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魔女いち

私は願いを叶える魔女。

願いの代償はあなたの1番大切なもの。

記憶も気持ちもなんでもあり。

もちろん人間も……。

私が欲しいのは人の純粋な欲望。

ねぇ、あなたの願いは何?

貴方の願い叶えます。



森には魔女が住んでいる。

1人の女が今日も不気味な笑みで透明な水晶を覗いていた。

そこには何も映ってはいないのに、あたかも何かが見えているように……。


「魔女が人の命を好む……とは……。」

「笑えるのぅ……。 ふふっ。」


その頃、魔女が好むのは人の命だとある都市では噂されていた。

彼女は都市から離れた辺境の地に住んでいるのに、何故知ることができたのか。

それは、彼女には都市の様子を知ることができる方法を持っていたからにほかならない。

黒い鳥は彼女の眷属。

そう、彼女は烏を通して都市の情報を得ていた。


「我が好むのは……人の純粋な欲望だと言うのに……。 人間とは面白いことを考えるものだ。」

「だから、人の醜く汚れた部分を見ても嫌うことはできないのかもしれない。 主に私がそんな深い負の部分を持っている人間が好きだからというのもまた1つの理由だがのぅ。」


人間は面白いものじゃて。

人間は他人のために自分の大切なものを捨てることができる。

その大切なものを捨てるのではなく、活かすという人間もいる。

人間にとって、捨てると活かすは違うらしい。

我からしてみれば、どちらにしろなくなるのだから、捨てるでもいいとおもうが……。

人間とは不思議なものよのぅ。

我は他人のために己が大切なものを差し出したりはせぬよ。

何故、人間は他人の命を生かすために己が命を捨てることができるのか意味がわからぬ。

他人の命を生かすくらいなら、己が命を生かせば良いものを……。

人間とは(まこと)、理解できぬ生き物だ。

死が怖くないのかと聞けば怖くないと言う。

心の奥底ではみっともなく震えているくせにのぅ……。

我には嘘はつけぬのに意地を張る。

そんなに恐れるのなら、救いたいものを見捨てればいいのになぁ〜。

助かったものは悲しみにくれ、罪を犯す。

救われた命をまた、差し出す。

そして、頼むのだ。

生き返らせてくれ、と。

本当はそんなこと思ってもいないくせにのぅ。

少なからず、命を差し出しても生き返らせたいと思っているものもいるが、圧倒的に多いのは、そのまま生きたいと思っているものじゃて。

死にたくない。

せっかく、助かった生を何故、手放さなければならない。

助けたものが勝手にやったこと。

勝手に差し出した奴を助ける必要はないだろう。

助けたものの命は助かったものが有効活用してやる。

お前の分まで生きてやるから。

そうやって嘲笑うのさ。

我はそれを見ているのだ。

ただただ、その場をじっと見つめて……。




我は命を扱う願いを承ることが多々じゃ。

純粋な思いは大切なものを救いたいとそれだけを心から思う気持ちが1番、純粋じゃてのぅ。

だから、必然的に命を扱うのが多くなるのじゃよ。

我が1つの喜劇と悲劇を教えてやろう。


まずは、喜劇からじゃ。


あれは、冬の特に寒い季節でのぅ。

貧しい辺境の村では、飢えを凌ぐのも一苦労で子どもを殺すことになった。

その村では一晩で3人の子どもが亡くなった。

どんどん亡くなっていく子ども。

3人ずつ削られていった。

子どものほうが食事の量ももそんなに多くないはずじゃ。

なのに、大人は自分が助かるために子どもを殺す。

誰も、死ぬことは怖いのじゃ。

深層心理では、怖く震えている。

それに気づかない人間もいるがのぅ。

大人という子どもより強いものが弱いものを殺していくのじゃよ。

それはそれは、血の沼ができるほどに生命が流れていったのじゃ。

消えていったのじゃよ。

我は、それを笑って見ていたが、人間とは欲を求め続けるものだからのぅ。

生きたいという欲は誰でも持っておる。

その欲が人を殺す。

人が生きるのに犠牲が必要なことはあるからじゃて。

殺しに殺して得たのは生。

犠牲にして得た生命(いのち)

