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Itan 2  作者: 三千
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迷路

「こうなったら、何が何でも告ってやる」


私はこの時点で、かなり強固な決意を胸に秘めていた。


先生のマンションに泊めてもらって大泣きした次の日、腫れぼったいまぶたで、私と先生は丸井のおじいさんの屋敷に来た。


丸井のおじいさんの話はこうだ。


竹澤先生は、善光先生と共に、丸井のおじいさんが代表を務めている能力者のグループホームで育った。


能力者の力については、世間ではその存在を知られていない。

皆それぞれに仕事をし、家族を持って生活している。


そうやって完璧に隠されていることがどうして可能であるのか、私はその理由を知って意外に思ったのだ。


「実は皆んな、そう、すごい力は持っておらんのだよ」


「え、そうなんですか?」


「ああ、竹澤くんはまあ、素晴らしい力だが、善光に至ってはただのバカ力ってだけでな。けどまあ、そこら辺の能力者の中では確かに力は強い方だけどもな。他の能力者はそう大した力は無いから、世間に知られずに済んどる。まあ、一応本人が気づかれないようにと、気をつけているというのもあるからのう」


「何だあ、そうなんだ。崎さんとか、ウェイリンさんとかに結構なことされたんで、みんながそうだと思ってました」


「おお、そうだったね、瑠衣さんには迷惑かけてばかりでな。わしも、この前やらかしてしもうて。本当にすまんかったのう」


「いえ、大丈夫です」


私が恐縮して言うのを聞いて、丸井のおじいさんは咳払いを二度した。


「善光のバカもなあ、色々と迷惑かけてしまって、悪かったと思っておるよ」


私の横に座る善光先生が少し怒ったように、もう時効だろっと横から口を出す。


「それより、」


「分かっとるわい、竹澤くんがどうして自衛隊に加担しとるかを説明せんとな」


「はい、」


私は素直に返事をした。


竹澤先生からは聞けなかった。


その理由を問うと、いつも苦笑してから口を噤んでしまう。


先生は何かを説明したがっている、けれど言い訳する気は毛頭ない、そんな雰囲気を常に身にまとっていて、結局は話してくれる機会は訪れなかった。


「各務くんの影響よ。瑠衣さんは彼に会ったことがあるかね?」


「あ、はい。一度だけ、狩野に初めて行った日に」


「彼もまた幼少の時から、ここで過ごしていた。けれど、あんたと静さんの存在を知って、これを利用しない手はないと言い出したんだよ。さっきも出た名前だがな、崎くんやウェイリンは能力が高い方だが、各務くんもなかなかのもんでなあ」


善光先生が横から入る。


「各務の力は、物質を爆発させるものなんだ」


丸井のおじいさんが湯呑みに淹れられたお茶を飲む。


私もテーブルから湯呑みを取ると、慌てて口にした。


高級そうな緑茶の味がする。

何か久しぶりに湯呑みで日本茶を飲んだなあと感慨にふけっていると、丸井のおじいさんが続きを喋り出した。


「けれど、元来真っ直ぐな性根で、それを危険思想には用いなんだ。そこはわしも評価しておるがの。けれど、ここからは話が違う。各務くんは自分の爆破の力を、瑠衣さん、あんたで増幅させようと考え始めた。各務くんはもともと自衛隊所属だったから、その能力を上のもんに話してしまってな。その力をあんたと協力させて、日本の防衛に役立てようとしておる」


そこでな、丸井のおじいさんはそう続けた。


「なあ、瑠衣さんよ、日本の防衛のためと聞いて、どんな印象を持つかの?」


「悪いことじゃないっていうか、それが正義のように聞こえます」


「そうよ、そこが味噌みそでな。国を守ることができる力は、裏を返すとだな、他国への侵略にも使えるという原理。そこに、危険性をはらんでおるんだよ。各務くんとあんたの力を使えば、例えばこっちに飛んでくるミサイルを、空中で爆破させることが可能なんだよ。けれど、逆にだ。こちらから打ち込んだミサイルを他国で何倍もの威力で爆発させることも可能になる。そんな力を日本は各務くんと一緒に手に入れようとしているんだよ」


「はい」


「だからわしは、静さんとあんたを守るために、竹澤くんと善光をやった。最初は他の能力者から守るだけだったんがなあ。途中から、各務くんがなかなかの強引さであんたたちを奪おうとしてきて、まあ、その時点で方向転換を余儀なくされたんだが……」


