大げんか
僕が駆け寄ると、アーサー王太子は僕を見て言った。
「お前は何者だ」
アーサー王太子は腕を組んでこちらを横目で睨みつけてきた。先ほどあった時とはまるで別人のような尊大な様子だった。これが本性なのか、たまたま怒っているだけなのか。
先程、父に紹介されたはずだが、僕のことは全く覚えていないらしい。
晩餐会開始までもう時間がない。とりあえず、この場を収めなければ大変なことになりそうだ。
「僕はブラッドフォード家長男、ウィリアム・ブラッドフォードです。王太子殿下、いかがなされましたか?」
「うむ、こいつが案内役のくせに、ろくに自分の庭すら説明できないので、呆れ果てていたのだ」
「男のくせに、細かいところまでいちいち聞いてくるからでしょ。庭なんて見たままで受け止めりゃあいいじゃない。そんなに庭が好きなら、うちの庭師を紹介してやるわよ。一緒にデートでもしたらいいんじゃないの」
姉も大変御立腹のようだった。明らかに自分の立場を忘れている。
「大体、話が盛り上がらないのはあなたが話題に乏しいからでしょ。面白いこと話せないからって、意地の悪い質問ばかりして、そんなんじゃ、女の子にモテないわよ」
アーサー王太子も相当腹を立てている様子だった。
「なんだとこのクソ女、だいたい、お前が俺をもてなす側だろ。それなのに、なんだその言い草は。王家に向かってなんと無礼なやつだ」
「王家がなんだっていうのよ。あんた自身を尊敬に値するかどうかは、私が決めることであって、あんたじゃないわ、アーサー。女性に対してブスだの、クソ女だの、ちゃんと話し合いすらできない奴なんて人間としての価値など一切ない」
アーサー王太子は僕の方に向かって言ってきた。
「こいつは自分の立場をどう考えているんだ。この間、頭をぶつけて、おかしくなったと聞いていたが、本当だったんだな。こいつを部屋にぶち込んでもう二度と外に出れなくしろ」
「私に痛いとこを突かれて言い訳できないからって、狂人扱いとはどういうことよ。大体、王妃の前では猫かぶっておとなしくしていたのに、逆らえない人間の前では尊大に振る舞うなんて、王としての資格ゼロね。見た目と家柄だけは立派なのかもしれないけど、中身はスッカスカで、これじゃあ、この国の未来も真っ暗……」
なおも言いつのろうとしている姉だが、アーサー王太子の尋常ならざる雰囲気を感じて僕は叫んだ。
「姉さん、伏せて」
アーサー王太子の体から発する魔力が膨れ上がっているのを感じた瞬間、僕も魔力をこめて呪文を放った。
「「疾風翔波」」
ほぼ同時に放った互いの呪文が姉に到達する前にカウンター気味にぶつかり合い、瞬時にして弾けた。姉は伏せた状態からゆっくりを顔を上げた。どうやら無事のようだった。
アーサー王太子の方はというと、真っ青な顔をして立ちすくんでいた。こちらの視線に気がつくと、何も言わずに屋敷の方へ走り去ってしまった。
「危なかったですね、姉さん」
僕は姉の方に近づくと手を差し伸べた。姉はその手を掴んでから、ゆっくりと立ち上がって、ドレスについた埃を手で払った。
「とんでもないやつね」
「魔法を使ったのはまずいと思いますが、挑発していたのは姉さんの方でしょ」
「あいつ、最初から嫌味ばかり言っていたので、少し言い返しただけよ」
姉は動揺する姿も見せずに、すました顔をしていた。
「それにしてもウィリアム、あなた、なかなかやるじゃない」
「短い時間ではあれで精一杯でした。姉さんを退避させて、その上呪文で対処するとなるとね」
「ふうん」
「相手が王家なので風魔法を放つことは予想できました。うまく相殺できてよかったです」
怒っているとは言ってもさすがに手加減するとみて、王族得意の風呪文の中から初級呪文の候補を選択した。あとは、うまく威力を合わせてぶつけるだけだった。
「それにしても頭にくるわね。やり返してやらないと収まりがつかないわ」
「これ以上はもうやめてください。そうじゃないと、父様や母様に言いつけますよ。姉さんのためにわざわざ苦労して今回のような場を設けたのに、全て台無しにするつもりですか? このままでは婚約なんてできませんよ」
「あんなのと結婚するくらいなら、死んだ方がましよ。まあ、母さんは激怒するだろうけど、父さんは大丈夫、今回の婚約がダメになっても別のプランがあるんだから」
「なんですかそれ、初耳ですが」
「う…なんでもないわ。忘れてちょうだい。それにしても気まずいわね、晩餐会」
日もすっかり暮れて、いつ、晩餐会に呼ばれてもおかしくない状況になっていた。
「王太子殿下も気まずい状況だと思いますよ。許可なく人に魔法を使うなんて大問題ですからね。いくら王族といってもちょっと叱られるだけではすみませんから。だから、晩餐会では互いに知らないふりしてうまくやり過ごすことですよ。婚約については絶望的かもしれませんが」
「まあしょうがないわね」
「それにしてもいいんですか。このまま殿下との関係を放置するとまずいですよ」
「どういう意味よ」
「王立学校に行ったときに、もしアーサー殿下がシャーロットさんと付き合った場合、どうなるか分かりませんよ」
「ぐっ」
「わざわざ、自分で破滅フラグ立てるなんて、どうかしてますよ姉さんは」
「どどど、どうすればいいのウィリアム。なんとかできないの」
「今日は無理でしょうけど、日を変えてからでも関係修復を試みるしかないですね。個人的にお茶会なんか開いて、少しづつ親交を深めて行くなんてどうですか。まあ、そう簡単にうまくいくとは思えませんが、まずはこちらから歩み寄らないと。大体、姉さん、王族のこと舐めすぎですよ」
「あんなやつと仲良くするなんて無理でしょ。あいつの方も、こっちと仲良くする気なんて絶対ないわよ」
「それでもやるしかないでしょう。まあ、全く相手にされない可能性もありますけど、その場合は、とっかかりを作るために、相手の弱みをつくしかないでしょうね」
「なになに、どうするの?」
「先にも言いましたが、例え王族でも対人相手に魔法を使うのは特別な場合に限られています。いくら姉さんが悪いと言っても、そのルールを破ってしまった以上は重大な法律違反です。ましてや公爵令嬢に対してとなると、周囲の貴族たちも黙ってはいないでしょう」
「ふんふん」
「その辺をちらつかせれば、話だけは聞いてくれるかもしれません。注意しときますが、脅迫するのはいけませんよ。あくまで、仲直りのきっかけとして、相手が頑なな場合、ちらつかせるくらいにして……」
姉はにやにやと笑っていた。何か余計なアドバイスをしてしまったのかもしれない。
「マリア様、もうすぐ晩餐会が始まります。ドレスの着替えの準備が必要なのでこちらにいらしてください」
メイドの一人が姉さんを呼びにやってきた。もうすぐ晩餐会が始まる。果たして、僕らはうまくやり過ごすことができるのだろうか。
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