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2話

俺はまだ落ち込んでいた。

王女様が話している。どうやら詳細を調べてくれるそうだ。なんでも、スキル等の詳細は今使った魔道具であるこの、大きな石では、調べることが出来ないそうだ。その為、詳細を調べることが出来る人物を呼んでいるということだった。


先生が話しかけてくる。

「ハア、東郷、あまり落ち込むなよ。東郷も魔力と運勢以外の数値はアタシらと変わらないだろうが」

「……先生。まあ、そうなんですけどね」

「それに、名前が悪いだけで中身は良いスキルがあるかもしれねえだろ?ほら、見た目は悪いが食えば美味い、ゲテモノみたいな」

それに期待するしかないだろうか。

後輩ズが来る。

「大丈夫デスよ、ユキ先輩。ああしたスキルが結構、良いスキルだったり、使い方次第で強くなるスキルだったりするんデス」

「そ、そう、ですよ。それに、東郷、先輩の、良い、所は、いっぱい、あるじゃないですか」

後輩達にも慰められ、気分は大分持ち直した。が、意地悪を言いたくなった。

「先生、東、木下。ありがとう。でさ、木下?」

「な、なん、ですか」

「いや、俺の良いところって何かな、と思ってさ」

木下はテンパっている様だ。

「そ、それは、優しい、所、とか、えっと、えっと」

うーん。段々、申し訳なく思ってきた。

「こら、東郷。木下をいじめるな」

「すみません。ごめん、木下。木下が可愛くてさ、つい」

「えっ、ええ」

木下はさらにテンパる。何故だろうか。

先輩達も会話に参加する。

「こら~ユキくん~ユカちゃんを~苛めちゃ~駄目~」

「ええ、そうね。幸人君、今のは君が悪いわよ」

「ええと、ごめん、なさい」

俺はよく分からないまま、謝る。

「あらあら、皆様仲が良いのですね。あら?どうやら呼んでいた者が着いた様です」


その人物は、何やらお年を召した、白髪白髭のおじいさんだった。何か、サンタクロース?という雰囲気の人だ、そう思っていると、おじいさんが名乗った。

「初めまして。勇者様がた。私めはスンタ・クロウズと申します」

俺は思わず叫んでいた。「おしい!」

先生も同じく叫んでいた。

「ひ、ヒビキ様?ユキト様?どうなさいましたか?」王女様が驚く。

「あーすまない。いや、知ってる人物?に名前が近かったからさ」先生が弁明し、俺は謝った。


「勇者様がた、よろしいでしょうか」

俺たちは頷く。

「では、失礼します」

クロウズさんが手を翳すと、光が生まれ、俺達に触れると消えていった。

これで分かるのだろうか?そう思っていると、突然俺達の体から光が飛び出し、空中にディスプレイを形作った。


それぞれの前にディスプレイは出ていた。取り敢えず、俺のからは目を逸らし、先生のものから見ていった。何故なら、いきなり、自分のを直視出来なかったからだ。

先生のものにはこう書かれていた。


[天使響   スキル名『拳術の極み』拳術を極めた証   スキル名『神拳の使い手(ロリッ娘ヤンキー)』拳の勇者に与えられるスキル。拳術関係にプラス補正(極)   スキル名『気功術』気を操れる。極めれば世紀末の救世主や地球外巨大猿の技を使えるようになる]


うん。名に違わずやはり凄いスキルのようだ。次は先輩達のを見る。

 

[天使奏   スキル名『治癒の極み』治癒を極めた証   スキル名『癒しの力』癒の勇者に与えられるスキル。心身共に癒す   スキル名『撲殺術(スローペース)』癒の勇者だからと侮ることなかれ。その杖の前には何もかも砕け散る]


[織田美琴   スキル名『鞭術の極み』鞭術を極めた証   スキル名『超絶技巧』鞭の勇者に与えられるスキル。器用にプラス補正(極)   スキル名『生きる鞭(ドS女王)』鞭状の物を魔力の続く限り生み出す]


スローペースっておっかないな。奏先輩は怒らせないようにしよう。俺がまず思ったのはそれだった。そして、美琴先輩のスキルも凄そうだ。………だが、先生の時から思っていたが振り仮名があるスキルの説明雑すぎないか?

