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出会い

お久しぶりです。

創作活動再開です。

 英雄に憧れる少年がいた。


 少年の名は、レイ=ブルーバード。自分の先祖が偉大な英雄だった事を知り、栄光ある血筋に生まれたのだと、誇りを持っていた。


 しかし、あまりに残酷な現実は、彼の理想に牙を剥く。


 15歳になった彼が知ったのは、国全体を取り巻く、暴政の嵐だった。


 彼の生まれたブルーバード家は、二百年前の魔神戦争で、救世の英雄となった家柄である。


 そして今は、過去の栄光を盾に、権力を傘にきた暴虐な振る舞いで、民衆からも疎まれる、最悪な貴族へと成り果てていた。


「うっ……」


 今自分の着ている服、食べた食べ物、その他自分の持つ物の全てが、民から不当に巻き上げられた、薄汚い金だと思うと、気分が悪くてしょうがなかった。


 彼は決意する。


 義賊となり、このクソみたいな世の中を変えよう、と。


 彼は自宅の宝物庫へ忍び込み、二百年前の英雄と同じ剣を手にとった。


 その時から、貴族の少年は、夜の街で暗躍する義賊へと成り変わった。


 ブルーバード家の証だった青色の髪を魔術で黒く染め上げ、彼は今日も夜闇に紛れて悪を裁く。


 ブルーバード家を含む、暴政を敷く貴族らから財物を奪い、不当な搾取を受ける貧民街の者たちに施す。


 そんな生活を続けていた。


-----


 俺は、貴族から奪った赤い宝石を、いつものように盗品蔵の鑑定屋に出す。そして、貧民街の子供たちにパンを配る。


 そんな生活を続けて半年が経ったが、俺には一つの悩みがあった。


「俺がしてることって、正しいのかな……」


 いくら暴政を敷く貴族からとは言え、盗みによって手に入れた金で暮らしているのだ。


 貧者に施しを与えることで自分が善人だと思い込もうとしているのではないか、と時々悩むようになってしまっていた。


「ただの自己満足なのか……?」


 路地を歩いていると、何かが崩れるような、大きな物音が聞こえた。


「何だ? 今の音」


 路地を曲がり、音のした方へ様子を見に行く。


「助けて!」


 どうやら、老朽化していた建物が崩れ、子供が下敷きになっているようだ。瓦礫の奥から助けを求める声が聞こえる。


「待ってろ、今助けるからな」


 俺は更に倒壊してしまわないように、天井の支えになっている木材を崩さないよう気をつけつつ、瓦礫を退けていく。時には、剣で邪魔な廃材を真っ二つにしながら、瓦礫の山を進む。


 そしてついに、子供が埋まっていた場所まで辿り着くことが出来た。


「おい、大丈夫か!?」

「あ、パンのお兄ちゃん。ありがとう……痛っ」

「足を怪我したのか? 見せてみろ……これは酷いな」


 割れた木材の破片で足を切ったらしく、血がダラダラと出ている。


 まずは止血を試みようと、着ていた服の裾を千切って患部に巻く。しかし、流れ出る血は止まらない。


「くっ、流石にこれだけじゃ足りないか。ポーションを買いに行かなきゃだな……」


 生憎ポーションの類の持ち合わせはない。一番近いポーション屋へのルートを考えていると、不意に女性の声が聞こえた。


「これを飲ませてやれ」

「うわっ、おっとと。これは……ポーションか? 誰か知らんが助かる!」


 その女性はフードを被っており、顔がよく見えない。だが、渡されたのは本物のポーションのようなので、少年に飲ませてやる。


 ポーションを飲んだ少年の足を見れば、布へ滲み出す血は目に見えて止まっていた。


「ふぅ、ひとまずこれで傷口は塞がったみたいだな」

「そのポーションは傷口こそ即座に塞いでくれるが、失われた血は戻せない。無理は控えるべきだね」

「だ、そうだ。帰って安静にしてろ。あと、この辺りは古い建物も多い。あんまり近づくなよ?」

「うん! お兄ちゃんもお姉ちゃんもありがとう!」


 少年は笑顔で去っていった。大事無さそうで何よりだ。次に俺は、フードの人物に向き合った。


「さっきは助かったよ。あのポーション、やけに効くのが早かったが、貴重なものじゃないのか?」

「なに、人助けをするのに出し惜しみする必要は無いだろう? それに、あれくらいならいつでも作れる」

「なるほど。あんたがすげぇ、ってことは分かったよ。俺はレイ。よろしく。あんたは?」

「私はアメリア。レイ、私は君に用があって来たんだ」

「俺に?」

「その通り。ひとまず場所を移そうか。こっちだ」


 フードの少女はアメリアと名乗り、ついてこいと手招きをする。


 俺を探してきたとは、一体どういうわけだ? もしかして、俺が今までに襲撃した貴族どもが送ってきた刺客か?


 でもそれなら、俺があの子どもを助けた時点で襲ってきた筈だ……だが、念の為警戒しながら行こう。


 俺はいつでも抜剣出来るようにしながら、アメリアに続いて路地を進んだ。


「着いたよ。入ってくれ」

「お邪魔します」


 曲がりくねった路地の先、辿り着いたのは、寂れた酒場。やや軋む扉を潜り見渡せば、埃をかぶった大きな机と、椅子が数脚が並ぶのみだった。


「他には誰かいないのか?」

「あぁ。一度潰れた酒場を、私が買い取って使っている。さて、私としてそう警戒されると話もしにくいんだが……」

「悪いな。まだ信用できるか判断しかねるもんで」


 そう答えると、フードの隙間から覗く口元に、困ったような笑みが浮かんだ。


「なるほど。では信用を得る為に色々話をしようか、レイ=ブルーバードくん」

「なっ、どうしてその名を……?」


 俺は反射的に剣の柄に手を添える。しかし彼女は、あっけらかんとした様子で言った。


「私も同じ、というだけさ」


 そこで初めて、アメリアはフードを外した。現れたのは、長い茶髪を持つ少女だった。

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