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白戸と星狼  作者: 秋雲
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理不尽

胸が躍る

誰かが誰かに何かしている。僕はそれを覚えていない。透明な壁に遮られて、向こうの音は聞こえてこない。誰も僕と遊んでくれない。誰も話さない。だから僕も話さない。笑いかけてくれるけど、楽しくないから笑わない。いつも同じこと。退屈、退屈。人はいつも僕に祈る。

「白戸様、戦に行った息子を無事に帰してください」

「白戸様、流行病を鎮めてください」

「白戸様、浮気をした私の彼を懲らしめて」

「私をいじめて来た奴らを殺して」

「金持ちにしてくれ」

「家族が健康に過ごせますように」

「気が狂ってしまったあの子を助けて」

嗚呼、五月蝿い。僕に叶える力はないよ。人の願いを真心込めて叶えてやるほど、僕は出来たやつではないよ。お前らの願いなど僕は知らない。家族なんてわからない。気に入らないなら殴り返せば良いだろうに。そんな願い知らないよ。明日もきっと、酷く、ひどく退屈だ。そう思えば思うほどに、白が灰に染まるんだ。呪い殺せど、祟り憎めど、僕を閉じ込めた奴らは誰も気にしない。僕の感情に意味はない。ただ、求められることは、「そこに居ろ」という一点のみ。僕に、人にない獣耳と角がある程度で、ここの人は僕を崇める。

金が欲しいと子が嘆くから、砂金を出して慰めてやった。礼と称して必死で育てた美味しい野菜をくれたから、良い香りがする果物を分け、熊がいる場所や猪が出る箇所を教えた。石ころの方が好きそうだったから、磨けば綺麗に光る石が出る山を教えた。田畑がよく実るよう、作法も知らずに土地に祈った。作物は異様に実り、「お礼」は更に増えた。可愛い、可愛い人の子。本当に可愛かった。あの日、いつも遊びに来ていた子供の孫に、毒を飲まされるまでは。予兆はあったのに、気づけなかった。教えた箇所だけ、石も金も取れなくなっていた。教えた場所に、動物が寄り付かなくなった。人が踏み入るようになってから枯れる植物が少し増えた。閉じ込められてから、ひたすらに憎んだ。嫌いだ。お前らなんか大嫌いだ。人間なんか、人の子なんか、絶対に、二度と信じてやるものか。どれだけ聞いても、僕が元いた森について教えてくれる子はいなかった。

、、、衣擦れの音がやたらと響いて聞こえる。向こうの人は、ちゃんと僕と同じ見た目をしていた。つまり、僕と同じで、ボロボロだし無理矢理連れてこられたのかもしれない。僕より弱そうなところをみると、同族を連れてくることで僕のご機嫌取りでもするつもりなのかな?手足が2本ずつ、頭の上には、大きな三角耳が2つ。髪は綺麗な青と紫で、目はどうしようもないくらい淀みきった黒色と、光のないどろどろとした蜜色だった。薄汚れたぼろ布みたいな服を着ていて、首には金属の輪っかが嵌っていて、そこには長い鎖がついている。僕の足首に嵌っているのと同じ感じだ。その人は青白い顔をしていて、もう1人の三角耳がついていない黒髪の人のことを酷く怖がっているようだった。嗚呼、あれは確か、僕に毒を飲ませた子供の娘だった。耳がついてない人が、不意にこっちを見る。見ながら口が動いて、怯えた人に何か言っているらしい。そのあと、黒髪の人は、耳がついてる人の鎖を引っ張ってこっちに歩いて来た。僕の目の前まで近づいて、立ち止まって耳がついてる人の背中を強く押した。その人は力が弱いみたいであっさり倒れ、透明な壁を通り抜けて、僕の方に倒れ込んだ。反射的に避けると、顔が床にぶつかる嫌な音がして、黒髪の人は首輪についてる鎖を壁につけて去っていった。揺れた鎖がきゃらりと澄んだ音を立てる。青い髪の人は顔を上げ、僅かに赤くなった顔で僕を拍子抜けしたように眺め、次に僕を睨んで叱りつけるように言った。

「おいガキ、いつからいたのか知らねえが、避けるこたぁねえだろ」

黒に黄色、青紫。この人は、鮮やかだな。ここに置かれてから初めて、壁越しでない色に触れた気がした。壁は白、鎖は金属。楽しくない。それに、僕にこんなに不躾に話しかける人も初めてだ。よくわからないけど頬が赤くなってどくどくと音を立てる。こう言うのを人はなんと言うのだっけ。

、、、確か、胸が躍る、と言うのだった。


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