3話
風呂から出て、皆と合流した。だが、雰囲気が悪い?
何故か、暗くなっている人が二人いたのだ。それは先生と東だった。何か、ボソボソと呟いている。
「……んな、スタイルが…………るんデス」
「……ハハ、東はまだ……………良いじゃねぇか。アタシなんて…もう…………」
どうしたんだろうか?女湯に行った面々を見る。
そうすると、何か違和感があった。その違和感を探す。
違和感の正体はジュエルさんだった。どこか、雰囲気が違うように思えたのだ。でもなんでだ?何も違っているようにはみえないんだが………湯上がりだから?でも、それだと皆もそうだが………
他の人も見る。すると、いつもよりどことなく、色っぽいように見えた。思わず心臓が跳ねる。慌てて頭を振り、その思考を追い出す。
再度、ジュエルさんを見る。確かに湯上がりということも関係しているようだ。だが、それだけではないような……
そう考えていると、視線に気付いたのかジュエルさんが反応する。
「あ、あの、ユキト殿?どうなさいましたか」
「え、いや、あの、その、ジュエルさんの雰囲気が何か違うなと思って」
「自分の雰囲気、ですか?」
「はい。そう、感じました」
そう話すとジュエルさんは何かに気付いたように顔を赤くする。そして、暗くなっていた二人が俺を睨む。どうしたんだろうか。
睨んでくる二人を見つつ、ジュエルさんの言葉を待つ。
「…………そのう、ひょっとしたら、自分の…胸の辺り、ですか」
胸?ジュエルさんの胸に注目する。
そこは膨らんでいた。………膨らんでいる?おや、俺が男性だと間違えたように胸は平らだったはずだが?
俺はそのまま見続けていた。
「その、ユキト殿。あまり、見られると…」
「ハッ!」俺がどこを凝視していたのか、思い出す。
「ジュエルさん!すいませんでした!」
「いえ……………大丈夫、です」
俺はひたすら謝った。
その後、聞いたら彼女はサラシを巻いていたのだとか。
俺たちは部屋に戻った。今朝の経験から俺は必死に王女様に頼み込み、別の部屋を借りた。
昨日寝た部屋に集まる。
「良し。皆、集まったな。さて、東郷が変態だと分かった所で方針を確認するぞ」
「ちょっと、待ってください!先生、俺は変態じゃありません!」
「いや、女子の胸を凝視してるんだ。どこをどう見たってあれは、変態だが?」
「それは、すいませんでした!ですが、あれは違和感を感じたからで…」
「分かった、分かった。さて、大きな胸が好きなド変態は放っといて、話を続けるぞ。今後の方針だが―――――」
さらに酷くなった。確かに、ジュエルさんのアレは結構な大きさだったが。そんなことが頭を過ると、皆から睨まれる。
俺はそんな分かりやすいのだろうか?
睨まれ、時には怒られながら話を終える。取り敢えずはスキルに慣れることを目標とすることに決まった。
俺は新たに借りた部屋に戻ることにする。ただ、そうしようとすると、奏先輩と美琴先輩は不満そうな、それでいて安心したような顔をしていた。先輩達はどうしたのだろうか。そう思いながら部屋をでた。
新しく借りた部屋は一人用の客室ということだった。
部屋に戻ると、俺は『貧乏暇なし』を使って腕立て伏せやスクワットなどをしていた。
スキルは使えば使うほど、慣れてより、楽に使えるようになるらしい。それと、体を操るスキルは、体を鍛えることでできることが増えるそうだ。
だから、無理をしないようにゆっくりトレーニングする。
数十分後、トレーニングを終えて、寝ることにした。
ユキ君が出ていく。そんなユキ君が見えなくなってから呟く。
「む~、お姉ちゃんだけずるい~」
お姉ちゃんは呆れた様子で返事をした。
「お姉ちゃんはやめろ。ハア、急にどうした?」
「私だって……ユキ君と~……」
「ハア、その話か。奏、織田にも言ったがあれが最善だったはずだぞ?第一、眠れねぇだろ?」
「………む~」
「ハイハイ。これにてこの話は終了。……なあ、皆は東郷は無茶しないと思うか?」
ユキ君が無茶?あまり危険なことはしないと思うけど…………
