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第二話 お昼ごはん それとも告白か

次話は今日の三時くらいに投稿します。

「昨日のお肉美味しかった?」

「うーん。珍味って気はしたけど食べ比べが出来るほど俺は食ってないからな」

 たまたま登校時間がかぶった加島と二人きりで学校に向かっていた。

「あ、おはよー。なんの話ししてるの?」

 おお! て、天使が降臨した! いや五刀の見間違いだったようだ。慈悲に満ちた顔に俺の心が優しく満ちるのが感じられる。

「昨日さぁ。雑賀の家に雉肉を届けてさ。その感想を聞いてたの」

「雉? どこかで売ってるの?」

 五刀の疑問も尤もだろう。スーパーで鯨の肉は売られても雉の肉は売られていない。

「獲ったんだ。昨日」

「え? 獲った!?」

 パッチリとした瞳がより大きくなる。驚いた顔も美しくて、もう、たまらん。

「お父さんと狩猟に行ったんだ。そしたら私のターンの時に雉を見つけたんだ」

 加島は鉄砲を構えるフリをしながら「そこをズドン」と空を撃った。

 加島父は射撃が趣味で同好の志である一色の父が会長を務める猟友会に入っていた。

 鹿島娘の方も父と共にハンティングを嗜んでいるらしい。

「でもそれって違法だろ? 許可とかいるんだろ?」

 もちろん加島父は銃の許可証を持っているが、高校生の娘がその許可を持っているはずがない。

「まぁバレなければ美味しいお肉が食べられるということで」

 片目をつぶってぶりっ子しても意味は無い。それにしてもコヤツ。法律を犯しているというのになんの引け目も感じていないというのか? その肝っ玉には恐れ入る。

「でも、それじゃ雉が可哀想よ。鉄砲で撃たれるなんて痛いだろうし……」

「それでも雉や鴨は美味しいよ?」

 加島の顔には「え? どうして理解できないの?」と書いてあるようだ。

 五刀が反論しようとして口を開きかけた。だが加島の声にさえぎられてしまった。

「あ、そういえば今日って英語の小テストじゃなかった!?」

「……そうだよ」

「まじかよ!? 五刀教えてくれ!」

 テストは明日だと思っていたが、違った。違ってしまった。五刀がそう言うなら違うに決まっている。テストは今日なのだ。

 五刀は困ったように首をかしげて「委員長に頼んだほうがいいよ」と言うが、舞草よりも俺は五刀に教えてもらいたいのだ。

 そう。五刀が言った言葉なら一言も漏らさず記憶できる、と思う。



 五刀の言葉なら一元一句漏らさず覚える自信がある。そう思っている時期が俺にもありました。

「ハーレムは作れても高得点は取れないのか……神は死んだ……」

「なに? なんの話し?」

 学年トップの美少女――愛洲恵果が机に突っ伏した顔を覗き込んできた。ちょうどたわわに実った二つの果実が良く見える。神様ありがとうございます。

「あ、テストできなかったんでしょ? 慰めてあげようか?」

 「そういうお前はどうなんだよ?」と言ってみたかったが、愛洲が学年上位の美貌と学力を持っている事を思い出した。つまらない皮肉はやめておこう。

「小テストくらいどうでもいいじゃん」

 愛洲の明るい笑顔になんだか俺の悩みもたいしたこと無いような気がしてくる。

 それに学年一の美少女に励ましてもらえるというのも気分が良い。周りの男子の視線が針より鋭いが……。

「愛洲さんには私『たち』のような人の気持ちなんてわかりませんよね」

 俺の机の前を通った八方美人――八重野の小声がハッキリと聞こえた。気に入った人間には媚を売るような笑顔を向ける反面、気に食わない奴には容赦しないという彼女の性格がどうしても気に食わない。

