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シーズン・シリーズ

シーズン・ストーリー 夏の魔法使い様

作者: アワイン

冬、春、秋の最後の季節。それぞれ話に繋がっています。

 春、夏、秋、冬の国が別れる前の王国の小さなお話です。王子様を助ける為、魔女と戦い負けて、呪いを受けた魔法使いがいます。

 呪いは『周りに不幸をもたらす』呪い。その影響で町では夏のような暑さが続いています。夏のような暑さをもたらしたことから、『夏の魔法使い』と嫌みを込めて呼ばれていました。

 金髪の青い瞳で眼鏡をかけている青年。彼こそが呪いを受けた夏の魔法使いシモン・ミルキィウェイ。呪いを受けたせいで、周りからは疫病神扱い。人を不幸にせたくないので、シモンは遠くの町外れに住み、人目を避けて住んでいました。

静かな小屋。シモンは息を吐き、薬を作り始めます。雨を降らせる魔法の薬です。

「……自分のせいだから、何とかしないと」

 雫をたらし、ビンに入っている薬の色を変えます。薬の色が変わり、シモンは微笑みました。薬が完成したのです。

 窓を開けて、シモンは呪文を唱えます。

 ビンに入っている薬が、もくもくと煙がたち、空に雨雲を作りました。暑さの所為で水が少なくなり、野菜が育たない事に町の人は困っていました。

 シモンは雨を降らせるための魔法を作っていたのです。自分のせいで困らせてしまいました。薬がなくなると、ドアからノックが聞こえました。シモンは困り、ドアに向かって声を上げます。

「…来るなといつも言ってるのがわからないのか!? ウルズ!」

 声をあげても、返事がありません。シモンは不思議に思い、ドアを開けると。

「…いない?」

 シモンは気のせいかと思い、窓の方に戻ると勢いよく人が現れました。

「わっ!」

「どわぁっ!」

「あははっ、驚いてる!」

 夜空のような黒い髪の可愛らしい女性。シモンの幼馴染みです。

「……ウルズ・ブーゲンビリア。君は」

シモンは呆れるとさぁー……と雨を降り、ウルズをびしょ濡れにしました。シモンの呪いの影響でびしょ濡れになったのです。

「………」

「だから、来るなっていったのに」

「……クシュンッ」

「まったく……もう来ないでよ」

少しの不幸がウルズにふりかかっても、ウルズは首を横に降りました。

「……嫌だよ。シモンがひとりぼっちで寂しいも思いをするのは」

 理由をいいます。ウルズは一人になろうとするシモンをほっとけないのです。シモンはウルズのことが好きです。仕方がなくウルズを中にいれることにしました。

「……ほら、中に入って、暖まりなよ」



 本が積み重なった机、薬や実験する時の道具がたくさんありました。ウルズに服の着替えを用意して、毛布を与えました。ウルズはに包まりながら、ココアを飲みます。シモンは呆れて、ウルズを見ました。

「……今日は何しに来たの?」

 呪いの事を気にせずに、毎日遊びに来るウルズ。はっきりと言います。

「暇だから遊びに来た」

「帰れ」

「ちょ、嘘、嘘! 嘘ですから、表に出さないでっ!」

 押されて、玄関の外に出されそうになりました。冗談だとわかっていても、さすがに怒ります。シモンは暖炉にまきを入れます。

「ったく……昨日は僕の試作品の薬の爆発に巻き込まれたのに……」

 毎回シモンの所に来てはウルズは不幸な目に遭っているのです。薬草を摘みにいくのを手伝おうとすると蜂に追いかけられ、猪に追いかけられ、熊に襲われかけ、川に溺れかけ……その他諸々不幸な事があります。しかし、ウルズは不幸を吹っ飛ばす明るさを見せて、にっこりと笑います。

「大丈夫! 根性だけは人一倍にあるから!」

「根性だけで何とかなるなら――……って、言ってる間際に本がっ!」

 机に積み重なった本がウルズに向かって、倒れようとしています。ウルズは気付いて振り向こうとした時、シモンは手を翳し、魔法で本棚の動きを止めます。

「……止まった」

 ウルズは心臓をバクバクとさせ、シモンは胸を撫で下ろし、手を振って本棚にある机を魔法で整え直しました。

「……心臓に悪あ」

「ごめん」

「ごめんと思うなら、僕の所にくるな」

「い、や、だ」

 そういい、ココアを飲み干しました。

「だから、言ってるじゃんか。いつも一人ぼっちで、寂しくさせたくないって」

「……」

 呪いの掛かったシモンを心配して、ウルズはいつも来ていました。料理を作りに来ては、服を作りに渡しに着たり、外に出て散歩したりしています。気に掛けてくれるのは有り難いのですが、いつ巨大な不幸がウルズの身に降りかかるのか、シモンは恐れていました。ウルズの体がだいぶ暖まり、服が乾いた頃。

