悪魔的誤算
リリスシリーズです。知らなくても読めます
雪のような白い肌、血のように赤い唇、黒曜石のような黒髪、儚い見た目の美少女・ブランシェは非常に困っていた
(どうしよう…王子が男爵令嬢に心奪われてしまった)
内心動揺しながらも、ブランシェは周りの令嬢に美しい微笑みを浮かべながら談笑した
一方ブランシェ付きのメイドのマリアは遠くの方からブランシェの慌てぶりに、くすくす笑っていた
「貴方も大変ね」
「ブランシェ様のこと?」
「えぇ、噂で聞いたけど、最近王子が相手しなくてメイドに八つ当たりしているんですって?」
(…まぁ、八つ当たりされてるわね…昨日は二人程怒られてからクッションが二つ程犠牲になったわ)
苦笑いするマリアに他のメイド達は事実だと確信したのか、次々と同情する振りをしながらブランシェの噂や流行りの噂を話した
「それで、今度の王国記念日のパーティーに婚約破棄の予定を立てているんですって!」
「王子も酷いわねぇ…そんなことされたらどんな令嬢も二度と屋敷から出れなくなってしまうわ」
「それが狙いなんじゃない?いくら性格の悪い令嬢ブランシェだってそんなことされたら変態の後妻にしかなれないわぁ」
くすくすと笑うメイド達にマリアは全員の顔と名前、何処の屋敷の者かを覚え、くだらない会話を続けた
「ホントにムカつく!何なの!?王子はあんな男爵令嬢が好みなの!?信じられない」
「お嬢様が上手く振る舞えなかったのが原因だと子爵様が申し上げてましたが」
「五月蝿い!大体マリアはどっちの味方なの!?」
「勿論、お嬢様ですよ」
全く気持ちのこもってない、むしろくすくすと馬鹿にした笑いをしながらマリアはブランシェの八つ当たりを受けていた
パーティー当日、第一王子は結局ブランシェのエスコートやドレス等の贈り物はせず、男爵令嬢を伴って会場に入った
その姿を見た者達は、驚愕、軽蔑、失笑した
後から入って来たブランシェは水色のドレスを着て、一人会場入りした
(ホントにムカつく…なんでアタシがこんな目に)
「ブランシェ・レガード!お前は身分を笠に男爵令嬢であるシエラに嫌がらせや暴漢を送り込んだりと、人とは思えないことを数々した!よってこの俺、第一王子であるロイス・ハーヴィットの名において、婚約破棄と極刑を言い渡す」
「…畏まりました、婚約破棄承ります…しかし、何故極刑にされるのか全く分からないのですが…」
「未来の王妃であるシエラを害したからだ!後少し遅ければ、シエラは清いままでなかったかもしれないのだぞ!」
(あー…成る程、まぁ、アタシ的にはそれが良かったんだけど)
首を可愛らしく傾げ尋ねたブランシェに目を奪われた者達は溜め息を軽くつくと、目の前の王子達に敵意むき出しの目で睨んだ
「そもそも、私はシエラ嬢と接点がございません…成績を知ってるものなら分かりますが、私は最上位クラスで彼女は最下位クラス…学園の出身者であればこの意味は容易に分かります」
ブランシェの言葉に親達は声を小さく挙げた
五つのクラスで構成されている学園は、成績順でクラスが決まるのだ
下位二つのクラスは校舎がそもそも異なり、他の三クラスと接点がないのだ
食堂でさえ同じにならないため、下位のクラスが他のクラスと交流を持つには、委員会や倶楽部に所属しなければ不可能だった
そんなことも忘れたのか、王子は側近と共に都合の良い話をし始めた
最終的に側近の一人がブランシェに手をあげ、周りから悲鳴が挙がった
「代々騎士団に入られる家の方が非力な令嬢に手をあげるなんて…ここまで来ると滑稽ですわ」
ブランシェからは出ないような笑みと言葉に周りは驚いたが、彼女の言っていることは正しく、現に当主である伯爵は顔を真っ赤にして怒りで体をぶるぶる震わせていた
今にも人を殺せそうな眼力に、周りの人間は距離を取った
それを負け惜しみと思ったのか、王子達の罵りはまた始まり、遂には剣まで出し始めた
「何をしておる」
「父上!」
国王の登場に皆がひれ伏したが、王子達は喜びの表情を浮かべたまま国王へ体を向けた
あまりにも不敬な行動に頭を下げながらも貴族達は驚いていた
「衛兵、そこの不敬な輩を捕まえろ」
「「「はっ!」」」
「ち、父上!?何故ですか!?離せ!俺は第一王子である」
縄で拘束され無理矢理膝をつかされた五人は、国王の目が冷酷なことに気付き、側近達は若干震えた
「…言いたいことがたくさんあるが、まず公の場では父親であっても陛下と呼ぶこと、自身のことは『私』と言うことをお前は忘れたのか?」
「陛下の命令で決まった婚約を勝手に破棄、婚約者以外の令嬢へ手を出す不貞行為、そして守る対象である令嬢への暴行…挙げたらキリのない罪の数々…あなた方は学園で…今まで何を学んで来たのですか?」
国王と大臣の一人に言われても、五人は反省の色が見られなかった
それに気付いている国王は大きな重い溜め息を吐くと、執行人を呼んだ
「執行人!?ち…陛下!何故私達が刑を受けなければならないのですか!?悪いのはそこの悪女であるブランシェです!」
