パーティ その5
会場は相変わらずごった返していた。
マーガレットがすすむ先には一人の女性の姿が見えた。落ち着いた雰囲気の大人の女性、栗色の髪をまとめ上げ、水色のドレスをきていた。彼女の周囲にはたくさんの人が集まっていて、皆彼女と嬉しそうに話をしていた。
マーガレットは彼女の方に駆け寄っていって、耳元で何かをささやいていた。すると、その女性はにこやかな笑顔でこちらの方に歩み寄ってきた。
「セーラ・ヨークです。初めまして」
「ウィリアム・ブラッドフォードです」
僕は軽くお辞儀をした。
挨拶している中でマーガレットが母のセーラのそばによってまた何かをささやいていた。セーラは優しそうな顔でうなずきながら話を聞いている。
話が終わるとセーラはこちらの方に振り向いて言った。
「マーガレットのこと、本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。助けを呼んでいただいので助かりました」
彼女は横を向くと隣のテーブルで夢中でしゃべっている中年の男に声をかけた。
「リチャード。ちょっとこっちにきてくださいな」
「ああ、ちょっと待ってくれ、今いいところなんだから」
そう言って中年の男はまた隣の男と夢中になって話し始めた。銀髪の彼は間違いなくヨーク家当主のリチャードに違いない。少し小洒落たグレイのジャケットを羽織りなかなか様になっていた。
妻のセーラは少し呆れた顔をしている。
この間、僕は素早く目だけで周囲を確認していた。もちろん、最重要人物の一人、ジュリアン・ヨークのことである。
彼は4年後、我々に強い復讐の念を抱き、シャーロットの助けを得たあとは、ブラッドフォード家を破滅させるため、姉や僕の前に立ちはだかるはずの人物であった。
しかし彼の姿は周囲には見当たらなかった。僕は少しがっかりしたが、彼の家族と交流を深めることに頭を切り替えた。
「全くあの人はしょうがないわねえ。ちょっとリチャード。マーガレットがボーイフレンドを連れてきましたよ」
「何!!」
急にこちらに向かってつかつかと近づいてきた。少し怖い顔をしている。
「こちらがウィリアム。ブラッドフォード家の」
リチャードはこちらをジロリと睨みつけて言った。
「王家だろうが、ブラッドフォード家だろうが、ラナーク家だろうがマーガレットはまだやらんぞ」
「何言ってるんですか。マーガレットはもう12歳なんです。ボーイフレンドくらいいたっていいじゃないですか。あなたがそんなこと言っているから、もう12歳になったのに、婚約相手が決まってないのです」
「だめだ、だめだ、だめだ。ボーイフレンドも婚約もまだ早い。俺は認めないぞ」
怒りで顔を真っ赤にしている。
何か話がおかしい。
僕の記憶が定かであれば、ブラッドフォード家とヨーク家は、王太子の婚約相手を姉とマーガレットどっちにするかで争っていたのではなかったのか。
「アーサー王太子殿下の婚約相手候補になっていると聞いていましたが?」
僕はリチャードとセーラが言い争っているところに話しかけてみると、二人がこっちの方に振り向いた。
「王太子殿下の婚約者はそちらのブラッドフォード家のマリアで決まりなんじゃないのか?」
リチャードが不思議そうにこっちをみて言った。
「え、そうなんですか?」
「周りが色々と盛り上がっているだけよ。ヨーク家は何も動いていません。王家には色々と私たちのことを嫌っている人たちもいますしね。私は何よりマーガレットに幸せになって欲しいのです。だから、王家じゃなくなって、彼女が幸せになれるなら、どこに嫁がせてもいいと思っています」
なんだか、聞いた話と結構違っている気がするが、二人が嘘を言っているようには見えなかった。なかなか貴族社会というのは本当のところが見えないものだな、と思った。
「嫁ぐだって? まだ気が早いぞセーラ」
「ですから、何度も前から言っている通り、あまり遅くなるといいところの話がなくなってしまいますよ。ところで、ウィリアムさん。あなたは婚約者が決まっているのかしら?」
「いえ、まだ……」
正直、この間までは追放直前でいる身分である。もちろん、そんな話なぞ全くなかった。
「うちのマーガレットなんてどう?」
「えっ」
「だって素敵じゃないですか。ピンチのところを颯爽と助けに来てくれる騎士様なんて、なかなかいませんよ」
「先ほど知り合ったばかりなので、その……」
ちょっと予想外の展開になってきたので、少し尻込みをしていると、ヨーク家当主リチャードが口を挟んできた。
「うちの娘が気に入らないってのか」
え、さっきまで、婚約反対って言ってなかったけ。
「お父様、ちゃんと話を聞いてください!!」
マーガレットが真っ赤な顔をして言った。おとなしかった彼女が、意外と大きな声を上げたので少しびっくりした。家族関係は結構良好らしい。
「お母様も、勝手に話を進めてひどい。嫌われちゃったらどうするの」
「あら、そうだったかしら」
少しとぼけたような調子でセーラは答えた。
「でも、今度遊びにきてくださいね。リチャードがいないときにでも」
セーラさんはニッコリと笑ってこう言った。
「ちょっと、お母様」
マーガレットは真っ赤になっていた。
親子3人の仲の良さそうなやりとりは、見ていて本当に微笑ましい。僕があったかい気持ちで彼らを眺めていると、不意に後ろから近づく気配を感じた。
振り向くと銀髪の美少年がそこに立っていた。
夏の光を浴びてキラキラと輝く銀髪、涼やかな表情と優しい光を帯びた紅玉のような瞳、大人びた黒い礼服から伸びているほっそりとした手足、まさに貴公子という名に相応しい少年だった。どことなく妹のマーガレットに似ている。
彼こそが僕や姉の最大の障壁になりうる存在、4人の標的の一人、ジュリアン・ヨークだった。
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