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5話

※注 未成年の飲酒の描写があります。

エリザベスさんとまともに目を合わせられなくなりながら別れ、自室に戻る。問題を先送りにしただけ、という気もするが一応はどうするか、目処が立った。俺は横になり、目を閉じる。昨日、一睡もできなかったこともあり、眠気が襲い、眠りについた。


翌日、朝食の最中、エリザベスさんが訪ねてきた。そして、俺達を城下町に誘う。確かに興味はあるが、良いのだろうか?

聞くと、遠征の準備は大体終わっているらしく、今日は明日の出発に合わせ、休息をとるらしい。

それで、俺達にこの町を案内したいそうだ。俺達はその提案を受け入れ、全員で出かけることにした。


1日で全てを見て回るのは不可能であるため、王都内の名所などを案内してもらうことになった。

まず俺達が向かったのは商店や出店やらが並ぶ王城北から城壁まで続く大通りの一つだった。

この国の王都、バーキンという名前のこの都市は、中心に城壁に囲まれた城があり、城と東西南北にある4つの門をつなぐ大通りが十字にはしっているそうだ。


大通りには大量の店が並んでいる。串焼きなどの食べ物から布や壺などまで、多くの品物があった。

地元でみた縁日やバザーを思い出す。

皆で品物を見ながら歩く。地球では見たことがないような色合いが独特の布、聞いたことがない動物の肉など俺達は目を奪われる。


俺が鉄板の上で焼かれている肉を見ていると、エリザベスさんが話しかけてきた。


「よろしければ召し上がりますか」

「え?いや、でも、お金とかないですし……」

「いえ、大丈夫ですよ。私の方でお支払いしますから」

「さ、さすがにエリザベスさんに奢ってもらう訳には……」

「構いませんよ。それに、ユキトさん達に我が国の物を是非召し上がってもらいたいのです」

「ううん、それなら、いや、でも」

「勿論、お嫌なら構いませんよ」

そう言った彼女は寂しそうな顔をしている。


「…………えっと、じゃあ、お言葉に甘えて、あの屋台の物をお願いします」

俺がそう言うと彼女はパッと明るく笑った。

俺も微笑み返す。


「うん?東郷、お前、リズのこと名前で読んでたっけか?」

先生が声をかけてきた。なお、俺がエリザベスさん、と名前で呼ぶようになったのは最近だが、先生や他の皆は結構前から名前で呼んでいる。


「はい。ユキトさんに以前、名前で呼んでほしい、と私からお願いしたことを快く受け入れてくれました」

「ふうん、そうか」

先生はそう言って笑うと、俺に身を寄せ、ボソッと呟いた。

「おい、テメェ、まさかリズに手ェ出してねぇよなァ」


俺は噴き出す。

「!!!ケホ、ケホ……………そ、そんなこと、しませんよ!」

「本当かァ?」

「ほ、本当です!」

「…………まぁ、東郷がそこまで言うんだ。なら大丈夫か」

ホッとする俺であった。


この国の貨幣は紙幣である。神の使い、異世界人が伝えたらしい。だが、硬貨もなくなった訳ではない。

紙幣を普段は持ち歩いて、何かしら高額の取引をするときなどは硬貨を使うらしい。

紙幣にはレイン糸という素材が使われており、この素材は魔力に触れると虹色に光るそうだ。レイン糸はとあるモンスターから採れ、そのモンスターは強力で採取の難易度が高く、さらに加工の難易度も高いため、偽造防止にもなるそうだ。


