王太子アーサー・カーライルを攻略せよ
「遅くなりました、ウィリアムです」
僕が姉の部屋に入ると、彼女は椅子に座って足を組みふんぞりかえっていた。
「遅かったわね、ウィリアム。最近、ブラッドフォード家の待遇がよくなったせいか調子に乗っているんじゃない? まさか、メイドを口説きまくっていたんじゃないわよね」
「そんなことはしませんよ」
姉には僕が女たらしというイメージがあるらしい。
「まあいいわ、そんなことより、これをみてよ」
姉は一枚の紙を差し出した。
内容はどうやら、晩餐会のお誘いの手紙だった。1ヶ月後、ブラッドフォード家で主催することになっていた。
「ディアナ王妃殿下がこの地にお立ち寄りになる際に、父が代表でこの辺りの名士たちを集めて、歓迎しようということみたいなんだけど、もちろん父の狙いは別にあるわ」
僕はピンと来てこう言った。
「アーサー王太子殿下ですね」
「そう、将来の私の婚約者でありながら、シャーロットとくっついて私を地獄に突き落とす、裏切り者よ!」
姉はしかめ面をしながら、断罪するかのようにそう言った。
「いや、まだ、婚約してませんし、姉さんを裏切ってもいないでしょう」
「いずれそうなるのよ。なんという屈辱…… とにかく、そうならないようにする必要があるわ」
「ところで、父様は乗り気ですけど、姉さんはアーサー殿下と結婚したいんですか?」
一応聞いておかないと、どう動いていいかわからないので、念の為確認してみた。すると、彼女のさっきまでの勢いがパッタリと止まった。
「結婚…… 結婚かあ。なんいていうかまだ実感湧かないのよね。みんなショタばっかりだし」
「ショタってなんですか?」
「余計なことは知る必要ないわ。とにかく、今の私は記憶が戻ったから気分は女子高生なのよ。このままではリアルでおねショタになってしまう。背徳感が半端ない」
「ちなみに、女子高生って……」
「ああ、もう面倒くさいわね、いいのよ、そんな些細なことは。とにかく今の私の精神年齢は16歳ってことよ」
「でも、16歳で亡くなって、転生したんですよね」
「そうそう、あんた。結構、専門用語を分かってきたわね」
「じゃあ、今、姉さんは28歳ってことじゃないですか? 転生してから12年経っているし」
「ガーン」
姉はショックで倒れ込んだ。
「わ、私が、この私がいつの間にかアラサーだと…… 全然青春を味わってないのに…… いや、待ってマリア、この記憶を取り戻す前の12年はノーカウントじゃないかしら。それにこのぴちぴちのお肌。見た目だって12歳じゃない。そうよ。私、大丈夫、アラサーじゃないわ、大切なのは外見よ。まだまだ間に合う。中身がちょっと大人ってだけ。私の青春はこれからこれから……」
姉が一人で、ぶつぶつと何かをしゃべっている。
「大丈夫ですか、姉さん。気をしっかり持ってください」
「そ、そうよ。この状況を逆に考えればいいのよ。ここは異世界よ。前世の道徳に縛られる必要はない。いや、むしろ、楽しむべき。そう、レッツエンジョイおねショタ」
「姉さん、姉さん」
姉は僕を虚な目で見てこう言った。
「アーサー王太子とはあいさつしかしたことはなかったけど、なかなか美形で、将来がとても楽しみな男の子だったわ、ぐふふふふ、ちょっと生意気そうだったけど、お姉さんが分からせてあげるのも悪くないかも……」
さ、寒気が…… 果たして、こんな人、このまま協力していいのだろうか……
「いいですか、姉さん。乗り気なら協力しますが、ここはひとつ、シャーロットさんに最初から譲るという方法もあると思います」
かえって、彼女《主人公》に快く譲った方が、良好な人間関係を築ける可能性があるのではないだろうか。
「その方が確かに物語的には私に支障ないかもしれないわね。剣聖ジョージとシャーロットが結ばれると、イベント関係なく私に死亡フラグ立つし、侯爵のジュリアンだったら、こっちの家がお取り潰しなるし、あなただったら私が滅多刺しにされるかもしれないし」
「いや、やりませんって」
「でもね、私が婚約者を降りたってマーガレットが婚約者になるかもしれないから、そうなると、シャーロットは王太子と結ばれない可能性も出てくる」
「どういうことですか?」
「マーガレットは、何か悪いことできるような性格じゃないし、何の落ち度もなければすんなり王太子とそのまま結婚するでしょ…… 略奪でもしない限り。シャーロットも人の婚約者を理由もなく略奪するようなキャラじゃないし」
「なるほど。婚約者が悪役令嬢の姉さんじゃないと、役不足というわけですね。婚約破棄は成立しないと……」
「そうそう…… ちょっと待ってよ。それじゃあ、私がまるで悪い人間みたいじゃない」
「悪役令嬢ですから」
「私、生まれてこの方、何も悪いことしてないわよ」
……そうかなあ。
「まあいいわ、今はとにかくシナリオに従って動こうと思っているのよ」
「なるほど、シナリオですか」
シナリオという響きにどこか違和感を感じてしまう。
「というわけで、作戦会議を始めるわよ」
姉は壁に飾っている絵画を外して、バンと壁を叩いた。すると、くるりと板が回転して、白いボードが現れた。いつの間に改造していたのだろう。
そのボードには、王太子アーサー、剣聖ジョージ、侯爵ジュリアン、そして僕の名前が書かれてあった。
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