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姉が悪役令嬢だった件  作者: おしどり将軍
暴君マリア・ブラッドフォード
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謝罪

 姉の机に無造作に置かれた本。

 

 それを見てはいけないことはわかっていた。


 それでも見たいという欲求を抑えることができなかった。姉は今までみせたこともないような不可解な行動を取っている。これからこの家でうまく立ち回っていくために、彼女の秘密を知る絶好のチャンスと思われた。


 姉が帰ってくるまで、もう少し時間がかかるかもしれない。全て目を通さなくても、何か手がかりだけでも見つかれば。


 自分にそう言い聞かせ、はやる心を抑えながら、思い切って中を開いてみた。冒頭の文章にはこう書いてあった。



「このままでは、私は弟に殺されてしまう。その前に、なんとしてでも早めに事を進め、始末をつけてしまわなければならない」



 思わず悲鳴が漏れそうになった。僕を始末するって一体どうしてなんだ。彼女は僕が殺意を抱いていると思っているらしい。彼女に恨みがないわけではない。だけど、そうかといって殺そうと考えたことは一度もなかった。


 もう少し続きを読まないとよくわからない。そう思った瞬間、背後で何かを落したような物音が聞こえた。


 驚いて振り向くと、青ざめた顔をした姉がいた。お盆を持ったままだったが、上に載っていた茶器は全て床に落ちてしまっていた。しかし彼女はそれを拾おうともせずに黙って立っていた。床の絨毯に紅茶のしみが広がっていく。


「見てしまったのね」


 彼女の声はとても静かで驚くほど低い音だった。


「こうなったら仕方ないわ、私も決心がつきました」


 彼女はそういうと、手に持った盆をおいてドアの方に行き鍵を閉めた。


 カチャリと乾いた音がした。


「これでよし」


 僕は今までにないような恐怖で身を震わせた。そして、彼女に言った。

「お姉様、ごめんなさい。見るつもりはなかったんです。決して僕はお姉様に危害を加えるようなことはありません。誓っていいます。だから、命だけは助けてください」


 そんな僕の言葉がまるで耳に入っていないかのように、彼女は表情も変えず僕の方へ静かに近づいてきた。僕は身動き一つできず、ただ彼女の姿を見つめているだけだった。


「知ってしまったのね、ウィリアム…… ああああああああああああ」


 姉は急に叫び出すと、その場にうずくまった。


「ど、どど、どうしたんです。お姉様」


「ああ、もう私は終わり、破滅だわ、破滅の道に突き進むしかないんだわ」


 その場でおいおいと泣き始める姉を見て、僕はすぐにそばに寄って背中をさすってあげた。


「お姉様。気をしっかり持って、大丈夫です。大丈夫ですから」


 よく分からないまま、姉を慰めることになってしまった。状況がまだ掴めない。


「今まで意地悪ばっかりしてごめんなさい。反省しています。金輪際ひどいことはしないから、どうかお許してウィリアム」


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、一体どうされたんですかお姉様」


「どうか、どうか許すと言ってください。哀れな私にお慈悲を」


 姉はずっとすすり泣いている。何が何だか訳がわからない。僕は罪悪感を感じ始め、なんとも言えない気持ちになってしまった。


「どうしたんですか、僕にわけを教えてはいただけませんか」

 そう優しく声をかけてみたが、彼女は何も言わずただ泣き続けている。


「どうか、一言許すと言ってください」


 予想外の展開に耐えきれなくなった僕は結局よくわからないままに、姉を許すことにしてしまった。


「許します。許しますから、勘弁してください」


「本当!!」


 彼女が顔を上げた。その顔を見て、僕は少し疑問に思った。あれ、本当に泣いていたのかな。


「今までひどいことしたこと恨んでいない」


「もう恨みません」


「国外追放だなんて言わない?」


「いいません」


「剣で滅多刺しにしないって約束してくれる?」


「約束します」


「私の”破滅フラグ”をへし折るのに協力してくれる?」


「協力しますとも」


「ウィリアム、あなたはなんていい人なんでしょう」


 彼女はそう言うや否や、いきなり僕に抱きついてきた。人から抱きしめられたのは久しぶりだったので、嬉しい気持ちで胸がいっぱいになった。自分がこの家に来てから初めて受け入れられた気持ちになった。


 しかし、なんだろう。


 高揚した気持ちを抑えながらも、彼女の言葉の端はしに何かひっかかるものを感じ取っていた。


「お姉様、その《《破滅フラグ》》っていったいなんなんですか?」


「もう…お姉様なんて他人行儀な、姉さん、ううん、マリ姉なんてどうかしら」


「マリ…姉?」


「ううっ、いい。金髪碧眼の美少年からマリ姉と呼ばれた。最高!! 禁断のショタ弟設定なのがまたいい」


 一瞬、姉がよだれをぬぐっているような仕草をしたように見えた。いや気のせいかもしれない。少し寒気がしてきた。


「いってることがよくわからないのですが」


「いいのいいの、気にしない、気にしない」


 彼女はハンカチで自分の口元を綺麗にふいた後、椅子に座り直した。


「さあ、どこから話をしましょうか?」

お読みいただいてありがとうございます。


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