小人
ここでない、どこかの世界の話。
あるとき、ある世界に一人の小人が生まれた。
その世界には神がいて、地上にいるたくさんの操り人形を一人で操っていた。
小人はやがて物心がつき、自我が芽生え始めた。しかし小人には、自分と周りの操り人形たちの区別が付かなかったため、周囲にもまたそれぞれの自我があるのだろうと思っていた。
操り人形たちの頭には、それぞれの記憶が刻まれていた。しかし実際にその記憶を使って思考しているのは神だった。操り人形たちは、神が理性によって世界を支配するための手段でしかなかった。
人形を操る糸は、時間が経つにつれて1本、また1本と切れていった。そのたびに神は新しい糸を地に下ろし、次の人形を操り始めた。
小人の周りの人形も、1体、また1体と倒れていった。それを見た小人は、自分もまたいつか倒れ、動かなくなるのだと悟った。
そしてその時が来た。小人は、自分がもうじき動かなくなると分かっていた。
小人は安らかに息を引き取った―
―自分もまた、神の操る人形の1つだったということには、終ぞ気付かずに。
ここでない、どこかの世界の話。
でももしかしたら、この世界も同じなのかもしれない。
我々にとってそれが、一切知る余地も無く、また一切関係無いというだけで……。