50 深読み(※沢西春夜視点)
目を見開いたまま動画を止めた。
このくだり……既視感がある。以前どこかで見た漫画か何かで今の状況と似たシーンがあった。
インターネットやスマホ等の発展により情報・娯楽へのアクセスが容易になった昨今、オレでも知っている。ある日突然、付き合っている彼女を奪われたりする例のアレだ……!
この先の展開も……予想できる。まさか自分の身にもあの悪夢が降りかかるなんて思っていなかった。……嘘だ。本当はいつも恐れていた。気が気じゃなかった。明が笑う度に可愛いと思う反面、いつかこんな日が来るんじゃないかと不安が過っていた。
やはり明は岸谷先輩に奪われている? 確定?
事実を知ってしまうのが恐ろしくてマウスを持つ右手が震えている。
ふと音声ファイルが視界に入る。クリックした。
動画の突き付けてくる内容よりもマイルドかもしれない……そう考えて。
音声は雑音が酷かった。多分スマホの録音アプリか何かを使ったのだと思う。それを起動したままのスマホをサブバッグか何かに入れていたようだ。何とか会話を聞き取った。
明と岸谷先輩は内巻先輩を追跡していたらしい。ファミレスを出た二人は暫くしてこんなやり取りを始めた。
「いやいや。待って。まさか? ここに入るの?」
焦っているような声が聞こえる。明だ。
「行こう」
岸谷先輩の落ち着き払った声音も聞こえた。思わず立ち上がってこの場にいない彼女へ訴える。
「明! 入ったらダメだ! 明ーーー!」
「春夜うるさいぞー」
部屋の外から花織に注意された。
うるさいとか、そんな些末な事に気を取られている場合ではない。オレは再び椅子に座り、その後の二人の様子に耳をそばだてた。
よく聞き取れなかった部分もあったがカラオケでは何もなかった……のか? 途中から普段岸谷先輩にまとわり付いている女も乱入してきた様子だったし。
音声は三人がカラオケ店を出た後で終わっている。
……待て。じゃあ動画には何が記録されているんだ?
恐らく、動画は明の家で撮られたものだ。…………音声の録音された時間と動画の撮影された時間の間にある空白の時間が気になる。何かあった可能性も否定できない。
唾を飲み込んだ。喉がごくりと鳴る。
さっき見るのをやめた動画ファイルに視線を移す。震えの酷くなった指でマウスを操作し動画の画面に戻す。続きが再生される。
制服姿の明が画面越しにこちらを見つめてくる。
「春夜君。今日はごめんね。いつもありがとう。私……春夜君の事、大好きだよ」
彼女が照れたように俯いた時、ドアがノックされる音が聞こえた。画面の中の明は慌てた様子でこちらに近付いてきた。そこで動画は途切れた。
「明? え? それだけ? 明! 明ーーー!」
「春夜うるさいぞー」
部屋の外からの声は無視する。立ち上がって机に左手をついた姿勢のまま右手親指の爪を噛んだ。
彼女からのメッセージは嬉しい。永久保存するのは確定しているけど、真相については語られていない。ドアをノックしたのが岸谷先輩だという可能性がゼロだとは言えない。
想像は深まるばかりで寝不足になった。




