真相
アーサー王太子が姉の部屋に入ってきた。少し強張った顔をしている。彼はお茶の用意はいらないとノノアさんに告げた。
ノノアさんは「何か御用があればいつでもお呼びください。ではごゆっくり」と言って去っていった。
「何よ。文句あるなら何か言いなさいよ」
姉は早速口を開いた。
「姉さん、まずは話を聞こうよ」
姉を黙らせてから、アーサー王太子に話を促した。
「アーサー殿下、何の御用向でしょうか?」
「うん、その前にいっておきたいことがあるんだが」
「何でしょう?」
「さっきはすまなかった」
僕はちょっと意外だった。彼は怒っているのだとばかり思っていたからだ。
「魔法を使ったことですよね」僕が一応念を押す。
「うん、それだけじゃないんだ。実は、あの時、わざとマリアさんを怒らせるような態度をしていたんだ」
「それって、どういうこと?」
姉の表情が変わった。
「つまり、できるだけ俺の印象が最悪になるように、二人になった時からずっと嫌な態度をとっていたんだ。まさか、自分の方がキレてしまうとは思わなかったけど。だから、今回は全部俺が悪かったんだ。許してほしい」
僕と姉は顔を見合わせた。
「謝るんだったらね、やり方ってもんだあるでしょうよ。こうやって正座をしてから両手をついて、床にこすりつけるようにして頭を下げて……」
「姉さん、やめてください」
いくら何でも王太子にそこまでさせるのはやりすぎだ。それに何か理由がありそうだった。
「どうして、そんな態度をとったのですか?」
「婚約が成立しそうだったので、何とか嫌われて断られようとしてたんだ」
「何よ。最初から私のことが気に入らなかったってこと?」
姉がキレかかった。
「誰か好きな人がいて、その人と結婚したかったんですか?」
僕は姉に構わず質問した。
「いや、マリアさんが気に入らないってことはないし、好きな相手もいない」
「では、どういうことですか?」
「いや、その…… できれば自分の結婚相手は自分で決めたいって思っていたんだ」
彼はゆっくりと自分のことを話し始めた。
「朝から晩まで帝王学や歴史の勉強して、魔法の練習をして、さらに剣術をして、公式行事にも引っ張り回されて、そして、ちょっとでもうまくいかないと容赦なくしかられて、それでも、王になるんだって頑張ってきたんだけど、最近、自分に才能がないこともよくわかって、ちょっと嫌になってきていたんだ」
「そうですか」
確かにいろんな立場の人間はいる。王太子という立場はいかにも恵まれているようにも見えるが、彼には彼の苦しみというものがあるのだろう。
「自分の運命だから修行に関しては頑張ろうと思っているんだけど、せめて、自分が本当に好きな相手と結婚したいから、結婚相手は自分で決めたかったんだ。でも、母さんが何を言っても聞いてくれないから、マリアさんに嫌われようと思ってあんな態度をとってみたんだけど。結局こんな有様さ」
彼は最初の印象とは全く違って、意外に誠実で人の良い人間であるように思えた。ただ、不器用な人なだけなのかも知れない。
姉の顔も怒りの表情がとけ、ちょっと微妙な顔つきをしている。
「君たちには大変迷惑かけて、その上、こんなことを頼むのはとても心苦しいんだけど、婚約は君の方から断ってはくれないか」
アーサー王太子の姿は弱々しく、大変苦悩していることがはっきりわかった。僕は彼に協力してあげたいような気持ちになってきた。それに、この提案は姉にとっても有利に働くかもしれないと思い始めていた。
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