「……今日はそれだけ呑んで帰りな……夜遅くなると困るから」

「うん、じゃあ、傘を借りてくね。明日、返すから。あ、この雨だから、乾くの明後日になるけど、明後日に返しに来るけどいいかな?」

「……そういう口実を作る為に此処に来たな?」

「正解」

「……直ぐに帰るんだぞ」

「はぁい」

ウルズは笑い、手を振った。

「じゃ、シモン。また、明日、明後日ねっ!」

「うん、また明日」

 傘を差し、ウルズは街に帰って行きます。シモンはその背を見送り、息を吐きました。

「……寂しくないようにか……――本当は君の方が寂しいんじゃないのかい? ウルズ」

 ――ウルズは魔法使いに元にいつも通っているせいか、町の人々からありえないような目で見られていました。差別をされ、ウルズの親しかった友人までも遠巻きにされました。シモンが寂しくないように、来ている。それは逆なのでしょう。

「雨が酷いなぁ……シモンが降らせた雨だからなぁ」

 傘を閉じ、家に着くとウルズを見て、ひそひそと話して去っていく待ちの人が見えました。

「…あの人、また、夏の魔法使いのところに言ってたの?」

「何でいくのかしら?」

「……」

 玄関の前で涙を流し、急いで家の中に入りました。




 ――言うとおりに傘を返し、服を返しに着たウルズ。しかし、ウルズは借りたものを返しに行くと言う口実を作る技を憶え、シモンの所に押しかけていました。

「シモン! この小説借りて良い!?」

「あ、いいよ。それあげる」

「なっ!?」

「僕の家にあるもの、魔法道具と材料意外なら持ってって良いから」

 しかし、シモンはあげるという技を覚え、ウルズに対抗していました。それを知り、負けまいとウルズは対策を練りました。



 ――ある日、掃除道具を持って現れました。ドアをどんっと勢いよく開け、笑顔でシモンに挨拶をしました。

「お掃除屋さんですー! お金は要らない。なんと、ただのお掃除屋さん!」

 シモンは呆然としました。ウルズはバケツに水を入れ、床を箒で掃いたり、雑巾で拭いたりして掃除をしていました。シモンは我に帰り、ウルズを押さえました。

「待って、待って! 床には魔法陣が描かれてるところがあるんだ。それを消されちゃあ困るって」

「大丈夫。魔法陣があるところは拭かないから!」

「いや、だから……」

 有無言わせず、掃除をするウルズ。毎日、掃除をしに来てはシモンの顔を見て、掃除をする。そんな日々が続き、シモンが諦めようとしたある日。

「よし、掃除をしよう!」

 鼻歌を歌いながら、箒で床を掃いていきます。シモンは溜息を吐きながらも微笑み、薬を作る為、実験室に篭ります。安心して任せられると気を抜いたのでしょう。油断は大敵です。床を拭く為、バケツに水を入れ、シモンの家に入った瞬間。

「―――っあ………」

ウルズが手を滑らせ、バケツに入っていた水を零し、丸いものに文字と模様が沢山描かれたものに掛けました。その模様は水にかかると消えていきます。

「……あぁぁ―――っ!」

 不幸が降りかかり、シモンは声が聞こえ、急いで来てみると魔法陣が水に塗れて文字が消えかかっていました。

「……って虫除けの魔法陣がぁぁぁっ!」

 魔法陣が消えた事により――シモンの家に大量の何とも言えない虫が溢れて出てきて、二人の悲鳴が重なり、なぜかその後に爆発が起きました。

 積み重なる小さな不幸……不運とも言いますがさんざんな目に遭いました。



 ――掃除はシモンがやることになり、再び追い出されました。ウルズは別の方法を考え、実行します。その日のシモンは友人の手紙を見て、返事を書きました。

「ったく……フィリポは無理難題を……」

 手紙を伝書鳩に付け、空に放ちました。すると、ウルズは熊さんエプロンと三角巾を見につけ、フライパンとお玉を持って、現れました。

「お腹は空いてはいないかねぇ! シモン君!」

「何しに来たんだ、君は! いや、空いてはいるけど!」

「じゃあ、リクエストを答えて!」

 料理を作りにいくと言う技を行い、シモンは頭を抱えました。

「ああ、なんで、こう……毎日……」

「リクエスト、リクエスト、リクエストっ!」

 カンカンカンとフライパンとお玉を鳴らしながら、リクエストを迫ります。シモンは怒りながらも答えました。

「フライパンをお玉で鳴らすな! オムライスが食べたい!」

「がってんでぃ!」

 腕をまくり、台所でオムライスを作っていくウルズ。シモンは呆れて、尋ねました。

「……君は来るなといいながら、僕の元にいつも来るよね。……何、僕のことが好きなの?」

「好きだよ」

 即答で言われ、シモンはきょとんとすると、机に形が綺麗なオムライスが載ったお皿が乗せられました。ケチャップを掛け、ウルズは頬を赤く染めながら、微笑みます。

「だって、いつも、シモンは自分の所為じゃないのに、町の人の為に頑張ってるもの。……私は出来る限り、シモンを支えたい」

 言われて、シモンは顔を真っ赤にしました。スプーンを持って、オムライスを食べていきます。ケチャップライスと半熟の卵が美味しく、野菜の炒め加減も良いです。ウルズは昔から、料理が上手なのです。

シモンは照れて、ウルズに感想を言いました。

「……美味しいよ。君のご飯」

「わぁ、よかった」

 ウルズもご飯を食べ、美味しそうに顔を緩ませ、幸せそうだ。シモンは微笑みながら、ご飯を食べると、急にピカッと外が光りました。雨が酷くふり、強い風が出てきます。二人は外を見て、シモンは溜息をつきました。

