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1話

 深く深く沈んでいく。暗闇の中輝く無数の光の中の一つが"私"だ。朝の光の差し込んだ海のような暗くも幻想的な光景の中、下へ下へと潜っていく毎に何かが"私"から剥がれていく。周りの光が飛び込む先に一層と輝く光の帯を束ねた球体を見つける。

 あの光の帯にたどり着けばきっと終わるのだろう。漠然とだが、本能的にそうだと分かった。あそこが"私"という自我の終着点なのだろう。

 もう、ほとんど、意識が、保て、ない。



 ――あれ? なんか私だけどんどん離れてくんだけどなにこれ。あ、なんか思考がクリアになってきたぞ。あ、ちょっと――













 いや、あの時は焦った。今の私へと生まれ変わった時のことを思い出し、改めて冷や汗をかく。どうも、生まれ変わって悪魔になってしまいました、"私"です。


 前世の名前は記憶がほとんど削れちゃってイマイチ思い出せないけど、今生の名はファルサボヌス。性別は不明。容姿は女性的だね。でも前世は男だった気がする、あんまり覚えてないけど。何より種族が淫魔らしいので前の性別とかあんまり意味ないよね。


 あ、ある程度力のある悪魔は生まれつき自分の名前が分かるらしいし、知識もまず前世であったものではないだろうものが結構ある。悪魔にも色々あって転生元が人とか一定以上の魂を持つ生物だと強めのが生まれるとか。素質次第では魂がズタズタになって最悪悪魔未満の小悪魔とか使い魔――悪魔と認められていないので別物呼ばわり――クラスに劣化してしまうらしいけど。ちなみに私は最下級悪魔だけど、小悪魔辺りから経由してきてない時点で素質は高い。


 で、冒頭の説明をすると、要するに来世へと魂を転生させる前に浄化させる段階で私の魂だけ弾かれたらしい。あの光の束やら球体やら暗い海みたいな回廊やらは輪廻転生を司る世界のシステムらしく、地球のみならず様々な星や世界やらから一度あそこに集められるとか。ただ何事にもずれちゃう奴というのは出てしまうもので、そんな中僅かに外れる魂がいる。


 そうして弾かれた魂の行き着く先がこの魂の廃棄所、悪魔界。大抵の魂はここにつく前に力尽きたり劣化したりするんだけど、外れた魂の内僅かに悪魔となる素質を持つ魂が悪魔になるらしい。魂が汚れているほどなりやすいらしいけど、一体前世の私はどれだけ魂が汚れていたんだろうか。記憶が摩耗しているせいで何をやらかしたのか思い出せず怖い。


 悪魔と言うと私の知識からすると悪さばっかりしてるイメージだが、別にそんなことはない。いや、総じて何かしら強いんだけど。何故かと言うと、破壊しかできない様な奴は仕事が限られているのだ。競争率も高い。その為召喚者の望みを魔術とか科学知識とか錬金術とかそういうのがあると潰しがきく。資格って大事だよね。


 ちなみにもっと直接的に人間とかにこういうことができますと営業かければいいと思ってしまうのだけど、悪魔のイメージを壊すのはタブーらしいので悪魔仲間から潰されるし、世界の修正力なのか悪魔係の書物は自然と魔道書じみたものに変化するのでビジネス的なイメージにはなっていない。


 要するに悪魔とかいうけど傭兵とか派遣とかそんな感じの雇われ仕事です。対価は寿命とか生命力とか魂とか血とか色々。生命力の類はこの悪魔界において人間でいう水よりも貴重です。何故かと言うと時間経過では一切生まれてこない上に消費する一方だから。


 人間が住まう物質界とは違い悪魔界は生まれた時から死んでいる。その為何をするにも生命力を使用する。存在の力と言い変えてもいいかもね。物を作るのにも生命力を使うし、食事や食材も魔力で生み出せるけど灰を口に詰め込んでるような味しかしないので味付けに生命力を使う。後子供作ったりとか、悪魔は幽体に近い存在らしくて素の状態だと子供を作れない。その時に生命力とか魂とか消耗して子供を作るらしい。