さらに、自分のスキルを見たくなくなる。ひとまず、まだ見てない後輩達のスキルだ。


[東莉緒   スキル名『魔術の極み』魔術を極めし者の証   スキル名『高速思考』魔の勇者に与えられるスキル。高速で思考する。魔力にプラス補正(極)   スキル名『賢者見習い(オタク一家)』全てを知ることができる。先達の知識を受け継ぎし者の証]


[木下結花   スキル名『剣術の極み』剣術を極めた証   スキル名『感覚強化』剣の勇者に与えられるスキル。全ての感覚を超強化   スキル名『神速の剣聖(凄腕乙女)』その剣はまさしく神速である。全てを魅了する剣豪の証]


うん。やはり、全員凄かった。そして振り仮名があるスキルは雑であったり、抽象的であったりしていた。

……………はあ、ついに、自分のスキルを直視する時がやって来た様だ。俺はマシな内容であれ、と祈りながらゆっくりと目を通す。


[東郷幸人   スキル名『器用貧乏』苦手分野がなくなると共に得意分野もなくなる。全てにおいて二、三流になれる   スキル名『貧乏暇なし(パペット)』自身の肉体を操る。これで寝てる間も働ける。もう何も恐れることはない   スキル名『不運』女運以外の運勢は酷いことになる。女運は急上昇。女難の相がでまくる]


………やはり、良いことはないが、悪すぎることも無い様に思えた。まあ、気になる点はいくつもあるが。

器用貧乏はその名の通りだった。問題は他二つだ。

まず、貧乏暇なし(パペット)だ。パペット、操り人形という意味なら分かる。しかし、寝てる間も働ける、というのは何なのだろうか。体壊すよ?やはり、貧乏暇なし、だからか?

次の不運は、女運が急上昇って、……まあ、嬉しくなくはない。のだが、女難の相が出ていたら駄目だろう。つまり、女性関係のトラブルが増えるのだろうか?

……………言動には気をつけよう、俺は密かにそう誓うのであった。


「皆さま、やはり効果の高いスキルの様ですね」

一緒に見ていた王女様がそう話す。そういえば、王女様が一番驚いていた。周囲にいた王女様のお付きの人達よりも。

ふと疑問に思い、聞いてみた。

「ユキト様、お気付きでしたか」

俺は頷く。先輩達を見ても全員頷いている。やはり、気づいていたようだ。

「皆様、お気付きになられていたのですね。………実は、私のJobも勇者なのです」

うん?どういうことだろうか。

「お願いします。爺、いえ、クロウズ」

「承りました。エリザベス様」

そう言うとクロウズさんは俺達に触れた光を出し、今度は王女様に触れた。

出たステータスはこういったものだった。


[エリザベス・ロウ・バーゼル(17)  Job 槍の勇者  レベル40

体力2000 筋力1800 魔力2000 素早さ2100 器用1900 運勢2000  スキル 『槍術の極みLv 6』槍術を極めた証、『動作省略』槍の勇者に与えられるスキル。連撃の間を減らす。予備動作の隙を無くす]


本当に、勇者だった。今、この場には勇者が……6人もいる。勇者だらけだ。

でも、何故、勇者であることと驚いていたことが関係するのだろうか。

聞いてみることにする。話してくれたことによると、まず勇者のJobはなかなか出ないそうだ。数にすると、100万人に一人いるかいないか、ということらしい。

日本の人口は一億弱らしい。だから、一億人だとすると100人になる。一つの都道府県に2,3人いる計算になる。そう考えると、いなくはなさそうだが、珍しい物だと感じる。

なお、この王国全体で200~300万人程の人口らしい。

王女様は今までに自分以外の勇者を見たことが無かったそうだ。だから、先生達が勇者と知って、驚いたのだと話してくれた。


まだ、外も明るい為、中庭に出て、皆のスキルを確認することになった。そこで、スキルに詳しい人を呼んでくれることになった。

中庭に集まる、と伝えるそうなので俺達も話しながら向かった。


中庭に着くと、そこには二人の人物が待っていた。まだ、はっきりとは見えないが、一人は大きな熊の様な体格をした人、もう一人は隣の人に比べ、細い体格をしていた。

近づくと顔が見えた。大きな体格をしている人はまさしく、筋肉の鎧という言葉がぴったりの、筋肉ムキムキの藍色の髪を短く纏めた30代程の男性だった。

細い体格をしている人は、長身の、隣の男性と似ている色の髪を肩で切り揃えている、どことなく中性的な顔の美男子だった。年は……30はいっていない様に感じた。二人共、瞳の色は髪より黒っぽい色だった。  


