記憶と意識の旅
その時私は白いモヤがかかった世界で目の前にいる青年に話しかけていた。
「今日は私の誕生日!何歳になるか知りたい?」
その問いに目の前にいる青年が困ったように答える。
「うーん、わからないな…でも君はだいぶ成長したよね」
私は彼をよく知っている。
だけれども私は彼が誰だかわからない。
「むー、仕方ないなあ。私は7歳になったの!大人でしょ、へへーん!」
私が仲良く話しているこの青年はいったい誰なのだろうか。彼の身長は私よりうんと高く私の考えていることすべてを見透かしているような、それゆえにこの世の悲しみや不幸全てを見てきたかのような目をしていた。
「今日で7歳か。なら次
会えるのは10年後の誕生日の時だね。その時また迎えに来るから…」
青年は悲しそうな名残惜しそうな顔をしてそのまま去っていった。
待って…!
私は何度も彼に向って呼びかけたけどまるで私の口が私の言うことを聞かないみたいに彼には私の言葉が届かなかった。
今でも私は、彼がどうしてそのあと私に会いに来てくれなかったのかわからない。
そんな不確かな彼に対してずっと会いたい、ただその一つの感情をもってここまで生きてきた。本当に彼は存在するのだろうか?もしかしたら私のイマジナリーフレンドだったのではないだろうか?そんなことすら思っていた。
青年が私の前から去っていった瞬間私の目の前の景色が変わる。
私は青年との最後の会話をよく夢に見ていた。だからどうせ景色が急に変わったのも夢が覚めてこのつまらない現実に戻ってきてしまったんだろうと思った。
しかしここは現実とは思えない現実だった。
気が付くと私は風を感じながら重力に逆らえないまま空を飛んでいた。
ああ、風が気持ちいい。
そこで私はすべてを思い出した。
「そうか、私にとって一番の思い出は存在すらわからない彼との会話だったんだね…ふふ」
私はこれで自由になれるのだろうか?自由への扉を開くことができたのだろうか?
今空を舞っている私は10年前のことを夢に見ていたようだ。
そう、私は今日17歳の誕生日を迎えた。
「あの人、いったい誰だったんだろう…もう確認する手段はないけどね。」
これ以上年を取ることはないだろう。だって私は…
「今ビルの屋上から飛び降りたんだから…」
再び私の意識は深く深く沈んでいった。