作戦会議
姉が出してきた白いボード。そこには四人の名前が書かれてあった。
ボードをよく見ると、僕の名前の横には☑︎のマークと攻略完了❤️と書かれてある。
「あの…… いっそのこと僕の名前外してもらえませんか。攻略とか書かれるのはなんだか気分悪いので」
「いやいや、まだ、油断ならないわ。とりあえず、私からのイジメがストップしたことで、あなたのトラウマを解消したけれど、王立学校で再びダークサイドに落ちないとも限らないし、そうなるとシャーロットにつけ込まれる可能性もある」
「分かりました、もういいです」
なんだか面倒くさくなったのでいいことにした。
「じゃあ、いくわね。攻略の一番重要なポイントは、過去のトラウマを解消することにあるのよ。四人それぞれにトラウマポイントがあって、主人公はそこを解消することで、彼らとの仲を決定づけることになる」
「アーサー殿下はどうなんですか?」
「これから4年後の彼はね、大人の風格があって、物腰柔らかくて、見た目もあなたと同じ金髪、碧眼の長身といったイケメンで、帝王学、剣術、魔術などオールマイティにこなし、もちろん地位も高いし、まあ、一見完璧な王子様なのよ」
「なるほど、それはすごいですね」
「でもね、彼にも苦悩があったわけよ。教育ママの王妃がみっちり帝王学やら何やらを学ばせるために休む間もなく鍛えててね。おかげで、王の後継者として申し分なくなったけど、すっかり冷血な人間になっちゃったの。当然、性格の悪い悪役令嬢との仲も冷え冷えで、まあ、押し付けられた婚約だしね。そんなの上手くいきっこないわよね」
「そうですか、それは結構かわいそうですね」
確かに王太子となれば、さぞかし大変なんだろう。庶民でいた方が気楽でよっぽどいいのかもしれない。僕も2年前に庶民でいた頃が懐かしい。
「そこで、シャーロットの登場よ。あるきっかけで仲良くなった彼女が、地位が高いゆえに誰にも打ち明けられないような彼の苦悩を癒してあげるわけよ。庶民出身というところも多いに効いてるわね。そして、王の後継者というものすごい重圧も理解してあげて、その氷のような心を溶かし、ついには悪役令嬢を追い出して正式な王妃の座につくの」
「確かに、そうなった方がいいですよね」と僕がいうと姉さんがギロリとにらんだ。
「何? 私じゃ王太子にはつり合わないっていうの?」
「いや、姉さんが悪役令嬢だった場合でしょ」
「まあ、そうね。そうそう。だから、シャーロットに先んじて、彼の苦悩をいち早く理解してあげて、虜にしてあげるのよ。大人の魅力で」
「まあ28歳ですからね」
「見た目12歳、頭脳は16歳ですから。《《決して28歳ではありませんよ》》」
姉は微笑みを浮かべながら、教え諭すような調子でそういった。
「なるほど」
僕は不穏な雰囲気を感じて、納得するふりをしてうなずいた。
「とにかく、じゃあ、結婚相手は王太子殿下に決めるということですね。それでは、そのプランで……」
「ちょっと待ったぁ」
だいぶ話も長くなったので、ここらで終わらせようとしたが、そうはいかなかったようだ。
「この間も言ったとおり、4人全部を囲うに決まってるじゃないの、私の魅力で。そして、王立学校ではシャーロットにつけ入る隙を与えず、彼ら四人以外に目を向けさせることが4年後のミッション。名付けて『《《逆ハー計画》》》』よ」
「逆ハー……」と言いかけたところで姉に遮られた。
「細かいところはいいんだってば。とにかく、そのためには《《4人全員の愛情値を、4年後までに最低60%》》にはしておく必要があるわね」
「愛情値? そんなの分かるんですか?」
「そんなのパラメーターを見れば一目瞭然じゃない」
「いや、そんな魔法ありましたっけ」
「そんな魔法はないわ。ゲームには当然デフォルトでついてくるのよ」
「いちいち突っ込むのは疲れるのですが、専門用語が多すぎてよく分かりません。つまり、姉さんはその数値が分かる、ということですね」
「分からないわ」
「えっと…… じゃあ今までの御託はいったい何なんですか」
「いや、おかしいおかしいと思っていたのだけど、確かに全然見えないわね。4年後なら分かるのかしら、ゲームプレイヤーなら当然分かるはずなのに」
「いや、姉さんは《《主人公じゃなくて悪役令嬢でしょう》》。それでも見えるものなんですか?」
「は…… どういうこと」
「こっちが聞きたいですよ」
「うわ…… あ、ああああああああああああああ」
姉は気が狂ったかのように頭を掻きむしりながら、床の上をゴロゴロと転がり始めた。
「これ何て、何て、無理ゲーなのよぉ」
「落ち着いてください。まだ、破滅するなんて決まったわけじゃないでしょ」
「ああああ、ウィリアム。あなただけは、あなただけは愛情値60%以上よね。そうよね」
姉は錯乱状態に入った。
愛情値というものがこの世にあるなら、彼女への愛情値はかなり下がってきている気もしないでもないが、この場はとりあえず姉をなだめることにした。
「人との関係なんて、数値では測れませんよ。そんなの気にしないで相手の反応を見て考えればいいことじゃないですか」
「で、できるのウィリアム」
「いや、胸の内全部は分かりませんが……」
「あなただけが頼りなのよ。お願い」
「できる限りのことはしますから、とりあえず、これでも食べて元気出してください」
僕はテーブルの上に置かれているクッキーの一つを彼女の口に放り込んだ。姉は少しおとなしくなってもぐもぐと食べている。
「うん、元気出てきた。そうよね。人間関係の基本は相手を観察すること。問題ないわ」
問題ありありのような気がするが、とりあえずうなずくことにした。
「うん、そうと決まったら、アーサーのやつをまずは攻略するわよ。この晩餐会でね。ふふふ、見ておれアーサー。お姉さんが分からせてやるから」
王太子を呼び捨てにするのは流石にやめた方が……
姉の様子を見て、僕は多少不安を覚えていた。王太子殿下と婚約することがそう簡単なものではないことは庶民出身の僕でも分かることだったからだ。
少なくてもヨーク家をはじめ、王国内にいる有力貴族の令嬢たちやその両親たちは王太子殿下をめぐり、水面下で相当な争いを繰り広げているはずだった。
(何か問題が起きなければいいんだけど)
僕は姉を横目で見ながらそうつぶやいた。
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