「……今日の不幸は……天候があれるってこと…か」

「……あ、そうだ! どんな不幸が起こるのかを予想して、楽しみの一つにしない!?」

「前向きで良いけど……そんな危ない事させるか!」

ウルズに突っ込み、シモンは呆れました。

「ったく、これじゃあ、君が帰れないな……」

「……そうだね」

二人は外を見ている。ウルズは顔を真っ赤にして、パクパクと口を動かします。シモンは気付いて、ウルズを見ます。

「……どうしたんだい?」

「えっと……その」

「ウルズ、はっきり言わないとわからないよ」

「あのね、その今日、泊まっても……良いかな?」

 その言葉を聞いた瞬間、シモンの頭が真っ白になったのは言うまでもありません。



「――……謀ったな」

 シモンはウルズを睨みました。ベッドに寝ているウルズはニコニコと笑い、ソファーで寝ているシモンにとぼけました。

「なんのことかな? シモンくん」

 状況的に泊まるしかありませんが、好きな子に泊まって良いかと言われたら、いいよといってしまいます。機嫌悪くしているとウルズは謝った。

「謀ってごめんなさい。……でも、少しは私の気持ちを考えてよ」

 ウルズは寂しかったのです。町の人々から遠巻きにされ、シモンからは拒絶をされ。シモンは気まずい表情になった。

「……それは悪いとは思っている。だけど、君には危険な目に遭わせたくないんだ。僕にかかった呪いで……だから、遠ざけている」

「……わかってるよ」

 突き放そうとしても、シモンは突き放せないのです。ウルズは危ないとわかっていても、傍にいたいのです。それ以上、二人は黙ったままでした。呪いのせいで離れていく二人。暫くすると、風と雨の音が段々と遠ざかっていきます。ウルズは気が付いて、窓を開けました。

「わっ……!」

月明かりがない、星の光だけで照らされる夜空。無数の星たちが輝き、星座を形作ります。天の川にはくちょう座、こと座、ワシ座がつくる夏の大三角。シモンがウルズの隣に来て、驚きました。

「っ……此処まで星が見えるのは初めてだよ」

「外でよ。シモン!」

「ああ、待って!」

 ブランケットを着ずにウルズは外に出ます。シモンは慌てて、ブランケットを持って、外に出ました。

 ――雨によっておとされた綺麗な空気はっきりと夜空が見え、ウルズは感動しました。

「すごい、すごいよ。シモン!」

「まったく、子供じゃああるまいし…」

 溜め息を吐きながらも微笑み、ウルズの肩にブランケットをかけました。「ありがとう」とお礼を言い、二人は空を見ました。不幸が降り注がない、静かな空間。ウルズは顔を真っ赤にしながら、シモンに尋ねました。

「……この時間が続けば良いのにって思った?」

「女々しいことを。まあ、不覚にも思ったけど……」

 柄でもないと笑い、シモンは呪文を唱えました。ウルズは首を横に傾げるとシモンは魔法を空に放ちました。

「夏の夜空に咲く大輪の花々よ。咲き誇れ!」

 すると、空に パァン…と大きな花火が現れました。ウルズは驚いていると次々に花火が放たれ、大きな音を立てながら夜空に花を咲かせます。

「すごい! シモン。こんな魔法も使えたの?」

「まあね」

 誇らしげに笑い、夜空を見ました。シモンは小さい頃からウルズに格好いいところを見せようと魔法を習いました。今では立派な魔法使い。格好いいところを見せようと、ウルズのために花火の魔法を作りました。作って良かったと思います。ですが、ウルズのために作ったなんて、内緒です。

綺麗に咲かせる花火はを見て、ウルズは微笑みました。

「シモン」

「ん?」

「呪いで私を困らせてもいいよ。だから」

「はい、そこまで」

「ふぐっ!」

 手で口を塞がれ、シモンは切なく笑いました。

「わかってるよ。だから、これ以上は言わないで」

 ウルズはその顔を見て、泣きそうになりながらも頷きました。目にたまった涙を拭くと、懐から花火をだしました。

「シモン。久々にやらない?」

「どこから持ってきたのか知りたいけど…いいよ」

 二人は花火に火を付け、弾ける光を楽しみました。ウルズは激しく火花が散る花火を見て笑いました。

「町の皆、急に花火が現れたから驚いてるでしょう?」

「だろうね。……近所迷惑だったかもしれないけど」

「大丈夫だよ。にしても、本当、今が夏で良かったぁ。流石は『夏の魔法使い』様!」

「好きで夏にした訳じゃないけど…」

 確かに、暑い日の風情には花火がふさわしい。笑っているウルズをまあいいかと思いました。シモンの放った花火の下、二人は花火を楽しみました。最後は線香花火。パチパチと音を立てながら、色が変わる小さな火花を楽しみました。

「きれい……だね」

「まあね……」

 ウルズの言葉に頷き、二人は子供の頃を思い出していました。お祭りの日。親にねだって花火を買ってもらい、二人で花火を楽しみました。線香花火はどちらが続くかを勝負をしました。

