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ミスター・セラピー  作者: Satoru A. Bachman
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第3章 頭なでなで野郎(Ⅰ)

 第3章 頭なでなで野郎(Ⅰ)


 2004年、初夏。

 隼人は中学生になっても人の頭を触ってばかりいた。休み時間になると、自分の席を立ち、周りの生徒たちの頭を触れて回る。隼人がいた桜舞中学校の1年3組の学級委員の浅野洋一の頭に触れた。ラジオが音波を受信するように隼人の頭の中に浅野の記憶、感情、人生の全てが映し出される。彼は汗臭いデブだが、正義感が強く、いい奴だ。問題児が多く、いじめも多い桜舞中学校の学級委員会が運営している“いじめ防衛隊”のリーダーでもある。桜舞町の隣の大宮町で生まれ育った浅野は小学校時代に少年野球をやっていた。今も野球部に入っている。キャッチボールやノックで汗を流す浅野が見える。野球をやっている時間は充実しているようだが、近頃は学校にいるのがつらくなってきている。太っちょの浅野は走ると腹の肉は言うまでもないが、たっぷりついた胸の肉がぽよんぽよんと揺れてしまうから皆から“おっぱい”と呼ばれている。彼はそれを酷く気にしている。隼人は浅野のことを気の毒に思った。だが、その途端に浅野のもう一つの面も見えてきた。夜、自分の部屋でバービー人形の着せ替えをして遊んでいる彼の姿が見えた。にやついた顔で右手にパンティを脱がしたバービーを持って、左手で自分のイチモツに触れている。隼人は浅野の頭から手を放し、

「キモッ、お前はくそったれだ。おっぱい野郎」

と言い、その場を離れた。

今度は隣の席に座っていた田辺千夏の頭に触れた。吊り上がった目つきでキツネのような顔をした彼女の頭の中は、英会話、ピアノ、読書、漢字練習、塾、委員会活動…などと学校生活や勉学のことしか頭に無い。それから、図書委員の彼女は朝読書の時間にいかにして真面目に本を読まない生徒を注意して本を読ますか、先生にチクるか…そんなことしか考えていない。隼人はそんな真面目で堅苦しい女子の存在を疎ましく思った。

「おい、田辺。勉強、勉強、勉強。それから不真面目な奴を注意する…。それだけかよ。お前の人生って、つまんねえだろうな」

隼人は声変わりの最中のかすれた声で田辺を罵ると、

「うるさいな!あっち行け、頭なでなで野郎。気持ち悪いんだよ」

彼女からもバッシングを喰らった。

 次に隼人は、教室の後ろの隅でロッカーや窓際の壁に寄り掛かって仲良くしゃべっている3人組の男子たちのところへ近寄っていった。清野信也と杉田知宏とエド・ケリーだ。今年、カナダから日本に引っ越してきた赤毛のエドの頭にそっと触った。彼の故郷であるトロントのダウンタウンのビル群やトロントアイランドのサイクリングコースが見えた。彼の恋人はラレーのマウンテンバイクであり、日本に来た今でも乗り回している。故郷を恋しがっているエドの頭から手を放すと、今度は清野信也の頭に触れた。その直後に隼人の頭の中に見えてきたのは1年2組の生徒である川島優香の顔だった。川島の笑顔、怒った顔、悲しそうな顔、ふざけた顔、信也は彼女の表情全てが大好きで、小学校時代から猛烈に恋をしている。彼女のスカートの中のパンツは何色かな、きっと真っ白に決まっている。そして牛乳石鹸のような香りがするに違いない。なんてスケベなことを考えて、漫画の世界であれば鼻血を噴き出すほどに興奮している信也の感情が見えた。

「おい、人の頭べたべた触んなよ」

信也はそう言って隼人の手を振り払った。





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