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姉が悪役令嬢だった件  作者: おしどり将軍
天才剣士 ジョージ・レスター

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死闘

 オークたちは砦を完全に包囲していた。東のなだらかな丘陵の起伏の先に、別の一群がいる。明らかに装備が異なっていて、槍を持っての重武装、そして、ご丁寧にも赤色の旗が風にたなびいていた。


「頭を潰せば何とかなる。あれが目標だ。正面突破するぞ」


 王太子の表情には迷いが見られない。ジョージはニヤリと不適な笑みを浮かべていたが、ハイマンやその他二人の王太子の護衛は皆一様に厳しい顔をしていた。誰も何も言わない中、僕は王太子の真意を聞く必要があると考えた。


「あらためて相手の布陣を見ましたが、王太子殿下の策は無謀なように思えます。本当にやるのですか?」


 先ほどジョージが鬼神のような活躍をしたのにも関わらず、相手の数はいっこうに減っていない。周囲を囲うオークたちの群れは、目をぎらつかせて今にもこちらに襲い掛かろうという態度を見せていた。


「怖いんだよ、あいつらも」


「えっ」


 僕は王太子の意外な一言に少し驚いた。


「奴らは単なる怪物じゃない、反応を見ればわかる。そこに勝機がある」


 王太子は僕だけじゃなく、皆を説得しているかのように、よく通る声でゆっくりと語りかけてきた。


「奴らも死にたい訳じゃない。指揮官を潰せば奴らの戦意は失われる。大群全ての相手をする必要はないんだ」


 ジョージは黙って聞いているだけだったが、他の3人は明らかに顔つきが変わった。相手の指揮官さえ倒せば生き残ることができるかもしれない。かすかな希望の光が見えたような気がした。


「いくぞ、みんな。ジョージは先頭に立って道を切り開いてくれ。ハイマンはしんがり、ベイカーとオリバーは両サイド、そして俺はウィリアムのそばにいて敵の攻撃を防ぐ。ウィリアムは魔力が続く限りジョージを支援してくれ。いいか、この戦いではウィリアムとジョージが要だ」


 皆が頷くのを見て王太子はニヤリと笑った。


「指揮官の首をとり、生きて帰るぞ!!」


 皆は王太子の声に呼応するかのごとく声を上げると、それぞれの配置につき、一斉に突撃を開始した。



 分厚い兵士の壁を作りこちらに対抗するオーク達。しかし、その壁をなんなく切り崩していくジョージ。彼の剣技はまるで踊りを踊っているかのような流麗さだった。


 前方への進行は比較的スムーズに進んでいたが、問題なのは両側からの圧力だった。奴らは鈍重であるが体格がよく、数の暴力に巻き込まれると、あっという間に押しつぶされてしまう危険性があった。そのため、僕は相手との距離をできるだけ空けるため、右に左に呪文を放つ必要があった。


 王太子や護衛の人間がいたので、僕は魔力に集中することができた。王太子からの指示もあり、穴がなく対応可能だった。ここまでの、王太子の指揮は見事だった。


(ずいぶん変わったんだな。アーサー王太子は)


 彼の横顔がとても頼もしく感じた。


 しかし、その勢いも長くは続かなかった。いよいよ、敵の指揮隊にぶつかると、槍で牽制され、ジョージがうまく相手の懐に飛び込めなくなったのだ。


「ウィリアム、頼む」

 王太子からの声が飛ぶ。僕はだまってうなずいた。


 槍の部隊の中心に魔法を打ち込んだが、今度は盾で防がれた。今までの部隊とは違って、装備の質が全く違っている。容易には崩せなくなっていた。足止めを食らってしまうと周囲からオーク達がじわじわと押し寄せてきた。


「なんとかできないかウィリアム」


 王太子は少し焦っているみたいだ。


「少し、集中する時間をください」


「わかった」


 僕は大地にひざまずいて、右の手のひらを地面につけた。魔力を集中させつつ目標を定める。正面からの衝撃には強くても足元から崩してしまえばなんとかなるかもしれない。土系統の呪文を組み合わせることで、足場を崩していく作戦に切り替えようと考えた。


