晩餐会のその後で
「いよう! ウィリアム。ご苦労ご苦労」
僕が姉の部屋に入ると、アーサー王太子が姉のお気に入りのソファーに寝そべっていた。さっきまで、本を読んでいたらしい。
「いろいろと調べてきました。何かの役に立てばいいのですが」
僕がいうと、王太子は満足気にうなずいている。対面の椅子には腕組みをしている姉が座っていて、こちらはかなりご機嫌斜めのようだった。
「だいたい、こんな奴のためにウィリアムがそんな熱心に働く必要なんてないのよ。朝からわざわざやってきたかと思えば、寝そべって本ばかり読んで」
「しょうがないだろう。やることないんだし、それより、他に面白いのはないのか?」
王太子の読んでいるのは姉が本棚にぎっしりとコレクションしている恋愛小説のようだった。
「ずいぶん熱心に読んでらっしゃるんですね」
僕はそう聞いてみた。
「ああ、将来何かの役に立てばと思ってな」
「そんなの役立つ時がくるのかしら」
姉の声のトーンはやはりトゲトゲしい感じである。
「来るさ、俺の理想の女性が現れた時に、機会を逃さないようにしなくちゃな」
「だいたい、その本って女側からの視点でしょう。男が見たって意味ないじゃない」
「ふん、それが凡人の考えなんだ。恋愛ってのはな、男女の合意があって成り立つものじゃないか。女側の目線で見ることができた方が、男にとって断然有利になるだろ」
(なるほど、そういう考えもあるのか)
この手の本は暇を持て余した貴族の奥方たちが好んで読んでいたが、世間では淑女の嗜みとしてはあまり推奨されていなかった(みんなそう言いながら色々本を持っていると姉は言っていたが)。
ましてや、男が恋愛小説を読むのが趣味だというのは、世間から非難されてもおかしくない行為だった。ましてや、王太子ともなると、さらに厳しい目にさらされてもおかしくない。
僕はアーサー王太子のその自由な発想が非常に好ましく思えた。
「じゃあ、その本を読んでソファーで寝そべっているあなたの姿を、長いこと見せつけられている私の気持ちをどう解説してくださるのかしら」
「うっ」
「これから婚約阻止しようとしている相手の家で、こうやって呑気にくつろいでいるっていうのは、いったい全体……」
「まあまあ姉さん、それくらいにしましょうよ。それより、色々情報を仕入れてきました」
この調子だとまた王太子と喧嘩になってしまいそうだったので話題を変えてみた。
それにしても、姉にひどいことを言われている割に、王太子が嬉しそうな表情をしているのはなぜなのだろう。
「お、聞かせてくれ」
アーサー王太子が助かったというような感じでこちらを向いた。
「手っ取り早く説明してちょうだいね」姉はやや面倒くさそうな感じで言った。
「では、始めます」
僕は少し深呼吸をしてから、今日の調べの成果を話し始めた。
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