パーティ その4
「エマ…… ウェイクフィールド」
一人がうめくようにそう言うと、3人がとまどい、彼女たちから急速に魔力の高まりが消えていくのが感じられた。
「ウルズ、ヴェルザンディ、スクルド。あなたたち、貴族のルールを知らないとは言わせないわよ」
「こ、こいつが先に攻撃を仕掛けようとしたから」
「そんな嘘は通じないわよ。それとも、審問会に突き出されたいのかしら」
僕は彼女のそばにマーガレットがいることに気がついた。彼女が助けを呼びにいってくれたらしい。
彼女たち3人はすごすごと退散していった。ウェイクフィールド家といえば、三公爵の1家。流石にラナーク公爵家がバックにいたとしても、ブラッドフォード、ウェイクフィールド両家を相手にするのは難しいと判断したのかも知れない。
「助かりました」
僕は軽く頭を下げてお礼を言った。彼女は腕を組んだまま、こちらをジロリと見たまま動かなかった。
綺麗な細身のシルエット、ふわりとしたスカートの赤いドレスを身にまとった、燃えるような真っ赤な長い髪をした少女。瞳は茜色で、こちらのことを見通すような強い調子を帯びていた。
「あなたが礼を言う必要はないわ」
「なぜです?」
「私が助けたのは《《彼女たち》》のほうよ。あなたではない」
「どう言う意味ですか?」
彼女はその質問には答えず、こう言った。
「あなたはいったい何者なの?」
いったい何を言われているのか分からなかったので少し混乱したが、自分が先に名乗っていなかったのが気に入らなかったのかもしれないと気がついた。結構気難しいタイプのようだった。
「ブラッドフォード家長男、ウィリアムと申します。名乗りが遅れてすいません」
「だから、あなたは何者なの?」
「どういう意味でしょう?」
よく分からないので、質問してみた。彼女はニコリともしないでこう言った。
「ブラッドフォード家長男、ウィリアムは庶民からの養子と聞いているわ。王族ならば分かるけど、本当に庶民だとしたら信じがたい魔力量ね。それにしても、ここであの娘たちを皆殺しにするつもりだったの? 誰もいないところで」
どうやら魔法を使おうとしていたことはバレているらしい。
「いえ、そんな気持ちは全くなかったのですが……」
「その割にはやる気満々のようにも見えたけど」
かなり魔力量を人には分からないようにセーブしておいたはずだった。このエマという女性はなかなか侮れない人のようだ。
「何か悪いことでも企んでいるならよした方がいいわよ。それとも痛い目に合わないと分からないのかしら。いっそ、今のうちにこの場で始末しましょうか」
彼女から魔力の高まりは感じられなかったが、目つきは本気そのものだった。しかし、僕としてはこの場でやり合うつもりはない。
どう言えばわかってもらえるかを必死で考えている時、エマの腕をマーガレットが引っ張った。エマは振り向き、二言三言、彼女にささやいてこちらを再度振り向いた。
「今回はマーガレットに免じて見逃してあげるわ。何を企んでいるかわからないけど、貴族の社会に潜り込もうとするなら、立ち振る舞いには十分注意することね」
そう言って、彼女は立ち去っていった。
呆然として見送る僕の袖がクイクイと引っ張られた。
マーガレットだった。彼女はペコリと頭を下げた。
「ありがとうございました」
彼女の声は小さく少し震えていた。
「こちらこそありがとう。助かりました」
ショートカットの銀髪が陽の光を浴びてキラキラ輝いていた。赤いイヤリングがそよ風に吹かれて揺れている。純白のドレスを纏う彼女はまるで別世界から来た妖精のようだった。
伏し目がちの彼女はそれ以上なにもしゃべらず、風が木の葉をゆらす音だけが二人の間を流れている。
「え、えーと、ご家族の方はどこにいるのかな。会場かな」
僕は本来の目的を思い出して、彼女に尋ねてみた。
「え…… あ…… はい」
マーガレットは少し戸惑うような感じを見せた。
「一緒に会場に行きませんか?」
僕がこういうと、彼女の表情はパアッと明るくなり、大きくうなずいた。
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