でも、ユキ君は、誰かの為には危険なこともするし、無茶をしていたことを思い出す。今回だと、危険なことをするとしたら、私達の為だろう。
「私は~ユキ君は~私達やリズちゃん達の為なら~無茶しちゃうと思うな~」
「……ええ。私も幸人君は誰かの為なら平気で無理をする、と思うわ」
「ワタシも、ユキ先輩とは、知り合ったばかりデスがそういう人だと思うのデス」
「わ、私も、東郷先輩とは、知り合ったばかりですが、彼は、そうした、ことをする、人だと、思います」
「アタシもあいつは無茶をする、と思う。でだ、こんなモンスターといった危険の多い世界で無茶をしたら、どうなると思う?」
それは……………ユキ君が、傷付き、倒れる、そんな光景がイメージできた。
「イヤッ!」こんなことはあり得ない、そう考えて否定しようとするが、ユキ君の行動を思い出してしまう。
「奏、落ち着け」
お姉ちゃんが優しく話しかけてくれる。それで少し落ち着き、皆を見ると、顔を青ざめさせていた。どうやら、皆似たことを想像しているようだった。
「皆、東郷に無茶をさせないためにはどうすれば良い?」
それは……………「心配させないぐらい~強くなる?」
「ああ、そうだ。それと、逆に東郷を守れるくらい強くなれば言うこと無いな」
お姉ちゃんはそう話す。それを聞いた皆は何かを決めた顔をする。勿論、私も。
「皆で~ユキ君を、守りましょう~!」
皆は力強く頷く。ユキ君、大丈夫だよ。私達はキミを守れるくらい強くなるから。だから……だから、あまり無理はしないで。
朝、目覚めて皆がいる客室に向かう。食堂までは遠く、迷いそうになるからだ。その為、客室に誰かが来てくれるらしい。
ドアをノックする。
「皆、俺だけど入っても良い?」
声をかけると、ドアが急に開き、何かがぶつかって、いや、抱きついてきた。それは奏先輩だった。
ヤバイ!奏先輩のムニュムニュが!
「ちょっ!離れて、離れて下さい!」
「おはよう~ユキ君~」
「はい!おはようございます!だから、お願いします!」
「ん~」奏先輩はやっと離れてくれた。
危なかった…………というか奏先輩は俺のことを男と見ていないのだろうか?子どもの頃からよく抱きつかれているのだが。幼い頃は嬉しさだけだったが今では恥ずかしいという気持ちもある。
「おはよう、幸人君」「おはようございマス、ユキ先輩」「お、おはよう、ございます。東郷先輩」「おう、来たか。おはよう、東郷」
「おはよう、皆」
皆ととりとめもない話をしていると、ビルさんとジュエルさんが来た。どうやら、王女様は忙しく来れないそうだ。
皆で食堂に向かい、朝食をとる。
休憩を挟み、中庭に向かう。早速訓練をしてくれることになったのだ。
体の動かし方、鍛え方に詳しいビルさんは先生と俺の講師に、武術に精通しているジュエルさんは美琴先輩と木下の講師に、魔術の得意なクロウズさんは奏先輩と東の講師に、それぞれなってくれた。
「改めて、よろしく。ビルさん」
「よろしくお願いします。ビルさん」
先生と俺はビルさんに礼をする。
「いいえ。自分は大丈夫ですので。では、そうですね。まずは走ってみましょうか」
先生と俺は頷いた。
先生と俺は走る。地球にいた頃よりも速く走れているし、まるで疲れない。そして、先生もそれは同じようで俺よりも速く走っている。というか、本当に速い。俺は先生に着いていくのがやっとでビルさんが終わりを告げた時にはヘトヘトになっていた。
走った後は、先生はビルさんと組み手を、俺は木剣の素振りをすることになった。
木剣を振りながら先生とビルさんを見る。どうやら、お互いに寸止めでやっているようだ。
先生が腹を目掛けて殴りかかる。ビルさんは腕に添えて逸らし、隙ができた先生に殴りかかるも、今度は先生が逸らす。そんな技の応酬がとてつもないスピードで繰り広げられながら、さらに徐々に速度が上がる。そして、ついに俺には見えなくなった。
俺が感じたのは何かが擦れたり、当たったり、弾いたり、踏み込んだりする音だけだった。
うわ、早い!何も見えない!俺、守れるくらい強くなれるのか?