消えていった生命(せいめい)の数多く、生きている生命(いのち)は少ない。

その村では考えなかったのだろうなぁ。

子どもが消えていったから、必然的に村には年老いたものばかり。

年若い人たちは減り、なんの心配もなく働ける人間は少なくなった。

人手も不足して、動ける人間は減っていき、ついに、過ちに気付く。

遅すぎた気づきにもたらされたのは、またしても最悪なもので……。

寒さに凍え、飢えを満たすこともままならない冬を越えきたのは、病の蔓延。

若い人間はこの広がった病に倒れた。

そして、消えていく。

散っていく赤。

そこには、……いた。

大切な息子も娘も妻も奪われたものたちが……。

1人が立ち上がった。

病で亡くした息子を、殺された娘を、権力者に忌み物にされ、精神的に病み死んでいった妻を……救いたいと……。

1人の殿方が、魔女に会いにきた。

そいつは我に3人を救いたいと言ったのじゃ。


「1人になって、全ての愛しいものたちを亡くして気づいた。 大切だった。 手放してはいけなかったんだ。 俺は手を離してしまった。 救いを求めていた手を……。 魔女よ、どうか3人を助けてくれ。 俺にできることはなんでもする。 どうか私が何よりも大切な3人を救ってくれ。」


我の前で床に頭を擦りつけていた。

惨めで足掻いていて、みっともなくて汚く映ったはずじゃ。

心の曇りに曇った連中ならのぅ……。

だが、我はその姿はきらきらと輝いて見えたのじゃ。

最も、純粋な気持ちで願っていたのじゃよ。

救ってくれ、となぁ〜。

ただ、それだけを思っていたのじゃ。


「お主の死んだ息子も娘も妻も、肉体が滅んでいるではないか。 どう考えても生き返らせることは無理だとは思わなかったか? 我とて万能な魔女ではないと、そうは思わなかったか? それとも何か、お主はお主の全てを我にくれるのか?」


少し、意地悪をしてみたのじゃ。

どれだけ、相手を思うことができるのかをのぅ……。

我は口角を上げた。

それが相手には異様な笑みに見えたようで、震えていたのがまた面白かったのだがのぅ。


「俺は、その3人を生き返らせてくれるのなら、なんでも貴方に渡しましょう。 誰になんと言われようとも……。 例え、3人の中に俺が生きていなくても俺は3人に生きて欲しいと思っているから。 自己満足で、迷惑だと言われるかもしれない。 だが、俺は3人を助けたい。 この通りだ、助けてくれ。 魔女よ。」


「3人が生き返り迫害されようとも、お主はそれを望むのか?」


男は怯む。

唇を噛んで、下を向く。


「……。」

「当たり前であろう? 生き返るのは、普通ではない。 異常なことだ。 魔女に助けを求めているものは少なくはないが、あのこじんまりとした村の中で、気付かないものはいない。 魔女に救いを求めたと……。そのことのせいで、また、死ぬのではないか。 お主が救った大切な家族がのぅ。 我はそれでも面白くて良いと思うが……。」

「俺は3人を救いたいことに変わりはない。 魔女に言われて気づいたよ。 だったら、俺は村のやつらの記憶を改竄するように、今ここで魔女に、お前に頼めばいい。」

「ほぅ、お主。 死ぬぞ? それでも、良いのか? えぇ?」


男は一呼吸置いて、口を開く。


「俺の大切な人たちを助けてくれるのなら、この命差し出そう。 ただし、失敗したらお前を呪ってやるからな。」


男の強気なところに魔女は本心から笑った。


「あっははははははは〜! はー……ひぃー。 ……ははははははは〜。 ……わ、笑わせ……ぉって。 ……は、はらが痛いわ〜。 あっははははははは〜。 ま、魔女を……の、呪うとか……。」


我の笑い声が盛大に屋敷に響いていた。

男はそれに肩を震わせ、顔に朱がさしていた。

怒ってたのか、恥ずかしかったのかはわからぬが、我はそんなことを気にすることなく笑っていた。


「ょ、よいぞ。 け、契約をして……やろぅ。 ぷっ!」


我は口元を手で抑えて言った。


「魔女のツボは浅いかぁ〜。 俺が生きてたら覚えておけよ。」


その一言はやけに耳に残っている。





男の願いは叶った。

彼らは生き返る。

男の支払った代償は……。



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