第九話 終わりに それともエピローグか
べりやはね、ヤンデレが大好きなんだよ(迫真)
アレから数ヶ月が過ぎた。
高校生連続射殺事件と呼ばれたこの事件は世間を騒がせた。
銃所持に関する規制も叫ばれるようになってしまった。その点は健全な銃所持者に申し訳なく思う。
だが、元々は散弾銃や実包の管理の悪い一式先生のせいでもある。ある意味、日本の治安回復に努めたといってもいいかもしれない。
学食のテレビでは昼のワイドショーとして事件に関する番組が流れていた。
「赤羽さんお待たせ」
私は元の学校に通っていられなくなった。校門の周りや家はマスコミたちでごった返しており、唯一の生き残りとして奇異の目で見られた。学校生活もままならなくなったから転校した。
雑賀という苗字が全国報道されていたために私は母の旧姓である赤羽を名乗っている。
「あのニュース、怖いね。同い年の子だったんでしょ?」
その犯人が目の前に居るとは思っていないようだ。なんだか可笑しい。
だが私が真犯人じゃないかと睨む警察もいた。確か大坊という禿げた刑事だ。
そういう感の良い人間という奴は少数ながらどこにでも居るようだ。
だが、雨が硝煙反応を洗い流してしまったので私からはもちろん、一色からもそれは検出されなかったはずだ。
でも私の指紋がついた軍手が見つかって捜査線上に浮かびそうだったと大坊に教えられた。きっと鎌をかけたつもりだったのだろうが、父と狩猟で訪れた時に落としてしまったんだろうと、適当に誤魔化した。
そして当時、私は冷たい雨に打たれたせいで軽い肺炎を起こしていた。病床の私が『疑っているんですか』と叫べば両親が面白いように弁護してくれた。今でも思い出し笑いをしてしまう。
「どうしたの? そんな笑いをこらえちゃって」
「なんでもないよ」と言いながら精一杯の自制心で己を抑える。あの時の面食らって頭頂部まで真っ赤になった大坊の顔も笑える。
「鉄砲を持つ人が居なくなればもっと平和になるのにね」
「それじゃ、狩猟が楽しめないよ」
友人に狩猟の楽しさを説いても理解者は少ない。
父は相変わらず狩猟を続けている。自分もこっそり父に撃たせてもらっている。
だがあの時ほどの獲物をしとめた喜びを感じることは少なくなっていた。
「人間とは味を占めるとソレを忘れられなくなるんだな……」
「はぁ? ナニソレ?」
「前の学校のほうが学食が美味かったってこと」と適当に言葉を濁す。
「そう言えば聞いた? 隣のクラスの広畑さん。山城君と付き合い始めたんだって」
世間を騒がせた殺人鬼がいると言うのに世の中は淡々と過ぎていく。
学食の外に視線を投げる。用務員さんが焼却炉で何かを燃やす炎が見えた。
そう言えば舞草の家は綺麗に燃えたのだろうか。
運任せに蚊取り線香と新聞紙、家の車から拝借したガソリンを使った簡易発火装置でも十分効果があるという証明はできたが、自分はつくづく運に恵まれている。出来るだけ証拠が残らないように、残ってもそれから私にたどり着くことが無いように家に眠っていた古くて大量生産された蚊取り線香を使ったし、普段は使わない皿を包んでいた十年くらい前の大手新聞社の新聞を使った。
きっとばれない。いや、事件からコレだけの日数が過ぎたのに私になんの音沙汰も無いのだ。私にたどり着くことは永遠に無いだろう。
「ねぇ? 聞いてる? そう言えば赤羽さんて彼氏とかどうなのよ」
無視しようかと思ったが、「好きな人がいたよ」と言ってしまった。彼女は餌を巻かれた鯉のように食いついた。
「前の学校だよ。ふられちゃったけどね」
残念そうに興味を失う彼女はもう、何も言わずにお昼ごはんを食べだした。
用務員さんに視線をまた向ける。空は寒々として木枯らしが踊っている。その下を二人の生徒が歩いている。広田と山城だ。
(広田と山城はカップルになったんだっけ)
当分、恋も季節も冬が続きそうだがいづれ私にも春が来るだろう。
私だけを愛し、私のみを受け入れてくれる。そんな彼氏が――。
(私も、新しい恋がしたいな)
私の口から憂鬱げなため息がもれた。
ご愛読ありがとうございました。
至らない内容でしたが、少しでも楽しんでいただけたらとても嬉しいです。
これでこの小説は完結となります。
今後の予定としては勇者様やニート以下略の執筆を再開していけたらそれって素晴らしいことだと思えたらいいなぁ(願望)