王女様が紹介してくれる。大きな男性は、ビル・ホーディという名前で、この国の騎士団団長であるそうだ。年は34歳だそうだ。

細い男性の方は、ジュエル・ホーディという名前で、この国の騎士団副団長だそうだ。なお、ビルさんとは兄弟なんだとか。ジュエルさんは23歳だった。


先生が話す。

「初めまして。アタシは天使響、ヒビキ・アマツカと申します」

ビルさんが応じる。

「よろしくお願い致します。ヒビキ様。自分ごときに畏まらないで下さい」

「いいえ。アタシ達は教えを乞う側ですから」

「それでは、せめて、ヒビキ様達が話しやすい様にお話しください」

「では、ビルさん達も砕けた話し方でお願いできませんか」

「それは……そちらの方がよろしいのなら」

「有り難うございます。では、改めて。よろしく、ビルさん」

「いいえ。こちらこそ。ヒビキ殿」


ビルさんは武術に詳しく、ジュエルさんはスキルに詳しいそうだ。

「それでは、ヒビキ殿。どのスキルを使いたいか、念じて下さい」

先生が目を瞑る。どうやら、集中している様だ。やがて、目を開けた。

「あー、ビルさん。頭のなかにスキルの使い道や使い方が浮かんだんだが」

「はい。ヒビキ殿。一度、その通りに動いてくれませんか」

「やってみる」

先生はそう言うと、もう一度集中すると、誰もいない方に向けて拳を振るう。

すると、振るった直線に土煙が待った。どうやら、地面が巻き上がったらしい。だが、振るっただけに見えたが?


先生はスキルの一つ、気功術を試したらしい。イメージは衝撃波を出すような感じだったそうだ。それから、先生の他のスキル、先輩達、後輩達の順番で色々試していった。ちなみに、俺は一番最後にしてもらった。


先生は他に高速で百回程、拳を振るったり、エネルギー砲的なものを両の掌から打ち出したり、していた。後、『神拳の使い手』では、生物や物体の効率的な壊し方や人体のツボについて、分かるそうだ。


奏先輩は杖、先に鉄の塊が付いた棒を中庭の石に向けて降り下ろす。なお、許可はとってある。

すると、石に杖が触れた、と思った次の瞬間には石は砕けていた。さすが、『撲殺術』。物騒な名前なだけはある。

後、治癒魔術も使っていた。王女様達が言うには奏先輩のそれは、効果が高いらしい。


魔術が使えている理由はそれもスキルの効果である。

〇〇の極み系のスキルは、それらの扱い方が分かるらしい。これは、今までの勇者もそうだったんだとか。


美琴先輩は、鞭状の物を生み出した。確かに『鞭』ではなく、『鞭状の物』であった。どうやら、鞭状、細長い物なら何でも鞭の様に扱え、生み出せるらしい。実際にタオルは生み出せた。タオルを振っても、鞭の様にしなり、石に向けて振っていたが一瞬で巻き付いていた。


東は、火を出したり、風を吹かしたり、水を出したりしていた。

『賢者見習い』は、どうやら、生物や物体の情報を見たり、物体や生物、場所の記憶を読めるらしい。つまり、何をしていたのか、何があったのか、そこに至るまでの軌跡を見ることが出来る様だ。しかし、魔力を用いるらしいので遡る時間には限りがあるようだ。


木下は剣を借り、ゆっくり振る。実は彼女の実家は代々剣術道場を営んでいる。彼女もそこで剣術が学んでいたらしい。

彼女は5,6歳にして師範代クラスの人と渡り合えていたそうだ。

実は彼女の顔を見たことがある、というのは彼女が剣の訓練をしていた時のことだ。その姿は美しく、俺は時間を忘れて見入ってしまったのだ。あの光景は今でも完璧に覚えている。


遂に俺の番がきてしまったようだ。ビルさんもジュエルさんも王女様も勿論他の皆も俺に注目している。

き、緊張してきた。俺は皆から離れ、目を瞑る。


俺のスキルを想像する。すると、頭の中に一覧の様なものが浮かぶ。

一つ一つ見ていくと、内容が浮かんできた。

どうやら、『器用貧乏』と『不運』は自分の意思では使えず、解除もできないみたいだ。

唯一使える『貧乏暇なし(パペット)』を試す。すると、自分を俯瞰するようなイメージが出てきた。とりあえず、その自分を持ち上げる様に考える。すると、ぎこちなく跳んだ。

次は足を持ち上げて、少し前に置く。一歩前に出た。

腕を動かす。右腕が前に出る。

ぎこちなく歩く。徐々に慣れてくると、速度を上げる。


しばらく、やっていると走れる様になった。

次は……先程の木下が頭に浮かぶ。剣を借り、振ることにした。

最初はゆっくり、徐々に早くしていく。すると、いつの間にか以前見た木下の姿に近付こうとしていた。

もっと、もっと早く!もっと流れるように!