 要するに生命力という悪魔界では希少な資源を豊富な物質界に稼ぎに行く出稼ぎ労働者みたいなもんだ。悪魔としての強さも生命力で強化できるので何よりも大事なのである。後この悪魔界では生命力及びそれに準ずるものがお金代わりなのでないと贅沢できません。食事とか必要ないので死ぬことはないけど、そもそも悪魔になるような奴は欲深い奴が多いから特殊な生命力経済が成立している。怠惰を極めて悪魔になったような奴とかは仕事するほうが嫌らしいけど。後生命力とかを悪魔個人が持っている"アニマ"って呼ぶらしいね。

 でもやっぱり結構欲深いのが多いので力溜め込むだけ溜め込んでる最上位の悪魔なんかは膨大な生命力で贅沢を極めたり子供産ませたり好き放題してるよ。お家も大きいわ豪華だわすごいらしいよ、見たこと無いけど。


 ……私? 今日も星が綺麗ですね。星なんて無いけど。あるのは赤黒い空だけだけど。そりゃお仕事ないから生命力、つまりお金もないよね。悪魔最大の苦行は最初のお仕事がくるまでひたすら耐えることじゃないかと私は睨んでいるよ。


 この世界はひたすら赤い地面と赤い空に偶に黒い雲が続く面白みの無い世界。特にこの辺りはなったばかりのやつや実力のないやつが集まる掃き溜めみたいな場所なのでなんの面白味もない地形が続いている。場所によっては、特に街の近くとかは整備されて河とか色々あるらしいけど(ただし赤い)、まぁ公共事業とかスラムにする気はないってことかな。

 ここから飛んで少し先の方に街があるんだけど、一定量のアニマを持たない悪魔は入れてもらえない。おんなじような待遇や新人連中が死んだ魚の目でその辺に転がって見つめているのをよく見かける。


 街にいるのもそこまで上位は多くないらしくて、上位の悪魔は自分の世界、通称箱庭を創ってそこにこもっているとか。家やら家具やらばかりじゃなくて空とか色々彩ったりしてるらしい。悪魔界じゃないみたいな光景みたいだよ。別に赤くなくてもいいんだって。


 ちなみにこの辺の知識は元上位の悪魔だったけど生命力使いすぎて下級クラスまで落ちたこの辺りのまとめ役の悪魔のゲンさんが教えてくれたよ。悪魔にとっては生命力はお金であると同時に強さの元でもあるので使い過ぎると破産した上に戻れない、みたいなことがある。知名度やスキル次第ではそこから巻き返せるけど、戦闘特化だと厳しいとか。

 ゲンさんは一度の仕事で大量のアニマを手にいれたらしいけど、名前とか全然残してなくてその後お仕事が全然来なかったんだって。その癖金遣いは荒かったらしいから落ちぶれても仕方ないね。


 さて、私は未だにお仕事を受けたことがないわけだが、生まれたばかりの悪魔は知名度が皆無に等しいので指名料とかなくても名指し指名がこない。特に条件とか指定されずに無作為なランダム召喚を請けて無数にある世界のどこかに呼ばれた時こそが悪魔人生の真なるスタートということだ。


 大抵は最初に呼ばれた世界がホームグラウンドになるわけだが、大物は様々な世界で名が知れ渡っているので度々呼ばれるらしい。尚ダブルブッキング――同時に喚ばれる――時には早いほうが優先されるらしい、仕方ないね。分身とかできないし。できるのもいるらしいけど。


 つまり最初に喚ばれた時に必要なのはその時いかに生命力を絞りとるかより知名度を上げる事なのである。これが理解できずに暴虐を尽くしたけどその後100年以上経って未だに次の召喚が来ない悪魔の知り合いを私は知っている。なんせ今私がいる所がそういった所謂"待機組み"や新人が集まるところの一つだから。一度の仕事で得られる生命力には限りがあるが、何度も喚ばれるようになれば余り気にしなくてもいい。後暇がつらい。とにかくつらい。


 要するに次に繋がる仕事をしようねってこと。逆に一度目にたくさん生命力とっても次喚ばれるのが何十年、何百年後、なんてことが普通にあるのだ、悪魔業界は。名前を売るのはいつの世界も重要。とりあえず名前さえ売っておけば名声だろうが悪名だろうか注目はされる。なければ埋もれるだけ。


 てことで早くお仕事プリーズ! なんで第二の生でも就職難なんだよと今は消えかけた記憶が叫んでるよぉ! 


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