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1話

本作品はいずれこういったものも書きたいなと思い、書いたものです。その為、展開など決まっておらず、次回の更新予定は未定です。

あらかじめご了承下さいますようお願い致します。

窓の外を見ると既に空は赤く染まっていた。

此処は私立神田高等学校の生徒会室。現在、生徒会室では数ヶ月先の文化祭に向けての話し合いが行われている。

俺は東郷(とうごう)幸人(ゆきと)、生徒会では庶務をしている。

この生徒会は自分がいることが嘘か夢ではないかと思う程、校内では有名なメンバーで構成されている。

「あら~遅くなったわね~今日はもう終わりましょうか~」

そう言ったのは、現生徒会会長天使(あまつか)(かなで)、その人だった。会長は、緩やかにカーブした薄い茶色の髪に黒目の美人である。校内中から慕われていて、校内の非公式良い人ランキングでは常にトップだ。

「ええ、そうね。奏」

そう答えたのは、現生徒会副会長織田(おだ)美琴(みこと)だ。副会長は、真っ直ぐに伸びた長い黒髪のスッとした目の美人だ。副会長もとある校内ランキングでトップをひた走っている。それは男子限定のランキング、その名も下僕になりたい、踏まれたいランキングである。なお、女子限定のお姉様ランキングでは会長と共にトップ争いをしているらしい。

「あ、あの、お、お疲れ様です。」

そうどもりつつ答えたのは、現生徒会会計木下(きした)結花(ゆか)だ。木下は前髪で目が隠れる程の長さの黒髪で以前チラッと見た限りでは黒目であった。あと、彼女は100万払っても顔を見てみたいランキングと顔が見えれば美人ランキングで常に上位だ。

今、目を見たことがあると言ったが、顔が見えれば美人ランキングで彼女に票を入れた奴は観察力あると思うぐらいの端正さだった。

「ハイ、お疲れ様デス。ユカ、一緒に帰りまショー」

そう木下に話しかけているのは、現生徒会書記(あずま)莉緒(りお)だ。東は、ツヤのある金髪にクリッとした水色の目の美人だった。彼女は日本人の母親と西洋人の父親を持つハーフだそうだ。そんな彼女は、優しく日本のことを教えたいランキングと優しく英語などを教えてもらいたいランキングでトップになった。

ただ、そのランキングで彼女に投票した奴はわかっていない。何故なら、彼女の成績は英語以外軒並みトップクラスだからだ。それに彼女は日本文化には滅茶苦茶詳しい。

英語が苦手なのかと聞いたことがある。その時の回答が「ワタシは日本生まれの日本育ちなのデス。デスからわからなくても仕方がないのデス」というものだった。でも、その割にはアクセントがおかしい話し方だということを指摘したら、「パパがこうしゃべるのデス。たぶんその話し方がうつったのデス」と話していた。

この四人と俺が現生徒会のメンバーだ。会長と副会長が三年で俺は二年、木下と東は今年入学した一年だ。この高校では、生徒会に入るには二つの道がある。一つは投票。これは自薦、他薦問わずに投票ができる。上位陣から役職を選べ、会長だけはこちらでしかなれない。現生徒会の俺以外はこちらの結果でも良かったそうだ。

もう一つは学力によるものだ。各年度の始めに行われる学内テストの結果、上位陣が生徒会に入れる。俺の庶務はこちらでしかなれない。俺は現在、こうして生徒会に入っているが始めは入る気などさらさら無かった。だが、元々知り合いだった会長と副会長に説得されて入ることになったのだった。

余談だが、会長と副会長は、校内非公式ランキングの一つ、スタイルの良い美少女ランキングで血で血を洗う闘いになったこともあった。(主に会長派と副会長派の男子たちが、というか校内のほとんどの男子たちが)

俺も数少ない友人の同じクラスの男子に誘われ、投票したが………まあ、ひどい目にあった。その時の俺は二人と知り合いだったこともあり、どちらにも投票することができず、結局は別の意味でそのスタイルが有名なとある人物に投票したのだが………そのことがバレて二人からは不満そうな顔をされ、投票した人にはネタだったことが見抜かれて折檻された。