「……子供の頃が懐かしいね」

「……」

 子供の頃は沢山の友達で花火を楽しみました。しかし、今は呪いのせいで友人からは遠ざかれ、親しかった人々まで離れていきました。シモンは花火を見て、口を開きました。

「花火ってさ」

「花火って?」

「小さな命みたいだね」

 いきなりの一言にウルズは驚きました。

「どうしたの? いきなり」

「……そう思っただけ」

 静かに笑うと、ウルズはシモンの線香花火を消しました。シモンは目を見開いて驚きました。

「なっ……何するんだ! ウルズ!」

「さぁ、何ででしょう?」

 ウルズはいたずらっ子の笑みを浮かべると、シモンは眉間にシワを寄せ、ウルズを捕まえようとすると手を伸ばしました。なかなか、ウルズは捕まらず、二人は笑いながら追い掛けっこをしました。

 ――こんな日が、毎日、続けば良いのにと思いながら。



 ……悲しいことにそんな日が続くわけはないのです。



 ――いきなり、ドアが開きました。

「シモン!」

 ウルズは慌て、シモンの家に来ました。呆れたようにウルズを見ます。

「まったく……今度はなんだい?」

シモンに告げました。

「ヨハネ。ヨハネの事を話しにきたの!」

「……ヨハネ……?」

 シモンは驚いて動きを止めます。ウルズは頷いて、話し出しました。

「……ヨハネ。魔女を倒しただって」

「本当かい!?」

 驚き、喜びが内側から舞い上がりました。ヨハネとは王国の騎士でシモンの友人。王子とも仲が良く、よくお茶会を開いていた仲です。

「二ヶ月前に旅立って……やっと、魔女を倒したのか……そうか、あいつが」

 これで王子様の呪いも解ける。王子様は魔女の求婚を断って呪いを受けました。倒される事で呪いが解けると思い、シモンが喜んでいるとウルズは言い難そうに口を紡ぎました。その様子にシモンは気付き、ウルズに問い掛けます。

「……どうした? ウルズ」

「……あのね、シモン」

ウルズは言い難そうに話しました。

「……ヨハネ。倒す前に魔女に呪いを掛けられて石像になったらしいの」

「…………え?」

 ありえない。シモンはウルズの肩を掴み揺らします。

「なんで……なんで、そうなったんだ!」

「分からない、分からないよ! 分からないけど……そういう話を聞いて……」

 歯を噛み締め、シモンは旅支度の準備をします。ウルズは驚きました。

「シモン!? 何処に行くの!?」

「ヨハネの所!」

玄関を開けて、家を飛び出しました。ウルズは後を追おうとしますが、急に咳き込み、膝をつきました。

「ごほっ……ごほっ……っう!」



 シモンは魔法を使い、ヨハネの場所を探し当てました。そこに向かう旅をして、数週間。

「……!」

 何もない荒野にヨハネの石像がありました。それは変わり果てたヨハネの姿でした。本当に石像になっています。石像の前に来て、シモンは声をかけました。

「……やぁ」

[……その声は……シモン……?]

 久々に見る友人の姿にヨハネは喜びました。

[久しぶり。変わってないな]

「まあね。……とりあえず、ちょっと待って。呪いを解くから」

シモンはヨハネの周りに魔方陣を書き、呪文を唱えました。呪いも解く魔法です。光が石像を包もうとした瞬間、光が弾けて魔法が消えてしまいました。

「えっ……!?」

 失敗をした。驚いているとヨハネは声をかけました。

[……シモン。どうしたんだい?]

「嘘……失敗した?」

 石化の呪いなら、簡単に解けます。しかし、シモンのかかっている呪いのせいで失敗したのではありません。ヨハネの呪いが特殊なのです。シモンは石像の影が魔女に見えました。勝ち誇った笑みを浮かべたように見え、悔しく感じ、再び呪文を唱え始めたした。しかし、何度もやっても失敗ばかりでした。

「……くっそ!」

[もういい! シモン!]

 息切れをしながら、呪文を唱えようとすると、ヨハネが呼び止めました。

[解けないなら……いい。無理をさせたくない]

「けど……ヨハネ」

[石化の呪いより、王子……ルカにかけられてた呪いの方が辛いはず]

シモンは黙り、石像を見ました。

「…………じゃあ、冬の日に君が凍えないようにせめて、まじないをかけよう」

 シモンは呪文を唱えました。石像に光が宿りました。暖かな光、春の日差しのようでした。

「君は……名を名乗らない方がいい 。魔女の呪いで君は名を名乗ると……死ぬ」

[……そっか]

辛くないのか、ヨハネは微笑んだように見えました。

[……ありがとう。シモン。また、いつか]

友の温かい言葉にシモンも微笑みました。

「またね。ヨハネ」



 ――シモンは途中で友人のフィリポに会おうかと考え、フィリポのいる町にいきました。



「……えっ?」

シモンは立ちすくみました。フィリポの家の前では町の人々が多くいたからです。おいおいと泣きながら、辺りには悲しい雰囲気が漂っていました。嫌な予感がし、ヨハネは駆け寄り、おじさんに聞きました。

