお母さんに虐められたってチクってやるからぁ!」

 

 小学生の時と似たようなノリで戯れ合いながら、俺達は体育館裏に向かう。

 もうそろそろ夜が始まるのか、一番星が藍色に染まりつつある空の上で瞬いていた。


 夜。

 体育館裏。

 地図に記されたタイムカプセルを探して、早数分。

 想定していたよりも早くタイムカプセルは見つかった。

 ちひろの作った地図が優秀だったのか、それとも俺達の運が良かったのか。

 どっちか分からないが、想定していたよりも早くタイムカプセルは見つかった。

 見つかってしまった。


「うっしゃー! タイムカプセルゲット!」


「あり? こんな器だっけ? お菓子の缶に入れてたような気がするけど」


「この器で合ってますよーだ」


 嬉しそうに土塗れのタイムカプセルを抱き抱える幼馴染(ちひろ)を見て、俺は自らの気持ちを再度自覚する。

 彼女と幼馴染以上の関係になりたい。

 たとえ幼馴染以上の関係になれなくても、気持ちだけは伝えたい。

 そんな浮ついた気持ちを抱いたまま、俺はタイムカプセルを開けようとする幼馴染(ちひろ)をじっと見つめる。


「あのさ、」


 そして、とうとう想いが身体の内側から溢れ出そうとしたその時、ちひろは『えい』という掛け声と共にタイムカプセルの蓋を開けた。

 

「……」

 

 タイムカプセルの蓋を開け、俺達は絶句する。

 タイムカプセルの中から出てきたのは、懐かしの玩具や将来の自分への手紙、テスト用紙や子どもの頃の俺達が映った写真……みたいな可愛げのあるモノじゃなかった。


「あらら」

 

 頬を真っ赤にしながら、ちひろはタイムカプセルの中身を俺に見せつける。

 よくよく見ると、頬だけでなく、耳も顔も真っ赤になっていた。そんな彼女を見ながら、俺はタイムカプセルの中から一枚の紙を取り出す。


「……」

 

 取り出したのは、婚姻届だった。

 それも雑誌の付録についているような陳腐なモノじゃない。市役所等で発行されているガチ婚姻届。

 婚姻届は新品同然の煌めきを有しており、名前欄には俺の名前と彼女の名前が記載されていた。


「……ちひろ」


 タイムカプセルが想定していたよりも早く見つかった理由を何となく悟る。

 俺の視線に耐え切れなかったのか、ちひろは林檎みたいに顔を真っ赤にすると、早口で言葉を紡ぎ始めた。


「ち、ち、違うからね! 告るためにタイムカプセルを隠した訳じゃないんだからね! いや、本当! ガチで! 何を埋めていたのか忘れていたの! いやー! まさか幼い頃の私達が婚姻届をタイムカプセルに隠していたとはー! これは、……その、えと、何と言いますか、……結婚するにも相性というものがありますし? とりあえず、お付き合い……というのは、いかが……でしょうか」

 

 顔を真っ赤にしながら、奇声を発する彼女を見て、俺は溜め息を吐き出す。

 俺はゆっくり空を仰ぐと、『やっぱ、可愛げがねぇ』と強張った声で呟き、熱くなった頬の筋肉を僅かに緩めた。

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