当時のことを思い出していると、ガラガラッと引き戸が開く音がした。そこにいたのは、小学生かギリギリ中学生に見えなくもなくはない女の子、いや()()であった。

「おい、お前らー、さっさと帰れー。……それと東郷、てめえアタシのこと小学生か中学生だとか考えたよな?ツラ貸せ」

「いやいやいや!考えてないです。考えてないです。」俺はひたすら否定した。何故なら、彼女の眼光は別に武道とかやってない俺でも殺気を感じるようなものだったからだ。

彼女は、天使(あまつか)(ひびき)、小学生のような見た目だがこの学校の教師だ……………いや、嘘だと思うかも知れないが本当のことだ。

彼女はその姓の通り、会長と姉妹だ。………正直、会長が姉か、と俺も未だにそう感じることもあるが彼女が姉なのだ。ちなみにスタイルの良いランキングで俺が投票したのは彼女である。その時の折檻は悪い意味で記憶に残っている。

彼女の外見は先にもいった通り、体格は小学生のそれで赤茶けた長い髪で黒目の美人……とは呼べないが美少女だとは呼べる顔立ちをしている。赤茶けた髪は染めてあるらしく、染めた理由はファッションと彼女自身は言っているが実は違うらしい。会長から聞いた話だがなんでも少しでも大人らしく見えるようにするためだそうだ。俺としてはあまり変わらないのではないかと思うのだが………おっとこの話はもう止めにしよう。殺気を感じるから。

そんな彼女はこのような外見だが決して侮ってはいけない。何故なら彼女は昔、とあるレディースの総長をやっていたからだ。その拳は下手な鈍器よりも重く、その小さな背丈は注視していても見失う、と恐れられていたそうだ。その煽り文句は煽り文句であって、煽り文句でない。何故ならそれは現実に即しているからだ。ランキングの時や初めて会った時など何度か折檻を受けたが………ボコボコにされた。うん、それは凄いボコボコだった。

なお、彼女もとあるランキングでランクインしている。それは貶されたい、罵られたいランキングと叱られたいランキングである。


「お~い。ユキく~ん。何か考えてるの~」天使先生について考えているとその妹である会長が話しかけてきた。って近い!

「いえ、大丈夫です。大丈夫ですから離れて下さい。会長」

そう言えば彼女は下がってくれたが不満そうな顔をした。「む~。ユキくん。昔は~カナ姉って呼んでくれてたのに~。最近、冷たいよ~」

「えーと、さすがにカナ姉はもう勘弁して下さい。かい、いえ奏先輩」

まだ、カナ姉…奏先輩は不満そうな顔をしていたが「う~ん。会長よりは~奏先輩の方が~良いかな~」と言っていて、どうやら許してくれるようだ。

「おや、幸人くん。私も前まではミコ姉と呼んでいたのに最近は副会長としか呼んでくれなくなっているけど?」

そうしているとミコ姉…副会長が話しかけてきた。「あー、すみません。その、美琴先輩もミコ姉は勘弁して下さい」

「うん、許す。といってもミコ姉の方が良いのだけれど」

俺は、笑顔でごまかすことしかできなかった。さすがに〇〇姉と呼ぶのは恥ずかしいし、正直、そんな親しげに呼び掛けたら男子たちと彼女らをお姉様と慕う女子たちに刺されてしまう。

俺は昔のことを思い出していた。あれは、小学校から中学校の頃、つまり何度もあったということだ。当時の俺は奏先輩と美琴先輩とよく遊んでいた。周りからすれば校内一、いや、地域内一?の美少女に親しげにしている俺が羨ましくも妬ましかったのだろう、大体の男子や彼女らを慕う女子たちからは敵対視されていた。 男子の中には他校からわざわざやって来て俺を追い回す奴もいた。そういった鬼気迫る連中から毎日のように逃げ回っていた。そして捕まればボコボコにされていた。

そんな鬼のように大変だった時代を思い出し、しばらく黄昏ていると、天使先生が話しかけてきた。

「おう、仲が良いのは結構なことだが、東郷は男子の友人はいるのか?あまり、男子といるのを見たことがないんだが」

………この人はわかっていないんだろうか。俺に男子の友人が少ない原因には自分も関係していることに。

この生徒会メンバーや目の前のこの小さい……うん、女性は軒並み何かしらのランキングに入っている。つまり、有り体に言えば大変人気があるということだ。そんな人らに近い位置にいる俺は人気ではなく、恨みつらみを集めている。数少ない友人の一人曰く俺は話せば悪い奴ではないが、関わりがなければ美少女たちをたぶらかす奴に見えるそうだ。うん、彼女らが美少女であることは認めるし、親しくはあるとおもっている。しかし、たぶらかしてはいない、はずだ。

