曜と陰
チリンチリンと幻想の鐘がなった。
煌めく曜は、揚々と空を舞い上がった。
決して落ちることのないような速度で飛び上がった愛の力を持つ翅は、大気圏をジャンプ台にし、宙空に向かった。
蠢めく陰は、陰湿に地面を這った。
光などいささかもない土地でうねうねと転がっている。死体に湧く蛆虫のようにぬめぬめと取り巻く闇は、身の毛がよだつほどだった。
相対的な両者だが、本質は変わらない。
二人は、同じ場所に棲息する。
それは、私たちである。
善良な気持ちで常にいることは、本来の人間の姿ではない。
反対に極悪非道な気持ちで常にいることもまた、人間ではない。
結局のところ、二人は絶対に交わらないが、共存している「油と水」だ。
幻想の鐘が鳴ると二人は同時に動き出す。
正反対の方向に向かって動く。それは、絶対に一直線上から逸れずに目的の地まで行く。
二人の関係は不変である。
二人のそれぞれの想いは常に不変である。
二人の行く未来は常に不変である。
私たちたちが人間的である限り。