初めて会った時のことを思い出す。


それはいつの間にか、私の中での大切な思い出となっていた。


「各務くんはのう、最初は静さんを使うつもりでおったらしい。かなり強引で荒々しいやり方でな。あんたを誘拐して脅すってことも、計画してたりな」


「えっ‼︎」


私は驚いてしまった。


だって、今までそんな怖い思いしたこと、ない。


「竹澤くんと善光が、いつも守っておったんだよ」


そうなんだ、そういうことが実際にあったんだ。


私は自分の知らない所でそんな攻防があったと知ってショックだった。

自分がそれにまったく気が付いていなかったことにも、同じように。


私たち母娘は本当に、二人に守られていたんだと。


「……竹澤先生は、各務さんに支持を?」


隣から、善光先生が入ってくる。


「ああ、途中から雲行きが怪しくなったんだ。けれどまあ、今でもだと思いたいが、各務にかなり引っ張られている感がある。お前を使うと言われりゃ、二の足を踏むわな。その証拠に、お前のことに関しては、各務は早急にと急かしていたが、竹が仕切り直して、かなり慎重に進めていたらしいからな。あいつら実の兄弟なんだ。年の差はかなりあいてるけどな、母親が違うんだ」


「じゃあ、先生のお父さんが能力者ってこと?」


「そうだ」


「先生を説得しなきゃ」


「俺がやる、お前はここで待っててくれ。俺が、絶対に連れ帰るから」


先生が手を伸ばしてくる。

私の手を握ろうとして。


けれど。


「竹澤くんが戻ったら、結婚式じゃの」


丸井のおじいさんの声で、ピクリと先生の手が止まった。


そして、それは私にまで届かなかった。


先生が、ふっと笑った。


「安心しろ、俺が連れ帰るから。お前は何も心配しなくていい」


にこっと笑いかけると、席を立って、部屋を出て行った。


丸井のおじいさんは、そんなやり取りを、にこにこと笑顔で見ている。


けれど、その憂いを帯びた瞳。

何もかも知っているような、お見通しのような、それはそんな瞳だった。


けれど、私としては、誰がどう思おうと関係はない。


そして冒頭に戻る。

絶対に告ってやる! と。


✳︎✳︎✳︎


そしてその日はやってきた。


決心が揺らぐ前にっ!

何が何でもっ!


「私も行くっ‼︎ 絶対に行くっ‼︎ 私が先生の中に入るから、一緒に合体して戦おう‼︎」


「合体て‼︎」


先生は呆れた顔を作って、私をどう言って追い返そうかと思案中だ。


「そんな簡単じゃねーの」


「だって、先生一人で行ったって弱っちいのに、どうやって連れ戻すのっ‼︎」


「よ、弱っちいって、失礼なヤツだな‼︎ まあ、なるべく説得するつもりだよ、力じゃ勝てねえからな」


「ほらあ、そうでしょ。だから、私も行くの」


「またお前が捕まったらどうすんだよっ‼︎ 危ねえの、遊びに行くんじゃねえの」


言い合っていたら、後ろから声が聞こえた。


「あらあ、痴話喧嘩ちわげんか? 可愛いいわねえ」


振り返ると、背の高い女性が立っている。


スラリと細く、薄いピンクの上品なワンピースを着こなしている。


芸能人というか、女優。

そんな雰囲気に、一瞬怯む。


「瑠衣さん、初めまして。私、瀬田って言います」


は、初めまして、私はおどおどしながらも、頭を下げた。


ちらと見上げると、彼女は笑った。

うわ、美っ人。


けれど、すぐにも私から離れて、振り返る。


「ねえ、善」


途端に、この猫なで声。


「私、離婚届、置いてきたの。だから、これからは善だけ、よ」


ウィンクした仕草がセクシーだ。

ん、善だけ、って?


「お前なあ、冗談もほどほどにしとけよ。離婚しようが何しようが、お前とは寝ないっつってんの」


え、と私は振り返った。


今の私の顔、どうなってる⁉︎


私の存在に気がついて、善光先生が慌てふためく。


「あ、いや、うっわ。お前、居たのかって、ち、違うんだ、そうじゃねえ、環っ‼︎ お前、変なこと言わせんじゃねえっ‼︎」


環……って、そうなんだ、この人なんだ、デートとか何とか。


竹澤先生め、この人のどこがおばちゃんなんだあ‼︎


私は涙目で先生を睨みつけると、


「先生のエロバカっ‼︎ 先生の変態っ‼︎」


る、るい、と情けない声が一つ。


けれど、それを振り払うようにして、私は走って車に駆け込んだ。

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