試験前日
「明日はいよいよ王太子の試練ですね」
暖かな昼下がり。僕は姉の部屋にいた。姉は僕の正面に座り紅茶を飲んでくつろいでいる。僕の膝もとにはふわふわの毛並みをした子猫のポピーが目を細めてぐっすりと眠っていた。
「まあ、そうね」
姉は少しぼんやりとした様子をしていた。
「それにしても姉さん。この試練がうまくいったら婚約話がなくなってしまいますが、それでもいいんですか?」
「うまくいくかどうかなんかわからないじゃない。あのアーサーだしね」
「姉さんの第一印象が悪かったかもしれませんが、最近はだいぶしっかりしてきていますよ。修行もかなり頑張っているし。身分も王族だし、見栄えもいいし、優しいし、これ以上の人物はいないような気がします。このまま婚約話がなくなったら後悔しますよ」
「まあ、言いたいことはわかるんだけどね。やっぱり、私から見ると子供なのよ」
姉がため息をついた。
「そうは言っても、姉さんの実年齢が《《16歳》》とすると、年齢的にも身分的にも釣り合いが取れる相手は、ほとんど婚約しているか結婚してますよ」
「まあ、そうよね」
姉はため息をついている。
「4年後だったら、王太子も相当成長していますから、そんなに子供っぽく見えなくなっていますよ」
「うん、そうね。そうかもね」
姉の顔に顔に精気が戻って来た。
「そうよ。みんなイケメンになるんだし、4年後まで頑張るしかないわ。やはり逆ハー計画で行くしかない!」
かえって、失敗したかもしれない。妙な具合でやる気を出させてしまった。
「それよりあなた。エマとマーガレットどっちがいいのよ」
「どっちがいいと言いましても、二人とも知り合って間もないんですが」
姉はニヤニヤして質問を続けた。
「何せ、未来の王立学校三大美少女と知り合いになったんだから、このチャンスを逃す手はないんじゃない、今ならみんなフリーみたいだし」
「もしかして、自分も頭数に入れてるんですか?」
「当たり前じゃない。あなたとは血が繋がってないから全く問題ないわ」
「さっきまで子供の相手はしないって言ってたじゃないですか」
「言ったでしょう。逆ハー計画はまだ継続中よ。だから、今後の成長に期待しているわよ。ウィリアム」
姉の話のどこまでが、本気か嘘か正直よくわからない。
「まあ、実は私、そんなに結婚したいって思ってないのよね」
意外な姉の一言に僕は驚いた。
「え、どういうことです」
「私はね。この世界に来てよく分かったんだけど、ここの世界の貴族社会って結構嫌いなのよ。女のことを、能力の高い子孫を残すための道具としか思ってないから」
「どういうことですか?」
「どうもこうもないわよ。貴族の女性で何が一番必要だとされていると思うの?」
「美しさとか、性格とか、教養とか、家柄とか色々考えられますが」
「何より大切なのは魔力が高いことよ。よい後継者を得るために魔力の高い女性が何より重視されるわけね。エマもマーガレットもあなたが言った全てを兼ね備えているだけじゃなく、魔力が高いからこそ、他から抜きん出ているってわけなのよ」
「そうですか…」
確かに返す言葉がなかった。
「王立学校なんて男にとっては実質女性の品評会みたいなもんよ。女の方も女の方で高位貴族や王子様目当てに醜い争いしているし、あーやだやだ」
姉は紅茶をぐびぐびと飲み干した。
「ちなみに秘密だけど、私は魔法使えなくなっちゃったので、貴族の女としての価値は暴落ね」
「えっ」
そんな話は初耳だった。では昔に見たあの凄まじい威力の呪文はもう使えないのか。
「しょうがないじゃない。前世は魔法のない世界だったんだし。記憶が戻った代わりに感覚がつかめなくなったのよ。魔法の」
「そ、それは初めて聞きました」
「まあ、その代わり私には前世の記憶があるので、この世界にないものを生み出せることができるわ。まずは漫画やアニメ、ラノベなどの知識を利用して、小説でも書こうと思っているのよ。絵は苦手だしね。そして、この世界の女性たちに素敵な物語を届けて、意識革命を起こすのが私の夢なの、革命よ革命!」
言っていることのほとんどが理解不能だったが、彼女の夢の話を聞くのはすごく新鮮だった。
「だから、本当は貴族連中と結婚なんてしたくないし、王族なんてもってのほかね。アーサーが悪いわけじゃないのよ。そして、私は自分の能力を最大限に生かして、どんどん稼いで、死ぬまで楽しく生きるつもりよ。結婚になんて縛られたくなんかないわ。でも、恋人までならOK」
「そうですか」
「ということで、破滅フラグなんかでいちいちつまずくわけにはいかないの。頼りにしているわよ」
「わかりました」
僕は姉のそんな発想がとても面白く感じた。そして、彼女の影響を受けて自由に生きる人が増えたら、本当にこの社会が変わっていくきっかけになるのかもしれない。
「それから、ウィリアム。明日はアーサーのあとをついていって、何かあったら助けてあげて」
「え、それはいけませんよ。一人でなんとかしないと、試練を超えたことにはなりませんよ」
「本当にいざという時のためよ。なんだか、嫌な感じがするから」
「予感ですか? それとも予言ですか?」
僕は彼女がこの世界の仕組みを理解していることを知っていたのでそう聞いてみた。
「私がこの物語のことは、王立学校に入ってからの知識しかない、だけど、私たちが色々と状況を変えてしまっているから、少し心配なの」
「意外と優しいですね、姉さん」
「ふん、逆ハーのためよ。逆ハーの。別にアーサーのことを心配しているわけじゃないわ」
「そうですか、わかりました」
姉の様子を見ながら、僕は一応分かったかのようにうなずいた。
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