エセ女王様
俺の彼女はコスプレをするのが趣味で、コスプレをしている間--そのキャラになり切り過ぎて、危ない時がある。
「グハッ!?!!……えっ…?ちょっ--」
「次は何処を打たれたいんだい?ブタ野郎」
今日は女王様か。命の危機は……いやいやっ!痛いじゃんっ!!
鞭振り回してくるし、ってかその服…ボンテージとかいったか?といい、鞭なんか、コスプレする際毎回思うけど、何処で入手するんだ?!
ってか俺、そーゆう趣味はないんですけどっ!?!
「マリアっ、待て!俺はドMじゃ--いだっ!?!!」
ぱああぁーーん!と、俺の肌に鞭が叩き付けられた音が、室内に響き渡る。
「マリアじゃない!マリア“様”、だろ?京」
「っ………申し訳御座いません…マリア様」
今日はいつもよりも荒ぶってる…気がする。
女王様って、いつだったかの特番での、深夜のバラエティ番組での取材を受けた女性達の雰囲気から考えて、こう……
「余裕がない…?」
「!?っ…私を愚弄するというのかっ!!」
「いだっ!?!!」
思いっきり鞭で打たれ、今までの比じゃないぐらいに痛い。其処で、図星を突いたのだと気付く。
…そうだ。テレビに出てた現役の女王様は言っていた。
ドSは、相手の欲しいものを直ぐに見抜き、与える。
ドMは、相手に求めるだけの我儘さん、だって…。
マリアの場合、俺の事を考えずに、感情の侭に鞭をぶつけてくるだけだ。
コスプレする時、そのキャラになり切ろうとする彼女は、徹底的に調べ上げ、そのキャラを演じようとする。
しかし現在の彼女は如何だろう?
--全然、なり切ろうという気持ちが感じられない。
「……マリア様。お願いがあるんですけど、宜しいでしょうか?」
「…なんだ?ブタや--!?なにをするっ!ヤメろっ!!」
マリアの表情が判らない為、取り敢えずその海外の作品とかに出てきそうな、仮面パーティーとかで参加者の一人に必ず付けてそうな蝶の仮面を外す。
仮面から現れたマリアの顔は、目を伏せて、俺と目を合わせない様にしていた。
「………なんで、こんな事したの?」
「っ……」
………ダンマリですか。
「マリア“ちゃん”」
「!」
俺とマリアは、五歳ぐらい歳が離れているのだが、その年齢差がマリアにとっては離れ過ぎているらしく、子供扱いされる事を酷く嫌う。だから俺は、普段マリアの事を子供扱いしてないアピールに、「ちゃん」付けで呼ばない様にしているのだが…。
俺の意図に気付いたマリアが、ハッとした様に此方へと視線を向ける。
漸く目が合った彼女の瞳の奥には、怒りの炎と…此方を不安そうに見つめていた。
「っ……」
「言いたい事があるなら、言わなきゃ分からないよ?」
「……………。」
「……はあぁ…」
如何やって彼女が不満なのか尋ねようか…、と考えあぐねいていると、リョウちゃんにキスしてる所を見たの、と、ちゃんと耳を澄ませていなきゃ聞こえないぐらいに小さな声でそう言われ、なんの事か解らず、えっ?と聞き返す。
それにマリアは怖い顔になって、
「えっ?じゃないわよっ!男同士でキスするなんて!!私という者がありながらっ!!!」
と言葉 羅列に言い放った。
……………ってか、ちょっと待て!
リョウちゃんって…先輩の事だよな?
俺と先輩がキスううぅっっ!?!!
