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姉が悪役令嬢だった件  作者: おしどり将軍
王太子アーサー・カーライルの憂鬱

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王妃ディアナ

 僕は暇を持て余していたので、晩餐会が始まるまでは母のそばにいることにした。貴族の男たちはディアナ王妃と挨拶が済んだら、もう仕事は終わったとばかりに男同士で酒盛りを始めている。その輪の中にに入るのは気乗りしなかった。


 母の周りには貴族の婦人たちが集まっていて、和やかに談笑していた(内容的には必ずしも和やかとは言えないものまで含まれていたが)。ディアナ王妃は母の隣にいて談笑の中心にいたが、遠くから男たちの馬鹿騒ぎの声が聞こえてくるたびに、眉間にしわを寄せていた。


 ディアナ王妃の前で執事のヘンリーが紅茶を注ぐ。彼女はそのかぐわしい香りを味わうかの如く、両目をつぶりながら紅茶に口をつけた。


「やはりブラッドフォード家の紅茶は違いますね、私の実家を思い出しますわ」


 彼女は笑顔を浮かべながら、目を開いた。


「さぞかし、今日の晩餐会でも贅を尽くし、趣向を凝らしていることでしょう。とても楽しみです」


「王妃殿下がお気に召していただければ光栄なのですが」


 母は慎ましい笑顔でそういった。


「ふふふ、ここに来るとなんだか落ち着きます。まるで初めてきたのではないかのような。それに比べて宮廷内は窮屈で窮屈で、本当に息が詰まりそう」


「苦労なさっているのですね」


「本当に、嫁いでからというもの、今まで自分が自分でないような気がしました。暗愚といわれている王に嫁ぎ、なかなか男児に恵まれず、そして、しきたりに縛られる毎日、地獄でした」


「まあ」


 母は大袈裟に驚いたような声をあげた。その場にいた誰も彼もが、ディアナ王妃に対する同情をせいいっぱい顔に浮かべてみせ、彼女の言葉に耳を傾けていた。


「それもこれも、あのババア、いや、アン王女のせいなのです。引退して、次の王にその地位を譲ったはずなのに、裏であれこれ指図して、古臭いしみったれたしきたりをふり回し、挙げ句の果てに、私の息子の将来にまで口を出してきて、わたくし、本当に腹を立てているのですよ」


 ディアナ王妃は話しているうちに段々と興奮を高めている様子だった。誰も口をはさむものはいなかった。いや、はさめなかったというのが正解なのかもしれない。


 アン王女は先の対戦で魔王を打ち払った王国一の英雄であり、隠居してなお、そのカリスマと実力で王宮に絶大な発言力を保持している、いわば女帝だった。誰が聞いているかわからないようなところで、王女批判につながるようなことに相槌を打つわけにはいかないのだ。それがたとえディアナ王妃の発言だったとしても。


 しかしディアナ王妃は、むしろ自分の言葉一つ一つに反応して周囲が凍りつく様を、とても愉快そうに見ていた。微妙な空気の中、執事のヘンリーがタイミング良く新たなお菓子を持ってきて、皆に振る舞い始める。母はなんとか凍りついた雰囲気を和らげるべく、話題を変えた。


「王太子殿下もしばらく見ないうちに大変立派になられて、さぞかし、ディアナ様も自慢に思われているのでしょうね」


「申し訳ありませんが、しょせん、あの子は王の器ではないようです」


 母が驚いて何かを言おうとしたところを右手で制して、王妃は続けた。


「一流の騎士、一流の魔導師、一流の学者、私が王国中を探し、厳選した人間を雇って教育していただいたのですけれど、全く身につく様子がなく、本当に困っているのですよ。あの出来の悪さは一体どこからきたのでしょうね」


 ディアナ王妃は笑顔を浮かべていたが、皆は下を向いて黙ってしまった。


 母は慌てて声を上げた。


「大器晩成というじゃありませんか、い、いえ、今も大変優れていらっしゃると思いますが、これからさらに、その、大きく成長されて、歴代王国の中でも、その…」


「私が言いたいのは、アン王女がいる限り、どのような王が出ても霞んでしまうと言うことです。先先代のヘンリーしかり、今の王である我が夫しかり、強すぎる太陽は、作物を枯らすというじゃありませんか、王国を救ったのは確かですが、後継者が育たない時点で、今の彼女は王国にとって有害そのものなのです」


 ディアナ王妃は一息に言い切ってから、周囲を見回した。彼女に意見できる人間はこの場にいるはずがなかった。


「この国の未来を変えるには、彼女の影響力を排除する必要があります。そのために、わたくしは一大決心をしてまいりました」


「それは、どのようなことですか?」

 母が聞いた。


「皆さんに、お聞きしたいのです。我が息子にとって本当に必要なパートナーは誰であるのか」


 途端に周囲の人たちがざわめいた。まずは姉のマリアの名前がでた。この状況では無難な答えだろう。しかし、王妃はそれだけでは満足せず、候補者全員の名前を挙げてみてくださいと促した。


 それをきっかけにして、他の名前もではじめた。ブラッドフォード家と同じ三大公爵家の一人娘、エマ・ウェイクフィールド、先の対戦で、戦功をあげ、侯爵家にまで登りついたヨーク家のマーガレット・ヨーク、その他いろいろな名前が挙げられたが、この3人が容姿、才能、家柄を含め、抜きん出ているという話になっていた。


 王妃は満足そうな顔で頷くとこういった。


「皆さんに言いたいのは、王国の未来をまずは考えてほしいということです。この国は魔族に勝利し、今は平和を享受しています。武門の出であるウェイクフィールド家はこれからの王国の繁栄にはさして役に立たないと思います。ましてや、銀髪・赤目のヨーク家などは王太子妃にはふさわしくないと、わたくしは思っているのです」


 銀髪・赤目というのはヨーク家の特徴で、はるか昔の開祖が魔族の血を引いているという話があった。


「ブラッドフォード家は、経済に優れ、王国の繁栄に非常に寄与しています。これからの時代は、戦いに強いというのではなく、国民たちをもっともっと豊かにできる。そのような貴族が求められているのです」


 ディアナ王妃の声に力がこもってきた。


「アン王女は王太子の婚約者を決定することに反対しています。王立学校に行ってから、自分の目で選ばなければならないと。でも、もしあの子が王国にふさわしくない人物を選んでしまったら、それこそ、この国にとって取り返しのつかない事態になるのです」


 彼女の目がだんだんとギラギラしてきていた。


「彼女は、『アーサーがたとえ庶民を選んだとしても、彼が選んだのならそれでいいのだ』とすらいっているのです。わたくしは反対です。庶民は愚かで先を見る目がない。たまたま相性が良かっただとか、ちょっと魔法が得意だからとかで婚約者に選ぶことは断じてあってはならないことなのです」


ディアナ王妃の発言はだんだんと激しくなっていた。


(そろそろこの場から離れた方が良いかも知れない。姉の方も心配だし)

 僕は母に目配せすると、静かにその場を離れた。


(さて、姉はどうしているのだろう)


 夕陽が赤く庭園を照らしている。もうすぐ、晩餐会が始まる時刻だ。貴族の社交というものが結構面倒臭いものだとよく分かった。これ以上は勘弁したい。


 庭をぶらついていると、誰かが口喧嘩をしている声が聞こえてきた。間違いない姉の声だ。


「あんたみたいなガキの相手なんか、もうしてらんないわ」


「うるせえな、このブス。こちらこそ願い下げだ」


 驚いてそちらの方にいくと、姉とアーサー王太子、険悪な雰囲気の二人が互いに睨み合っていた。

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