パーティ その3
一斉にこちらを振り向く3人の女性。全員見覚えはなかった。
「誰こいつ」
「見慣れない顔ね」
「無視したほうがいいんじゃない」
3人ともあまり友好的ではないようだ。全員がこちらを見下したような態度で僕を睨みつけている。マーガレットもこちらの方を見ている。ルビーのような赤い目をしているので彼女で間違いないようだった。
「僕は、ブラッドフォード家のウィリアムです。たまたま通りがかって声が聞こえたものですから、つい来てしまいました。何か訳があるなら教えていただけませんか?」
大抵はブラッドフォードの名前を出すだけで、相手は大人しくなるのだが、今回ばかりは勝手が違っていた。
「あの、成金貴族のブラッドフォードね。貴族でありながら、メイドに生ませた子供を養子にしたっていう。ああ、あなたがそうだったのね。どうりで下賎な顔つきだわ」
「僕が下賎であるかどうかは別として、一人の女性を寄ってたかっていじめるのは卑怯者のすることじゃないですかね」
「生意気なやつね。この女のことを本当に知っているのかしら」
「どういうことですか?」
「こいつらの祖先は魔物だったのよ。この髪が証拠だわ。見るだけで気持ちが悪くなる銀髪に、血のような赤い目。こんな奴が王宮に招かれるなんて正気の沙汰とは思えないわ」
「ヨーク家は昔からの正当な貴族の家系で、先だっての魔王との対戦でも数多くの戦功を積んでいると聞いています。かつてはどうだったかは知りませんが、少なくても今は王国にとってなくてはならない存在だと思います。それを、ただ、外見が気に入らないからと言って非難したり、いじめたりする理由はないはずですが」
「だからと言って、ヘンリー様と気安くしゃべるようなことがあっていいはずないでしょ。魔物のくせに。いやらしく媚を売って、誘惑しようとしているところを私たちはしっかり見ているのよ」
「そうよ、そうよ、私たち3人が証人よ、言い逃れはできないわ」
ヘンリー、って誰だったっけ。そういえば、公爵御三家の一人にラナーク家のヘンリーという当主がいたような気がする。
「ヘンリー・ラナーク公ですか?」
「もちろんそうよ。三代公爵の一人。戦闘バカで名を上げたウェイクフィールドや、金の亡者で成り上がりもののブラッドフォードと違って、由緒正しい、貴族の中の貴族。それがラナーク家。ヘンリー様よ」
3人ともうっとりとした表情で空を見上げていた。相当なカリスマのようだが、いったいどんな人間なのだろう。
「彼が、マーガレットさんを迷惑だと言っていたんですか?」
「そんなこと言うわけないじゃない。ヘンリー様はお優しい方よ。私たちが積極的に害虫を追い払わないと大変なことになってしまうわ」
彼女たちが勝手にやっていることはよくわかった。
「であれば、そのヘンリー様も本当は喜んでマーガレットさんと話をしていたのかも知れませんよ。邪魔しているのはあなたたちかも知れない」
その瞬間、3人から激しい敵意のある目で睨まれた。
「こいつ、やっちゃおうか」
「いいわね。こっちもムカムカしていたし」
「手加減しないと殺しちゃうかもね」
「そうなったら、この女もまとめてやっちゃおうよ。後でヘンリー様になんとかしてもらおう」
「そうね、そうね」
彼女たち3人から、魔力の著しい増大を感じた。本気でやるつもりらしい。
「貴族間での私闘は禁じられているはずですが。特に魔法の使用は許可を得ないと重罪になりますよ」
「ふーん、知ったこと言って、ビビっているのね。いい、教えてあげるわ。審問会になっても最終的には公爵三家の評議で決まるのよ。そして、私たちにはラナーク家がついている。それに、魔物や庶民を処分したからって、貴族たちの間でお咎めになると思っているの? 身の程知らずも甚だしい」
何を言っても無駄のようだった。
「マーガレットさん」
銀髪の少女はこちらの声を聞いてビクッと身を震わせた。
「すぐに、ここから逃げるんだ。後のことはなんとかするから」
躊躇するような顔でこちらを見るマーガレット。
「早く行ってください。巻き込まれるとただじゃ済まないかも知れないから」
彼女はうなずくとすぐに駆け足でこの場を去っていった。
3人の女はまったく彼女の方は見ていなかった。どうやら、侮辱してきた僕の方を叩きのめすことで頭がいっぱいになっているようだ。
さて、どう片付けるか。
3人のうち、一人はまずまずの魔力量のようだったが、他の二人は大したことはないようだった。2人は火系統、もう一人は水系統の魔法のようだ。通常、手の内を見せるように具現化するのは戦いで不利になるはずだが、彼女たちは僕に恐怖を抱かせるつもりで見せびらかせるように魔力を増大させていた。
「ふふふ、今更謝ってもう遅いわよ。謝ったってやっちゃうけど。この距離なら逃げられないしね』
一番問題なのは、彼女たちに怪我をさせると後でこちらがお咎めを受けることになりかねないことだ。バックには公爵家の一人がついている。裁判沙汰になると僕1人と相手3人の証言ではこちらが不利になってしまう。
しかし、反撃しないと、こちらが大怪我をするのは必至。ちょっとやり返したぐらいでは、審問会で処罰を受けてしまう。
であれば……
徹底的に痛めつけて、こちらに逆らえないくらいの恐怖を与えるしかない。
さいわいにして他に誰もいない状況だった。
こちらも集中して魔力を高めていく。相手が瀕死になっても、こちらには回復呪文があるのでなんとかなるだろう。一撃で殺しさえしなければ。
相手がもったいぶっている今。先制攻撃を叩き込んでやる。
そう思って呪文を唱えようとした瞬間だった。
「あなたたち、何をしているの。対人で魔法を使うのはご法度のはずよ。やめなさい」
振り向くと、真っ赤な長い髪をなびかせている細身の少女が、腕組みをしてそこに立っていた。
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