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3話

「んっ……」


 あれから三時間。諸々の処理を終わらせて、壊れた馬車の中で寝かせておいた少年が目を開けた。

 慌ただしかったのでじっくり見ていなかったが、猫のようにふわふわとしたクリーム色の髪といい、くりくりとした青い瞳といい、中々に可愛らしい顔立ちをしている。ちょっと疼く。種族が種族故致し方なし。


「目が覚めたか?」

「……ここは?」


 どうやら混乱しているらしい。無理もない。


「覚えていないか? 右腕を切られて倒れていたのを」

「右、腕……」


 さっー、と顔色が青くなる。慌てて右腕を確認すると、問題なくくっついておりほっとしているようだ。が、同時に不思議がっている。完全に切り落とされていたからな。


「安心していい、治療しておいた。不具合無く動く……はずだ」


 言い切れないのは初めて魔術を使用したからである。感覚的には治ってると思うのだが、絶対とは言えない。


「あ、ありがとうございます。ボク、襲われて、それで、それで……死んじゃうかと思って、みんなは」


 パニックになりかけている少年に告げる。


「残念だが、私が駆けつけた時には君以外はみんな事切れていた」

「そんな……」


 涙が溢れてきている。親しい人間がいたのだろう。

 正直泣いている子供を前に話をすすめるのは気がひけるのだが、そろそろ契約しないとこっちとしても消耗が激しい。アニマを殆ど所持していないので現界できる時間があんまり無いのだ。今は動いていないので消耗が少ないのと先程のキスで少々失敬した生命力、後は気合いで持たせているに等しい。

 随分と暴れたので結構厳しい。人間界で悪魔が大暴れするにはそれなりのアニマか依代が必須になる。

 依代っていうのはアニマで作った分けられた魂の入れ物みたいなもので、現状の私みたいな最下級悪魔には関わりのないものだ。依代を使用すれば消耗は少ないが、代わりに全力を出すことはできない。

 高位の悪魔は自ら赴くのは稀で、依代を使っていることが多いらしいが、どちらにせよ意識がリンクしているので同時に動けるわけではない。ただ、外装とか性別他色々弄れて違う気分を味わうのに人気だとか。退屈という毒は悪魔をも殺すから仕方ないね。それはともかく――


 涙が零れそうになっている彼のまぶたを手の甲で拭うと、話を続ける。


「とはいえ、襲撃者達は全て倒しておいた。仇はとった、ということで納得して欲しい」


 今度は絶句しているようだ。まぁ、あの数を一人で倒すのはまともとは言えないからな。


「不躾で悪いが、話をさせてもらいたい。私と契約して欲しい」

「けい、やく?」

「そう、契約。私が力を貸す代わりに、あなたに対価を頂きたい」

「対価って……何をですか? ううん、お姉さんは、何者なの?」


 流石にここまでくれば私がまともな人間ではないと思ったのだろう。私は外見的には悪魔的特徴をほとんど持っていないのでわかりにくい。尻尾はあるけどマントの下だしな。


「私は悪魔、ファルサボヌス。召喚の儀に従い、御身のもとに馳せ参じた」


 少々カッコつけてマントを翻し、自己紹介を行う。なんだか僅かな前世が反応して身悶えている気がするが、悪魔になった時点で今更である。後、私はマントの下は結構際どい衣装なので唖然としていた少年が少し頬を赤くしている。見たところせいぜい13歳くらいだが、もう始まっているのだろうか。

 まぁ種族が種族だから仕方ないね。私も恥ずかしいのでマントで隠しているわけだし。生まれつきの外装の一つで、成長してくると後からいじれるらしいが最初は前が全開だった。持ってるだけ良かったのだろう。


「君が、私を、喚んだんだよ」


 じっと彼の目を見つめる。より顔が赤くなるのは気恥ずかしさか、それとも私の体のせいだろうか。


「ボクが……?」


 きょとんとした顔をしている。まぁ、完全にイレギュラーな召喚だったので、召喚したという自覚もないだろう。というか正確に喚んだのは彼ではなく傍らで亡くなっていた女性になるわけだし。


 悪魔を呼ぶには儀式を行うか、媒体となる物を使うか、感情などがキーとなって召喚される事が多い。とは言え儀式もせずに完全に偶然で召喚される事はほとんど無い。今回の召喚の場合、おそらく儀式を行ったのは彼の側で事切れていた女性で、召喚の要となっていたのは彼だったのは、要としておけばとりあえずいきなり殺される事はないと思ったのだろうか。本来彼女の魔力量で悪魔が喚ばれることはなく、供物も無いならせいぜいが使い魔レベルなのでかなり奇跡的と言っていい。


 まぁ、私も最下位とは言え悪魔の端くれだしな。儀式が中途半端に途切れたのが逆に功を成したのだろう。場合によってはとんでもないのが出てくる可能性もあったが。


「私がどれだけ力を出せるかは、あなたとの契約の対価によって決まる」


 私はここで一度言葉を区切った。


「そうだね、いきなり魂をよこせなどと言われても怖いだろう。とりあえずは、使役している間は限界に必要な生命力を最低限、戦闘時にはそれに応じて渡す程度の契約でどうだろうか」


