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姉が悪役令嬢だった件  作者: おしどり将軍
マリアの試練

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破滅

 僕が馬車で到着すると、王宮にある一室に案内された。謁見の間に隣接した控室だった。


 そこには、すでに姉とアーサーがいて、アーサーは姉にしきりに話かけていた。姉は緊張でこわばった顔をしている。


「どうでしたか?」


「結構辛かったわ。王宮内って広いのね。メイドのみんなと一緒に隅々まで掃除させられたわ」


 姉はすでにドレスに着替えていた。アーサーは少し不安そうにして、姉の周りをうろうろしている。


「全力は尽くしたから、あとは面会次第だと思うけど」


「きっと、大丈夫さ。いつも通り、いつも通り」


 そう言っているアーサーがいつも通りではないようだった。


 僕も来てはみたものの、どんなアドバイスをしたらいいのか、うまく思いつかなかった。


(相手は何を仕掛けてくるのだろうか)


 少なくても、何も考えなしに試練を与えているとは思えなかったが、さりとて、何を狙っているのか想像もつかない。


 そうするうちに、ついに面会の時刻になってしまった。


「姉さん」


「大丈夫よ、任せて」


 迎えの者が来ると、姉はすっと立ち上がり、振り向いて僕らに笑顔を見せ、謁見の間に赴いた。



 謁見の間の玉座にはアン王女が座っていた。ずらりと並んだ衛兵はいつも通り壮観だった。アン王女の少し斜め後ろに、不安そうな表情をしたディアナ王妃の姿が見えた。


 僕らも謁見の間に入ることまでは許されたが、姉だけがアン王女の前にいき、僕とアーサーは入り口付近で見ているように言われた。


 アン王女は心持ち顔を上げ、毅然とした態度を見せていたが、厳粛というよりは少し微笑んでいるようにも感じた。そして、とても若々しく、美しかった。


 そして、同時に、僕は何か頭の中で引っ掛かるものを感じた。今日初めて会ったはずだったが、どこかで見たような気がしたのだ。どこだろう。思い出せない。ずっと以前に会ったことがあるような。


 姉はアン王女の前まで静々と進み、そして、きちんとした作法にのっとって挨拶をした。


「マリアさんですね。この度はお疲れ様でした。大変だったでしょう」


 アン王女は優しく声をかけた。


「慣れないことの連続で、大変、お見苦しいところがあったと思いますが、自分としては精一杯やったと思います」


「そう」


 アン王女の雰囲気はやわらかく、とても、魔王相手に戦ってきた人間とは思えないような姿だった。


「とても、よく働いてくれました。これなら、どこへ行ってもやっていけるわね。あなたなら大丈夫よ」


「どういう意味ですか?」


「そうね、あなたはこれから庶民として生きていきなさい。それでは、もう帰ってよろしい」


 アン王女の表情はいつの間にか冷酷そのものになっていた。そして、彼女の唐突な宣言に、会場にいた人たちみんながざわつきはじめた。


「いったい、何が悪かったのですか? 私にもわかるように説明していただけませんか?」


 姉は突然の状況に混乱しながらも必死に彼女に問いかけた。


「庶民としては合格だとということです。それとも、あなたは貴族としてここに来ているのですか? もしそうなら、私はあなたに罰を与えなければなりませんが」


「私はブラッドフォードの人間です。どうして突然このような目にあわなければならないか、きちんと説明を受ける権利があります」


「ならば、よろしい。私は三度チャンスを与えました。そして、あなたは全て失敗しています。おそらく失敗したことすら分かっていないと思いますので、もう一度チャンスを与えます。何が間違っていたのか、この場で答えてみなさい」


「……」


 姉は沈黙し、そして周囲は息を止めて見守っていた。永遠のように感じた瞬間。しかし、姉は一言も発することができなかった。


 突如、ガンっと音がした。皆がはっとして見ると、そこには、錫杖の先を床に叩きつけ、凄まじい怒りの表情をしたアン王女がいた。


「あなたを貴族社会から永遠に追放します。修道院でその罪を一生償うが良いでしょう。ブラッドフォード家には明日正式に伝達します」


 呆然とした表情の姉はその場で立ちつくしていた。


「立ち去りなさい、この場から、永遠に」


「アン王女、待ってください」


 ディアナ王妃がアン王女に声をかけた。


「試練がいかような結果であっても、この処分は重すぎるものと思われます。婚約不成立ならまだしも、彼女を貴族社会から追放する理由はないはずです」


「追放する最大の理由は、この女がアーサーを騙して婚約を成立させようとしたことにあります」


「騙すなんてそんな……」


「では、お前はこの場で、魔力を使ってみせることができるのか?」


 まずい。アン王女は姉が魔法を使えなくなっていたことを知っていたのか。


「もう調べは済んでいます。申し開きがしたいのなら、いますぐにでも使ってみなさい」


 姉はもう何も喋ることができなくなっていた。


「魔力を使えない女が王家、いや、貴族の中でまともな結婚ができるとでも思っていたのですか? あなた方ブラッドフォード家はそれを隠していた。そして、皆が知らないことをいいことにアーサーを騙して婚約を進めようとしている。これが罪でなくてなんなのですか」


「僕は騙されていません」


 アーサーが叫んだ。


「控えなさい、アーサー」


 彼女の周囲から力の一端が(それは今までみたこともないような、周囲の空間を歪めるような凄まじいものだったが)、僕には一瞬垣間見えてしまった。そして、勢いに押されたアーサーは、顔面が蒼白になり、身動きひとつできなくなった。


「ディアナ、この度の件はお前にも責任があります。反省なさい。そして、マリア」


「はい」


「試練が合格だったら、このことは不問にするつもりでいたのですが、残念ですね、これであなたは終わりです。もう二度と会うことはないでしょう」


 僕は姉のそばに駆け寄った。姉は顔色が青ざめ崩れ落ちそうになっている。とにかく僕は彼女を支えて、なんとかこの場から連れ出した。

お読みいただいてありがとうございます。


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