「いえ、男子の友人なら沢山いますよ」

俺は天使先生にそう答えた。まあ……………確かに恨みつらみを買っている現状には辟易としている。ただ、それだけなら彼女らから離れれば良いのだ。俺がやりたくないと言えば彼女らは許してくれただろう。それをしなかったということはつまり、現状に辟易としながらも実は満足しているのだろう。

「本当にそうかあ?……まあ、東郷のことは信頼しているし、お前がそう言うなら問題ないんだろう」

おや、案外信頼されているそうだ。

天使先生は何かに気付いたようにニヤニヤ笑いながら「ああそうそう、奏と美琴のことはなんとか姉と呼んでいたがアタシのことは昔は何て呼んでたっけ?」と言った。

「それ、は……」

「それは………?」

ニヤニヤ笑う天使先生と汗だくになる俺。そんな中、奏先輩が思い出したように言った。

「あ~。そうだ~。お姉ちゃんのことはユキくん、響姉様って呼んでたっけ~」

それを聞き、木下と東は驚いたようだ。「「姉様」」「です、か?」「デス?」

「あー、む、昔のことだよ」と弁明する俺と爆笑している天使先生。奏先輩と美琴先輩も笑っている。そんな慌てる俺の姿を見て、木下と東も笑いだした。俺は苦笑いするしかなかったのだった。


そんな中、前触れなく、フッと部屋の中が暗くなった。停電か誰かのイタズラかなにかで電気が消えただけかと思ったが窓の外も暗くなっていた。……確かに日は落ちていたがさっきまでは赤いだけだった、こんなに急に暗くなるものか?とりあえず、窓に近寄り外を覗く。………真っ黒の紙が貼られているかのように何も見えない。そこで俺はこれが尋常ではない事態なのだと気付いた。

電気のスイッチに向かっていた東と木下が話した。「す、すみません。その、電気、が…」「スイッチ押してもつかないのデス!?」


引き戸の方に向かった先輩たちが言った。「ダメ~扉も開かないみたい~」「ごめんなさい。奏と二人がかりでやってみたけど開かないみたい」

「おい、東郷。下がれ。」と天使先生が言う。

「…どうするんですか」下がりながら、何か嫌な予感がしたので聞いてみた。

「ああ、とりあえず窓を割ってみる」と腕を回しながら天使先生は言った。

割るって………いや、まあどうすれば良いのかわからないし脱出路の確保は重要だ。ちなみにこの生徒会室は二階にある。

生徒会メンバーは一ヶ所に集まる。よく見ると全員がどことなく不安そうな表情をしていた。天使先生が窓の前に立ち、その拳が窓に叩きつけられる。そんな時だった。

床一面が光った。床を見ると円やら三角やらの光る図形ができていた。咄嗟に生徒会メンバーに腕を回し、天使先生に叫んだ。「先生!手を伸ばして下さい!」

先生は床を見ていたが叫ぶとビクッとした後、手を伸ばした。

伸ばされた手をつかんだ、次の瞬間、最後に強烈な光に包まれたことを感じながら俺は意識を失った…………………


光が収まった。その時には既に彼らの姿はなかった。書類やテーブル、引かれたままの椅子に鞄などが空しく残っていた。




俺が意識を取り戻すとそこはなんというか光の海?のような所で今は流されているようだ。周りを見渡すと生徒会メンバーと先生がいたが目覚めていないようだった。

しばらく流されていると、生徒会メンバーと先生も少しして目覚めた。


「ここは~どこなのかな~」

「私たちも分からないわ、奏。幸人くん、どうやらあなたが最初に目覚めたようだけれど、何か気付いたことはある?」

「………そうですね、目的地が有るのかどうかは分かりませんが今、流されているということぐらいしか分からないです。………ああ、そういえばここに来る?時に床が光りましたよね。あれは何か図形みたいでした」

そう話すと、東が何かを考えるような顔になり、「図形みたい、デスか?」と聞いてきた。

「うん、図形みたいだった」

「エッとそれって大きな円の中に色んな図形や文字が入ったものデシたか?」

「……うーん、ごめん。全体は見えなかったから何とも言えない。でも、ミミズみたいなものがあったな。あれが文字だっていったら文字みたいだった」

「………そう、デスか」

「あら~ひょっとして~リオちゃん、何か気付いたの~」

「イエ、カナ先輩、そんな気付いたというようなものじゃないデス」

「いいえ、莉緒さん。今は分からないことだらけだわ。だから、どんなことでも話してくれないかしら」

「そう、デスね、ミコ先輩。ワタシが考えたのは―――――」


東が言ったのは『異世界召喚』というものだった。

「ワタシはよくマンガなどを読むのデスがその中にそうしたものがあったのデス」

東が話した異世界召喚と現在の状況は似すぎな程、よく似ていた。ただ、あまりにも荒唐無稽ではないかと思う気持ちもあった。いや、どちらかといえば、信じたくないという気持ちだろうか?