 最もほとんど利益がでないので、私としては問題なのだが。とは言え現状では名前を売ることと、正直すぐ向こうに戻っても暇なので契約してくれることが大事だ。子供に集るつもりもないしな。


「わ、分かりました。お姉さんと契約します」


 首を縦にぶんぶん振って承諾の意を示す少年。うん、素直だな。契約するときはもうちょっと疑ってかかったほうがいいのだが、私も特に騙す気はないし、子供に言っても難しいことだろうから、今回はいいだろう。それにこの子に頼るものは今私以外にないだろうし、曲がりなりのも助けたわけだし多少は信頼されているのかもしれない。


「ありがとう。そうだな、ファルサボヌスでは長いだろう。ファルと呼んでくれ、マスター」

「ふぁ、ファル、ですか。わかりました、ファルさん。って、えーと、マスターって」


 別にさんはいらないのだが、まぁ別に外してもらわないと困るわけではない。こちらは形式上マスターと呼ばせてもらうが。


「ふむ、気に入らなかったかな? ご主人様、とかのほうが好みか?」

「ご、ごしゅ!? い、いや、マスターでいいですぅ!」


 慌てて首を左右に振りながら、ご主人様呼びを拒否する少年。少しからかいすぎたかな? さて、と。


「では、契約の完了の為に、口付けをさせてもらおうかな」

「口付け? って、えーと……き、ききききキスゥ!?」


 大きく取り乱した様子で後ろにさがる少年。

 仕方ないのだ、淫魔という種族の為か契約手段が粘膜接触に限られているせいだ。異業種の中には奴らの体の一部を取り込む、みたいなえぐいのもあったりするので、それよりはましだと思うぞ。

 最も、彼に意識は無かったがとっくにキスを交わしているので私としては二度目なのだが。


「ま、まってください、ボク、初めてで……」

「あぁ、君が寝ている間に一度目は頂いてしまったからな。ええと、柔らかかったぞ?」

「ふえぇ!?」


 こう、少年特有の独特のぷるんとした唇だったな。案の定ファーストキスだったらしいが、とっくに済んでいるので諦めてくれ。


「何、目を瞑っていればすぐ終わるさ、くくく……」


 あんまりにも反応がいいものだから私も思わず悪乗りしてしまう。軽く唇の辺りを舌で舐める。


「は、はいぃ……」


 緊張のせいか手に力を入れてふるふるさせながら目をぎゅっと瞑って唇を軽く押し出してくる。正直可愛らしい。その手の趣味があったらたまらんだろうな。

 と、あまり焦らすのも見ている分にはいいんだが、少年には酷だろう。二度目となるその唇を頂くとするか。


「ん、んぅ……ちゅ、ん、ぷはぁ」


 あまり可愛らしい声を出されると変な気分になるからやめてくれたまえ。淫魔になったからどうにもそっちに思考がぶれてしまう。あ、あんまり淫魔の粘液とふれあうと人間には毒かもしれないな。キスを打ち切る。


「ごちそうさま」


 お互いの唇の端から繋がった粘液の糸が伸びて切れる。

 さて、これで契約は完了した。

 顔を真っ赤にして手を唇辺りに持って行きながら目線を下に泳がせている少年を前に、自身の状態を確認する。悪魔は自分の状態くらい把握できるので感覚である程度分かる。とはいっても私は成ってから対して経ってないし素質はともかく感知能力を鍛えてないのでもの凄く大雑把なのだが。他人のも分からないし。

 で、問題のステータスなのだけど――


名前:ファルサボヌス 腕力:B 魔術:C(ほぼ使用不可)耐久:C 俊敏:D


 あ、めちゃくちゃ弱くなってる。今この前戦闘したリーダー格の男とやりあったら負けるかもしれない。これでもこの世界ならそれなりの強さだと思うのだけど、見るも無残と言わざるをえない程度には劣化しまくっている。ちなみに強さは今いる世界でのそれなりの戦闘が可能な人間、及びそれに類する種族を比較したステータスのはず。平均がCからDだな。私の状態把握はかなり適当なので見た目の表記より上限が高いことを祈るばかりだ。


 魔術に関しては先ほど使用できたが今はほぼ使用できないのは、契約者の少年が魔力をあまり持っていないからだろう。悪魔の魔術は消費量がでかいのだ。あるいは、この世界の人用の術式を学ぶ必要があるかもしれない。


 悪魔が発揮できる力はある程度契約者の実力に影響される。ただし契約しない場合はその限りではなく、代わりに契約という首輪兼安全装置で縛ることもできない。そもそも世界によっては魔術どころか魔力が無い世界に呼び出される可能性もある。この世界は少なくとも魔力はあるのでいずれ使える可能性もなきにしもあらず、少年次第だが。ただ、種族的に得意な魔術が使えないのはかなりの痛手なのは間違いない。


 ……とはいえ、思ったよりはマシだな。13歳の少年相手に生命力もぎりぎりまで絞っていることを考えれば破格といっていい。まぁ、戦闘に応じて追加で貰えればスペック上の不安はないか。


「さて、少々面倒なことになったな」


 まだ顔を上気させて帰ってきていない少年を尻目に、この先の事を考えて少し頭を抱えるのだった。


ちなみに主人公の口調は翻訳さんの調子によって多少変わるため戦闘中は荒々しく、平時は多少柔らかくなります。



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