なお、単価はソルで、1、5、10、50、100までのお札と1000、5000、10000までの硬貨がある様だ。

それで一般の人なら月に1、2万ほど稼ぐらしい。


先生との話の後、俺が見ていた、焼き肉を買ってもらった。なお、30ソルだった。

それは木の器に盛られ、出された。

これまた木でできたフォークで塩と胡椒だけのシンプルな味付けの肉をとり、口に運ぶ。


……うん、美味い。これは何の肉なんだろうか。

今まで食べたことがないと感じる肉だった。塩と胡椒だけの味付けだったが、それでも十二分に美味いと思った。


「ユキトさん、それはガラスネークの肉です」

ガラスネークがどんな生物かは分からないが、スネークというからには蛇っぽい生物なのだろう。


ゴクンっ!驚いた俺は肉の塊を思い切り飲み込んでしまった。慌てて俺は胸を叩く。そうしていると、エリザベスさんが木でできたコップを差し出してくれた。


俺はそれを受け取り、一気に飲む。うん?おかしな味がする。

エリザベスさんに聞いてみると彼女は近くの屋台を指さし、その店のエールだといった。

俺はあまり詳しくはないが、確か、エールはビールの一種だったはずだ。つまり、酒類である。

なるほど、だんだん体がポカポカ暖まってきたのはそれが原因か。


俺は屋台の中年男性にコップを返した。だが、その動作も億劫で少しふらついていた。

うーん、俺は案外アルコールに弱いのだろうか。


「ユキくん~大丈夫~?」

奏先輩はそう言うと俺に手を翳した。

「ヒール~」奏先輩の掌が光る。

すると、頭や体が冷めたように感じた。奏先輩はどうやら、治癒の魔術をかけてくれたみたいだ。……治癒は、アルコールにも効くのか。

奏先輩にお礼を言った。


皆にも何かを買わせて欲しい、と話すエリザベスさん。

すると、俺と同じ様に最初は断ろうとしていたが、最終的には受け入れていた。

そして、今は楽しそうに見て回っている。


木下と奏先輩は髪飾りを選んだ。木下は濁った白、オフホワイトで良いのだろうか?そんな色合いの花に似た髪飾りを、奏先輩は薄いピンク色合いの羽根に似た髪飾りをそれぞれ買い、既につけている。


エリザベスさんが案内したい店がある、と話す。大通りを一通り回った後、向かうことになった。

そして、その店に着いた。着いたが…………その外観は全体的にどぎつい真っピンクの、おそらく地球で見かけても絶対に入らないであろう、そんな怪しい店だった。


その店には多くの客がいた。結構繁盛しているようだ。

エリザベスさんがこの店のことを話す。

ドーナ服飾店というらしいこの店は、バーキン随一の品揃えを誇る服飾店であるそうだ。そして、ここは歴代の神の使いから伝えられた服や装飾品を数多く揃えている有名店なんだとか。


しかし、それでもこの外観はないだろう…………。

皆を見ると俺と似た様な表情をしていた。まあ、奏先輩はいつも通り微笑んでいて、感情は読めなかったが。

覚悟を決め、全員で中に入った。


店内は外観に反し、服やアクセサリーなどが所狭しと並んでいて、一見普通の店に見えた。だが、やはりあの外観は気になる。

警戒しながら近くにあった服を手に取る。

はたして、手に取ったものは………ゆったりとしたズボンだった。

裏を見たり、手触りを確かめる。

うん、ちゃんとしたズボンだ。


他の商品もいくつか見てみるが、どうやらちゃんとした商品ばかりだった。

エリザベスさんの話では価格も比較的安価であるそうだ。

皆も見渡していた。


「ミコトさん。このお店はどうでしょうか」

「そう、ね。私が気になったのはこのベルトかしら」

美琴先輩がいくつかベルトを手に取り、エリザベスさんから話を聞いて選んでいる。

そして、カカワニという名前のワニ革のベルトに決めた。

カカワニという動物は牛と同じぐらいの大きさのワニで、性格は穏やかでその肉が食用に適していることから、家畜として飼われているんだとか。

皮も加工しやすく、流通量も多いため、安価で出回っているそうだ。


うん?東の姿が見えない。

いつの間にか奥に行っていた様だ。奥に行ってみることにする。

すると、今までの商品とは異なるモノがあった。

俺は固まってしまった。


「……………………」

「おい、東郷。東を見なかったか?まあ、アイツはあの背丈だからな、見失ってもおかしくはないが」

「……………………」俺は、それは先生もでは?と一瞬思ったが直ぐに流した。

「東郷?何を見て………………ナア、東郷?」

「…………何ですか、先生」

「あー、アレなんだが……」

「…そうですね、俺にも分かりませんが……どうみても…………」

「ああ、アレは…………バニーガールの衣装だな」

「それ以外だとチャイナドレスにレオタードですかね?」

「あとはきわどいマイクロビキニにブルマ、スクール水着、なんかスケスケの寝巻きモドキとかだな…………コスプレ、か、コレ?」

俺は頷くしかなかった。


そんな俺たちに声をかける存在があった。東の声か?