「うーん、有り得ない、とは思うが否定はできねぇな」

「そ、そうですよね。わ、私もそう、思います」と先生と木下はそう話していた。

「どう思う?奏。認めたくないけど私は響先生と同意見なのだけど」

「私も~リオちゃんの~推測は~合ってると思うの~」

どうやら先輩たちも同意見のようだ。

「俺は、確かに状況は似ているとは思いますが……」

「まあ、そうだよな。ただ、今は異世界召喚であると仮定しても良いと思うんだが」

どうやら異論はないようだった。

「で、だ。これからどうする?」

「どう、とは?」俺がそう聞き返すと、

「それは、これが異世界召喚なら何かを目的としてしているわけだろ?なら、その目的に沿うのかどうか、ってことだ」

「ううん、東はどう思う?」

「ワタシは……危険なことでなければ相手の目的に沿って動いた方が良いと思うのデス」

「莉緒さん、それはどうして?」

「それは、召喚ができるなら帰すこともできると思うからデス」

「なるほどな、なら、下手に機嫌を損ねるのもマズイってことか」

「そうですね。響先生。莉緒さん、ごめんなさい。色々聞いて」

「イエ、ミコ先輩。ワタシは大丈夫デス。」

「なら、東、相手がおかしなことを目的としていたら?」

「それは……一旦相手に従うフリをするのデス。そうして、隙を見せたら逃げるのデス」

「なるほど。東、ありがとう。」


先生がまとめる。

「確認をするぞ。一番の目的は帰ることだ。そのための手段として、相手の動きを見るということでいいな」

「それとアタシらがすべきなのは情報収集だ。アタシらは何も知らなすぎる。これは弱点になる」

確かにそれを逆手にとられることがあるかもしれない。

「他には何かあるか?」

「は~い。お姉ちゃん。」

「はあ、お姉ちゃんは止めろと言うのに……まあ、こんな状況だ、別に良いか。んで、奏、なんだ?」

「ユキくんの~呼び方について~」

えっ、このタイミングでその話をぶり返すのか。

そこで気付いたが、東や木下、先輩たちも若干顔色が悪い。まあ、こんな状況だ、当たり前か。先程のやり取りを思い出した。いつも学校では響先生と呼んでいる奏先輩がお姉ちゃんと呼んでいた。ああ、そうか。みんな、不安なんだ。いつもと変わらない様に見える先生もいつもよりシャキッとしている。それはたぶん、さらに不安を感じさせないように気を張っているのだ。

その証拠にその、俺の呼び方に関する話題を皆で話している。明らかにタイミングが違うその話題をだ。

はあ、今まで顔色が悪いことに気付かなかった。今見るといつもと明らかに様子が違うのに………それに気付く余裕も無いほど俺も結構不安を感じていたらしい。それに気付いていた奏先輩たちに感謝しながらもその話題は分が悪いため、何とか話題をそらすことにしたのだった。


しばらく、色んな話を皆で笑いながらしていた。

うん、皆の顔色も普段と変わらないぐらいにはなった。

そんな時だった。今までの流されている感覚から足からゆっくり落ちていくという感覚に変わったのは。

皆もそこで感覚が変わったらしく、今までの和やかな空気が消え、張つめた空気になった。

どのくらい落ちていっただろうか。何かに足がつく感覚があった。どうやら何かに着地したようだ。耳に何か音が届いた。皆で警戒していると、段々と音が大きくなると共に周りの光が薄くなっていた。

光が薄くなり、周囲が見えるようになると全員絶句した。そこは広い石造りの部屋で足下には生徒会室で見たような図形のある円が広がっていた。

そして、円を囲むようにいたのは大勢の人間であった。どうやら音の正体は彼らの声だったらしい。

「我らの元にいらっしゃり感謝申し上げます」と前に出てきて、言ったのは美少女に現在進行形で囲まれている俺でも美少女と言い切れる少女だった。彼女は光り輝く金髪に真っ青の深い海のような目をしていた。



