幸せの星
一面灰色の世界でした。
世界は終わっていました。
終わって、しまいました。
誰かの手によって終わってしまいました。
一体全体誰のせいなのか。
それは私にはわからないけれど、終わってしまいました。
いとも簡単に終わってしまいました。
人というのは、あまりにも勝手でした。
人間というのは、あまりにも利己的でした。
この小さな星で、成長した人類は、結局この星の恩恵を無視して、終わらせました。
無機質な世界に戻りました。
ある意味ではこれはこの星の元の姿なのかもしれません。
しかしどうでしょう。
広がる水面は灰色で、指す光は灰色で。
灰色の世界はこの星の姿だったのでしょうか。
そんなわけありませんよね。
みてください、私のこの体も灰色です。
灰色は幸せですか?
いやむしろ、この世界は幸せではなかったのかもしれませんね。
「よう、元気してるかい、人間」
「そんなわけないでしょう、地球」
そんな灰色の世界で唯一鮮やかな青色の髪の毛を持つ少女が私に話しかけてきた。
少女は、地球だ。
「そうかい? 無事に生き残ってるだけで元気そのものだろう」
「……そうですね」
地球はゆっくり私の周りを歩き始めた。
「この世界全て、終わってしまった……そう思ってるのかい?」
「えぇ、終わってしまいました」
「君たちの世界はね」
地球は笑う。
「この世界は終わってない、僕は死んでない。地球は死んでない」
「……そうですね」
「君たちは僕の上で生きるちっぽけな命だ。僕の生み出したね」
地球は私の目の前で立ち止まり、私の目を覗き込んできた。
その目は清々しいほどに青いーー
「その命は、最後には自分の手で死んでしまった。やはり知性の高い命は我が身を滅ぼすということだね」
「ひとつ、いい経験になりましたね」
「あぁ、そうだね。しかし、僕は無事だ。自己循環できるこの体は幸せだよ。汚れた細菌がいなくなれば自然と綺麗になるんだからね」
「細菌呼ばわりですか」
「おっと、これは失敬。申し訳なかったよ人間」
その含み笑いをやめない限り地球の反省なんてなんの意味もない。
「しかし、なんだろうね。僕はとても悲しいよ」
「なにがですか」
「せっかく培われた文明がここで終わってしまうのがさ」
「生き物の最後なんてこういうものなんじゃないですか?」
「だから悲しいといってるんだよ」
地球はなにが言いたいのだろう。
「君たちがもう一度復興してみないかい」
「正気ですか? というかするつもりもありませんけど」
「君が一番の始祖なら、またなにか変わるかもしれない」
「そうですね、でも、するつもりはありませ……ん?」
確か地球は、「君たち」と言わなかったか。
私一人ではないの?
「地球。あなたは……」
「ははは。早くいってきなよ。この世界を再生するために早く、その足を以って進み、その先にいる男と共に歩め。この君たちの終わった世界で唯一光る赤いリンゴ。それを二人で口にして、世界を再生してみなよ」
ーーじゃあね。人間、いや、イヴと呼んだ方がいいのかな…