そう思いながら体を動かしていると、グキッという音と共に激痛が走る。俺は倒れこむのを感じながら、意識を失った。




私はずっと寂しいと感じていました。私のJobが槍の勇者だからなのか、同年代の方は勿論、年上の方にまで距離を置かれて接せられていたからです。その上、私は側妃の娘で王族の端くれでありました。そんな状況の為、親しい友人の様な方はいませんでした。

寂しい、寂しい。そう思いながら日々を過ごす。そんな時でした。彼女らが現れたのは。彼女らは、異世界から来た人々でした。

ですが、どうやら、彼女らは神の使いでは無さそうでした。何故なら神の使いは、こちらに来られる際に神と話す、と言われているからです。ヒビキ様達に聞いても、そのようなことは無かったそうです。


そうして、その時がやって来たのです。ヒビキ様達のステータスを見ることになりました。それで、なんと、ヒビキ様達が勇者であることが分かりました。いえ、ユキト様は勇者ではありませんでしたが。Jobもふりーたー?という不思議なものでしたが。それでも、ステータスはとても良いものでした。


私は、勇者が複数集まっているこの状況に驚きました。ですが、それだけではなく、別の感情、なんと言って良いのか分かりませんが決して悪いものではない、そんな感情がありました。




俺は目覚める。あれ?いつの間に寝ていたんだ?………ああ、そうだ。俺は倒れたんだった。あの後、どうなったんだろう?

目覚めたそこはどこかの部屋の中だった。そして、俺はベッドに寝かされている様だ。それと枕が異様に柔らかく、良い匂いで、心地良い物だった。うん。これは良い物だ。それがどんな枕なのかと思い、今、向いていた横から下に目を向ける。


それは肌色だった。そして結構な大きさだった。…………おや?これは、枕だろうか?何やら、見たことがあるような……枕、というよりは、足、か?………え、足?

俺は慌てて、その足?の上を見る。そこにいたのは、寝ている奏先輩だった。ああ、これは奏先輩の足なのか。………いやいやいや!なんで俺、奏先輩にひ、膝枕されてるの?もしかして、倒れてからずっとこうだったんだろうか?とても恥ずかしく思い、奏先輩を起こさないように起きようとしたが、体が思うように動かせなかった。


背に腹はかえられない、申し訳なく思いながら奏先輩を起こすことにする。

「奏先輩。その、俺、目が覚めたので、起きてくれませんか」

「スー、スー」奏先輩は寝息をたてている。

少し声量を上げ、声をかける。「奏先輩。すいません」

「んー。あ~おはよう~ユキくん~」

奏先輩は起きてくれたようだ。ホッとして膝枕は大丈夫だと伝えた。

「駄目~ユキくん~ちゃんと休まなきゃ~」

「あの、その、分かっています。でも、膝枕はちょっと…」

「ん~ごめんね~嫌だった~?」

「嫌って訳ではないです。その、なんていうか、ただ恥ずかしいというだけなんで」

「ああ~そうなんだ~それなら~良かった~でも大丈夫だよ……私も恥ずかしいから~じゃあ~ユキくん、お休み~」

「えっ……いやいや、奏先輩、起きて下さい!」奏先輩の言ったことに恥ずかしながらも奏先輩を起こそうとする俺であった。


結局、奏先輩は二度寝三度寝し、俺が膝枕を終えてしまった……終わったのはしばらく経った後だった。その時には体がちゃんと動く様になり、奏先輩から退くことが出来たのだった。