少女はエリザベス・ロウ・バーゼルと名乗った。ここバーゼル王国の王女であるそうだ。さっきまでいた部屋、神礼室を出て、客間に向かっている。

彼女が言うには俺たちを召喚した訳ではないらしい。なんでもあの神礼室に大量の魔力が渦巻いており、中に入ってみたら歴代の神の使いがやって来た魔方陣が反応していたらしい。

「では、ヒビキ様たちは神の使いではなく、別の世界からいらっしゃったのですか?」

「ああ、そうだ。」

そんなことを先生と話している王女様。先生の話し方はマズイとおもうのだが王女様曰く俺たちは神の使いかもしれないため、無下には扱えないそうだ。

……少なくとも俺の目には王女様たちがおかしなことを考えているようには見えない。一度先生たちと話し合いたい。

そんなことを考えていると客間に着いたようだ。

「申し訳ございません。父も会いたいと申しているのですが」

「いや、今日はもう遅いし明日で良いよ」

俺たちが光に連れていかれたのは夕方だったがこちらでは既に日が落ちきって辺り一面に暗闇が広がっていた。

「では、ユキト様、別のお部屋に案内致します」と言う王女様についていこうとするが先生に止められた。

「いや、同室で頼む。東郷も構わないよな」

その発言に困惑していると先生は近寄り、「東郷、話し合いをしたい」と呟いた。

なるほど。「すみません。王女殿下。他の部屋は用意しなくても大丈夫です」

王女様は目を丸くしていたがやがて顔を赤くして「では、ごゆっくりお休み下さいませ。明日、伺いますので」と言い、去っていった。


王女様が去った後、話し合いをすることになった。そこでフッと思ったが俺、どこで寝れば良いんだ?部屋の中を見回すと今いるソコソコ広いリビングの他、ドアでつながっている寝室が3つある。見てみたがベッドも大きかったので詰めれば二人で眠れそうだ。今いるのは、先生、奏先輩、美琴先輩、東、木下、俺…うん、六人だ、じゃあ二人でひとつのベッドを使えば良いな………いやいやいや!じゃあ俺は誰と一緒に寝れば良いんだ?………違う違う!そうじゃない!

そんな風に俺が悶々としている中で話し合いは始まる。

「おーい。東郷落ち着けー。んじゃ明日以降の話し合いをするぞ。先ずはこの国のことだ」

「お姉ちゃん、え~とね~リズちゃんのことは~信用しても~良いと思うの~」

「そうね。このバーゼル王国のことは分からないけどエリザベスさんのことは信用しても良いと思うわ」

「ハイ、リズさんのことは信じても良いと思いマス」

「み、皆さんと、同じ、です」

「俺も王女様のことは信じられると思います」

「ふむ、アタシもあの王女は信用できると思う。なら、あの王女に色々聞いてみる方向でいくか」

「「「「異議無し」」」」「異議、無し、です」

「んじゃ明日に備えてとっとと寝るか」と先生が言った。

すると………奏先輩が話しかけてきた。

「ユキく~ん、一緒に寝よ~」

その瞬間、空気が凍った。

「いやいや、俺はこっちのあのソファーで寝ますから、奏先輩はベッドで寝て下さい」

美琴先輩がやって来て言った。「あら、奏。私が幸人くんを誘おうと思ったのだけれど」

奏先輩が俺の腕を掴んだ。「ミコちゃんは~お姉ちゃんと~寝て~。昔は~よく一緒に~寝ていたでしょう~」

美琴先輩は逆の腕に自身の腕を絡めてきた。む、胸が………

「あら、その昔はいつのことかしら。それに響先生と寝るのなら実の姉妹である奏が最適じゃない」

俺と1年ズはテンパり、奏先輩と美琴先輩は微笑みながらやり取りしているがお互いに譲る気はないようだ。

そんな混沌とした状況のなか、救世主が現れた。まあ、その解決法は俺にとって、望んだものではなかったが。

「おら、とっとと寝ろ。それと東郷、そのソファーじゃ体休めなさそうだからお前もベッドで寝ろ。奏と美琴でひとつ、木下と東でひとつ、アタシと東郷でひとつだ」

先生は奏先輩と美琴先輩を引き剥がしてくれた。しかし、その発言は問題だらけだったが。

「お姉ちゃん~何を~言ってるの~」

「そうです。響先生何を言っているのですか」

「ハア、お前ら、東郷と一緒になんて寝てみろ。どうなるか想像できるだろ」

そう言うと二人は黙ってしまった。それはどういうことだろうか。まさか、俺が二人を襲うとでも思っているのだろうか。見くびってもらっては困る、そんなことはしない!……多分。

こ、このことを考えるのは止めよう。そのことよりも……

「いや、先生も何を言っているんですか。少しぐらいならソファーで寝ても大丈夫ですから…先生は一人で寝て下さい」

「ハア………なあ、東郷………お前はアタシの見た目、どう考えている」

「えっと、それは、可愛い小学せ…………」ハッ、しまっ!