「あの……何かあったんですか?」

「……ああ、実は」

 おじさんから聞いた話にヨハネは驚愕しました。

 ――至ってもいられずにヨハネは人をかき分けながら、フィリポの部屋に入りました。

「フィリポ!」

 部屋に入ると静かに眠るフィリポの顔が見えました。……幸せそうに微笑みながら、スケッチブックを抱いたのです。



 ――フィリポの名が書かれた白い十字架の石の前にたち、シモンは花束を添えました。フィリポの家族はシモンに頭を下げました。

「息子のために、ありがとうございます」

「いえ、僕がもっと早くフィリポの呪いの正体を暴いていれば……」

 シモンは自分の手を見ました。自分の呪いのせいで、フィリポの呪いの効果が早まったのではないか。そう考えているとスケッチブックに目がいきました。シモンはスケッチブックを開き見て、驚きました。

ニコニコと笑う少女とフィリポの絵。思わず、次のページを開き、スケッチブック中に描かれた絵を見ました。ニコニコと笑う二人の絵だけでなく、丘の風景の絵。フィリポの家の絵。町の野菜売り場の絵。買い物をしているフィリポと少女の絵。

 にこやかに笑う ……フィリポの似顔絵。

 どれも幼さがある絵ですが、温かみのあります。シモンは絵を描いた人物が思い当たりません。

「……まさか」

 フィリポの手紙には少女のことが書かれていたのです。未来から来た人を戻せるかという手紙。シモンは予想がつき、微笑みました。

「……フィリポは最後まで幸せだったんだ」

スケッチブックに呪文を唱えました。秋の風がスケッチブックに宿ります。それをフィリポの家族に渡しました。

「このスケッチブックにまじないをかけました。……いつか、このスケッチブックの絵を描いた少女の元に届くように、必ず取っといてください」

 フィリポの家族はスケッチブックを見て頷き、大切そうに布に包んでしまいました。



 ――町を去り、シモンは自分の町に向かいます。

「……色々なことがあったな」

 溜め息を吐くことを忘れ、シモンは道を歩いていきました。

 ヨハネの解けない呪い。

 フィリポの『短命』の呪い。

 友のかかった呪いを解くことができいうえに、気づかなかった。シモンは足を止め、気付きました。フィリポの『短命』の呪いが早まったのは、自分の呪いのせいではないか。魔女が倒されても、呪いが解けないとなると。

「……!」

 王子様の呪いが解けていない。シモンは走り出しました。



 ――王国につくと、シモンは王子様に会いに行きました。王子様に会いました。

「シモン、久しぶりだな」

「王子、久しぶりです」

「公務の場でないときは、ルカと呼べといったはずだか?」

 王子様の言葉にシモンは苦笑しました。王子様は優しく、友好的だ。王子様の部屋で二人はお茶を飲んでいると、王子様がシモンに聞きました。

「さて、呪いをかけられてたお前が、わざわざ、城にまで来ると言うことは…何かあったのか?」

 王子様に聞かれ、シモンは頷いて言いました。

「魔女はヨハネによって倒されましたが、ヨハネは魔女によって石化しました。フィリポは『短命』の呪いで亡くなり……王子……ルカの呪いが解けていない事がわかりました」

 王子様は紅茶を床に落としました。器が音をたてて割れます。

「ヨハネと……フィリポが……?」

 ショックだったのでしょう。顔色か悪いです。王子様は黙り、シモンは話し出しました。

「ルカに僕の呪いの影響を受けさせたくないので……手短に言うよ。ルカ、絶対に心を冷たくさせてはいけない。君の呪い『不老不死』の影響でもしかしたら、冬の力を持ってしまうかもしれないか。もし、君が冬の力を持ってしまえば……国が」

「シモン」

 王子様は言葉を遮り、シモンを静かに見ました。

「……もういい、わかった。もう、帰れ」

疲れきったように王子様は言い、シモンは黙って王子様の部屋に去りました。お城を見て、シモンは溜め息を吐きました。王子様に何も出来なかった。歯を噛みしめ、拳を握りました。何も出来ない自分が嫌だ。

どっと疲れを感じ、シモンは町に変える道を歩きました。



 シモンは町に帰りました。

 長い間、いなかったのでウルズが心配でたまりませんでした。すると、町の入り口でウルズが待っていました。シモンに気付き、顔を向けました。何やら、顔色が悪そうです。

「ウルズ……?」

「……あ、シモ………ンッ」

 ウルズが倒れようとしています。

「ウルズ!!」

 シモンは走り出し、ウルズを受け止めました。前より痩せ細り、肌の色があまりよくありません。

シモンは問いかけました。

「ウルズ。どうした!?」

「……」

 黙って話してくれません。町の人がウルズを見つけて駆け寄りました。シモンがいることに驚き、怒りました。

「…ッ疫病神……やっと帰ってきたか! お前が早く帰って来なかったから、ウルズが難病にかかったんだぞ!?」

「………えっ?」

 ウルズが病になっていたことに驚き、シモンはウルズを見ました。ウルズは無理に笑おうとします。

「難病だなんて……ただの風邪だよ」

「……その様子で風邪と言うかい?」

「……」

 険しい表情でいい、シモンはウルズを横抱きに医者に駆けつけました。

 ――医者に診て貰い、治すのが難しい病気と言われました。治す薬もなければ、その方法もないと。シモンは自分の呪いのせいだとわかり、横になっているているウルズに謝りました。