振り返る俺たち。そして、俺たちはまた固まった。

なぜなら、確かに東がそこにいた。が、しかし、東の格好が変わっていた。

今日、俺は地球で着ていた制服を着てきていた。それは皆も、東も同じだった。

余談だが、常に制服ではなく、訓練するときや寝るときなどは服を借りて着ていた。その借りた服の着心地が悪かった訳ではないが、俺も含めて皆、制服をよく着ている。

数少ない、地球の証であると俺は感じているからなのだが、皆も同じみたいだった。


現在に意識を戻らせる。一瞬、現実逃避をしていた。

東を見る。その東は………………いわゆる、()()()()を着ていたのだ。

やっぱり、現実だった様だ。夢かなにかかと淡く期待していたのだが。

「あー…………東、サン?その、服装は、どうしたんスか」

「どうしたのデス?ユキ先輩。………そ、その、似合っていマスか」

「え?……いや、似合ってはいる、と思うけど…………」

「そ、そうデスか…………」

東は照れている様だ。……俺も恥ずかしくなってきた。

後で聞いてみると、どうやらこの店では試着ができ、それで東はあの服を着ていたのだった。あの服を選んだのは、ああした服装に興味があったから、だそうだ。


結局、東はあの服を選ばなかった。だんだんと恥ずかしくなったみたいだった。

東が選んだのは指輪だった。今、東は右手の中指にそれをつけている。

その指輪は銀色の輪に灰色の石がついているものだ。

灰色の石は、マナ石というものらしい。


マナ石は魔力を貯める能力があり、魔術を扱う人は大体持っているそうだ。

マナ石と一口に言ってもその性能はピンキリである。魔力の最大貯蔵量や消費量はマナ石のサイズと色によって決まる。大きければ大きい程、魔力は貯まる。

そして、色だ。マナ石は魔力を貯める、と言っても実は常に微弱な魔力を放出している。つまり、魔力を貯めても放っておくと次第に減るのだ。

その消費量は色によって違う。サイズによる違いはないらしい。

黒が最も魔力の貯蔵量も低く、消費も早い。その次が灰色だ。それから、青、緑、赤、白、虹と続く。最も性能が良いのは虹色だが、半ば、伝説と化しており、白が現在の最高峰らしい。


東の指輪のマナ石は灰色であるため、そこまで性能は高くはないが、最も流通しているのは黒ではなく灰色のマナ石であるらしく、安価で手に入りやすいらしい。

黒のマナ石はその性能の低さもあり、探す人も少なくあまり出回っていない。その為、低い性能にもかかわらず、青色のマナ石と同じぐらいの値段で取引されているそうだ。


買う物を決めた後、皆は試着…ではなく、仮装していた。

先の東のナース服のままで、奏先輩はマイクロビキニを着ようとしていたが、さすがに止められ(俺も必死で止めた)、飲食店のウェイトレスの様な服を着ていた。

美琴先輩はアニメ映画で見たことがある海賊の様な衣装に身を包み、木下は和風の着物を着ていた。

先生はチャイナドレスを着ていた。サイズの合う服がそれだったらしい。

そして、俺とエリザベスさんも巻き込まれた。

エリザベスさんは白いTシャツに三角形のブルマを着させられ、俺は可愛らしい熊?の着ぐるみを着させられた。

最初は皆笑いながら着ていたが、いざ見られると恥ずかしくなってきたらしく、皆、顔を赤くしてうつむき、一言も喋らなくなっていた。


あと、俺は表情が見えない着ぐるみに感謝しながら明後日の方向を見ていた。なぜなら、皆のことを直視できなかったからだ。

皆の服は比較的ピッチリとした物が多く、その内側の形が丸わかりだったからだ。そして、露出も多かった。

そんな服を美人や美少女が着ている。

そんな光景は、俺にとって毒にしかならなかったのだ。


そんな嬉しくも地獄の様な体験のあと、ドーナ服飾店を出る。その際に店主に会った。旦那さんの〈ルメン・ドーナ〉さんと奥さんの〈マーチナ・ドーナ〉さんの二人で経営しているそうだ。

ルメンさんはなんというか、マイペースな人で、マーチナさんは元気ハツラツとした人である。


先生とエリザベスさんが話している。

まだ、先生の分は買っていないので希望を聞いているようだ。

すると、先生は申し訳なさそうな顔をしながら、お酒を希望した。

酒屋に向かう。

確かに先生はよく家でお酒を飲んでいた。だが、あまり外では飲まない。何故かと聞いても先生は答えてくれなかったが、奏先輩曰く、年齢を必ず何度も確認されるため、注文まで時間がかかるからだそうだ。