「……ナア、東郷…てめえ、今なんつった?」拳を引くのが見えた。

「スゥー、ハー…………東郷」「ハ、ハハ」

「いっぺん……死にさらせー!」ドギャア!

拳が目の前に突き進む光景を最後に俺の意識は途切れた。


ブッ倒れた幸人………東郷を前にしていた。まあ、アタシが殴ったんだが。確かめてみたが予想通り気を失っていた。

「よし。……お前ら、寝るぞー」

奏が文句を言ってきた。ったく。

「お姉ちゃん~やっぱり~」

「ハア、いや、気を失っていたとしても東郷と一緒に寝るんだぞ?お前ら眠れるか?」

そう言うと奏と美琴は黙った。

「おう、そういうことだから、分かったならとっとと寝ろ」

東と木下を見て言うと二人はビクッとし、顔を赤くして寝室に入っていった。「お、おやすみ、なさい」「お休みなさいデス」

「おう、お休み」「おやすみ~」「お休みなさい」

「んじゃ、お休み」そう言い、東郷を抱え、ドアを開ける。

「…お姉ちゃん、お休み~」「…響先生、おやすみなさい」

二人も寝室に入っていったようだ。

寝室に入ると、東郷をベッドに寝かせた。そして、ブレザーを脱がした。

……………告白しよう。アタシはさっきまで偉そうなことを言っていたが、アタシは今まで誰かと恋人関係になったことがない。だから、男と一緒に寝たことなんて幼い頃、父とあるぐらいだ。

奏と美琴には眠れないだろう、なんて言っていたが、正直、それはアタシにも当てはまる。理性が寝ておくべきだと言う。それに対し、アタシの感情が恥ずかしすぎると……いや!仮にも教え子と同衾するなんて…と訴えかける。

そんな議論を何度繰り返しただろうか。その時、東郷が身動きした。そこで東郷の顔が見えた。その、アタシの考えていることなど関係ないと言わんばかりの呑気な寝顔を。

「ハア………なんかバカらしくなったな」

アタシは東郷の横に倒れこんだ。そして、その呑気な寝顔を見る。

「ナア、東郷。アタシはお前よりも年上なんだぞ?だから……もう少し甘えて苦労をかけろよ」

そう言ってアタシは東郷を抱きしめた。

(注釈 外から見ると抱きついていた)

「お休み………幸、人」アタシはそのまま、目を瞑った。



朝、目が覚めると鳥がチュンチュンとさえずり、俺の横には小学生と見紛う程の美少女が寝ていた。…………うん、完璧、事案発生です。……いやいやいや!俺は何もしてないよ!

そう、先生に抱き付かれていながら、そんなことを考えていた。何故なら、そうしないと、この幸せな感触を味わってしまいそうだからだ。それだけなら未だしも腹の下辺りが………

兎に角、何かしら考えて、気をそらすしかない!そういえば先生って柔らかいし、良い匂いだな………違う!そうじゃない!

うんうん唸りつつ、他のことを考えてみるが、どうしても思考はそちらに向かってしまう。先生の抱擁?を外そうとするも本当に眠っているのか、と思う程の力強さで外せなかった。

ヤバいヤバい!本当にどうかなってしまいそうだ。

そんな時だった。寝室のドアが開き、奏先輩が入ってきたのは。俺はホッとし、助かった、と思ったが今の状況は周りからどう見えるか、それを考えて血の気が引いた。

「ち、違うんです!奏先輩!これには事情があって」

俺の弁明にはとりあわず、奏先輩はフラフラと近寄ってきた。あれ?今思い出したが奏先輩は朝弱いんじゃなかったっけ?

そんなことを思ったが既に手遅れだった。奏先輩は目の前まで近寄ると、ベッドの上に、それもよりにもよって俺の上に倒れてきたのだった。

「ちょっ!奏、先輩!離れて、離れて下さい!」

「むにゃむにゃ~ユキ、くん~おやすみ~」

ヤバい、奏先輩は寝ぼけているようだ。助かるどころかさらに酷い状況になった。ヤバい。思考が桃色路線を突っ走っている。

ここで真の救世主?が現れた。美琴先輩だった。

「こら!奏、幸人くんが困っているじゃない。ほら、顔を洗っておいで」

「むにゃ~ミコちゃん~分かった~グー~」

「こら、寝ないの!ああ、結花さん、莉緒さん、奏をお願いね」

どうやら木下と東も起きているようだ。それにしても美琴先輩はなぜ奏先輩を自分で連れていかなかったのだろうか?