「馬鹿者、全て調べた結果、ブランシェ嬢が無実で冤罪であることなんて皆が知っている…一部の者達はわざと誇張させたみたいだが…」
全て知っているぞとばかりに視線を向けると、幾つかの家の当主は目をそらした
「ブランシェ嬢に暴行した子息は利き腕を切り落とし後鞭打ち20回、あとは家の判断にする…そして他の令息は速やかに婚約を白紙にし、王子の側近から外した後鞭打ち30回、第一王子は王族籍から除外した後去勢し、そこの令嬢との婚姻届けを速やかに提出させ男爵家に婿養子だ」
「なっ!?陛下!ログスは一生懸命剣の腕を磨いてきたのですよ!利き腕がなくなれば騎士団への道が閉ざされます!」
「当たり前だ、王家に忠誠を誓うものが自身の感情で刃を向けることは許されない…その令息の道が閉ざされたのはお前達の勝手な行動のせい…自業自得だ」
「し、しかし!「陛下、お待たせしました」お、お前は!?」
メイド服を着たマリアが身の丈に合わぬ武器を持って立っていた
マリアがにこやかに優雅な足取りでブランシェの近くに行くと、叩かれて頬が赤くなったブランシェの顔をよく見た
ピクリと眉を動かしたブランシェにマリアはくすくすと笑った後、何事もなかったかのように国王の前へ出た
「処刑する者はどなたでしょうか?」
「そこの罪人の腕一本と全員に鞭打ちだ」
「令嬢に鞭打ちだけ…ですか?国家転覆の罪人にしては軽くありませんか?」
マリアの言葉に悲鳴を挙げたシエラは咄嗟に王子にしがみつこうとしたが、縄で体が動かず、モゾモゾと虫のように動くだけだった
マリアの言葉に国王は第一王子が婿養子になることを伝えたが、マリアは温い処置だと申告した
「シエラ嬢は婚約破棄後、ブランシェ様を娼婦にするつもりだったようですが…それでもこの刑になさるのですか?」
マリアの言葉に何人もの令嬢と夫人が悲鳴を挙げて気絶した
国王もまさかそんなことまで考えていたとは知らなかったようで、直ぐに重い刑に変えた
「では、鞭打ち後は娼婦10年…その後男爵家へ戻るということでよろしいですね?勿論、貴族籍から抜けないようしっかり管理してください」
「勿論です…しかし、10年も持ちますかね?」
「さあ?男爵令嬢がわざわざブランシェ様の為に選んだみたいですし、良い所なんじゃないですか?」
悪魔のような微笑みを浮かべながら、マリアは罪人のもとへ足を進めた
「はぁ…今回も上手くいけると思ったのにぃ~」
「油断したから足元掬われたんですよ」
「珍しいわね、相手の好みの姿で堕とせないなんて」
「その姿、実は第二王子の好みなのよ」
ブランシェはネグリジェ姿でベッドの上でお菓子を食べていた
メイド兼執行人役のマリアと子爵役のマヌエラはブランシェ…ルルの珍しい失態に笑いながら同じくお菓子を摘まんでいた
「あーあ、せっかくリリス様にこの国をプレゼントできると思ったのにー、あのポンコツのせいで計画がパァになったぁ」
「あらあら、じゃあ私がリリス様にプレゼントして誉めてもらおうかしら」
「えー!?ずるーい!マヌエラ~、手ぇ貸してぇ~」
「……教会を味方に付けることぐらいしかできないわよ?」
「十分だよぉ」と半泣きのルルにマヌエラが苦笑いすると、マリアは「ずるいじゃない」と唇を尖らせながらジト目になった
相手の好みに姿を変えることができる悪魔・ルルはブランシェという名で第一王子に近付いたが、その姿は弟の第二王子の好みだったのだ
第二王子はメロメロになっていたが、正反対の好みの第一王子は男爵令嬢にハマってしまった
そのことに気が付かなかったルルは今回の失態をしてしまったのだ
「でもぉ、リリス様はこの姿に可愛いって言ってくれたからぁ…この姿でもう一回頑張る」
「「単純ねぇ…」」
「リリス様ぁー!頑張りますぅ!!」
決意表明した次の日から頑張ったルルが国を堕とし全員に驚かれ、誰も予測できなかったこととして次世代の者達に語り継がれたのは余談である
リリス→ルル達の憧れの悪魔であり、魔王の嫁。現在新しい国で生まれたばかりの次男とイヤイヤ期の長男の育児中
ルル→相手の好みの姿になれる悪魔、今回次男の誕生祝いに国をプレゼントしようとしたら、王子がポンコツで計画がパァになった。その後第二王子に取り入って見事国を獲得。後に伝説として語られるが、本人は自身の失敗談なので不服
マリア→役目の多かったサキュバス。失礼なメイド達は報復のために自分で出向き餌場に送ったが、調教するのも楽しくなって暫くは遊ぶ予定。アホな令嬢は娼婦(魔族達の)になったが、すぐ死にそうだったので、魔法で蘇生しまくって地獄を見せている。実は一番ストレスが蓄積されていて、一番怒ってた。ルルの八つ当たり分は発散しないと割に合わない!
マヌエラ→実はリリス配下の中で一番精神系が得意なサキュバス。あんまり出番なかったけど、実は裏でこそこそ教会を掌握していた。ルルに助けを求められたときは助けるかと思ったが、ルルが自力で国を手に入れたから一番に驚いた
帰った後は、ヤンチャな長男の遊び相手とリリスの補佐として子育てを手伝った