「ごめん。早く帰ってくれば良かったね」

「難病にかかった私が悪いんだから、自分を責めないで。シモン」

「……だけど」

「今はもう、誰も、あんたのせいとは思ってもないよ」

 シモンは謝ろうとすると医者がやって来ました。

「誰も、あんたのせいとは思ってもない。呪いにかかって夏をもたらし、苦しめたのは、魔女の呪いのせい。魔法使いのあんたは私たちの為に、降らない雨を雨を降らせ続けてくれた。そして気づいたんだ。皆、『夏の魔法使い』が私たちを助けてくれたと……」

「……それは」

「わかったんだよ。『夏の魔法使い』が悪くないってことが。その償いのために、彼らは病気で倒れた間、彼女を看ていてくれてたんだ。あんたのためにね」

「………」

 シモンは呆然とすると窓が開き、男性と女性が現れました。二人はシモンとウルズの幼い頃からの友人でした。二人はシモンに怒鳴りました。

「このバカ! 何処に行ってたんだよ!?

彼女を置いてくとは何様のつもりなんだ!」

「私達が、しっかりウルズの面倒を見てたんだから、ちゃんとしなよ!」

 町の人々の激励を聞き、シモンは涙を流しました。医者はシモンの背中を撫でました。

「……すまんな。君達を疫病神扱いしてしまって。私たちのしてきたことにたいして、償えるとは思っていない。図々しいと思うだろうが……こんな私たちだが……君たちにできることはないか?」

 医者の謝罪の言葉を聞き、シモンは耐えられずに涙を流しました。ウルズを見て、救いたいと考えました。



――シモンはウルズの看病をしに、町に来ていました。疫病神扱いはされませんが、しっかりしろと叱咤と生暖かい目で見られます。その日、シモンはウルズの家で古びた本を読みながらウルズの近くに座り、話を聞いていました。

「……で、驚いたの。皆、私が倒れているのを見て騒ぐんだから」

「……いや、それは騒ぐでしょう」

 呆れてかえし、シモンはページをめくりました。ウルズは何を読んでいるのか、気になりました。

「何読んでるの?」

「秘密」

そう言うと、ウルズは顔を膨らませました。

「ケチ」

「……寝ていなよ」

「やだ」

「やだじゃない。頼むから寝て………町の皆が僕達を見に来るから」

 恥ずかしいのか、顔を赤く染めて、視線を窓に移します。窓からはシモンの友人が何やら、様子を探っていました。あの日、町の人々と打ち解けて以来、シモンとウルズの仲を確かめに来る人々がいます。シモンは恥ずかしく本を読んで、誤魔化しているのです。

 ウルズは微笑みました。

「良いじゃん。私達のあれやそれやを見せられるんだから」

「あれやそれや言うな。あいつらが誤解するだろ」

「まあ、確かに告白してないしね」

 それを聴いた友人の声が窓から聞こえました。あんなに仲が良いのにあり得ないと。シモンは黒い息を吐きました。

「……頼むから、発動しろ。僕にかかった呪い」

 都合の良いときに発動しないものです。シモンは溜め息を吐くと、ウルズの頭を撫でました。

「とりあえず、寝なよ。少しでも長生きするためにね」

「はぁい」

ウルズは寝にはいると、シモンは家を出て窓にいる友人に怒りました。

「何しに来てるんだ! 僕の呪いの影響を受けたいのか!?」

 言われて、友人たちはニヤニヤと笑いました。

「いやぁ、呪いよりもシモン達の仲を良さを見たほうがなぁ……?」

「そうそう、シモンのヘタレさとツンとデレさを見たくて?」

 からかわれ、シモンは肩を震わせながら、微笑んだ。

「君達……マジで呪おうか?」

「……逃げろぉ!」

 笑いながら逃げていく友人に、シモンは溜め息を吐きました。怒りを通り越して呆れます。部屋に入るとウルズを見ました。体を震わせながら、笑いを堪えています。

「……ウルズ?」

 声からして、怒っているシモンにウルズは大きな声で笑いました。

「あははっ……! だって、シモン……」

「寝てろって言っただろう!」

照れ隠しに大声を出して叱ると、ウルズは更に笑い、何とか笑いを堪えつつ、ウルズは微笑みました。

「本当、こんな時間が続けば良いのに……」

「……すぐ死ぬみたいに言うな」

「だって……そういう病気じゃん」

 シモンは黙り、ウルズは「あーあー」と声に出しました。

「もっと生きたいなぁ」

「……だから」

「はぁい、『夏の魔法使い』様の言う通りに寝まよ」

 からかうように言い、ウルズはベッドに入りました。シモンは溜め息を吐き、微笑みました。本当は怖いはずだ。死ぬことが。それを隠す為に、明るく振る舞っているのだ。

 ――すやすやと眠るウルズ。

大好きな人を失いたくない、生きていて欲しい。その為にも――シモンは覚悟を決めました。



 ――夜。シモンは手紙を書き終え、便箋に入れていました。

「後は……」

もう一つの便箋を机においたとき、古びた本を見て目を細めました。いにしえの魔法の本。それをさわり、辛そう笑いました。

「ごめん、ウルズ。……僕が居なくなっても……大丈夫だよね……」




……町の医者が慌てて勢い良くドアを開けました。

「……シモンくん!」

――ウルズは寝ながら、苦しんでます。苦しく、辛く、意識が遠退いていく感じがしました。死ぬときが来たのです。その時、声が聞こえました。

「……シモンくん。それは」

 医者の声です。

「構いません」

 シモンは覚悟を決めた声が耳に入りました。

「……考え直すんだ。いくら、それが唯一ウルズちゃんが……助かる方法だとしても」

「それしかないんです。僕は決めました。決めたことを曲げるつもりはありません」

「……だが」

 ウルズは目を薄く開けました。おぼろげですが、シモンの優しい微笑みが見えました。

「僕のせいで大切な人が亡くなるなら……僕が死んだ方がいい」


――……シモン?