美琴先輩は近寄り、「幸人くんも災難ね」と話しかけてきた。俺は、何かその笑顔に嫌な予感がした。すると、「先生はまだ寝ているの?」と言いながら、手を伸ばす彼女は次の瞬間、わざとらしい言い方をしながら俺に寄りかかってきた。

「あら、ごめんなさい。足が滑ったわ」

奏先輩にも負けず劣らず柔らかい、それでいてハリがあるがまさしく千変万化に形を変えるグニグニ、ムニュムニュがのっかる。

「いやいやいや!大丈夫ですから!大丈夫ですから!土下座するんで離れて下さい、お願いします!死にそうです!」

「あらあら。フフ、土下座なんてしなくても良いわ」美琴先輩は妖しく微笑む。

先生はまだ、眠っていた。


はあ、朝から酷い目に遭った。………まあ、たぶん、あの感触は一生忘れないだろうが。それと離れた時、残念に思う自分がいたのも事実であるが。

今は、朝食が出来たそうで、王女様が呼びに来たので食堂に向かっているところだ。王女様は先生と話している。

「ではご朝食の後、父とお会いになる、ということでよろしいのでしょうか」

「ああ、よろしく頼む」

「はい。承りました。それと、皆様はどのような『ステータス』をお持ちなのでしょうか」

ステータス?一体なんだろうか。やはり、ゲームみたいにHPやMPといったことが書いてあるあれだろうか。

「ステータス?とはなんだろうか?」

「ステータスをお知りではないのですか?それではご説明致します。ステータスとは、その個人の年齢などの基礎的情報の他、才能や素質を表すものです。」

「なるほどな。ああ、さっきの質問だがアタシらの世界にはステータスはなかった。だからどんなステータスかは分からない」

「そうでしたか。では、本日はヒビキ様たちのステータスもお調べしましょうか」

「ん?結構簡単に調べられるのかい?」

「はい。そうです。魔道具、今わたくしが身に付けているこのネックレスもそうなのですが特別な力のある道具がございます」

「ふむ、ありがとう。そのネックレスはどんな能力があるんだい?」

「はい。このネックレスには自動翻訳という能力がございます」

「自動翻訳?」

「はい。ヒビキ様たちは疑問に思われなかったですか?なぜ、世界も違うのに言葉が分かるのかと」

チラッとは思ったが、通じているからそういうものだと思っていた。

「なるほど。じゃあ、そのネックレスを外すとどうなるんだい?」

「それは……」王女様はネックレスを外し、口を開いた。

「〇〈><#$"! ## ?!〇々〆atmwp」

えっ何て言ったんだ。

「悪い。分からん。ネックレスを着けてくれ」と先生がネックレスを指差しながら言った。

王女様は再度ネックレスを身に付け、「どうやらわたくしが申したことがお分かりになられなかったようですね」

「ああ。そうだな。だが、なぜそんなネックレスをアタシらと話す前から身に付けてたんだ?」

そういえばそうだ。俺たちと話す前から自動翻訳のネックレスを身に付けていた。

「それは最初、ヒビキ様方のことを神の使いであると考えていたためです。文献に載っている限りでは、神の使いとは言葉が通じなかったとありましたので」

「うん、なるほどな」

うん、納得できた。

「それとアタシらの別の世界から来たということをあっさり信じてくれたよな。それはなんでだ?」

「はい、そうですね。……どうやら食堂に着いた様なのでお食事しながらお話しいたします」

「ああ、問題ない」


食事をしながら話を続けた。

「ヒビキ様達のことを信じたのは、我が国にはとある神話が伝わっているからです。それでは神が造りし世界は複数あり、それらの世界は同じ木になる果実の様にどこかで繋がっているとあります。歴代の神の使いもそうした別の世界から神が雇った方々であると言われています」

なるほど。だから、別の世界の存在は信じている、ということか。………今、神が()()()と話した?