まず現段階に置いて、俺の恋愛対象者は、異性--つまり女だけだ。そして、仮に俺が男も恋愛対象に入っていたとしても、先輩だけは来世に出逢ったとしてもお断りである。
好きだし憧れの先輩ではあるが、恋愛の好きに入れてしまうと、現在みたいな好きの感情には戻れない気がするからだ。
だからこそ、先輩と男同士のじゃれ合いにしては、少々行き過ぎなキスをしたというやり取りに、俺は本当にそんな事をしたのか?という疑問を抱く。
「……それ……いつ?」
取り敢えず、全く身に覚えのない…しかし、見たと証言するマリアに身の潔白を晴らすには、彼女からの目撃情報が必要だ。
動揺してる己を悟らせない様に、冷静を装って、淡々とした口調で問うと、マリアは暫しの間を置いて、重い口を開いた。
「一週間前。……ほら。リョウちゃんと京君、飲みに行った日………本当に覚えてないの?」
ジッと、不安そうに見つめ訊いてくるマリアに、記憶が少しずつだが思い起こされた。
そうだ--あの日、俺は先輩と居酒屋に繰り出し、仕事の事やお互いの近況報告などの雑談に花を咲かせ、飲んでいた。
それでその晩、俺も先輩も酷く酔ってて、普段なら先輩の軽いものから重い内容の本気か冗談か判らないボケを上手くツッコミを入れてた俺は、その時は不在で…。
まあ、その場の雰囲気を悪くするのもアレかなぁと、普段ならツッコミを入れながら断る様な事を今回はせず、悪ノリに合わせて付き合っていた。それで--
「あ"あああぁ"っ!?!!」
………思い出した。
めちゃくちゃ忘れたかった事なのに、記憶の底でずっと眠ってればイイものを……。サーっと身体中のありとあらゆる血液が地面に溜まったみたいな感覚に陥る。
冗談とはいえ、確かに俺は先輩にキスをした--先輩の頬に。
流石に唇は彼女への裏切り行為だからと、酔って上手く回らない思考ながらに断って、先輩との友好関係の証を示す為にやった。
まさかアレをマリアに目撃されていたとは……。
ってかここ最近、先輩が俺を変に避ける感じで、仕事がし辛いなぁと思う様になっていたのって--
「京君?顔色悪いけど、大丈--きゃっ!?!えっ?!京君!?」
俺は、マリアの肩を両手で掴むと、
「マリア……頼むっ!!俺と今から先輩に会って、俺とマリアの愛を見せつけるのに協力してくれッッ!!!」
と頼んだ。
先輩との関係を壊したくはない。だが、告白をされてるわけでもないのに、断るのも不自然だし角が立つ。
なら、如何すればイイのか考えて、先輩とは現在の関係が理想なんですと伝える方法は、俺とマリアの仲が良いのを見せつけるしかないと考えた。
…ってか、もうそれしか思い付かない。
「………リョウちゃんとの……浮気じゃないのね?」
「っ……あっ…当たり前だろっ!?ってか俺は、マリアちゃん一筋なんですけどッ!?!!」
勢い余って、歯の浮く台詞を吐いたが、マリアに愛の言葉を囁いて安心させる事が出来るなら、男のプライドの一つや二つ傷付いたって…と思いながらマリアを見るも、彼女は照れた様に頬を染めて嬉しそう--ではなく、何処か納得の言ってない様な顔だった。
「………その“ちゃん”付けはヤメて!」
「……………。」
………なんだよ。こっちは、勢いとはいえ、一世一代の--と思った処ではたと気付く。
俺はマリアの肩を掴んだ侭彼女を回れ右で半回転させ此方に背を向けさせると、その侭歩き出す。
「!?っ…ちょっ、京ちゃん?!押さないでよっ!ね--きゃっ!?!!」
お泊まりなどで気付けば沢山持ち込まれ、その侭置かれているマリアの私物が眠る部屋の前まで彼女を連れていくと、その部屋へとマリアを押し込め、と同時に部屋の戸を閉めた。
「京ちゃん!?」
「取り敢えず着替えて。その格好じゃ、先輩に会わせられないから」
「………」
戸越しのマリアは多分、納得がいかない、と言いたそうな顔だろうなぁ。俺が逆の立場だったとしても、マリアと同じ反応だと思う。
だが素直なマリアは、渋々といった感じだろう。
暫くしてから布が擦れる音に、着替えてる…良かった…とホッと胸を撫で下ろした。
--子供扱いしないと、俺の理性が保たない事もあるんだよ…
マリアが着替える隔てた戸へと背を預け、ふうぅ…と深呼吸をして、頭を冷静にさせていく。
取り敢えず理性を働かせる為に、先輩の頬にキスした時の事を思い出すと、--熱が引いていくのを感じた。
完
後書き
ラストは、誤解が解けて仲直りしてからの、京くん優位の甘々オチになる予定でした!
なのに何故、こんなふざけたオチになったかというと……
こっちの方が面白いし、現実な男性ならこっちの反応が多いかなぁと考え、こーゆうオチになりました!((←⁉️
昔、深夜の番組だったかな?に登場した女王様が、カレーの食べ方でSとMを見分けてるという持論を語ってて、あれが未だに衝撃的で、何処かで話にしたかったので形に出来て良かったです(〃ω〃)
それから、、
完っ全に、趣味に走りました!同人垢で書こうと思ってたやつだからかな??(´ω`)
何処かで、同人垢であげたこーゆう系の話を、オリジナル作品用に仕立て直したいなぁ…
ある話、めちゃくちゃ気に入ってるので(`・ω・´)
子供が誤って読んでも、少しだけでも笑えたらいいなぁとか、こーゆう大人にならない様に気を付けよう!って反面教師代わりになる様なの描けてたら、超絶嬉しいです(*≧∀≦*)