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魔女なな

1人の少年が言った。


「かあさまは僕を生き返らせてくれると信じるよ。 だから、僕の命を代償としてかあさまを蘇らせて?」


「いいであろう。 して、どうするのじゃ?」


「僕はかあさまを信じる。 でも、かあさまがもし、僕のことを裏切った時には……。」


そこから先の魔女と少年の声は聞こえない。

ぼやけていく視界と雑音の中、1つだけ聞こえたことがあった。

それは……。


「……の……せを代償……し、……き………………らせ……。」


代償という言葉。




所変わって、1つの豪邸。

膨らんだお腹に手を添えていたのは1人の男の手。


「もうすぐ産まれるね。 一緒に育てようね。 君と私の子はさぞや可愛いことだろう。 貴方は男の子か女の子か、どちらがいいですか?」


「貴方との子ならどちらでも構わないわ。 私を捨てないでくれさえいれば、嬉しいもの。 もし、子どもを産んで子どもがいらなくなってしまっても私だけは捨てないで……。」


その時のことを想像して寂しくなったのだろう。

か細い声をしていた。

私が捨てるなんてことをするはずがないのに……。


「私は貴方を捨てたりはしませんよ。 心配ならば、念書でも書きましょうか?」


彼女を安心させるように、手を握る。

何処かしら、人のぬくもりを感じられると彼女は落ち着くみたいだ。


「そこまでしなくても……。」


そんなことを言いながら、君が不安がっているのはわかっているんです。

私も逃すつもりはありませんから。


「念書を書いておきましょう。 私に不都合はありませんから。」


その言葉を聞いた彼女は花が咲くような表情をして嬉しそうに笑う。


念書の内容は何があっても彼女を捨てないこと。

離婚しないこと。

たった1人、彼女だけを愛し続けること。

愛人はとらないこと、愛人を作らないこと。


これらのことの誓う証を示すために私たちはサインと血判を押した。

しかし、あんな化け物が産まれるなんて知っていればこんな念書は書かなかっただろう。

念書は公平な判断をしてくれる場に提出した。

そして私はもう、彼女という厄災から逃げることはできなくなった。






子どもが産まれた。

年をとったがまだ元気のあるお婆さんに助産を頼んだ。

私たちは嬉しかった。

元気な子が産まれたことも私たちの間にできた愛のある子どもも……。

無事に産まれて嬉しかった。

そう、あの言葉を聞くまで嬉しかったんだ。


「かあさま、久しぶりだね。 よくも、僕を裏切ったね。 後悔させてあげるね?」


場は一気に凍りついた。


それから、私たちの夫婦仲は最悪のものになった。

また、助産師も子どもの声を聞いていたのでうちの子どもを化け物だと周りに広めてしまった。

そのせいで人々も遠ざかっている。

このままでは、この家は潰れてしまう。

だが、化け物はこの家に住み着いている。

何度、殺そうと思ったか。

何度、あの厄災を追い払おうとしたか。

その度に自分から厄災を招いたことを後悔するんだ。

彼女を得るために競ったものたちは今頃ほっとしているのだろう。

私もこんなことになると分かっていれば、結婚することも念書を書くこともしなかった。

このまま化け物を産んだ彼女と一生を過ごしていくなんて、もう耐えらない。

この家で貴族としての役割を果たしてくれた父や母には悪いがもう潮時だろう。

化け物と化け物を産んだ妻と一緒にいるなど私には無理だったのだ。

化け物ではなく、人間(・・)を産んでくれさえすれば、ずっと愛していられたのに……。

さようなら。

ひととき愛した……。

化け物の妻よ。

化け物を産んだ責任を化け物を育てることで果たせば良い。

私は、もう疲れた。

休ませておくれ……。


その後、朝早くに遺書とともに発見された。

首吊り自殺だった。

遺書には……。


〜 化け物を産んだ責任をとって、

その化け物を一生育てていきなさい。〜


その言葉だけだった。






母は狂った。

幸せから一気に地獄へ転落し、愛するものを喪いながらも、たった1つのあの男の言葉に縛られている。

目も虚ろで、これ以上、立ち直ることはできないだろう。

精神が壊れてしまったのだ。

僕はいい気味だと思った。

あの遺書のおかげで幸い、僕は見捨てられることなく育てられている。

元気に育って今は6歳になった。

相変わらず、僕とこのクズな母親は化け物の妻と子どもといわれている。

まぁ、僕はある程度育ったら、こんなところでていくけどね。

僕は、形だけの母親をちらっと見てあの時のことを振り返った。

魔女に僕があの頃信じていたかあさま(・・・・)に裏切られることはないと思っていたけど、魔女の話を聞いておいて、保険をかけておいて本当に良かったよ。

まぁ、魔女との勝負は負けてしまったけど、今となっては魔女に感謝だね。

かあさま(・・・・)が裏切ることなんてないと信じていた昔の僕とはさようなら。

僕はかあさまが僕を見捨てたように、見捨てることにしよう。

さようならかあさま。

さようなら、単純に信じていた頃の()



そうそう、あの時魔女に頼んだことは……。


「かあさまは僕を生き返らせてくれると信じるよ。 だから、僕の命を代償としてかあさまを蘇らせて?」


「いいであろう。 して、どうするのじゃ?」


「僕はかあさまを信じる。 でも、かあさまがもし、僕のことを裏切った時には……。」


「かあさまの幸せを代償とし、生き返らせて。」



代償は母親の幸せ。

全ては誰が招いた結果だろうか。

それとも、元々決まっていた運命だったのか。

それは、人間に分かることはない。

しかし、1人の魔女は知っていたであろう。

少年が裏切られることを言ったのは魔女だから。

少年を助けたのは、気まぐれか……。

それとも……。

まぁ、魔女にしか分からぬこともあるのでしょう。

分からないことは分からないことで、知る必要のないことかもしれないし、知ってはいけないことなのかもしれない。

もし、知ってはいけないことであったのならば、箱に厳重に鍵をかけよう。

誰にも開けることができないように、隠し場所に持って行って……。

鍵は何処かに放り投げてしまおう。

壊されない限り、開けることのできない箱なんてどうだろうか。


開けるの禁止なんてのは書かない。

そんなことをするほど、人間の好奇心には火がつくから。

そっと、しまって(隠して)置くのが無難さ。










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