「なるほどな。だから、あっさり信じてくれたのか。それと神の使いは、雇われたっていうのは?」

「はい。神はその別の世界の人々にあることを頼む代わりに元の世界に帰し、何か願いを叶えたそうです」

なるほど、対価があったのか。それと、良いことを聞けた。少なくとも『神』は世界を渡る能力があるようだ。それなら、帰還も絶望的ではないと思った。

「ありがとう。そろそろ朝飯も終わるし、次の場所に行くか」


朝食の後は、この国の王と王妃たちに会った。話した内容は正直、緊張しすぎて覚えていない。そんな王は、王女様と親子なのだと確かに感じさせる見事な金髪にコバルトブルーの瞳を持つ美形の中年男性だった。

どうやら王女様は正室ではなく、側室の娘であるらしかった。


謁見の間を出て、ステータスを見る魔道具のある部屋に向かう。その魔道具は、大きな平べったい石の様なものだった。

「では、皆様こちらの石に触れて下さい」

「んじゃ、アタシからいくわ」と先生が触れた。

すると、石の表面が輝き、文字が浮かび上がってきた。その文字は普段なら読めない字であったが、事前に渡されていた指輪の効果で書いてある内容は理解できた。

そこにはこう書かれていた。

[名前 天使 響(25)  Job 拳の勇者  レベル30  体力2200 筋力2500 魔力1500 素早さ3500 器用1300 運勢1000  スキル 拳術の極みLv 5、神拳の使い手(ロリっ娘ヤンキー)、気功術]

………勇者ってあるし、何か凄そうだ。そう思い、王女様を見ると、驚愕の表情をしていた。

「す、凄いですよ!Jobに勇者ってでるのは、横に並ぶ者なしということなんですから。それにこのレベルでこの数値は高いです!」

「……あー、この神拳の使い手ってのは?」

「はい。おそらく、拳の勇者ですから、それで発現したのではないかと思います」

あれ?先生も王女様も神拳の使い手の振り仮名について、話さない?そう思うと、殺気を感じた。俺は平伏した。………俺はそんな分かりやすいのだろうか?

「ヒビキ様?どうかなさいましたか?」

「あー、…ハア、神拳の使い手の所に別の読み方があるんだが………あまり良い意味がないんだ」

「別の、読み方ですか?わたくしには特に見えませんが………ひょっとして強力なスキルだからかもしれないですね。歴代の神の使いも自身のみ読める別名がある強力なスキルを持っていたと言います」

ふむふむ、なるほど。それから、生徒会メンバーのステータスを見ていった。

メンバーのステータスは次の様なものだった。

[名前 天使 奏(17)  Job 癒の勇者  レベル18  体力1000 筋力950 魔力3000 素早さ1300 器用1500 運勢2000  スキル 治癒の極みLv 3、癒しの力、撲殺術(スローペース)

[名前 織田 美琴(18)  Job 鞭の勇者  レベル20  体力1300 筋力1200 魔力2000 素早さ1500 器用2500 運勢1500  スキル 鞭術の極みLv 5、超絶技巧、生きる鞭(ドS女王)

[名前 東 莉緒(15)  Job 魔の勇者  レベル13  体力800 筋力800 魔力1800 素早さ1600 器用1600 運勢1400  スキル 魔術の極みLv 1、高速思考、賢者見習い(オタク一家)

[名前 木下 結花(15)  Job 剣の勇者  レベル23  体力1400 筋力2000 魔力1800 素早さ2300 器用2000 運勢1200   スキル 剣術の極みLv 6、感覚強化、神速の剣聖(凄腕乙女)


凄いな。勇者だらけだ。王女様は驚愕しっぱなしだった。

最後は俺なんだが……………せめて、良いものでなくても悪くないものであれ、と願いをこめて、石に触れた。そこに浮かんだ俺のステータスは……………


[名前 東郷 幸人(16)  Job 非正規雇用(フリーター)  レベル28  体力2000 筋力2000 魔力50 素早さ2300 器用1850 運勢計測不能  スキル 器用貧乏、貧乏暇なし(パペット)、不運]


…………俺は黙る、さっきまで興奮していた王女様も黙る、笑いあっていた生徒会メンバーや先生も黙る。場を静寂が支配した。


いやいやいや、なんなのこのステータス!まず、Job!

なんだよ、非正規雇用のフリーターって。いやまあ、正社員じゃないからフリーターなんだが。って、そうじゃなくて、まあ、バイトはしていたが、しっかりと学校には通っていたよ?同じく学生である先輩と後輩たちは、ちゃんといたJobなのに、俺のはふざけたの?ふざけるな、ステータス!

俺は、ステータスに憤っていた。本当にこれが俺のステータスなの?すがる様に王女様を見ると王女様は目をそらしたのだった。


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