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姉が悪役令嬢だった件  作者: おしどり将軍
銀髪の貴公子ジュリアン・ヨーク

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前世の叡智

 僕はいつものように魔法の訓練をしている。


 魔法には、火、水、土、風、光の5類があり、中級レベルの魔法で、蔵書に記されているものは一通りマスターした。最近はブラッドフォード家特有の魔法である火の魔法の中で、上級魔法にも手を出している。


 魔法の系統は血統にかなり影響を受けるが、自分は特に関係なく上達するので、それほど苦ではない。


 それから、僕はこの系統関係なく使えるという利点を生かして、混合魔法も練習している。これは、魔導書には載っていないので、自分オリジナルということになるが、中級魔法でも組み合わせしだいで、上級に匹敵する効果を出すことができた。


 火と風で爆裂魔法、土と水でぬかるみを作って足止め。土と火で炎の障壁、水と風で氷弾など、色々と配合により、無限の可能性がある。ちょっとした加減で効果が変わってくるので、まだ安定して出せる魔法は少ないけれど、面白いので色々と試しているところだった。


「あら、ウィリアム。随分熱心に魔法の練習をしているのね」


 ニコニコと笑っている姉を見て、僕は彼女が何をしに来たんだろうと考えた。姉が僕の修行を見にくるというのはほとんどなかったからだ。


「中級の魔法でも組み合わせれば、配合によっては上級魔法並みの威力を誇る魔法が使えたり、応用も効くので、色々と試しているところです」


「ふんふん、熱心なのはいいことだわ」


 姉は上機嫌のようである。


「ところで姉さん。かつて、僕の前で見せてくれたブラッドフォード家の最強魔法”焰帝狂舞翔”を、一度見せてくれませんか?」


 父はなかなか忙しいので、ブラッドフォード家の固有魔術の一つである”焰帝狂舞翔”を学ぶ機会がなかった。それで、その魔法をマスターしている姉に一度見せてもらおうと考えたのだ。コツなんかも教えてもらえればと思っていた。


「は…… ま、まあね。そのうちそのうち。それよりもこれを見てよ」


 彼女は皮でできた表紙の本を、僕の前に差し出してきた。


「えっと、恋愛小説ですか? 僕はあまり好きじゃあないんですが」


「いやいや、中身を見てよ。中身を」


「いや、その恋愛小説はあまり……」


「いいから、いいから」


 僕はその本を開いたが、違和感に気がついた。それは文字に特徴があって、手書きのような癖がない、均等の文字が一定の間隔で並んでいるのだ。一体これはどういうことだろう。


「これはいったい……」


「これこそが、私の叡智の一端、《《活版印刷》》よ」


「活版……印刷ですって?」


 僕は久しぶりに聞き慣れない言葉を聞いた。おそらく、姉の前世での言葉だろう。それにしてもいったい、これはどのようにして作ったのだろう。


「ふ、流石に驚いて何も聞けないようね。それでは教えてあげましょう。簡単なことよ。つまり、木でできたブロックに文字を一文字一文字刻んで、それを文章に組んでからインクにつけてスタンプのように紙に押すのよ。そしたら、いちいち文章を手書きで写さなくても、大量に生産できるってわけ」


「なるほど」


 僕は封蝋に使う家紋の入ったシーリングスタンプを思い浮かべた。あれを小型化して、並べて文章に組んでしまえば大量に生産できるというわけか。それはすごい。


 姉は非常に得意そうな顔になっている。


「ふ、まだまだ、甘いわね、ウィリアム。私の知識を侮らないことよ」


「で、どこで作っているんですか? そんなことを請け負うところなんてどこにもないと思いますが」


「ふふふ、お父さんに頼んだのよ。今は試験段階だけど、場所を確保して、必要枚数分だけ型を作ったの。結構大変みたいだけど、やはり金の力は偉大よね。お父さんも新たなビジネスとあって、結構乗り気になっていたから、一度動くと早いわ」


 なるほど。


「本を作るには大量のブロックが必要そうですが?」


「まあ、本一冊分は大変だけどね。でも、使わなくなったら、分解して組み直せばいいし、それに、この印刷技術のすごいところは、単純に本だけじゃないのよね」


 僕は想像がつかずに姉の言葉を待っていた。


「つまり、ビラを配るにも一気に大量に印刷ができるので、その影響力は絶大よ。まだ、庶民では字も読めない人も多いみたいだけど、これからはかなり変わってくるわ。それに、新聞も作れるかもしれない」


「何ですか、それ」


「紙の束にたくさんの情報を載せたものよ。本よりもページ数は少ないけど、その分、最近あったみんなが気になる出来事とか、事件なんかをいち早く伝えるものよ。だって、みんな知りたいでしょう。噂話じゃあ、話が歪んで伝わるかもしれないしね」


「それはすごいですね。さすがは姉さんです」


 そして、彼女の渡してきた本を改めて見てみた。確かに、一定の文字が載っていることによって、文字の癖もなく非常に読みやすいものだった。内容については置いておいて。


「うっすい本になっちゃったけど、職人が育ってきたら、いよいよやるわよ。ラノベ計画を」


「これならうまくいきそうですね。初期コストはかかるかもしれませんが、軌道に乗ればコストを減らすこともできそうですしね」


「ただ問題が一つあってね」


「何ですか?」


「ラノベには絵が非常に重要なんだけど、まだ実現できないのよ」


「絵を印刷するのは難しいですよね」


「うーん。そうね。一点ものならいいけど、いちいち描くのもねえ」


 姉がウンウンと唸っているところに、メイドのノノアさんが現れた。


「アーサー王太子殿下がお見えになってます」

お読みいただいてありがとうございます。


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