姉の話(前編)
それから彼女の話したことは、驚愕的な内容だった。
かいつまんでいうと、
・姉には前世があって、この世界とは違う世界で生きていた(彼女曰く、今の世界こそ、異世界であるということだった)。
・頭を打ったことで、前世の記憶がよみがえり、異世界に転生したことを知った。
・さらに驚愕の事実として、この世界は前の世界でやったことのある《《乙女ゲーム》》に酷似している(ゲームというのは、要するに自分の選択肢で結末が変わる小説のようなものだと姉から説明を受けた)。
・そのゲームの舞台は今から4年後の王立学校。華やかな貴族社会で庶民出身の主人公シャーロットは、その能力と何より本人の魅力や努力によって、運命を切り拓きやがて世界を救うことになる。
・そこでは悪役令嬢という非常に性格が悪い嫌われ者がいて、シャーロットに対してありとあらゆる嫌がらせをしたあげく、破滅する運命にあった。
・その悪役令嬢は《《公爵令嬢マリア・ブラッドフォード》》という。要するに姉のことである。つまり、姉は四年後破滅する運命にある。
・前世では16年の人生しか生きられなかった。せっかくいい身分で転生できたのに、破滅する定めとなっているのはあんまりである。なんとか回避して、いい人生を送りたい。
ということだった。
「なんというか、どこからどこまで信じればいいのかわかりません」
僕はよく分からない話を延々と聞かされ、少しぐったりしていた。姉は恋愛小説を読み過ぎなのではないだろうか。
「信じられないのも仕方がないわ、でも、これは現実。実際にあなたをいじめて追い込んでいたのは、そのゲームの設定のせいだったのよ」
……ゲームの、設定?
いやいや、この間までいじめていたのはあなた自身じゃないですか、と言いたかったけど止めにした。
「一体、どういう流れで破滅するんですか?」
「いい質問ね。基本的にはゲームの主人公が4人の素敵なパートナーの誰か一人を選んで結婚することで、運命がかわり幸せな人生になるというものよ」
「具体的にはどんな話なんですか?」
姉の話はこうだった。
・主人公の女性の名はシャーロット・ブライトン。庶民出身。入学時16歳。見た目は平凡という設定だが、会う男性全てに好感持たれやすい容姿と性格をしている。
・彼女の能力は、魔王をこの世界で唯一封印できる光の魔法所持者で、それゆえ、庶民から推薦枠で王立学校に入学した。
・庶民出身というのもあり、また男性に好かれやすいということもあって、入学時から貴族の令嬢たちにねたまれ、ひどいいじめにあいやすい。(その筆頭が悪役令嬢)
・彼女は偶然にも四人の高貴な男性に好意を抱かれ、そして、彼らと交流を深めることで、彼女自身の運命がバラ色に変わっていく。
さらに、姉の話は続いた。
・四人の男性とは、王太子アーサー・カーライル、剣聖ジョージ・レスター、ヨーク侯爵家の若き当主ジュリアン・ヨーク、そして、ブラッドフォード公爵家の養子ウィリアム・ブラッドフォード(つまり僕のこと)
・主人公は全員から求愛されるが、最終的に誰か一人を選ばなくてはならない。
・選んだ人物によって話は変わるが、全員イケメンで優秀な能力を持っており、破局を迎えず結ばれると、もれなく幸せな人生がやってくる。
・それぞれ、性格が違い、克服しなければならない過去があるので、その特性に応じて心をつかむことが大切。
ここまで話をして、姉はふーとため息をもらしつつ、紅茶を口に運んだ。
「いい話じゃないですか」
僕は素直に感想をもらした。
「主人公のシャーロットにとっては良くても、私にとっては最悪よ」
姉はやや機嫌を悪くしている。
「そもそも姉さんが嫌がらせしなきゃいいんじゃないですか?」
「それも、そう簡単には行かないのよ、単なるいじめだけの問題じゃなく、ブラッドフォード家に関わるものもあるから」
「具体的にはどんな運命になるんですか?」
ここで、姉は悪役令嬢の運命について語った。
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