惨状
内部は薄暗く、中には3人の護衛の人間がいた。皆一様に疲れ切った表情を見せたいた。
「援軍の到着はまだか?」
中にいた一人が声をかけてきた。
「援軍は僕ら二人さ。アーサーは無事かい?」
彼らは軽く失望した表情を見せていた。
「無事です。奥にいます」
僕らが奥に通されるとき、後ろからひそひそと声が聞こえてきた。おそらく、彼らが望んだような救援ではなかったようだ。ジョージはまるで何も聞こえないかのように、前だけを向いてツカツカと歩いていき、僕もすぐ後を追った。
奥の広間の扉が開かれた。がらんとした部屋の真ん中に席が置かれ、アーサーが頬杖をついて座っていた。彼の隣にはハイマンが立っていて、こちらをにらんでいた。
「いよう」
アーサー王太子はニヤリと笑ってこちらを見上げた。
「どうして、応援を呼ばなかった?」
ハイマンはきつい口調でこちらに問いかけた。
「間に合わないと思いましたので」
ジョージはすました顔でそう答えた。
「俺たちが救援が来るまで持たないと考えたのか!!」
ハイマンが吠えるように怒鳴った。
「ハイマン!!」
アーサー王太子はハイマンを制し、こちらにまた向き直った。
「お前らなら来てくれると思っていたよ。ジョージ、それにウィリアム。さすがだな、あの包囲網を突破するなんて」
「当然。これからどうするんだい、《《アーサー殿下》》」
ジョージはニヤリと笑った。
「とりあえず、ウィリアム。怪我人をなんとかしてくれないか?」
薄暗い広間を見渡すと、数人の護衛が床に寝ていた。うめき声を漏らし、負傷した部位を手で抑えながら、痛みで体をこわばらせている。僕は早速彼らの元へと駆け寄っていった。
「何人生き残っているんだい?」
ジョージがアーサー王太子に質問した。
「全部で11人。死者はいないが、ほとんど負傷してしまった。まともに戦えるのはハイマンの他に3人しかいない」
「これからどうする?」
「とりあえず、この部屋の安全を確保しておいた。三つある扉のうち、二つは封鎖している。来るなら君らがきた正面からだが」
二つの扉の前には部屋の備品だったものが山積みに置かれていた。
「なんだ、あれ」
ジョージは入り口の1箇所を指差していった。そこには、何かの彫像のようなものがガラクタと一緒にバラバラになって積み上げられていた。
「ああ、あれはサイクロプスの像だな。この地域の魔物の神様みたいなもんだ。部屋の中央にご丁寧に安置されていたけど、ありがたく、入り口の封鎖に利用させてもらったよ」
サイクロプスの一つ目が恨めしげにこちらを見ている。
「正面に群がるオークどもは今まで魔力で蹴散らしていたんだが、もう魔力を使えるやつが限界のようなんだ。交代で休みながらやっていたんだけど」
「どこから、魔法を使ったんだい」
「ここに来る前に階段があっただろう。そこから登ると物見の塔に行ける。そこから攻撃していた」
「なるほど。じゃあ、敵の布陣もある程度見えていただろう。敵がどこから指揮しているか分かったのかい?」
ジョージの質問に対し、アーサー王太子とハイマンが顔を見合わせた。
「おそらく、周囲を囲っている奴らの一群とは別に、東の方に旗を持っている集団がいる。そいつらじゃないかな。こちらは弓も魔力も尽きてしまった。距離的にも塔から攻撃するのは難しいと思う」
ジョージはクルリと後ろを振り向くと何も言わずに出て行こうとした。
「一人じゃ無理だジョージ。一緒に行くぞ」
「頭を潰せばあとは雑魚だけさ。何も問題ない。この剣があるからな」
ジョージはスラリと長剣を抜いて見せた。刃先があやしく紫に輝いている。魔法剣のようだった。己の魔力を全て剣の威力に換えることができるが、剣を使っている限り魔法は一切使えない、相当覚悟がいる剣だった。
「魔力切れたらただの剣だろう。むやみやたらに使いまくっていたら魔力切れになって倒れてしまうぞ。敵の大将に届く前に使えなくなったらどうするんだ。俺たちも援護するから一緒に戦おうぜ」
「アーサー殿下いけません。援軍が来るまで籠城する方が安全です」
ハイマンが横からアーサー王太子を諌めた。
「もう限界だろう。たとえウィリアムが魔術で正面の敵を押しとどめたとしても、封鎖した扉か、もしかしたら俺たちが知らない方法でここに侵入してくるに決まっている」
「それは……」
ハイマンが口ごもっている。
「現に相手の動きがなくなってもう結構な時間が立っている。奴らは何かを仕掛けてくるに違いない。ここは元々奴らの砦だからな」
「しかし、殿下」
「ここはもう逃げ場がない。三ヶ所の扉から同時に攻められれば、たとえジョージがいたとしても対応し切れない。一巻の終わりだ」
その場は静まりかえってしまった。王太子の言う通りだった。
「怪我人の治療は終わりました。もう少し安静にしておく必要がありますが、もう大丈夫です」
「よくやってくれたウィリアム。お前はここにいろ。俺たちが行ってくる」
「僕もいきます。塔から援護しても魔法は届かないんでしょう。一緒に行って援護しますよ」
アーサーは少し困った顔をしていたが、迷いを振り切るかのごとく頭を少し左右に振ると急に立ち上がった。
「行くぞ、ハイマン、ベーカー、オリバー。ルーカスはここに残れ。俺たちが出て行ったら全ての扉を封鎖してなんとか凌いでてくれ」
アーサーは立ち上がり正面の扉に向け歩き出した。
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