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アンラッキーセブン

作者: 梶野カメムシ




 十年前。夏の甲子園、決勝。

 横浜対神戸の試合は、2対1で横浜リード。

 だが7回裏、2(アウト)を奪うも走者(ランナー)は一、三塁。

 打席には四番の幕型(まくがた)を迎えた。

 対する横浜、投手は七星(ななほし)。超高校級の落下球(フォーク)を持つ野生児。

 小中学までバッテリーを組んだ二人だ。


 七星の投球は、鬼気迫るものだった。

 たて続けに2ストライク。最後は渾身のフォーク。

 幕型は振り(スイング)を止めたが、跳ね球を捕手が抑えて、審判は空振り三振を宣言。

 七星の雄叫びに、甲子園は沸騰した。


 横浜ナインがベンチへ向かう中、幕型に声をかける七星。

 最後に中指を突き立て、引き上げる。

 悪夢は、その直後に起こった。

 残塁した走者(ランナー)が、内野(ダイヤモンド)を周ったのだ。

 続く幕型が、平然と生還(ホームイン)する。呆然とする横浜ベンチの前で。

 振り逃げだった。


 振り逃げ成立の条件は、捕手の後逸ではない。

 3ストライク目で正しく捕球できなかった場合。跳ね球もこれに含まれる。

 幕型と神戸はこれに気付き、七星と横浜は気付かなかった。

 逆転した神戸はそのまま優勝、甲子園は沸きに沸いた。

 後に《魔の7回(アンラッキーセブン)》と呼ばれる、夏の珍事である。

 


「懐かしい映像、いかがでしたか? 七星選手」

 スタジオのオレは、苦笑いを浮かべた。

 日本のTVは相変わらずクソだな。

 WBCのため、一時帰国したことを軽く後悔する。

「今はメジャーで《七回登板の悪魔(アンラッキーセブン)》と呼ばれて、人気ですよね」

 その悪名を(くつがえ)すのが、どれだけ大変だったことか。

「あの時、幕型選手とはどんな話を?」

「ざまあみろ」だよ。

 天才のオレとID野球の幕型。最強だが最悪のバッテリーだった。

 やっとあいつに勝てたと思ったら、あのザマだ。

 涼しい顔で振り逃げしやがって。

 あいつこそアンラッキーセブンだ。

 顔も見たくねえから、メジャーに行ったんだ。


「その幕型選手ですが、WBC電撃参戦だとか」 

 おい。初耳だぞ。

「ここで幕型選手、ご登場です!」

 おい待て、おいっ!


 時計の針が、7時7分7秒を指した。



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