 ウルズは心で名を呼びました。

シモンはベッドの前に来て、ウルズに手をかざし温かい光を出しました。確かめる術もなく、苦しみと痛みが勝り、ウルズは深い闇に落ちました。






 二人の子供は線香花火で遊んでいました。

「ウルズの線香花火、終わりそうだね」

「……うん、でも、仕方ないよ。花火って一瞬だもん」

「はい」

 ウルズの線香花火を見て、シモンは自分の線香花火と取り替えました。

「まだ、僕の方が長いよ」

「えっ、でも……いいの?」

「いいよ。それに……」

 いきなり、ウルズの背後で明るく大きな音をたてて大輪の花が咲きました。振り替えって空を見ると、大きな花火が咲き誇っていました。

「まだ、ウルズの花火が消えるのは早いから」

シモンを見ると優しく愛しい微笑み。

「……シモン?」

 シモンはにこやかに笑い――そして、シモンの持っている線香花火のたまが、静かに落ちました。





 ――朝日がウルズの顔に当たり、目を開けました。身を起こすと医者がウルズの顔を見て、安堵をしていました。

「起きたか」

「……えっ」

「……まさか、本当にやるとは」

 医者は苦痛そうな表情で言い、ウルズは手を握ったり、開いたりします。異常はありません。いつもの元気な体に戻ったのです。

「君の病気は治ったんだ。シモンの魔法のおかげでね」

「元気に? たった一日で!?」

 ウルズは驚いていると、体を触りました。悪い所はありません。声を出したり、足を動かしたり、苦しみと痛みはありません。本当に元気になりました。シモンが医者といたのを思い出しました。

「あの、シモンとお医者さん。一緒に居ませんでした?」

「居たさ」

「じゃあ、何処に?」

 医者は一瞬黙り、微笑みました。

「――今朝、旅立ったよ。魔法を極めるために」

 ウルズは目を見開き、汗を掻いて体を震わせました。

「旅立った……?」

 医者は頷き、話始めました。

「ウルズちゃんを助けられたけど、友達を助けられなかった己の力不足で、魔法を極めることにしたらしい」

「……嘘」

 ウルズはそう言います。医者は黙るとウルズは体を震わせました。

「――何で……そんな……急に……」

 急に居なくなる事に怒りと驚きを隠せませんでした。

「…………ッ!」

 ウルズは何も履かずに外に出ました。医者はウルズを見送り、空を見ます。

――本当は……シモンは消えたのです。ウルズを救うために、自分の何かを差し出さなければ、いけなかったのです。その為にシモンは自分自身を差し出して、ウルズを救いました。……シモンはすでに此処には居ません。