 たぶん、この力を手に入れる前までは後者の視線を浴びていたからだろう。

「おい八重野! その言い方は――」

「ふふーん。言いたいことを真っ向から言えない頭の足りない人なんて相手にするだけ無駄だよー。それより屋上でお昼ご飯食べよう」

 愛洲の瞳に怒りが無いと言えば嘘になる。だが彼女の顔はそれを隠してしまうほど可愛い。あ、いや五刀のほうがもっと可愛いのだけどね。

 八重野は立ち止まって肩を震わせている。わずかに振り向いて口を動かしたが何を言っているのかは聞き取れなかった。

 読唇術なんかは知らないが、八重野が「殺してやる」と言った気がした。



「せっかくの昼休みが八重野のせいで台無しだ」

「昼休みはこれからなんだから気分を治してよー」

 俺たちは屋上に向かっていた。

 本当は購買によってから行こうと思ったのだが、愛洲がなんと俺の分のお弁当も作ってくれたのだ! もうね、天運を使い果たした気がしたね。明日死ぬかも。

 まぁ、その話しを聞いていたクラスメイトの誰かからか物凄い殺気をぶつけられたね。

「すごい殺気だったなー。悪寒が走ったよ」

「うん。八重野って武道でもやってたのかなぁ?」

 愛洲の答えに疑問を覚えるが、どうも八重野の視線について言っているらしい。

 もしかして俺の悪寒もアイツの殺気のせいなのだろうか?

「長月と中がいいし、剣道でもやってたのかなー?」

「それより屋上に行くのはいいけど、鍵しまってるんじゃね?」

 愛洲は「ノープログレム」と人差し指を上げて軽い足取りで階段を上る。上った。屋上の扉が見えた。

 その時、後ろから足音が聞こえた。加島だ。

「遅いよー」

「ごめんごめん」

 加島はポケットから細長い金属のピンのようなものを二本取り出した。それを屋上の扉の鍵に差し込む。

「おいピッキングかよ。バレたら停学ものだぞ」

「それがなんとバレなきゃ罪にはならないんだよ」

 と言っている間に鍵から『カチッ』と音がした。加島がドアノブを回すと扉が、開いた。

 だいぶ手馴れているようだ。

「一丁あがり。また閉めるから二十分くらいしたら来るよ」

 不満そうな視線を加島が愛洲に投げる。愛洲は八重野の時のように気にするそぶりなく屋上に出て行った。俺もその後に続く。

 冬を忘れそうなやわらかい風が吹いてきた。青い空の下に慣れ親しんだ田舎町がよく見える。

 フェンスのそばまで行きたいが、あそこまで行くとグラウンドの連中に見つかるかもしれない。ここは一応、立ち入り禁止区域だから。

「あの子ね、こっそり屋上でお昼ご飯食べたりしてたんだよ」

 どうやら加島はピッキングの常習犯で、それを愛洲に見られたということなのか。

 確かに自殺や事故による転落の防止のために閉場されている屋上の鍵破りをしていたなんて学校に知られれば内申点にも響くだろう。

 そうか。だから加島は不満だったのか。

 愛洲と俺に弱みを握られてしまったようなものだし、昼飯後にそのことについても話してみるか。

「さあ食べよう!」

 愛洲の手には可愛いお弁当袋が二つ乗っている。片方の弁当を手に取り、開く。

「すげー!! え? これ手作り?」

 愛洲は「簡単なのしか出来ないけどね」と言っているが明らかに手が込んでいる。

 ウィンナーはタコさんになっているし、小さいハンバーグはどう見ても冷凍食品に見えない。卵焼きは黄金に輝いて白身がプルプルと震えている。そして、デザートのりんごはもちろんウサギだ。こんなに完璧なお弁当を見たことは無い。たぶん、母さんもここまでのものは作れまい。

 味は、美味い! 美味いぞ! どうしてこんなに美味いのか!?