その日の夕食は中庭にいた皆で食べた。俺がさっきいた所は中庭に近い、騎士の詰所でビルさんがそこまで運んでくれたそうだ。

「すいません。ご迷惑をおかけして」

「いえ。元はといえば私がスキルの試用を提案したことが原因ですし」

「それでも、すいません」

俺は皆に謝る。


「奏先輩も、治癒してくれて有り難うございます」

そうなのだ。俺が起きた時、痛みが無かったのは奏先輩が治癒してくれたからなのだった。

「ううん~大丈夫~……ねぇ~膝枕はどうだった~」

「う、そ、それは、……大変よろしゅうございました」

「どうしたの~?でも良かった~」

膝枕の話題はこれで終わった、そう安心したのも束の間、とある事実が判明する。 

「あら、幸人君。私も膝枕していたのだけれど」

「おう。天使の他に織田とアタシも膝枕はしていたんだ。アタシらには何もないのか」

二人は笑いながら言った。え、本当に?一瞬、意識を失っていたことを残念に思ったが、慌ててその考えを追い出す。


二人にもお礼を言う。

その後、これからのことを話す。まずはスキルに慣れるよう、練習することになった。

俺はビルさんと、奏先輩と東はクロウズさんに、美琴先輩と木下はジュエルさんにそれぞれ教えてもらうことになった。

「よろしくお願いします。ビルさん」

「いえ、こちらこそ。よろしくお願いしますぞ。ユキト殿」

挨拶した後、風呂に向かうことになった。どうやら、歴代の神の使いが伝えたらしく、性別で別れているそうだ。

俺はビルさんとクロウズさんと男湯に向かう。おや?ジュエルさんは行かないのだろうか。

「すいません。ジュエルさんは来ないんですか」

その時、空気が凍った。おや?どうしたのだろうか?


先生が口を開く。

「おい。東郷、テメェ何言ってやがる」

「え?いや、その、ただ、疑問に思っただけなんですが」

「そうだよ~何を言っているの~ユキくん~」

「今のはいただけないわよ。幸人君」

「そうなのデス。ユキ先輩、駄目デスよ」

「い、いけないと、思います。東郷、先輩」

「はい。皆様のおっしゃる通りですよ。ユキト様」

皆から責められる。何故だろうか?ハッ!これが『不運』の効果か!

「おい、東郷………まさか、マジか」

「マジ?その、本当に分からないんですが」

「ハア。あのな、エルは、ジュエルはな、『女』だ」

……………『女』?『女』……徐々に理解が及び、血の気が引く。

俺は謝る。

「すいませんでした!ジュエルさんのこと、男だと思ってました!」

「いえ。ユキト様、謝られる必要はございません。自分は大丈夫です。よく間違われていますから」そう言って笑う。その表情は、どこか、悲しそうだった。

俺はさらに申し訳なく思った。

「本当に、申し訳ございませんでした」

「いえ、本当に大丈夫ですから」

二人して恐縮し合う。


先生が口を開く。「ナア、東郷?お前はエルのこと、どう思っていたんだ?」

「それは、とんでもなく、綺麗で美人な…男性だな、と……本当に、すいませんでした」

少し、落ち着いてきた。ジュエルさんを見ると顔を赤くしている。それだけ、怒っているんだろう。

「大丈夫です。…いえ、違いますね。そんなに謝って下さり、有り難うございます」(それと、綺麗とおっしゃったことも嬉しく思います)

有り難うございます、の後に何か、続いた様な?気のせいだろうか。

「んじゃ、風呂に行くか」先生の号令で女湯に皆は向かった。

「それでは我々も行きますか」クロウズさんに案内され、男湯に向かう。


男湯は結構な広さの室内浴場だった。これも神の使いが開発したという石鹸を使い、美琴先輩が造ったタオルで体を洗う。

洗った後、湯に浸かる。

「ああー。ふう、今日、色々あったなー」

今日あったことを思い出す。先程のことは酷かったが、それ以外では皆も笑っていた。あの笑顔を思い出していた。

この世界にはモンスターと呼ばれる怪物がいるらしい。そうした危険は多い。あの笑顔を守るには……………

「強くならないとな」

貧乏暇なし(パペット)』を使ったことを思い出す。最後は限界を迎え、倒れてしまった。だが……………

俺は武術とかは学んでいない。自信があるのは鬼気迫る奴等から逃げ回ったおかげで(せい?)鍛えられた逃げ足だけだ。そんな俺が、一応は剣術と呼べるような動きを出来たのだ。『貧乏暇なし』って結構、使えるスキルなのではないだろうか。

そんなことを考えながら、湯船でゆっくり休んでいたのだった。

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