 ――シモンが看病の時に見ていた本は、いにしえの魔法。昔の魔法が書かれており、人を救うための魔法も書かれています。

いにしえの魔法は効果はありますが、使うには何かを失わなくてはいけません。つまり、シモンは自分自身が消えても、ウルズを救いたかったのです。


何でと聞かなくてもわかるでしょう。

ウルズが大好きだから、救ったのです。


【……心苦しいお願いをしますが僕が死んだことは内緒にしていただきたい】


 シモンは光となって消える前に、医者に頼みました。


【ウルズは僕が死んだと知ると、きっと、深く悲しみます】


 亡くなったと、気づくのではないかと考えました。シモンは困ったように笑います。


【大丈夫です。その為にもウルズに手紙を残しておきましたから】


 愛しいそうに微笑みながら、消えていくシモンを医者は見ていました。



……医者は空を見て、溜め息を吐きました。

愛する人を救うために、与えた命。

「……シモンくん。君は本当にウルズちゃんが大切なんだね」



 ――町の中を探しました。広場、中通り、町の入り口。町の中にシモンの姿はありません。

「シモンッ! シモン!」

 町の人々にシモンの行方を聞きましたが、わからないと言います。





 ――必死で探し回っていると夕方になっていました。ウルズは涙を流し足を傷付けながら、シモンの家に向かいます。

「――シモンッ!」

ウルズは勢い良くドアを開けました。

本が積み重なった机、薬や実験する時の道具があるだけ。誰もいません。中に入って、ウルズはシモンを探しました。しかし、シモンの姿は何処にもありません。

「……シモン。何処にいるの?」

 夕日の照らす部屋の中、ウルズは探し回りした。

「……?」

すると、シモンの机に手紙が二つありました。白い便箋にカラフルな便箋。ウルズは白い便箋を持って開けました。中身はウルズへの手紙でした。



――ウルズへ

これを読んでいるということは、僕が既に旅立ったと言うことだね。

僕が勝手に居なくなること、別れの挨拶が手紙になることを許してほしい。

君と過ごした日々は楽しかったよ。楽しかったけど、僕は此処には帰ってこれない。だから、二度と会えない。

だけど、大丈夫。

僕が傍に居なくても、君はきっと生きていけると信じてる。僕は君のいく末を遠くから見守っているよ。

だから、絶対に大丈夫だよ。ウルズ。


シモン・ミルキィウェイ





 読んで、理解しました。

「――シモンの馬鹿」

 ウルズはしばらく黙ってから、声を出しました。涙を流し、手紙をくしゃと握ります。

「死んだ事を誤魔化しても、無駄なんだからね」

 手紙でシモンが亡くなったこと。そして、何かしらの魔法で、自分を救った事に気付きました。

「何年間、幼馴染みしてると思っているの」

 涙を拭いながら、手紙を折りたたみ、息を吐きました。机に置いてあるもう一つの便箋。カラフルな便箋に気付き、持って見ました。

「……これは?」

 カラフルな便箋には『もう一つの手紙を持って、外で見るように』と書かれています。



 ――言われた通りに、ウルズ手紙を持って外に出ました。



 夜空はシモンと花火を見たあの日のようでした。月明かりがない、星の光だけで照らされる夜空。無数の星たちが輝き、星座を形作ります。天の川にはくちょう座、こと座、ワシ座がつくる夏の大三角。ウルズは空を見ながら地面に座り、便箋を開けて、中にある一枚の手紙を読みました。




 ――ウルズの事だから、僕が死んだ事をすぐに見抜くと思った。


だから、此処で僕は最初で最後の気持ちを君に伝えるよ。






好きだよ。






 ウルズの持っていた二枚の手紙が光出しました。

「……えっ!?」

 二枚の手紙は光となって、空に放たれました。




 パァン……!





 夜空に咲き誇る大輪の花。

 花火でした。

 ウルズは驚いていると次々に花火が放たれ、大きな音を立てながら夜空に花を咲かせます。

 黄色い花火。赤い花火。青い花火。色とりどりの花火が音を立てながら、咲き誇ります。

 ウルズの為に作った花火の魔法。思い出が沢山詰まった花火。

 シモンの命の花火。まさか、花火を仕掛けるとは思いませんでした。気が付いたら、ウルズは泣いて笑っていました。

「本当………シモンは……バカだよ」

 花火が放たれるなか、ウルズは笑顔になって大きな声で叫びました。

「私も……貴方が大好きだよ! シモン!」








 ――こうして、『夏の魔法使い』が消えたことにより、町には暑さがなくなり、いつもの町に戻りました。ですが、 暑さの名残があるのか、冬でも暖かったので、いつしか夏の国と呼ばれます。 ――しかし、魔法使いが亡くなった事を知り、町の人々は悲しみ、感謝をしました。そして、人々は魔法使いの為にお話を作りました。『夏の魔法使い』という題名のお話を――。









 ――此処は夏の国。この国では一年中、南の国のようなので『夏の魔法使い』が考えた花火の魔法が名物になっています。更に此処には魔法使いが集う学校があります。その学校で魔法を極めたものが『夏の魔法使い』と呼ばれます。

 その国で綺麗な夜空の下。

 ランプの明かりで絵本を読んでいる18の娘がいました。その隣には青年がいます。二人は幼馴染みで、離れたことはありません。

「そういえば、『夏の魔法使い』を元にしたお話を書くって、僕の友人がいってたよ」

「あのお話を?」

青年は頷きました。

「そう、秋の話も書いたみたいだし……夏の魔法使いのお話を書きたいんだって」

「そうなんだ。にしても、あのお話の最後をどうするのか……」

 幼馴染みの言葉に青年は微笑みました。

「最後はハッピーエンドに決まっているよ。……僕たちの話なんだから」

「えっ?」

「ん?」

 青年は笑った顔で返し、幼馴染みは訳がわからないようすでした。青年は笑って立ち上がり、空をみます。

「……さて、打ち上げようかな。『夏の魔法使い』による花火をね」

 青年――シモン・ミルキィウェイは幼馴染みのウルズ・ブーゲンビリアを見るとにこやかに笑ってくれました。








最後の季節 シーズン・ストーリー 夏の魔法使い様

下手なお話をお読みいただいて、ありがとうございます。もっと、書きたかったですが、長くなりそうだったので、大幅カットしました。


キーワードを童話に変えます。童話じゃないという方は、どうか、感想の方まで宜しくお願いします。


…夏と言えば花火。花火のネタはいれたかったので、いれたのです。

…て言うか、童話かよ。これ…とおもいます。



解説ですが…勿論舞台は四季の国に別れる前のお話です。幼馴染みのウルズは王子様と騎士様、執事様とは知りあいです。

そして、最後に出てきた二人は、勿論、あの二人。


シモンが昔の事を覚えているのかは……お分かりですよね?


これが最後の季節の話となりますが、あと、一話です。

何せ、四季が巡り会わなくてはいけませんから。

…ここまであとがきを読んでくれてありがとうございます。



8/13 文章修正

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