 激しい剣と剣のぶつかり合いの音が聞こえてくる。敵はもうかなり接近している。もう少し、もう少しだ。


 その時、左側にいたオリバーの悲鳴が聞こえてきた。


「うわー」


 彼の悲鳴を聞き、集中が途切れそうになるところで、王太子がこちらに向かって叫んだ。


「俺がバックアップに入る。大丈夫だ」


 僕は再び右手に魔力を集中した。そして、前方の相手が密集しているところに向けて魔力を走らせた。


「岩崩爆砕波」


 激しい爆発音とともに、大地が砕け裂け目ができると敵の一軍が崩れ落ちた。相手の怯んだ隙をジョージは見逃さず、敵陣深く突入していく。


 オリバーは負傷して倒れていた。そのため、皆はジョージについていくことができない。オークの群れが殺到し、彼との距離が離れていった。魔法はもう使う暇がない。僕は覚悟を決めて剣を抜き放った。


(なんとしてでも生き残ってやる)


 血みどろの戦いが続き、全員が血まみれになって奮戦する。王太子も善戦していた。ハイマン、ベイカーの二人も王太子の護衛役だけあって、戦いぶりはなかなかのものだった。特にハイマンは王太子や僕の動きをサポートしつつ戦ってくれていた。


 たが、時間が経つにつれて、皆の疲労の色が濃くなってきた。このままでは持たない。体力的にも限界に近づいている。激しい戦いの最中、振り向いたところにオークが僕に向かって大斧振りかざしているところが目に入った。


(やられる)


「諦めるなウィリアム」


 ジョージの声だった。戻ってきたのだ。


 正気を取り戻して間一髪で敵の攻撃を避けたあと、僕はその場に倒れこんでしまった。次の瞬間、目にも止まらぬ速さで次々と周囲のオーク達をなぎ倒していくジョージの姿が見えた。


 呆然と周囲を見回すと、あれだけいたオークの大群はたくさんの死体を残して消え去っていた。あまりの疲労にしばらく動けないでいるとアーサー王太子が僕に近づいてきた。


「よくやったウィリアム、もう終わりだ」


「オーク達は?」


「ジョージが指揮官を倒してくれたので、皆逃げて行ったよ。俺たちを囲っている奴らは事情を知らないので戦い続けていたけどな」


 王太子は僕に手を差し伸べてくれ、座り込んでいた僕を引き上げてくれた。


「疲れているところを申し訳ないが、みんなの治療を頼む」


 僕は3人のところに近づいていった。オリバーは重傷で腹部を剣で切られており結構な出血をしていた。


 ハイマン、ベイカーも乱戦の最中、オーク達に手足を砕かれていたが、表情は晴々としていて、オリバーを優先的に治してやってほしいと言っていた。


 痛みで唸っているオリバーのそばに行って、僕は治療を開始した。


「なかなかやるな。ウィリアム」


 後ろを振り向くとジョージがいた。流石に疲れた様子を見せているが、ケガ一つ負っていないどころか、返り血もあまり浴びていない様子だった。


「剣の方もアーサーより見込みありそうだぜ。俺が直々に教えてあげようか」


「いえ、結構です」


 正直、剣のことはしばらく忘れていたい気分だった。


「そうか残念だな」


 血だらけでボロボロになっている周囲をよそに、ジョージはとても今まで死闘を演じてきた人間とは思えないくらい颯爽とした様子だった。


「ジョージ」


 横たわっていたハイマンがジョージに声をかけた。


「なんですか?」


「お前たちにはとても感謝している。子供扱いして本当に済まなかった」


 ハイマンは頭を下げた。


「俺に謝るより、アーサーに謝まった方がいいんじゃないか」


「アーサー……殿下?」


「あいつがいなきゃここまでうまくいかなかった。あんたアーサーのこと、本当は信じていなかったんだろう?」


「確かにそうだったかもしれない。いつまでも未熟なままだと決めつけていた」


 ハイマンは王太子の方を見て言った。


「大変申し訳ありませんでした、殿下。これからは心を入れ替えて…」


 アーサー王太子は手を振っていった。


「いいよ、いいよ。今までずっと迷惑かけっぱなしだったからな。少し休んでいろ。明日からまたこき使ってやる」


 皆が一斉に笑い、場が和んだその時だった。


 前方から地鳴りのような音が鳴り響き、巨大な怪物が姿を現した。血走った一つ目がこちらを見ている。絵や彫像で見たことのある形。


 サイクロプスだった。

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