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侍女にスパイをやらせたら  作者: 伊賀海栗
侍女、戦う

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第27話 真の目的



「疲れたし、休憩がてら昼飯にすっか」


「この状況で食欲が出るのはアルだけだと思うけれどね」


「慣れろよ」


 結局、メンバーは倒れたアンフィフテレの体の横で簡単な食事をとった。

 魔力が枯渇しかけたクラウディアと、これから沼の浄化をしなければならないプリメラには、魔力回復のための休憩が必要だったからだ。


 今まで、倒した魔物の素材の確保は面倒だと何もせずに来たが、ドラゴン族ともなれば話は変わる。

 食事を終えた者から順に、アルベールの指示のもと希少性の高い部位を中心に解体を始めた。

 アルベールとルシアンが剥ぎ取った素材をポールクレルが洗って、エヴァが革袋へと詰め込むという流れ作業だ。



「遠征のときに一番守らねぇとならねぇのは青魔法持ちだから、覚えとけよ」


「えっなんでですか?」


 皮を剥ぎながらこぼしたアルベールの言葉に、プリメラが反応する。


「アル、私を水筒扱いするのはやめてくれないか」


「喉が渇いても、飯を作るにも、患部を洗うのも、風呂も、それに解体作業だって、青さえいれば困らねぇ」


 確かにな、と思う一方で、一国の王子を水樽のように扱うアルベールの言葉に、ロシュタル国の面々は苦笑いを浮かべるしかない。



「さぁ、もうすぐ沼だ。湧いてくる魔物のほとんどは騎士団がどうにかするはずだが、もちろん油断はできない。プリメラが沼を浄化し終えるまで、どうかよろしく頼む」


 荷物をまとめ、立ち上がった面々に、ルシアンが改めて深々と頭を下げた。

 木々の間から差した光が、コルクに似たダークブロンドの髪をキラと輝かせる。





 ◇ ◇ ◇





「アル、左からジャッカルクローが! 殿下、右からメメトカエルです!」


 三か所にキャンプを張る騎士団の目を避けて、最も騎士団の目が届いていない場所へ向かったのが、ある意味では間違いだった。

 騎士団の手から逃れた魔物が多く集まっているのだ。


 プリメラは到着してすぐに瘴気沼の浄化を始め、少しずつ浄化の範囲を広げている。

 ルシアンは最初こそ防御をクラウディアに任せて、接近した魔物の討伐を請け負っていたが、クラウディアの魔力が再度枯渇しかけたことで、防御中心の動きへ切り替えた。


 エヴァは近くに自生する植物の助けを借りながら、どうにか魔物の接近を感知してはいるが、終わりの見えない戦闘の連続に、アルベールでさえ表情が険しくなっていることに不安を抱き始めた。



 離れた場所にいる騎士団も、沼が少しずつ浄化されていくことに気づいたのか俄かに活気づいたような声が聞こえてきた。

 国がどのような方針でマテュール領へ騎士を派遣していようと、現場で働く彼らはやはり早々に片付けて王都へ帰りたいというのが本音だったのだろう。



「くそっ……きりがねぇな」


「ああ。でも見てごらん、アル。浄化はあと一歩のところまできているようだよ」


 黒々とした色がどんどんと薄くなって、ポコポコと粘度を持って弾けていた気泡が減って行く。

 プリメラは魔力が乏しくなってきたのか、険しい表情をしてはいるが、集中さえきらさなければこの沼を浄化しきることは可能に見えた。


「ごめんなさい、わたくし、もう……」


「ああ、大丈夫だよ。私もアルも防御なしだって魔物に遅れはとらないからね。君は少し休みながら見ているといい」


 ついにクラウディアが魔力を枯渇させ、その場にへたりと座り込んだ。

 エヴァがそれを抱えて荷馬車(カート)の陰へ運ぶ。


 ポールクレルの言葉は真実ではない。けれども、魔力が完全に枯渇するのは命に関わる問題であり、これ以上クラウディアに無理をさせるわけにはいかないのだ。



『デカイノ、クルヨ』

『うしろからくるー』


「アル! 殿下!」


 植物たちの言葉に、エヴァは背後を振り返りながらアルベールとポールクレルを呼ぶ。

 デカイノ、としか伝えられなかったそれは、エヴァがその目で確認して彼らに報告しなければならない。



「え……。ヤテ……ベオ、こんな大きいなんて」


 振り向いたエヴァの視線の先には、緑と茶色の葉を茂らせた大きな植物がうごめいていた。

 根と思われる部分はタコやイカの足のようにウネウネと動いて、地上を移動している。広げた葉の中心には()のようにも見える花があり、また、粘着質な腺毛(せんもう)を持つ伸縮自在の茎を複数踊らせていた。