 愛洲は満足げにうなづいている。

「作ったかいがあるよー」

「成績よしで料理も出来て、愛洲も完璧じゃん」

「なんか、恥ずかしくなってきちゃったよ」

 ここまで才色兼備な少女が俺のような一般ピープルにお弁当を作ってくれるなんて幸せ以外の何にでもない。

 そう考えると神様の力というのは物凄い。俺なんかに得られるはずが無いと思っていたものを手に入れたのだ。

 だが、俺に惹かれたのではなく神様の力に惹かれたといのは少し、いやだいぶ解せない所だ。

「やっぱり雑賀と話してると楽しいよ」

「え?」

  間抜けな返答だと思わず苦笑いしそうになる。春休みに何冊も会話術の本を読んだのに何も身についていないなんて。

 弁当から愛洲に視線を向けるとヒマワリのようにまぶしい笑顔が咲いていた。

「私、自分のことがコンプレックスだったの。みんな私の表面上しか見てないようでさ……」

 悩める身体。なんか、そそられる単語だ。この学年の男子は愛洲のボディーラインに釘付けだ。それに性格も成績もいいとつく。告白されることも多かったに違いない。

「雑賀は、なんか違うよね。こう、私を見てくれているっていうかさー」

 どうせ俺なんかと愛洲はつりあわないと思っていたし、それに俺には五刀がいるからどこかさめた感じで見ていたという自覚はあった。

 そういう意味では『みんなと違う』というのは正しい。

「やっぱりさっきの無し! ちょー恥ずかしい!」

 耳まで赤くなる愛洲なんて初めて見た。おそらく学校中じゃ俺だけしか見れて無いんじゃないか?

「そうだ! 恥ずかしいついでに聞いちゃうけど、雑賀って誰かと付き合ってるの?」

 思わず吹いてしまった。卵焼きの欠片が屋上に落ちる。

「い、いないけど」

「それじゃ好きな人はいるの?」

「――ッ!」

 卵焼きが気管に入りそうで呼吸が止まる。

 な、なんと答えるべきだ? てか、これは、あれだろ? 愛洲は俺に気があるからこんな質問をするんだろ?

 五刀の顔が脳裏に広がる。

 だが、学年トップの愛洲とくっ付くなんて凄いことじゃないのか!?

 いや、俺には心に決めた五刀という存在がいるのだ。浮気するなんて出来ない。

 しかし、愛洲をものに出来るという優越感を味わえるぞ!?

 まて、それじゃ愛洲を表面的にしか見ていない連中と変わらないじゃないか。

 と言うか、今までの俺はそういう連中と同じで愛洲の表面しか見ていない奴の仲間であって。

 嗚呼。

 空が青い。

「そ、そんな固まんないでよー」

 バシバシと愛洲が俺の肩を叩く。さっきよりも顔が赤い。俺の顔も赤いと思う。顔が凄く熱い。

「い、言えないならいいよ。だけどね、明日には答えを聞かせてね! 明日、私も大事な話があるからね! 絶対だよ!!」

 愛洲はそう言って弁当箱と箸を奪い取るとそのまま屋上から出て行ってしまった。

 これは、あれじゃない? 告白されるんじゃない? 俺の返答しだいでカップルが出来るんじゃない?

 しかし、愛洲と付き合ったとしても、愛洲は二股を許さないだろう。いや、常識的に誰も許さないだろ。

 ならば、惜しい決断だが、断るか? しかし、愛洲も捨てがたい。

「おーい。閉めるよー」

 加島の声に携帯を見ればすでに次の授業まで十分とない。

 重い足取りで屋上を後にする。加島は入るときと同じく二本のピンを使って器用に鍵を閉める。

 そういえば愛洲に加島弱みを使わないようにという話しをするのを忘れていた。明日、その話もしよう。

「加島。もしもさ、物凄く好きな人と、普通に好きな人がいてさぁ。普通に好きな人に告白されたら、どうする? オーケーする?」

「は? なにそれ?」

 不満そうな顔だった加島の顔にハッキリとした怒りが滲んだ。弱みを握られた上にのろけ話だ。怒るのも無理はない。俺だったらキレる。

「いや、もしもの話しだよ。どっちか一人しか愛せないとしたら、どうする?」

「愛洲さんに、告白されたの?」

「べ、別に愛洲じゃねーよ。てかそもそも告白されてないから。例え話だよ」

 加島は「ふーん」と言ったきり、答えてくれなかった。



 だが俺が愛洲の告白を受けることは永遠に無かった。



 愛洲が、失踪した。


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