そう思う俺であった。
その後、夕方まで訓練をする。最後に『貧乏暇なし』を使ってみて欲しい、と言われた。
『貧乏暇なし』を使い、体を動かす。………?昨日よりも早く動けているし、息切れもしていない。
「はい。大丈夫です」
「分かりました」なるほど、体を鍛えればここまで使いやすくなるのか。
「今日は有り難う。ビルさん」
「有り難うございます。ビルさん」
「いえ。どういたしまして。お疲れさまです、お二人共」
そうして、皆と合流し、風呂に入ることになる。
昨日も思ったがビルさんの体、筋肉は凄かった。
「明日もよろしくお願いしますぞ。ユキト殿」
「いえ、こちらこそ。ところで、ビルさん。もっと強くなるにはどうすれば良いんですかね」
「強く、ですか?ユキト殿は十分にお強いと思いますが」
「いえ、ステータスではそうですが……それでも皆よりも低いです」
「ヒビキ殿達ですか」
「勇者と出ているんでステータスが高いことは分かりますし、別にそれが嫌だ、ということでもないんです………ですが………」それでも、守りたい、そう思っているのだ。
「なるほど。ヒビキ殿達が心配なのですね」
「アハハ。分かりました?」
「はい。やはり、奥方達に危ない真似はさせたくない、そのお気持ちは分かりますので」
奥方達?何のことだろうか。
「あー、その、確かに先生達に危ないことはさせたくない、と思っているんですが。……奥方達とは、一体……?」
「おや、ハハハ。恥ずかしがらないで下さい。ヒビキ殿達はユキト殿の奥方なのでしょう?」
ブハッ!!俺は思わず、噴き出した。
「いや、いやいやいや!ちがいますよ!俺と先生達はそんな関係じゃありません!」
「おや?そうなのですか?ですが、一昨日、ヒビキ殿達と同室に泊まったのは夫婦だから、と噂されていますよ?」
そ、そんなことになっているのか!?
「それは、これからどうするか話し合う為です。しかも、奥さんが複数っておかしいでしょう!」
「そうですか?我が国や周辺の国ではよくあることですが」
「そうなんですか!」
「そうです。……ふむ、もしや、ユキト殿達の国ではそういった婚姻ができなかったのですか」
「あー、そうですね。他の国は分かりませんが、俺の国では一夫一妻でした」
「ふむ。では、どなたが奥方でいらっしゃるので?」
「だ、だから、違いますよ!俺には奥さんはいません!」
「おや、そうでしたか。申し訳ございません、ユキト殿」
俺達はそんな話をしながら、ゆっくり入った。
しかし、俺はしばらく、先生達の顔を直視できなくなるのであった。
朝起きて、訓練をして、寝る、そんな日々が二週間程続いた。
その間、王女様は忙しそうにしていた。
俺は『貧乏暇なし』を使っても、ある程度は耐えられる様になっていた。
だが、他の皆はさらに凄かった。〇〇の極み系のスキルがLvMaxになっていたり、レベルが4,5上がったりしている。俺はレベルが2上がった。それでも早い上がり方らしいが先生達はさらに早い。
本当に守れるのか?逆に守られそうなのだが。
それでも、俺を庇って誰かが傷付くのは嫌だった。だから、夕食後、こっそり抜け出し、一人で鍛える様になった。その頃には、ある程度、城内の通路は分かっていた。
その日も夜、一人で鍛えていた。そんな時、久しぶりに王女様に出会ったのだ。
「……そちらにいるのは誰ですか?姿を現しなさい!」
そちらを見ると、王女様が槍を構え、警戒しながらこちらを睨んでいる。慌てて、木剣を置き、ゆっくり姿を見せる。
「…………ユキト、様?」
「あー、そのー、すみません」
王女様は槍を下ろす。
「えっと、ユキト様は、どうしてこんな時間に、こんな所に?」
「それは、そのう………すみません。訓練、していました……」
「訓練、ですか?でも、何故、このような時間に?」