まあ、確かにあの外見ではなぁ。おっと、あまりこのことを考えるのはやめよう。

何処かから睨むような鋭い視線を感じるから。


目的の酒屋についた。看板には〈大雨屋〉と書かれているそうだ。

ここの店は店主が大の酒好きで独自のツテから様々な酒を揃えていて、この国の酒飲みには知らない人がいない程の店なのだそうだ。


中に入る。大量の瓶や樽、壺が並んでいる光景が見えた。

その奥におそらく店主だろう、銀髪の女性が座っている。

俺達はその女性を見て固まった。いや、この言い方では失礼か。

正確に言うと、その女性の()()を見て固まったのだ。

その女性の頭部には…………兎の耳の様なものが2つ、ピョコンと立っていたのだ。



女性はやはり店主だった様で〈アリス・スコール〉と名乗った。

彼女は兎人族という種族で、頭のそれは、耳の一種であるらしい。

耳といっても、俺達と同じ様な顔の横にも耳があった。どちらの耳も自由に聞こえるらしい。


スコールさんの様な兎人族などの何かしらの特徴のある人がこの世界ではいるらしく、その種族の総称を[人族]と呼んでいるそうだ。

なお、俺達やエリザベスさんにビルさんやジュエルさんなどは、只人族と呼ばれる種族なんだそうだ。


「それで王女殿下?本日は何をお探しっすか?」

「はい、こちらのヒビキ様への贈り物を買いに参りました」

「…………王女殿下?そちらの方とお話したいんすけど」

スコールさんが先生にその赤い目を向ける。

「何だい?えーと、アリスさん」

「ええと、ヒビキ様で良いんすよね?」

「ああ、そうだ。別に様付けは無くても大丈夫だが」

「それなら、ヒビキさんと。では、ヒビキさん。一ついいっすかね?」


俺はなんだか凄い嫌な予感がしていた。それは先輩二人も同じだったらしく、身構えている。

「……ああ、話してくれ」

「失礼なんすけど、さすがにヒビキさんぐらいの年齢だとあまり飲んじゃいけないっすよ?」

やっぱりか!俺は先生を抑えるために抱きつく。同じく身構えていた先輩は先生の近くにいたエリザベスさんとスコールさんを守る様な位置についた。


「大丈夫です、大丈夫ですから!落ち着いて下さい!」

先生は俯いている。やばい、怒っているみたいだ。

俺は必死に落ち着かせる。

やがて、先生が顔をあげる。その表情は蟹や蛸が茹でられた様に真っ赤だった。あれ?この表情は怒っている感じではなさそうだ?でも、なんでこんな表情を?


先生がボソボソと話す。

「と、東郷。だ、大丈夫、だから。だから、離、離れて」

「え?」そして、俺は今何をしたのかに気付く。そう、俺は先生に思いっきり抱き付いていた。それだけではなく、慌てていたせいか、ちょうど右の掌が先生の胸の辺りに触れていた。


「す、すすす、すいません!」

俺は慌てて離れ、平謝りする。が、先生は顔を赤くするばかりだった。

「本当に、申し訳ありませんでした!正直、全く気付きませんでした!」あっ……………

「………………ナア、東郷。今のはどういう意味だ……?」

「あ、その、えー」

先生は赤い顔のまま、睨んでくる。だが、どうしようか?

…………どうしようもないな!もう自棄だ、正直に話そう。


俺は土下座をして、叫ぶ。

「正直、お腹と胸の区別がつきませんでした!」

「……ハハ。…………東郷、覚悟を決めろ」

その後のことは詳しく覚えていない。


俺がボコボコにされている間にスコールさんに先生のことを話した様だ。

スコールさんが先生に謝っている。

「本当、悪かったっす。まさか、ウチより年上とは思わなかったっす」後で聞いたら、彼女は19歳らしい。

「いや、良いって。言われ慣れてるからさ」

「お詫びにこれを持ってってくれっす」

スコールさんは先生に一升瓶を渡している。

「これは、異世界の方々から伝えられたショーチュという酒っす」

ショーチュ、焼酎だろうか?まあ、名前が似た別物という可能性もあるが。

「いくらでしょうか?」

「いや、王女殿下、さすがに受け取れないっす」

「ですが……」

「ホント、大丈夫っすから。気になるならまた、利用してくれると有り難いっす」

「それなら、私が飲む為に買っても宜しいでしょうか?」

とエリザベスさんが言うと、スコールさんはキョトンとし、次第に苦笑した。

「ナハハ、王女殿下にはかなわないっす。それなら、こちらはどうっすか?これは――――」


スコールさんがエリザベスさんにお酒の説明をする、まさにその時だった。

非常事態を告げる、鐘の音が鳴り響いたのは。


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