 エヴァがクラウディアとともに図書室で学んだ「魔物一覧」によれば、ヤテベオの平均的な体高は就学前の子供くらいの大きさのはずだ。

 しかし目の前にいるのは、エヴァの身長と対して変わらないように見えた。



「くそっ! ルシアン、全体に防御壁を張れるかっ!?」


「それをやったら浄化が終わるまで僕の魔力が持たなくなる! そっちに防御をまわすから瞬殺してくれ!」


 食人種であるヤテベオの厄介なところは、中心の唇から捕食対象を溶かす毒液をまき散らすだけでなく、伸ばした茎の先にある腺毛からも消化液を噴出するのだ。


 アンフィフテレとの戦闘のときのように、ポールクレルの放つ水で対処できるのは唇のほうだけになる。茎のほうは触れないようにするか、防御するしかない。



 アルベールが愛剣に炎をまとわせながらヤテベオと対峙する。

 ポールクレルは伸びてきた茎を剣で切りつけながら、中央の唇から発される毒液を吹き飛ばす。


 植物系のモンスターは炎属性の魔法に弱いのは不幸中の幸いといえるだろう。

 燃え盛る剣を振り上げたアルベールの背中を見つめ、また祈ることしかできなくなったエヴァが胸の前で手を組んだとき、ぞわり、と背中を冷たいものが走った。



『『『クルクルクルクルクルクル』』』



 植物たちが一斉に警戒の声をあげる。


「何が来るのっ」



『『『ワイバーン』』』


「なっ――! ワイバーンが来るって!」


 エヴァが叫びながら空を見上げる。

 ワイバーンはドラゴン族だ。ドラゴン族の中では平均的な強さとはいえ、アンフィフテレよりも上位の種になる。

 都合よくまた翼が傷ついている、ということもないだろう。


 きょろきょろと視線を彷徨わせたが、それが沼のほうから飛来するのが見え、エヴァは全身から血が引いていくような気がした。


「沼から来る! プリメラ様が!」


 慌ててチームメンバーの状況を確認する。

 アルベールはヤテベオに切りつけたところだが、絶命させるには至っていない。

 ポールクレルは、切り付けられたことによって無秩序に動くヤテベオの茎から、自身とアルベールを守るように剣を振るっている。


 ルシアンは現在戦闘中のふたりに防御壁を張ることで手一杯だ。

 つまり、浄化中のプリメラを守れるのはエヴァの――身体しかない。


 ほんの少しの時間で構わない。アルベールがワイバーンと対峙できるまでの時間を、ルシアンがプリメラにバリアを回せるようになるだけの時間を稼げれば。

 浄化はあと一歩なのだ。ここで途切れさせるわけにはいかないではないか。



 エヴァは、ほとんど反射的に走り出してプリメラの前に立つ。

 ワイバーンがどこに攻撃を仕掛けるかはわからない。けれども今最も優先して守るべきはプリメラなのだ。


「エヴァっ!」


 プリメラの前に立って両腕を大きく広げる。狙うなら、自分にせよと見せつけるように。

 名前を呼ぶアルベールとクラウディアの声が追いかけてくる。視界のワイバーンはみるみるうちにその姿を大きくさせ、あっという間に眼前まで迫っていた。



 ぎゅっと強く瞼を閉じる。

 ワイバーンは大きな翼を持ち、鷲のような足と蛇そっくりの尾を持っていると本に書いてあった。その大きな口からは、火を吹くのだとも。


 最初の攻撃はなんだろう。炎のブレスだろうか。それとも鷲が餌になる小動物を捕獲する如く、その足で掴み上げられるだろうか?


「まだかよっ」


 すぐそばでルシアンが叫ぶ。

 ああ、アルベールはまだ手間取っているのか、怪我はしていないだろうかと不安がエヴァの心をよぎる。



 沼の方から強い風を感じ、それがワイバーンの翼が引き起こす風圧なのだと気づいたとき、エヴァの体を温かいものが包んだ。


「ばかっ!」


 耳元で叫ぶ声に驚いてエヴァが目を開くと、ちょうどワイバーンの吹く炎が襲い掛かり、そして――エヴァを抱き締めていたクラウディアが倒れた。

 ほとんど残っていない魔力を振り絞って、全体に防御壁を張ったのだ。


「お嬢様っ!!」


 意識を失ったクラウディアを抱きとめてしゃがみ込んだエヴァの両脇に、アルベールとポールクレルが走り込んでくる。


 そして目の前に広がる沼が、美しい湖へと生まれ変わった――。



ついに浄化完了しました。

やればできるものですね!!


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お読みいただきありがとうございます
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i000000
― 新着の感想 ―
[一言] ふおおおお、メッチャ熱い展開!!!! でも、お嬢様がああああ!!!!
[良い点] おお……手に汗握った……。 良かった……安心あんし……あ、ダメだまだ安心しちゃダメだった。 どうなるのか、どきどき待機!!
感想一覧
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