作戦
その夜。アメリアは少し改良をすると言って実験室に篭ってしまったので、厨房を借りて俺が夕飯を作ることに。
ちなみに、黒装束の実験の後、俺はあのワイヤーの扱いを練習していた。(グラップルというらしい)
最初こそ難しかったが、慣れてしまえば案外簡単だった。両腕のグラップルを使って建物の上を飛び回るのは中々に楽しかった。事故らないようにだけ気をつけねば。
やがて夕食も完成したので、アメリアを呼び戻し食事を摂った。ちなみに作ったのは俺。“店を出した方が良いんじゃないか”と言われるくらいには大絶賛だった。
俺が家を飛び出してからは全部自分で作ってたからな。気付いたら上手くなってた節はある。
俺は二階の適当な部屋を借りて、そこで眠りについた。ちなみに、三階は完全に使っていない倉庫らしい。
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翌朝。
支度を済ませて部屋から出るも、まだアメリアは起きていないようだったので、何となくランニングをする。
軽く辺りを一周し終えたところで酒場に戻ってきたのだが、アメリアはが起きてくる気配はない。
仕方がないので、まだ少し埃っぽい酒場の中を掃除していると、寝癖をたっぷりとつけたアメリアが起きてきた。
「ふわぁ〜ぁ。おはよう、レイ」
「おはようの大遅刻だな。そろそろ昼になるぞ?」
「昨夜、更に黒装束の改良をしていてね。ちょっとばかし就寝時刻が遅くなってしまったよ」
「どんな風に変わったんだ?」
「実際に見せた方が早いだろう。これを付けてみてくれ」
「マスクだけか?」
「そうだ」
アメリアに渡されたのはハーフマスクのみ。取り敢えず付けてみる。
すると、瞬時に黒装束が現れ、勝手に服が変わった。
「なんだこれ!?」
「そのマスクを付けるだけで瞬時に着替えを完了出来る様にしたのさ。逆にマスクを外すと元の服に戻るよ」
「ほんとだ……」
マスクを外せば、さっきまでの服装に戻った。もう一回付ける。黒装束になる。外すと戻る。もう一回付ける。なんだこれすげぇ。
「あと、手袋については普段から着けていて欲しい。あの手袋にも、ワイヤーを収納する為に空間魔法を使っているんだけれど、そのせいか、空間魔法で転送出来なくてね。見た目ただの手袋だし、いざという時には役立つだろうから。頼む」
「わかった。手袋は普段使いさせてもらう」
手袋あれば剣だことか出来にくそうだし、手も汚れないし。着けてて困ることはないだろう。
「さて。今夜の作戦を説明しようか」
「今夜?」
「あれ、言ってなかったっけ。王女誘拐作戦の第一段階の実行日は、今日だ」
「いや聞いてないんですけど。あと第一段階って?」
「そう。まずはメルティーナ王女に、私たちが味方であることを伝える必要がある。まずは便箋で、接触を図るよ」
「便箋つったって、誰が届けるんだ?」
「そりゃぁ当然君だろう」
「ですよねー」
「まぁまぁ。一応私の想定している流れを伝えておこう」
アメリアは、ダボッとした白衣の袖から、巨大な地図を取り出した。
「いや明らかにおかしいサイズのもん出てきたんだけど!? その袖どうなってんだ」
「私は空間魔法が得意だからね。白衣の袖を改造してアイテムボックス化させる、なんて訳ないのさ。さて、私の想定している流れを伝えようか」
アメリアによれば、王城への侵入は案外簡単らしい。
と言うのも、王城には侵入者を阻む強力な結界があるらしく、それにかまけて警備兵の数を少なくしているらしい。王族を除き、その結界は一部の人物だけが通ることができるらしい。
「それは、王族と共に暴政を敷く貴族の血筋の者だ」
「……なるほどな」
思い出したくもないが、俺は忌まわしきブルーバード家の血を引いている。だから問題なく結界をすり抜けられるってことか……皮肉な話だな。
「気分を損ねたなら謝ろう。だが、今はそのアドバンテージを利用しない手は無いさ」
まず、警備が最も手薄な、王城の裏門側から結界を越える。グラップルを使って屋上へ登り、屋根伝いにメルティーナ王女の私室の真上まで向かう。
次に、屋根にグラップルを刺したまま降り、王女の部屋の窓からアメリアお手製の便箋を投げ入れ、その日は終わり。同じルートで拠点へ帰る。
「何となくだけどわかった。で、その便箋はもう用意してあるのか?」
「もちろんさ。ほら、これだよ」
またもや袖から、アメリアは綺麗に封をされた便箋を取り出した。
「ちなみにどんな内容だ?」
「そうだね……『我々はこの暴政に反旗を翻す』的な感じだよ」
「なるほど」
なんか我々って聞くと組織っぽいが、構成員はたったの2名。王女様もガッカリすること請け負いだ。
「そういえばさっき第一段階、って言ってたが、その後はどうするんだ?」
「この便箋には、『3日後、同じ時刻よりお迎えに参ります。その時に返事を頂きたく』って書いてあるからね。3日後の夜にもう一回レイに行ってもらって、仲間に引き入れる」
「結局俺なのね……にしても、メルティーナ王女がその話に乗らないって可能性はあるんじゃないのか?」
「私は自分の腕を信じている。もちろん、手紙に書く言葉選びもね」
俺は一抹の不安を覚えつつも、夜を待つのだった……