銀髪の貴公子
「君は誰だい」
涼やかな風のような声で銀髪の少年は問いかけた。その紅玉のような瞳は何か疑い深そうな色を放っている。
「お兄様」
マーガレットが駆け寄ると兄のそばに寄り添った。二人は本当によく似ていた。美男美女でとても絵になる感じだった。
「マーガレット。しばらくここにいなかったけど、どうかしたの?」
兄は優しく妹に話しかける。その姿を見てもかなり慈愛がこもっている様子だった。
「ヘンリー様に呼ばれて、それから戻ってこようとした時に、ウルズたちに意地悪されてしまって……」
「何。また、あいつらか、大丈夫だったのか?」
兄は急に厳しい表情になり問いかけたが、彼女は首を左右に振った。
「ウィリアムさんに助けてもらったんです」
マーガレットは僕の方を見てそう言った。ジュリアンは改めて僕の方に視線を向けた。その瞳は少し警戒心が薄らぎ、やや親しみのある色に変わっているような気がした。
「妹のこと、ありがとう。僕からも礼を言うよ」
「大したことはしていません。ただ通りがかった時に声をかけただけです。結局追い払ったのはエマさんのようです」
「いや、それでも助かった。本当にありがとう」
彼は僕の方に右手を伸ばしてきたので、僕も握り返した。
「ブラッドフォード家の長男、ウィリアムです」
「ヨーク家長男、ジュリアンだ。よろしく」
「ちょっと、別のところで話をしませんか」
僕はできれば二人きりで話がしたいと思い、誘いをかけると、彼もうなずいてこちらの方についてきた。マーガレットもついてきたそうにしていたが、名残惜しそうに両親のもとに戻っていった。
◇
「僕らは、いや僕らの一族はこの髪や目のせいで偏見を持たれているんだ。妹をいつも守ってあげられたらいいんだけど、ずっとついているわけにもいかなくって」
少し、悲しそうな顔をしてジュリアンは言った。
「できるだけ僕も協力します」
「ありがとう」
彼と話した感じでは、とても家族思いの優しい少年にすぎなかった。どうしてブラッドフォード家に対して復讐をしようとまで思ったのだろう。
ただ、これから4年の間に確実に彼に何かが起こっていたのは確かな事らしかった。何か回避する手も考えたかったが何も起こらないうちにアクションを起こすのは難しい。とりあえず、親交を深めるしかないだろう。
「それにしてもブラッドフォード家に長男がいたなんて初耳だったけど」とジュリアンは僕に声をかけてきた。
確かに、ディアナ王妃が公爵領にきた時に開催した晩餐会が、実質、社交界へのデビューだっただけに、知らないのも無理はない。まあ、追放される寸前だったしね。
「2年前に養子になったのですが、もともと僕は庶民の出なんで、お披露目が遅れてしまったのです」
「そうか」
「だから、貴族の皆さんからはとても奇異な目で見られる苦しみもわかるつもりです。伝統あるヨーク侯爵家と一緒にされたら迷惑かもしれませんが」
ジュリアンは目をみはってこちらを見て、それから、首を左右に振った。彼の目は慈愛に満ちていた。
「そうか、そうなのか。それは大変苦労したろうに。もしかしたら、実家でもいじめられていなかったか? たとえば、あのマリアに」
「え、なぜそれを」
「あの暴君…… 高慢でプライド高くて、わがままで、とてもじゃないけど話にならない女だったな。エマ・ウェイクフィールドも確かにプライドは高いが、きちんと話をしたら通じる人だった。とにかくマリアだけはちょっと酷すぎる。なんだか、王太子と婚約するなんて話もあるが、まあ、おそらくうまくいかないだろうな」
「いや、もう姉は昔の姉ではありません。今の彼女はとても優しくて慈愛に満ちた素晴らしい女性になっていますよ(……そうだったかなあ)。一度会ってみてはいかがですか?」
僕はなんとか、ジュリアンと姉の仲をうまく取り持つべく、少々話を盛ってみた。
「いや、悪いんだけど、お前の姉だけは勘弁だな」
「そうですか。でも、今は本当に姉にはよくしてもらっています。何かの縁ですから、今度、ブラッドフォード家に遊びにいらしたらいかがでしょう。大歓迎ですよ」
「うん、君のところなら遊びに行きたいな。今度、妹も一緒に訪ねてみよう」
「ありがとうございます」
僕は少し離れているところでヨーク一家の3人が楽しげに笑い合っている方を見た。
「それにしてもいい家族ですね」
「そうだろう。僕の自慢の家族なんだ」
彼の顔が輝いていた。
「僕はこの家族を大切にしたい。だから、家族に危害を与えるような奴は絶対に許さない。それが、たとえ誰であろうとも」
彼は一瞬、非常に険しい顔をしたが、すぐに笑顔を取り戻して僕の方に振り向いた。
「じゃあ、またな」
笑顔で手を振って彼は自分のいる場所に帰っていった。
僕はヨーク一家が非常に仲睦まじく笑い合っているを見て、死んだ母と貧しいけれども楽しく暮らしていた庶民時代のことを思い出した。そして、不意に貴族の真似事をしている自分に違和感を感じた。
僕の《《本当に》》いるべき場所はいったい、どこなのだろう。
僕が彼らの様子を眺めながら感傷に浸っていると、後ろから姉の切迫した声が聞こえてきた。
「ちょっと、ウィリアム。すぐにこっちに来て」
姉がこちらに走ってやってきた。非常に深刻な表情をしているのを見て、
「何かあったんですか?」と聞いたが、姉は問答無用に僕の手を掴むとこう言った。
「理由はとにかく、すぐにきてちょうだい」
僕は彼女に引っ張られるまま、その場を後にした。
お読みいただいてありがとうございます。
評価⭐️やブックマークしていただけると大変励みになります。
よろしくお願いいたします。