俺は、皆よりも弱いこと、それでも足手まといになるのは嫌なことを話す。なんで、こんな話を年も違わない、少女にしているのだろう。……多分、誰かに聞いて欲しかったのだろう。先生達はメキメキとその実力を伸ばすのに対し、俺は、対して伸びていないのだ。そのことに多少なりとも、不安を感じていた。
「……そう、ですか」
王女様は俺の話を聞いてくれた。
「すみません。こんな話をして」
「………実は、私も先程まで訓練をしていたのです。同じですね」
王女様はそう言った。よく見ると、汗をかいている。髪が数本貼り付いていた。どことなく、色っぽく見えた。ドキッと心臓が跳ねる。慌てて、頭を振りながら、返事をする。
「…………そ、そうなんですか。お疲れさまです」
「…?ユキト様も、お疲れさまです」
木剣を回収し、王女様と話す。
「ユキト様は努力家ですね。結果はいずれついてきますよ」
「ハハ、有り難うございます。でも、努力家なら王女様もそうですよ」
「有り難う御座います。………ユキト様?今、私のことを王女様、とおっしゃいましたか」
あっ。さすがに殿下と呼ぶべきだっただろうか。
「す、すみません。王女様、いえ、え、エリザベス王女殿下」
「あ、その、呼び方が悪かった訳ではありません。殿下や様はいらない、そう思いまして」
「え?ですが………」
「いえ、ユキト様がおっしゃりたい様に呼んで下されば」
少し、考える。だが、その王女様、いや、エリザベスさんの何かを強く望んでいる、そんな表情を見てしまった。俺は………
「…………いえ、え、エリザベス、さん」
「…!」エリザベスさんは、パッと輝く様な表情を浮かべた。
俺は顔を赤くする。ただ、お願いしたいことがあった。
「あの、その、え、エリザベス、さん。お、俺のことも『様』はつけないで下さい。その、なんなら、呼び捨てで構いません」
「え?でも……」
「大丈夫、です。お願いします」
「……………ゆ、ユキト、さん」
「はい。エリザベスさん。改めてよろしくお願いします。」
俺はおそらく、顔を赤くしながら、エリザベスさんの話を聞き、俺は訓練の様子などを話したのである。
私はその日、近くに迫ったダンジョン攻略に向け、訓練をしていました。
日が落ちるまで訓練をし、汗を流して自室に戻ろうと、城内を歩きます。
すると、風を切る音や土を踏む音が聞こえてきました。私は警戒しながらそちらに向かい、動いている何かの姿を捉えます。
その者を詰問すると、その方は異世界からきた一人で唯一の男性である、ユキト様でした。
ユキト様は申し訳なさそうな顔をしながら、お悩みになっていることを話してくれました。
私はその話を聞きながら、彼らにも悩みはあるのだな、と驚いていました。
彼は王女様、と私のことを呼ぶ。そのことを私は寂しい、と思ったのです。彼は慌てて言い直しています。私は言い直す必要はない、と伝えますがつい、殿下や様はいらない、と言ってしまいます。私は否定をしようと、しましたが、彼の真剣に考えている、その表情を見てしまいました。私は、何も考えられなくなりました。
やがて、彼は、エリザベス、と呼んでくれました。私は、とても嬉しく思ったのです。ヒビキ様やカナデ様達は『リズ』と呼んでくれますが、ユキト様は名前を呼んでくれませんでした。
だから、嬉しかったのでしょう。
すると、彼も『様』はやめて欲しい、と仰ります。その恥ずかしそうにはにかむ、そんな表情をみて、つい、「ユキトさん」と呼んでしまいました。彼は嬉しそうな顔をしました。
その顔を見ていると、私も嬉しく思ったのです。
私と彼はそのまま、笑いながらしばし、話していました。
どうやら、彼と、ヒビキ様達は夫婦では無いそうです。
………しかし、彼が否定した時、胸が暖かくなるように感じたのですが、何故でしょうか?